天帝の眼が開眼しました。   作:池上

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第5話 新戦力

 サッカー部の部室がある部室棟では2、3年のメンバーたちが着替えつつ昨日のミニゲームの話をしていた。

 

「一条龍も復活していたけど、その相方がまだ一段と凄かったな。レノン」

「なんで、俺に聞くんですか……」

「そりゃ、あんなに鋭い切れのあるドリブルする奴なんてそうはいないけどな。でも、世代別代表の名が泣くぜ」

 

 3年のCBの島津譲二は昨日のミニゲームで抜かれた2年で右SBの橘怜音が翼にいいようにやられたことをネタに弄る。

 

「まぁ、言い訳になりますけど……。嫌な間合いの取り方するんですよ。あの赤星ってやつ」

「へぇ~……。そうなんだ。一応注意しておくぜ」

 

 翼の実力を買う怜音に譲二は覚えておこうとユニフォーム姿になった。

 

「それにしても、今年の1年はいいのが揃いましたよね~」

 

 それを聞いたキャプテンの星倫吾は武蒼サッカー部にとって力のあるものなら歓迎と快く迎えた。

 

 

 ミニゲームの翌日からさっそく新入部員たちもA~D振られてそれぞれのチームに入ることになった。俺と龍、そしてナベケンはAに入ったことは決まったが、もう1人Aに入ったやつがいた。あのレッズのJrユースだった桜庭巧美だ。

 性格に難のあった桜庭、きっとユースに上がれなかったのもそのせいだろうと思った。が、何があったのか知らないけどいい子ちゃんになっていた。

 

「渡辺くん、一条くん、赤星くん。お互いレギュラー目指そうよ」

 

 そうキラキラスマイルで声を掛けてきた桜庭。おい、なんか変なもんでも食って性格がイカレてしまったのか?

 ナベケンはあまりの変わりように顔を引きずるも、龍は改心したと思い握手を交わしていた。まぁ、俺はあの腐った性格はそう簡単に直らないだろうと思い、特に声を掛けることはなかった。

 そんなこともあって4月の半ば、週末のプリンスリーグに向けて戦術練習をしている時のことだった。

 

「どう……りゃ」

「うげ……」

 

 競り合う桜庭だったが、体格的に圧倒的な不利でキャプテンに思いっきりぶっ飛ばされて一度プレーは切られた。

 

「矢沢、なんだよ今の!」

 

 簡単にクロスを上げた矢沢に声を掛ける龍。本当なら足元で受けたかったのだろうが、矢沢はコーチの指示通りにやったまでだと言い返した。

 

「おい、赤星! 簡単に中に振り切られるなよ」

「いや、俺言いませんでしたっけ?」

 

 コーチにそう注意を受けたけど右サイドに回された際に自信がないとコーチに伝えた。お前なら出来るだろと、何を基準に言ってるのか分からなかったけど――

 

「あの、俺左目あんまり見えてないっすから」

 

 だから、ライン際に縦に仕掛けられるのはなんとか視界にとらえられて大丈夫だけ中に切れ込まれるとそう簡単にはとらえきれないんだよな。

 

「おい、赤星」

「なんですか、黒部先生?」

 

 その話を聞いていた監督でもある黒部先生は左サイドを張る春畑さんを呼んだ。

 

「赤星、左サイドなら出来るんだな」

「! はい!」

 

 そうそう、左サイドなら攻撃に関しては思う存分できるのを分かってくれていたようだ。てっきり昨日ミニゲームで左サイド専門ってことが分かってもらえたものと思っていただけに。

 確かに天帝の眼は開眼したけど、まだまだ制限時間と回数があった。最低でも5分、最高でも10分ぐらい。あんまり乱用したら右目の方も影響受けるから気を付けないといきない諸刃の剣だった。

 

「よろしく、ポールくん」

「お、おう」

 

 さっそく左サイドでコンビを組むポールくんにひと声かけてからプレーは再開された。

 

「いいぞ! ジョージ!そのまま上がれ!」

 

 さっそくゲームが再開されると矢沢に入ったボールをジョージさんが奪い、持ち上がる。

 

「いけっ! 新入り!」

 

 おっ、さっそく俺にボールをくれた。いい人だ。見る目あるな~。

 

「行かすかよ!」

 

 対面には右SBが立ちはだかっていたが、使うか――天帝の眼を。

 

「うっ、ぐっ!!?」

 

 俺は左右の揺さぶりで重心をずらしたところで抜き去る。これで1枚をはがした。すぐに相手のボランチが寄せてきたところを見て、一気に速いクロスを上げた。

 そのクロスに長身FWの竜崎さんが圧倒的な高さでヘディングシュート、ボールはゴールに突き刺さった。

 

「よしっ、よし!」

「ナイスクロス! 赤星!!」

 

 チームは今、竜崎さんの高さを存分に使った攻撃を活かしている。その状況下で龍のパスワークから崩すやり方に付き合うやつはいなかった。正直、俺はそっちの方が好きだけど……。

 

「前半は1失点。渡辺上出来!」

「はい!」

 

 結局、前半はナベケンの守備の高さもあって1失点で抑えられた。キャプテンが言うように、2,3点取れるチャンスがあったけどナベケンに阻まれた感は否めなかった。

 

「それにしても、お前やっぱり左目見えないだ」

「いや、視力が悪い程度です。言いませんでしたっけ?」

 

 誰も俺が左目あまり見えてないことを知らなかったようで、“知らねぇよ!”と怒鳴られた。おぉ、怖い、怖い。

 

「そういうことで、よろしくお願いしますね」

 

 仕切り直して後半戦が始まった。早々だった、いつものように守備の高い4バックが攻撃を封じると一気にカウンターで右サイドのレノンさんが駆け上がり、最後は絶妙なクロスからまた竜崎さんのヘッドがさく裂して2-0となった。

 それからも控え組は龍の速いパスでミスってはピンチの場面を作っていた。それでも龍は続けた。

 

「仕掛けてきた!」

 

 矢沢の足元に速いパスが収まった。矢沢にとっての間合いだったのか仕掛けるもレノンさんがしっかりと体を寄せて振り切らせない。

 

「矢沢!」

 

 矢沢も龍の意図に気付かされたのか速いパスを龍の足元に収めた。

 

「うぉっ!」

「ポール!!」

 

 パスを受けた龍は相手の寄せを感じることなくフリーでバイタルエリアにいた桜庭に同じように速いパスを送った。それを受けた桜庭はワントラップでポールさんをチギッて最後はGKとの1対1になって冷静に股を抜いて流しこんだ。

 完璧にバックラインを手玉に取った龍の速いパスだった。

 

△▼

 

 結局紅白戦は3-1でレギュラー組が勝利を収めて終わった。その帰り道、控え組に入っていた龍とナベケンはご機嫌斜めだった。

 

「龍……、2失点目。お前の出したパスからだったよな」

「そうだ」

「結局、ミスさせたようなもんじゃねーか。お前が」

 

 おいおい、いくらなんでも喧嘩までにはいかないよな……。そう思った時、ちょうど通りかかったレノンさんが声を掛けてくれた。

 

「よう、一条なんだよ。今日のは?」

 

 レノンさんは得点シーンに関して良かったけど、それ以外は失点シーンを含めて龍のパスからボールロストが目立ったとナベケンと同じことを話した。

 それに、龍はちゃんと目を合わせてパスを送っているからパスミスじゃない。でも、みんなの技術が思ったほど――って、おい!!?

 

「ハハハッ! スゲーなお前!」

 

 レノンさんが相手で良かった。他だったらマズかったぞ。

 

「でも、その通り」

 

 レノンさんは世代別代表を経験しているだけあって龍が期待するほどの技術を持った奴は日本にそうはいない、そこまで要求されてないからだろう、と。

 

「いきなり実践できるのは、本当にうまいやつだ」

 

 それからもレノンさんは結果的にもチームに混乱を与えて振り回した印象しかなかったことを踏まえて、もうちょっと上手く立ち回れと自転車で去っていた。

 

「龍、レノンさん言ってただろ。今のチームなら必要ないって」

「おう」

「だったらその必要性を変えるぐらいにチームを虜にしてしまえばいいんじゃね」

 

 俺の考えに、ナベケンはそれだったらなんでチームスタイルが違う武蒼にわざわざきたんだよと龍に疑問をぶつけた。龍は今のサッカーが出来るのは武蒼だけというが、ナベケンは、それはユースのサッカーで高校のサッカーで変な苦労をする必要性が考えられないみたいだった。

 

「ナベケン、サッカーに高校もユースもないと思う。目指すのは最高のサッカーだよ」

「そういうこと、変に自分を押し曲げてでもやるのも一理あるけど目指すべき方向性は曲げたらダメだ」

「じゃあ翼はなんで中盤じゃなくてサイドに回っているんだよ。言っていることと――」

「俺は今できる最高のプレーを追い求めているだけ。サイドでもゲームメイクは出来るはずだし」

 

 俺も今のチームのサッカーにはある程度満足はしているけど、さらに押し上げる存在になりたかったから、サイド攻撃重視の武蒼のサイドアタッカーの道を選んだ。

 

▼△▼

 

 翌日のことだった。武蒼にアンナがやって来てきて練習を外から観ていた。

 

――やるじゃねぇか!

――しっかしレベルたっけ――。

――ハーフの女子中学生だと!?

 

 アンナが練習に来たことにいち早く気づいたのは龍だった。それから情報は流れに流れて龍は部室で2,3年生に連行されたのち今に至る。

 

――ケガから復活した苦労人かと思ってりゃ、いきなりAであんなめちゃカワな彼女がいるとはなぁ!とんだリア充野郎だぜ!

 

 ジョージさんはたまった怒りを龍にぶつけていた。リアル、充実するといいですね。

 

――見損なった!!

――いや……、知り合いですって。それにどっちかと言うと、アンナって翼に気があるような

――!!?

 

 おいおいおい! いきなりとんだ爆弾を投げやりに投下したな! 関係なく着替えを済ましていた俺に一斉に視線が集まったよ。

 

――お疲れでした!

――そいつを連行しろぉ――!!

 

 俺は天帝の眼を使ってまでその場から退散した。マジで、ジョージさんの包囲網は厚かったせいで、帰るのが大変だったぜ。

 そんなことがあった昨日。部活初めにジョージさんからよくも逃げてくれたな、と俺の横に来て肘で突かれたけど、結構本気で突かれたので避けた。

 その日の練習は何かとポールさんやジョージさんたちから何かとちょっかいを受けるも、流しつつ翌日に控えたプリンスリーグのメンバーが発表された。

 

「4-4-2システムで行く。まずGK,久米」

「うっす!」

 

 GKはいつも通り正GKの久米さんが務めることになり、4バックも武蒼の誇る4人が守ることが決まった。

 

「ボランチ、森と戸部」

 

 ボランチには攻守で光る森さんと戸部さんが選ばれた。

 

「右MF白川」

 

 右のサイドアタッカーには白川さん。右SBのレノンさんとコンビネーションが良かった。

 

「左MF,赤星」

 

 はい、来ました~。左のサイドアタッカー。赤い彗星のこと赤星翼が選ばれました。ムムッ!

 まぁ、調子に乗るのはそれぐらいにして、2枚のFWは長身FWの竜崎さんと竜崎さんとのコンビネーションのいい小田さんが選ばれた。

 

「明日は群馬の強豪・赤城中央だ! 相手はいいチーム。しっかりと勝ち点3を狙おう!」

『はい!!』

 

 試合前日のミーティングを終えて今日の練習は終わった。

 

「さぁ、帰ろうか」

「今日は俺たちと帰ろうぜ……赤星……」

 

 ジョージさんの包囲網にかかってしまう俺だった。




第5話でした。
サッカーで黒子のミスディレクションって……何でもないです!
では、またまた!

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