天帝の眼が開眼しました。   作:池上

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長い間ほったらかしていてすみませんでした。


第16話 紅白戦1

インターハイ本大会を終えてすぐ、俺たち武蒼高校サッカー部は毎年恒例の夏休み早々合宿へ突入――――。場所は長野県菅平、なのはAチームだけで残りの部員たちはいつものように学校でフィジカルメニュー中心に取り組むことになった。

学校組のメニューは鬼のような練習量を課されかなりきついことから地獄の夏合宿と言われていたが、菅平のほうも少数精鋭部隊で組むのでこちらも同じように地獄なものだった。

1週間ぶりにお世話になっている青梅家に帰ってきた俺は翌日の紅白戦もあることからはやめの就寝を取ったが、学校組の合宿をずっと見ていた優希がすごく意味あり気に明日の紅白戦は驚かされると息巻いていただけに、ちょっと楽しみだった。

 

「あ~。くそあちぃ!!」

「やっぱ地元は最低だ!」

 

避暑地と言われる長野菅平合宿を終えて移動日を挟んでの翌日。俺たちAのメンバーたちは合宿恒例の最後の締めである学校組選抜チームとの紅白戦を戦うことになっていた。

昨日地元の埼玉に帰ってきたが、やはり菅平は避暑地あって過ごしやすい気候だった。今もポールさんはずっと菅平にいたいとこぼしていた。

 

――――だったら、帰れ――!!

 

「え?」

 

いきなりの罵声に表紙抜けた声を出すポールさん。久しぶりの学校のピッチに入るなり学校組が待ち構えていたわけだがいきり立っていた。

 

「避暑地でのうのうとトレーニングしてきたお前らなんか、もはや仲間じゃねーな!」

「そうだ――!!」

 

入ってくるなり敵側として待っていた学校組のメンバーたち。当初、聞かされていた調整の場と言われていたゲームもどうやらガチでやり合う場になっていたようだ。Aのメンバーもピッチの完全アウェーに驚いていた。

 

「頼むぜ、一条!!」

「コーメイ!!」

「打倒A――!!」

 

そこからピッチでは選抜メンバーに対して下剋上コールが響いた。もはや、この紅白戦は単なるアピールの場とはなってなかったようだ。こんなにガラリと変えられるのは多分龍の奴だろう。

 

「すごいことになったな、翼」

「向こうはテストマッチとして見るつもりはないみたいだな、ナベケン」

 

こうなったらやり合わないといけないだろう。勝負事に関しては昔よりずっと好き嫌いがはっきりと激しくなったからな。ナベケンも同様に試合に向けて気持ちが高ぶっているのがよく分かった。

 

「さぁ、アップ始めるぞ」

 

キャプテンの倫吾さんとコーチがアップをするように促して試合前のウォーミングアップへと向かった。

 

 

 

 

――下・剋・上!

――――下・剋・上!!!

 

身内同士の紅白戦とはいえ、ここまで互いに敵を意識してのゲームはなかなかないだろう。いや、このゲームの結果が冬の選手権予選に向けてのメンバー選考も兼ねているだけに選抜メンバーからしたら喉からほしいし、今のAのメンバーはその座を死守するためにさらなるアピールが必要だった。

試合前、選抜チームの指揮を執る臨時の監督・ミルコ・コヴァッチは相手となるレギュラー組のAの指揮を執る黒部と軽い会話を交わしてベンチへと戻った。

 

「Aのスタメン、IH本大会と変わりないね」

 

選抜チームサイドのマネージャー・窪塚と優希はスターティングイレブンとピッチに立つメンバーを照らして確認していた。チームの10番・友坂の復帰を聞いていた選抜チームサイドだったが、まだ頭から出ないことにフルでは使えないための判断だろうと見ることは考える。

 

「下・剋・上!」

 

ピッチサイドから下剋上コールの歓声が試合の始まりが近づくにつれて高まる中、嫌気がさしたAの左サイドバックを務めるポールがうるさいと声を上げたが、それをヤジで返されて苛立つ。

 

「暑さでイカれちまったのか知らねぇが……イラッと来るぜ!」

 

腕を組んだままピッチサイドを見るセンターバックの島津譲二もポールほどではないが、イラッとした表情を向けていた。

 

「身内だからこそ気安く悪態付ける……でしょ」

「そうだな、レノン」

 

世代別代表の橘怜音は気にした様子もなくそう軽く返した。それに同意するのはキャプテンの星倫吾だった。

 

「ここは、ホームだ。うろたえるこたぁない。みんなの代表が俺たちだと思いだせば、騒ぎもやむ」

 

それにピッチに立つ11人も頷いた。選抜チームや選ばれなかったメンバーたちは学校での地獄の合宿を乗り越えたことから生まれた固い絆で生まれた同様、それ以上にAのメンバーたちは全国の猛者たちと渡り歩いたインターハイ本大会、そして菅平の合宿でのトレーニングで鍛え上げた経験がさらに強くなるきっかけになったと信じていた。

Aのメンバーたちの中には地元の合宿を経験したメンバーもいるが、断然菅平のほうが地獄だという自負があった。

 

「翼にナベ、菅平合宿1年からでよく耐えたな」

「うっす」

「ハイ!」

 

最前線のFWに立つ竜崎誠は1年から地獄の合宿を耐えた翼とGKの渡辺にそう声を掛けるも、島津が渡辺を茶化す。

 

「2日目の夜、便所で泣いていたくせによ~」

「あ~、確かに確かに~」

「(言わないでください、お願いします!)」

 

島津のノリについていく翼だったが、竜崎に止められ試合に集中と背中を軽くたたいて島津に声をかけていた。

 

「あんまりふざけんなよ」

「ちょっとからかっただけだぜ~。でも、大した奴だよ。翼にしても脱落しかけたナベも」

 

この夏を過ごす中で1年ながら2人は上級生たちに認められていた。

 

「まぁ、ナベはまだしも翼の奴が俺のノリについてくれるほど落ち着ているだけあって助かっているってことだよ」

「そうだな」

 

ちょっとインターハイ本大会の後から気が張っている気がした翼を心配もしていた島津と竜崎からしたら、良かったと思いつつ円陣に加わった。

 

「いくぞ!」

『おおぉぉ!』

 

円陣で気合を入れた後、散らばる両チームのメンバーたち。それぞれがポジションに付いて試合が始まるのを待った。

 

 

 

 

「4バック? 優人が中盤の底か」

 

試合開始前、相手の選抜チームのキックオフで始まる前の位置取りを見る限りDF5枚を並べてくるのかと思ったが、優人がサイドバックでなく中盤の底・ボランチに陣取っていた。

 

――ぴぃ~~!

 

主審を務める久米さんのホイッスルで試合が始まった。さっそく4-4-2の前線を張る小田さんと竜崎さんがボールを刈るように寄せた。

 

「速いパス! 狙うぞ!」

「トラップもたついたところを……」

 

2人はボランチで受けた優人のトラップ際を狙ったが、優人は速いパスを簡単にトラップしてボールを回した。

 

「さぁ、ボール回していこう!」

 

優人は大きな声で指示を飛ばした。そうか、こいつらポゼッションをやるつもりなんだ。右サイドでボールを回して中央で、前線から下りてきた龍に縦パスが入った。

 

「速いパス、一条に入る!」

「赤星もチェックに入る」

 

マークに着いた俺は龍を軽く手で押してみた。龍も来ることを分かっていたようにボールを取られない位置に置いてから、前を見たが無理に行くことなく後ろへ下げた。それからもAチームは寄せるも選抜チームは慌てずにボールをつないだ。

 

「やけに慎重だな……、なーにが下剋上だ! 立て入れてこいや――!」

 

バックのジョージさんが相手の消極的ともとれるポゼッションに偏った戦術に対してそう声を上げて煽っているが、これはこれで嫌なものだ。まず、2枚のFWのマコさんと小田さんに対して相手のバックス4人に中盤からビルドアップを促す役割で優人も加わってボールを回しているので圧倒的に数の差でただ追いかけているだけ、それに俺たちのバックス陣もいつ来るか分からない縦パスに対して常にポジショニングに気を遣わないといけない。

 

『下・剋・上!!』

『下・剋・上!!』

 

ピッチに全体に広がる下剋上コールにさすがに2分もボールを回されたら嫌でもAのイレブン全体がプレスを掛ける。左サイドに固まってボールを回す中で前線の龍にボールが入ったのをジョージさんとボランチの戸部さんがマークに付いた。

 

「一条!」

 

あっ、さっきから左サイドで回していたのはこういうことか。

 

「マズイ! プレスをかいくぐられた!!」

 

プレスをかいくぐるために左サイドに人数をかけてスペースのできた中央右に中盤に入る10番を付けた確か……水島さんがそこでボールを受けた。

 

「どっかを狭くすりゃ……ほかがスカスカになるのは必然――」

 

確かに水島さんの言う通りだ。右サイドにできたスペースに右サイドハーフの矢沢へパスを送った水島さん。こうも速い展開だと一気にクロスで持ち上がったり、中に切れ込んでも何でもできるだろう。でも、レノンさんがしっかりとこの状況を読んでいた。

 

「いけ――矢沢!」

「レノンと1対1だ、チギれ!」

 

矢沢は周りの声援もそうだが、どう見ても1対1で仕掛ける場面だ。シザースでボールを跨いでフェイントを入れて、縦にそのまま行こうとした。

 

「まだまだだな。田沢……だっけか?」

 

あっさりとボールに対して脚を入れて奪うレノンさん。それと、田沢じゃなくて矢沢です。現に今、矢沢が自分の名を名乗っているがレノンさんが気にするはずもなく俺にパスを送った。

 

「レノン、森だ!」

「オーライ」

 

ボールを奪ったレノンさんにGKのナベケンが指示を出す。

 

「切り換えろ!」

 

すぐに陣形を整えろと指示を出す龍。うん、切り替えは大事だ。

 

「こっちの反撃(カウンター)!」

「レノンから――、森! 森から前線の竜崎(マコ)へ一気に! いけるパターン」

 

Aのベンチにいる佐藤センパイの言う通りいけるパターンだった。でも、

 

「来てるぞ、森」

「ぬっ」

 

ボールを受けようとボランチの森さんに対してさっきまで中盤の底にいたはずの優人が寄せてきた。そうなったら、

 

「レノン」

 

後ろのレノンに叩いてもう一度作り直すしかないな。

 

「よし、時間をかけさせた!」

「優人ナイスディレイ!」

「後ろの人数揃った!」

「Aのカウンター潰したぞ!」

 

しっかりと出し手になる森さんのところをつぶした優人。しっかりと俺たちAのカウンターの芽をつぶした格好になった。

 

「レノン、後ろ来ているぞ」

「おらよ」

 

そして、レノンがボールを持ったところで前に奪われた矢沢がすぐにボールを刈るようにレノンへ寄せるもその前に前で待つ俺にボールを回した。

しっかりとゾーンで固められた相手DF。うん、なかなか意思統一がされている。だったら、ちょっと斜めの動きを入れよう。

 

「おっ。優人!」

 

中に切れ込もうとしたところを優人が寄せてきた。寄せてきたことでできたスペースはしっかりと水島さんがスライドし、ほかも動いている。

 

「はい、戸部さん!」

 

まぁ、無理する時間でもないし後ろへ返すか。と、言っても戸部さんなら俺が中に切れ込んだ意味を分かっているはずだ。

 

「レノン!」

 

そう、中に切れ込んで空いた右サイドのライン際にレノンさんがオーバーラップして攻撃参加できるようにしようとしたのを戸部さんも分かっていたようにパスを出した。

 

「ナイス!」

 

ボールを受けたレノンさんに対して矢沢が対面でしっかりとマークに付くも、見るからにさっきの件で闘争心がむき出しで熱くなっていた。

 

「おらぁ! 男、矢沢。やり返すぜ!」

 

レノンさんがそう相手に煽られても気にするタイプじゃないことを分かっていた。俺もパスで受けられる位置にはいたが、ここは無理せずレノンさんは後ろへボールを出した。攻めあぐねてボールを後ろに預けようとしたところを矢沢はさっきの仕返しとばかりとカットしようと右足を出した時、レノンさんは見透かしたようにキックフェイトで反転して切り返した。

 

「躱された!」

「うわ~、矢沢が子ども扱い!」

 

振り切ったレノンさんは前線を確認してニアで待つマコさんへ浮かした速めのロブパスを送った。長身のマコさんはそのまま2人を相手に長身を生かしてすらして中へポストプレーをした。何回もやったプレーに小田さんも分かっていたようにマコさんが出したパスへ向かっていたが、その前に最前線から戻ってきた龍がボール着地点へ一直線で入ってボールをクリアした。

 

「一条?」

「おお!? FWの一条があそこまで戻って……」

 

俺たちからしたらチャンスかと思ったが、その前にFWの龍が防いだ。本当ならシュートで終わりたかったが、コーナーキックになった。右サイドのコーナーキックの担当のレノンさんがボールに行き、中へ蹴り込んだ。

 

「よし、ゴールキック!」

 

コーナーキックで上がっていた倫吾さんが中央で競り勝つもヘディングシュートは枠に収まらずゴールキックになる。

上がっていた倫吾さんとジョージさんがすぐに最後尾へ戻る中、相手ももう一度陣形を整える中で、さっきまで最前線を張っていた龍がバックスの4人の中に加わっていた。




第16話でした。また、投稿できるようにしたいと思っています。
では、また!

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