天帝の眼が開眼しました。 作:池上
いやぁ~。まさか1週間投稿できると思ってませんでした。皆さんのおかげです。評価に感想にお気に入り登録毎度ながらどうもありがとうございます。
では、どうぞ!
龍からのアシストで俺の2点目が決まり2-0となった。今までなら俺から龍へのアシストがほとんどだったが、初めての形だったかもしれなかった。
まぁ、それは良かったが――
「あぶねっ!」
武蒼は赤城中央の猛攻を耐えしのいでいた。完全に自陣を引いてはクリアするも相手に渡りの繰り返しだった。そんな中で相手チームのキーパーソンである藤原にボールが渡る。
「おい! やつはミドル持っているぞ! 切れこませるなよ!」
そうレノンさんが下がってDFする龍に指示を出す通り、藤原は縦に仕掛けて一気に中へ切れ込む。フィジカルのせいもあったが、龍はファウルすらも貰えずに抜かれてしまう。本当に馬鹿げたフィジカルなこと。
「どお!」
すぐに寄せたボランチの戸部さんだったが、お構いなしに藤原はミドルシュート。枠に行っていたが、ジョージさんが足を出してブロックしたが、俺の後ろへ飛び相手に渡る。マズい!
「千代田――――!!」
「ノアっ……」
俺はすぐに寄せたが、あまりに下がりすぎて守備をしたせいか、簡単にクロスを上げてしまった。天帝の眼があっても無理な距離だった。
「ジョージ!!」
クロスに飛ぶ藤原とDFに入るジョージさんだったが、最後は長身のジョージさんのさらに上を藤原が飛んでゴールへヘディングシュートで叩き込んだ。
「もう1点だ! いくぞ!!」
どうやら、俺たちはこの怪物をなんとか抑えつつ勝利を手にしないといけないようだった。
(残り15分か……)
ここでチームは打ち合いになれば失点のリスクが高まる。このリードを守り切る方が勝ちへの確率が高いと踏んで全員守備で守りを固めることにした。
『キモチ! キモチ!!』
『キモチ大事!』
スタンドで応援するみんなが言う通り、今は球際に厳しく気持ちをぶつける場面だった。DF陣を中心に俺たち武蒼はギリギリのところで守りを固める。CBのキャプテン・倫吾さんやジョージさんを中心に。
それでも、下がって守備をする龍だったが、藤原に何とかマークに付くのがやっとで1本のパスが左サイドに渡った。俺の出番だな。
「いけっ! 当たれ!!」
「来いよ、3年坊主」
「! あめぇよ」
俺の安い挑発に乗ったのか中に切れ込む相手の右SBの5番の選手。だが、ハッキリと言っておこう。
「お前と俺の前じゃ力の差は歴然だ」
「なっ!?」
この試合、最後まで我慢して取っておいた天帝の眼。一気に片を付けようじゃないか。
「カウンター遅らせろ!!」
相手は、攻めに重きが偏っていた。だから――
「行けっ! 龍!!」
守備の手数は一気に減る。そこを突けば一気にカウンター攻撃へつなげられる。龍は分かっていてくれたようだ。俺がここで止めてカウンター攻撃を仕掛けることを。なので、すでにボールを奪う時には前に走り出していた。俺は前線へ走る龍へパスを送った。
「左サイド走ってた一条に出た――――!!」
ボールの先へ走る龍、その後ろからは遅れて藤原も追っていた。ボールは龍の足元へしっかりとロングボールが収まった。
「2対2だ! チャンスだ!!」
龍に対して1枚DFが寄ってくる。龍の攻撃を遅らせて守備の枚数を整えようと必死の赤城中央、そんな奴らに構っている暇なんてないぞ龍!
「だぁ!!」
中を見てクロスを伺わせた龍、それに食いついたDFを龍はワンフェイントで躱し切り返して中に入ろうとした。
この時、相手DF陣は慌てていた。龍が何でもできる状況だったからミドルにラストパス。どちらを選択してもおかしくない状況だっただけに。
「俺が止める! ミドルは打たせねぇぞ!!」
切り返した分、戻る時間が出来た藤原。この状況なら龍は中に切れ込んでミドルという選択肢が高いとスタンドもピッチの選手たちも感じただろう。だが、龍なら――
「はっ!!! パスだと!!」
相手DFが中途半端になっていたところをしっかりとフリーになっていた竜崎さんへラストパスを送った。足元への速いパスを。
完全な決定機、足元に収まればの話だったけど……
「あっ」
やはり竜崎さんの足元にパスは収まらず浮いてしまった。でも、最後はフィニッシュまで持っていきゴールにはならなかったがいい攻撃だった。
――――ピィ!
そして後半42分の時、俺は春畑さんとの交代でピッチを退いた。
「よくやってくれた。赤星」
「あざっす」
ベンチに戻る際に黒部先生とハイタッチを交わしてみんなとも同じように。
「いやぁ――! いきなり2得点。大活躍じゃねぇか! 翼」
「ありがと、ナベケン」
俺はがっちりとベンチ端にいたナベケンとがっちりと握手を交わしてやっと座った。
「惜しかったよな。最後のカウンター!」
「まぁ、竜崎さんもよく最後まで行ったけど、収まっていたら面白かっただろうな」
その後、試合はそのまま武蒼がしっかりと守り切って2-1と執念の勝利をものにしたのだった。
▼
試合の翌日の空模様は曇っていて雨が降り始めた。
「腹減った~」
4限目の授業が終わってさっそく青梅家特製のお弁当に手を掛けようとした時だった。
「今日の日直。すまないが提出したノートとプリントを運んでくれ」
おい、もう弁当広げてしまっているだろ! と心の中で叫びつつも俺は抑えつつ弁当を閉じてノートを運ぶために遠い教員棟まで運ぶことになった。
「あ、俺がノートを持っていくよ」
「どうも」
そして、同じ日直の無愛想な江藤さんと一緒に提出物を運ぶことになった。教員棟まで行く間、全くと言っていいほど会話らしい会話はなく雨音とほかの教室から聞こえる騒がしい声だけが響いた。
「江藤さんって、何か物活に入ってる?」
「何も」
「そ、そうか」
俺、この人がしっかりとクラスメイトたちを話しているとこ見たことがないぞ……。優人が話しかけても、そうですか、どうも、何も、ぐらいしかしゃべってない気が……
「あ、ありがとう。手伝ってくれて」
「別に、私も日直だから」
そう言って足早に職員室から江藤さんは去っていた……。
マジで何かしたか?
「さて、さっさと戻って昼飯食べるか」
よし切り替えて昼飯でも食べようか。はてさて、今日のメニューは何かな~。
「ん?」
なんか俺の教室の近くの前でザワついている。何かあったのだろうかと思い、人混みをかき分けて進むとそこでは喧騒が広がっていた。
「おいおい!」
そこでは龍と桜庭が取っ組み合いの喧嘩をした後だった。現に桜庭をナベケンが、龍をほかのサッカー部員が抑えて宥めていた。
「優人……」
そして近くには優人が顔を抑えたまま立ち上がれないでいて優希が様子を伺っていた。
「おい、ナベケン」
「おっ! 翼! これを何とかしてくれ――」
「分かった」
俺は状況から大体わかった。まずはこの馬鹿を抑えるか。
「おい、桜庭」
「んだよ! テメェ!!」
昨日までは違ってやっと本性をさらしたか。だったら、こっちもそのつもりで接しようか。
「これ以上、俺の手を煩わせるな……」
「!!」
桜庭に一睨みに利かしてそれ以上応戦しないように宥めた。だが、まだ言うことを聞かないとなると……。
「2度言わせるな。僕の手を煩わせるな、と」
俺は桜庭の肩に手を置いて黙らせた。黙らせたというか、無理やり力が抜けるぐらいにしてやった。なので、それ以上何も応戦はしなかった。
「そこ、君たち! どきなさい!!」
龍もなだめようと思ったがその前に知らせを聞いた教諭たち数人がやって来て、その場を収めるように生徒たちを払った。
そして場が収まったところで原因となった龍や優人と桜庭だけでなく、事情を知っているとナベケンや俺といったメンバーも会議室に行くことになった。
一連の事情を知っているナベケンがなぜに喧嘩が起きたかを説明した。もちろん、俺にもいろいろと聞かれたが、とにかくその場を宥めることしかしなかったことを伝え、事情聴取的なことは終わった。
「どうなるんだろうな……」
「さぁな。こればかりは俺たちがどうこう出来ることじゃないからな」
俺とナベケンはその後の放課後、部室で待つ先輩たちに頭を下げて謝った。ジョージさんはもうすぐインターハイ予選が始まることもあって苛立ちを隠せないでいた。無理もない、もしかしたら当分の間、対外試合禁止とかの措置が取られてもおかしくない暴力事件だったのだから。
先輩たちもインターハイ予選の不出場とプリンスリーグの不戦敗と良くないことばかり考えてしまう。確かにそうなってもおかしくなかったし不安に思うのも無理もなかった。
「ホラ、顔上げろ。2人とも」
結局、その日の部活動はミーティングだけで協会からの決定が出るまではしばらくの間、サッカー部としての活動が休部だという知らせを黒部先生から伝えられた。
第7話でした。
さて、ここからだな……。