天帝の眼が開眼しました。 作:池上
早いものでもう6話ですか~。
あっ、評価に感想にお気に入り登録毎度ながらありがとうございます!
『プレッシャー! ウォ――プレッシャー!!』
群馬の強豪・赤城中央との試合。堅守速攻の俺たち武蒼に対して、赤城中央は時折速攻で仕掛けるも、ボールを繋いでくるチームだった。
今も、ボールを失ったところで相手が中央から攻めてきたのをボランチの2人が囲んで攻撃を遅らせた。最終ラインも慌てず9番の裏への抜け出しを注意しているだけあって流石だった。
相手のカウンターは阻止できた。そこからまた赤城中央は一度中盤の底まで下げる。中盤の底には世代別代表の藤原乃亜がいて、何度も前線にいいボールを供給していた。
(堅守速攻って、あんまり攻める時間がないからあれだけど守る時間が多いせいか我慢も必要だよな)
俺はそんな当たり前のことを思いつつポジションを下げて自陣に戻ってゾーンディフェンスに入る。
そして相手が中盤でボールを回す中で藤原が一本のパスを左サイドに展開。きれいにロングボール収まる。おお、上手い。にしても、世代別代表はキラキラねーむがはやりなのか? 知っているのは2人だけだが。
「あっ」
そんなことを思っていると、相手の左サイドアタッカーがレノンさんに1対1を挑むもあっさりとボールを奪われた。ノーファウルで。
「誠だ! 当てろ!」
はい、始まりました。武蒼のお家芸、ターゲットマン・竜崎さんへのロングボールの放り込み。レノンさんは黒部先生の言う通りにすぐにロングボールを入れた。それを竜崎さんは落とした。走って来ていた俺の足元に。
「小田!」
俺はその落としたボールを裏へ走り抜けていた小田さんへ左足からスルーパス。一気に抜け出した小田さんはそのままゴールへ無理やり突き進む。そして強引にシュートを放った。
「あぁ! 止められた!!」
ファーへのシュートはキーパーがパンチングで弾きエリア内を出ようとした。先にどちらがセカンドボールを取るかと思われたが、意外にも一応走っていた俺の足元に向かっていた。
「っし!」
俺はそのまま左足を振り抜いて一閃。シュートはそのままゴール右上隅に豪快に突き刺さった。
『入った――!! 武蒼が先制!!』
『前半20分! 武蒼のカウンター攻撃がさく裂!!』
幸先よく先制した俺たち武蒼。俺はさっそくコーナースポット手前に駆け抜けていく。そしてジャンプして反転の仁王立ち、ロナウド~~!!
「決まった!」
得点後のセレブレーションも完璧に決まった。
「よくやった!」
「良く詰めてた!!」
「ぐほっ!」
仁王立ちで手を広げる俺の許へ先輩たちが駆け寄ってくるとダイブして押しつぶされた。そこから何人もが下敷きになった俺の上に……重すぎる……。
「さぁ、さぁ! 戻るぞ!」
キャプテンがそう言ってくれたなかったらずっと下敷きのままだった。マジ、助かった……。
「ん?」
そんなことを思いつつポジションに戻った後だった。ベンチではピッチを上げて控え選手たちがアップを始めていた。誰だろう……。
――――ピィ!
それからプレーが切れた後だった。代わるのは小田さんだった。代わって入るのは、桜庭だった。
「ねぇねぇ、彼も1年生?」
「あっ、はい」
プレーが再開される前だった。中に絞っていた俺にちょうどポジションが重なった藤原が声を掛けてきた。デカいな~。
「そのまま入るのか、11番のところに?」
「いや、作戦を教える奴なんていないでしょ」
俺は思ったことを言ってそのままポジションを移し替えた。
それからまた赤城中央に攻め込まれるもしっかりと4バックが守ってクリアしたボールに竜崎さんが競り合ってこぼれ球が桜庭に渡った。
「おっ!」
桜庭はワントラップで寄せてきたDFをあっさりと躱してしまう。さすがに、相手のDF軽すぎないか? 1人を抜いた桜庭はその勢いのままに2対1と数的有利の状況を作る。普通、周りが見えているなら横を並走する竜崎さんに預けてリターンを貰うだろう。だけど、桜庭は突っかかって相手の最後の1枚のDFを揺さぶるだけ揺さぶって最後は相手の軸足を壁に見立ててワンツーしたように抜け出した。最後は結局決定機をキーパーに詰められて逸した。
「二人抜いてフィニッシュ!」
「桜庭スッゲ――!!」
あのシーン、アイツの中にパスという選択肢もあれば竜崎さんがフリーでシュートを打てただろう。でも、それをしなかったということは……。
「桜庭」
「あっ、ごめん! 夢中で」
「相手のボランチが一枚付くと思うから」
「うん、ありがと」
そう笑顔を振りまく桜庭だったが、この時の俺にはあいつの心のドス黒い何かが見えていた。
▼
あれからもしっかりとゾーンで守る中でボールをクリアした武蒼。クリアボールはまた桜庭に収まった。そこには予想通り藤原がマンマークで付いてた。
密着マークを受ける桜庭だったが、またワントラップで藤原をチギッてしまう。ボールを浮かして反転して前を向いたんだ。
「マジか!」
「桜庭すげぇ――!」
完全に桜庭劇場が始まったと思った。俺もそう思ったが、逆サイドで見ていた俺は驚いた。抜かれたはずの藤原がものすごい勢いから最短距離で桜庭に迫っていたことに。
「3人抜き!」
3人を抜いた桜庭。あとはGK1人と思いボールを前に出した時だった。桜庭からしたら長い足が突然伸びてきた感覚だっただろう。
「なっ!?」
藤原が戻って来たことに驚く桜庭。無理もない、横を並走して遠くで見ていた俺でさえも驚くぐらいの勢いで戻って来たのだから。
ボールを奪われて好機を逸した桜庭は、それ以降ボールを貰ってはドリブルで突っかかる。あの藤原に対してキレッキレな動きで抜く桜庭もそうだが、藤原のフィジカルはそれを凌駕していた。
「桜庭! 持ちすぎるな!」
4人に囲まれた桜庭に指示を出す黒部先生。ベンチが俺の左サイド側だからよく聞こえるし、桜庭の耳元に届いているだろう。でも桜庭はレノンさんにパスをすると見せかけてドリブルで抜いた。
「ありゃ、いやだな」
俺が言うように、抜いても抜いても藤原がすぐにマークに付く状況。そして――――
――――ピィ~~!
俺の方から見えたが、明らかにファウルを誘われた桜庭。シャツを引っ張られたのを手で払いのけた。それを藤原は顔に手が入ったのをアピールしてファウルを貰ったのだ。
「桜庭、落ちつ……」
そう近くにいた竜崎さんが声を掛けたが、届かずボールを叩きつけて余計なイエローカードを受けた桜庭は、平静を保てずにボールを貰いに持ち場を離れる動きが増えて武蒼の攻撃は淡白なものとなった。
――――ピィ、ピィ、ピィ~~!!
最後は竜崎さんのシュートが外れたところで前半は終わり、1-0でハーフタイムを迎えた。
「おい、桜庭!」
ハーフタイムでベンチに戻って来た俺たち。そんな中でアップに入る前の龍が桜庭に声を掛けていた。本来なら先生や先輩たちが声を掛けるところを龍は声を掛けた。自分を曲げてでもとか、チャンスが欲しかったとか聞こえたが、最後の俺とやった時と変わらないぞというのは分かった。きっと小学生の時に龍が止めたことだろう。
結局、先生は桜庭に特に注意することなく指示だけを出してピッチへ送り出すことにしたようだ。まぁ、先生がそれでいいなら……俺から別に何も言うことはないけど。
△▼
翼くんの得点で先制した武蒼。そして負傷交代した小田さんに代わって入ったカス・桜庭も最初の方は良かったかもしれないけど、結局余計なイエローカードを貰ってからは持ち場を離れてボールを貰いに来たからな~。
「ただボールに触れたいだけですよ。チームプレーなんてみじんもない。とにかくわがままでエゴが服着たような男です」
「優希! アンタどこまでねじ曲がっているの!!」
「過去はどうであれ、今はいい子じゃない!」
陽子さんとマリさんは知らないだけで、あのカスの性根が変わるはずがなかった。最初はチームの指示通りしっかりと前線に張っていたけど、結局、パスを貰えない機会が2回なかっただけで――
「ホラ、出た」
予想通りカスはボールを貰いに下がって来た。持ち場を離れたあいつにCBの星さんが出すはずもなくロングボールを入れた。
「あ――! 直でライン割ったか!」
ボールはゴールラインを割って相手のボールからの再開となった。
「あ――――!」
そんな時だった。ベンチでユニフォーム姿になっている誰かがいた。23番……! 龍ちゃんだ!
ついに龍ちゃんも、翼くんが先に立ったピッチに入ろうとした。がんばれ!
「なんてハイテンション……」
「だって幼馴染の2人が同じピッチに入るですよ! 家が近所で……」
「うらやましいけど、かわいそ~~」
「一条くんは未だしも赤星君って可愛い彼女いるもんね」
「いや……」
「全然設定活かせてないし~」
私は必死にアンナが翼くんと付き合ってないことを言っても、2人は信じてくれなかった。本当なのに!
そしてボールが切れたところで選手交代が行われた。
「よろしく、よろしく!」
みんなが龍ちゃんを声で後押しする。
「い~~ちじょ~~ヨロシク!!」
私も大声で龍ちゃんを送り出した。さぁ、龍ちゃん、翼くんに続いて頑張れ!
▼△▼
めっちゃ優希の龍を送り出す声がピッチに響いた。後から恥ずかしくなるぞ~、ププッ。
「龍、一発かましてやれ」
「おう!」
俺は中央の位置に入った龍に一声かけて左サイドの位置に戻った。
「おっ」
さっそくレノンさんにボールが渡ったけどパスコースがなかった。一旦下げるかと思ったけど、下がって来た龍。おいおいおい! 桜庭にあれだけ注意して……? いや待てよ。アイツなら――
「下がって受けてきた!」
レノンさんは何かを感じてパスを出した。挟まれる龍だったが冷静にリターン。それに相手の左MFとボランチの藤原が食いついた。あっ、視えた。
「うまいレノン!」
レノンさんは食いついてきた相手をワンタッチで抜くと、すぐに龍へ速いパスを足元に送り、上手くバックステップで距離を取っていた龍へ渡る。攻撃のスイッチが入った。
「一条どフリーだ!!」
完全に足元に収まって寄せられないDFは遅れて龍へ寄せた。俺がとる行動は――
「チャンスだ! 右サイド! 白川に出せ!」
ここまでのパターンなら龍の右寄りの位置なら右に叩くか中央で待つ竜崎さんだろう。でも、龍なら――
「え!?」
「左サイドの裏!?」
龍なら見えていると思った。俺がこの試合を通して見せてなかった最終ラインの裏への動き出しを。
「ドンピシャ!!」
裏へのスルーパスに抜け出した俺。キーパーが迫ってくる。左に蹴ると見せかけて――
「なっ!?」
右へ巻いて蹴り込んだ。一瞬、ポストを弾いた時は焦ったけどそのままネットに転がり掛かった。
「決まった――!! 一条のアシストから最後は赤星!!」
「本日2点目!!」
はい、来ましたよ~。来ましたよ~からの~……反転ジャンプから仁王立ち――ロナウド――!!
「この野郎! 練習でも裏の抜け出してなんてしてなかっただろ!」
「ポールさん、今いいところだから!」
俺は仁王立ちのまま近づくポールさんを止めようとしたが、ジョージさんが迫って来て押しつぶされた。本日2得点目も押しつぶされた……。ってか、あんた最終ラインからよく走って来たな!
「りゅ、龍……よく見えてたな」
「おう! アイコンタクトしっかりと取れてたから」
俺はあの時に目でボールをよこせと言わんばかりにアイコンタクトを取ったからな。それでもしっかりとスルーパスを通すあたりさすがだった。
「まだ30分残っているぞ! 引き締めろ!」
『はい!!』
残り30分。試合は武蒼2-0のリード。
第6話でした。
まだまだ天帝の眼を使いこなせないオリ主です。それでもよろしくね。
今の構想では段階的に進化するようにしようかと思っています。
では、またまた!