天帝の眼が開眼しました。   作:池上

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お久しぶりです。池上です。
1週間以上投稿が出来なく、すみませんでした。
また、よろしくお願いします!


第15話 夏合宿前のインターバル

インターハイをベスト4で終えた俺たち武蒼高校サッカー部は南東北で行われた大会を終えたこともありすぐに荷物をまとめて地元・埼玉への帰路についた。

 帰りのバス内では今日の1試合だけであってもこの6日間で5試合をこなしたこともあってみんな帰りのバス内は寝息が立つだけで静かな帰り道となった。でも、みんな全国の舞台を知り再び直近の全国大会となる選手権への思いが一段と強くなった。今日の準決勝の試合で敗れた千葉でプレミアリーグに属する市立舩川に対して、再び全国の舞台で勝ちたいと思うほどに。それは、俺自身もそうだった。

 

(もっと……チームを活かせる個の力を強めないとな)

 

 今日の試合で感じ取った青山大樹の個の力。ポジションがFWとMFと違えど見て見ぬふりは出来ない課題だった。俺がもっと――――。そう思わされた戦いだった。

 その後も、バスは埼玉へ向けて夕日が掛かった夕方ごろの帰路から学校へ着いたころには夜になっていた。

 

「荷物、そのまま明日の必要なものは置いてくれ」

 

 明日は昼からの集合で例年通り埼玉でなく長野菅平合宿が敢行されることが前から伝わっていた。なので、必要な練習道具やらなにやらはマイクロバスに積んだままでよかった。

 

「揃ったな。明日から菅平合宿に入る。明日はただの移動日に当てる。今日は早く家に帰って休んでくれ。以上だ」

 

 監督の黒部先生が明日に向けての軽いミーティングしてその日は終わった。

 

「それにしても、予定詰め込んでいるよな。武蒼は」

「そうだな。まぁ、これが全国で戦う高校のサッカー事情なんだろうけど」

 

 家への帰り道。インターハイを戦い抜いた俺とナベケンの二人だけで帰っていた。ナベケンの首筋と腕元を見るとすごく日焼けてしているのが見えたが、多分俺も結構焼けているんだろうなと見ると、思ったより焼けていなかった。なんでだろう?

 

「なぁ、翼」

「ん?」

「強かったな。市舩」

 

 ナベケンは悔しさなのか口元をかみしめてそう話す。俺も同じようにただ、そうだな。と頷くぐらいしかできなかった。

 

「特に青山。アイツの1点目のシーンは圧巻だった。それも初めてだったぜ。普通のシュートで逆を突かれたのは」

「逆付かれたのか?」

「あぁ」

 

 確かにいつものナベケンなら止めておかしくないシュートコースだったが、止められなかった。俺もシュートのシーンは目で追っていたので見ていたわけだが、なんか、こう……独特な蹴り方をしているように見えた。なんていうんだろう――

 

「シュートコースが読めなかった。大抵の奴は大体つかめるんだけどな」

 

 そう話すナベケンを聞いて、俺はなんとなくあの青山のシュートの独特性に感じさせるものがあった。昔、映像で見たある選手のシュートに似た感じが。

 

「なぁ、ナベケンって全国にも何度か出ているよな。関東でも」

「ん? あぁそうだけど」

「青山ほどの実力者がどうしてこのインターハイまで無名だったのかが俺は不思議な気がするんだが……」

「確かにな。まぁ、龍にしてもそうだったように何かあるじゃないか?」

 

 まぁ、龍のように2年間のブランクでサッカーから離れている例があるがそれは違う気がした。あれは、ずっとサッカーを続けている感じがした。

 

「とりあえず、明日からまた頑張ろうぜ。菅平合宿」

「そうだな。5日間の強化合宿。がんばろうな」

 

 ちょうど、別れ際だったので俺はナベケンと別れてみんなが待つ青梅家へと帰った。

 

「ただいま~」

「おかえり~!」

 

 青梅家に帰ってくると出迎えてくれたのは優希だった。それからして俺が帰って来たのを知って龍や優人もリビングから顔を出して待っていた。

 

「おかえり、翼」

「おかえり、翼くん!」

「ただいま。龍、優人」

 

 リビングで出迎えていた龍と優人と玄関で待っていた優希とは1週間弱ぶりとあって、かなり久しぶりに顔を合わせたような気がした。まぁ、これまで1週間も顔を合わさないことがなかったからな。

 

「翼、活躍はこっちまで届いていたぜ」

「そうだよね。2回戦の福岡南のJ内定の町田さんに渡りあうどころか逆に良かったってネットにも挙がってたからね」

「うんうん。やっと翼くんの凄さが世に知れ渡って嬉しかったよ」

「優人、それは大袈裟だよ」

 

 優人のオーバーな言い方に笑いつつも、俺は優希が出してくれた麦茶を飲み干す。

 

「今日の準決勝、市舩はどうだった?」

 

 さっそく今日の試合の感想を聞いてくる龍。龍も市舩については軽くでも知っているだろう。俺は、とりあえずある人物の名前だけは伝えた。

 

「市舩は……。絶対的ストライカー・青山大樹を中心にしたいいチーム、いや強さのあるチームだったよ」

「青山君か……。今まで中学の頃から聞いたことのない名前だよね」

 

 優希も不思議そうに話すが、その通りだった。あれだけの実力者がどうしてこれまで表舞台に出てなかったのかが不思議でならなかった。

 

「あぁ、それなら今日のコメントに載っていたよ。ブラジルのストリートで技術面を鍛えていたって」

 

 優人がそう話してくれる。そうだったのか……。サッカー王国と呼ばれるブラジルで磨いた独特なリズムであったり動きはあそこがルーツだったのか。それなら納得できた。

 

「優人の言った通り、倫吾さんだけでなく代表に入るレノンさんもアイツの独特なリズムはつかめなかったからな。それだけでなく藤原乃亜以上のクイックネスも持ち合わせて凄かったよ」

 

 それを聞いた3人は、藤原さん以上の速さは想像できないだけに様々な表情を見せた。優人と優希は驚いた表情で、龍は見てみたいという好奇心が分かった。

 

「とりあえず、インターハイ。初めての全国に出て分かったよ」

『?』

「俺、もっとサッカーが上手くなりたい。そういう気持ちがもっと、もっと強くなった!」

 

 インターハイに出ていろんな全国にいる選手を知って俺はもっともっと上手くなりたいと思うようになった。

 

「俺も負けてられないな」

 

 龍はちょっと羨ましそうに自分も負けてられないとばかりに目を合わせる。

 

「僕も頑張らないと!」

 

 優人も同じように力強い目で俺を見る。

 

「なら、私もしっかりとマネージャーとしてサポートしないとね」

 

 優希はマネージャーとして頑張るぞとグッと小さな握りこぶしを作り、サポートすることを力強く宣言した。

 

「俺は明日から菅平合宿だけどみんなは学校だよな?」

「そうか。やっぱりAは菅平合宿に入るんだな」

「やっぱり強豪校だけあって予定が詰まっているね」

「ってことは、翼くんは菅平で、私と龍ちゃんと優人は学校だね。まぁ、場所は違えど頑張って地獄って言われている合宿を乗り切ろうね」

 

 優希の言葉に俺たちは頷いて明日からの合宿に備えて早めの就寝を取ることにした。もちろん、俺はお世話になっているおじさんとおばさんのお土産を渡してから寝た。

 

 

 夜中、3時頃だろうか。私は目が覚めて喉も乾いたこともあり居間の方へ水を飲みに来た。

 

「ん?(誰だろう……)」

 

 私は庭に誰かがいるような気がしてちょっとチラッと物陰から見るように伺うとそこには翼くんがいた。

 

(何してるんだろう?)

 

 翼くんは軒下に座ってジッと夜を照らす月を見ていた。見つめたままの翼くん、足元で何かを動かしているのを見る限りボールでじゃれているようだ。

 

「優希か?」

「!?」

 

 私は音もたてずにジッと翼くんの後ろ姿を見ていたにもかかわらず、翼くんは見えていたかのように私の名前を呼んだ。

 

「ごめんね、1人の方が良かったよね……ははっ」

 

 きっと今日の試合のことが頭から離れなくて寝ることができなかったから邪魔だろうと思い、私は自分の部屋へ戻ろうとしたが、翼くんは私を横に座るように手招きした。

 

「ちょっと、話そうよ」

「!」

 

 ちょっと!? 私大丈夫かな、今すごい顔してなかったかな――

 

「こっち」

 

私はきっと恥ずかしいぐらいに顔が紅かったが、言われるままに翼くんが空けてくれた場所へ腰を下ろして座った。

 

「埼玉もやっぱり暑いな」

「うん」

 

 翼くんはそれから何気ない話をしてくれた。サッカー以外の話を。日常の生活や学校、クラスでの話や諸々。こうやって面と向かって、隣り合って話す機会なんて少なかったから翼くんがどういう具合に周りを見て聴いて触って感じているのかが知れた気がした。

 そんな中で、私は一体どういう風に翼くんに見えているのか……!? 一体私は何を考えて!?

 

「――優希?」

「んぅ!? な、なに?」

「“私は一体俺からどう見えるか?”って言ったよな。今?」

 

 えぇぇぇ!!? 私、頭の中で思いとどめていたはずが口に出していたの!? ど、どうしよう――、翼くん、少し困った表情で顔を逸らしているし!?

 

「俺から見て――……、優希は当たり前のように俺たち(・・)の傍にいてくれた」

 

 あっ、だ、だよね~。龍ちゃんや優人たちにいつもいるからね。その中の1人としてしか見られてなかったんだよね……。

 

「でも、最近思ったんだ。この当たり前が奇跡だったみたいに」

「奇跡……」

「うん。そう思えたのも……。いや、遅いと思うけど俺は感じたんだ。傍にいて、笑顔を向けてくれる優希の存在の大きさを」

 

 翼くんは、今も私を見てそう話してくれる。この時間が私にとって何よりもうれしかった。私だけを見て話してくれる翼くんがいることが。何よりも。

 

「インターハイの時もさ、予選の時はスタンドから優希が観てくれていたから頑張れたところがあってさ。でも、今回初めて優希だけじゃなくて龍や優人と一緒にいない大会を経験して思ったんだ。俺ってやっぱりみんなと一緒にこれからも居たいんだって」

 

 翼くんの言葉に私は思わず目頭が熱くなったが、何とか泣かずに“うんうん”と頷いで話を聞いた。

 

「やっぱり――、今度はみんなで全国の舞台に出たいな」

 

 翼くんはフッと夜空を見上げてそう言った。翼くんの本心から出た言葉の数々に私にとって、とても貴重で濃い時間が静かに過ぎて行った気がした。

 

「さて、明日は移動だけでも早く寝ないとな。悪い、声を掛けて」

「うんん。良かった。こうやって久しぶりに話せて」

「そうか。ありがと」

 

 私はちょっと足早に部屋へと戻った。布団に戻った時、翼くんとだけの時間を共有した私は悶々として寝られないかと思ったけど、気が付いたらあっという間に日差しが窓のカーテンに掛かっていた。

 

「あれ……。もう朝?」

 

 私はこの時、昨夜のことを夢かと思った。けど、やっぱりコップが1つ置かれてあったことから夢じゃなかった。

 

「おはよう、優希」

「! おはよう! 翼くん」

 

翼くんが、昨日は色々話を聞いてくれてありがとう。と言ってくれた。やっぱり夢じゃ――なかったんだ。

 

「優希、暑さには気を付けるんだぞ」

「大丈夫! 私、丈夫だからね!」

 

 こうして武蒼高校サッカー部の強化合宿の日の朝が訪れたのだった。




ずっと、サッカーの試合だったので関係性を書きたいと思い書きました。
次回は一気に紅白戦に行くかもしれないです。その中で合宿の話を混ぜれたらと思っています。
最後に、投稿が遅れてすみませんでした。
お気に入り登録に評価していただきありがとうございます!

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