天帝の眼が開眼しました。   作:池上

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第14話です。本格サッカー小説の龍時を読んで凄いなと思いペラペラと読んでしまってました。もう少し研究も重ねて行こうと思います。では、インターハイ準決勝ラストスパートです!


第14話 場を変えてしまうプレイヤー

1点ビハインドを追う俺たち武蒼。今大会初めての状況とありみんなに固さというか見えない圧力を感じているのをピッチ中央の後方に立つ俺からは見えた。そこまで見えるなら周りに声をかけた方が良いのは確かだった。でも、その前に――

 

「ハハっ」

 

 思わずこの厳しい状況で笑っている自分がいた。

 

「お、おい」

「ん? なんですか、ジョージさん?」

「何笑っているんだよ!」

 

 近くにいたジョージさんは今の状況で笑っている俺に少なからず苛立ちを持ったのかもしれない。まぁ、確かにそう思われてもおかしくないだろう。でも――

 

「やっと全国らしい場面が来たじゃないですか」

「!」

 

 ここまでの試合、正直言ってそこまでハラハラする様な展開はなかったのは確か。やっと全国大会らしい厳しい状況が巡って来たのだ。待ち望んでいたのかな? この状況を。

 

「そうだな」

 

 近くで聞いていた倫吾さんも同意だったようで、ここからが本当の勝負だと同じCBのジョージさんに声を掛けると、ジョージさんも意図を汲み取ったのか頬を軽く2,3回ほど叩いて気合を入れて引き締め直す。

 正直、さっきの得点シーン。俺の視界が遮られている左側を物凄いスピードで通ったから青山のワンツーは成立したとも言ってもいいが、それでも鮮やかだった。敵の市舩、それに青山の動きを褒めるしかなかった。それもあったからこそ敬意を表して真っ向から戦う事を望んだ。

 

「まず1点、まだ時間は十分にありますよ」

 

 レノンさんもそう声を掛けてチームの士気をあげる。そこからポールさん、戸部さんと森さんは声を出して気合を入れ前線の春畑さんに小田さん、そして竜崎さんへ伝わっていく。

 さぁ、ここからが本当の勝負。ここまでは思い通りに試合を進められた。けど、久しぶりに後ろから敗北の足音が鳴り始めたこの状況で本当の意味での俺たちの進化が問われる時間が訪れた。

 

 

 市舩がエース・青山のゴールで先制に成功してから試合は一気に互いに攻守の時間がはっきりと示し始める。

 

『青山に渡った!』

『でも、赤星がしっかりと付いている!!』

 

 この試合、通じて翼と青山の1対1は多く見られたが時間が過ぎるにつれて互いにその闘いの激しさは増す。

 

――ピィ、ピィ!

 

「っ! ファウルか」

 

 今も、体を激しく寄せてボールを奪いに行ったところ、ファウルを取られた翼だったが、まだ自陣高い位置でのファウルだったので良かった。それからも互いにチームの中心を据えた同士の戦いは熱を帯びる。

 

『赤星が奪った!!』

 

 翼がここで青山へのパスをインターセプト、一気に後半右サイドに流れていた小田へロングパスを送り通る。

 

「いけっ!」

 

 そこから一気にドリブルで駆け上がる前に小田は前線で待つ長身FW・竜崎に早めにクロスをあげるアリークロスで仕掛ける。

 

「うらぁ!」

 

 相手GKの清川はDFとGKの間のクロスを思いっ切り飛び出してパンチングで弾き出す。

 

「セカンド!」

 

 そして、すぐさま起き上がってセカンドボールを捕るように指示を出す。セカンドボールは互いに球際に激しく行ったことで再びこぼれた。

 

『どっちが獲る!?』

 

 戸部が奪い切れなかったが、すぐさま同じ並びで中盤に立つ森がボールを奪い一気に二次攻撃に移る。左には春畑、中央には竜崎、右には小田と3枚の攻撃の枚数が揃っていた。

 

「「こっち!」」

「へいっ!」

 

 それぞれが良い形でボールを受ける動きを見せる。それもあって相手の4バックにギャップが生まれる。

 

「翼!」

 

 そこで森は直接自分からは出さず攻撃参加して来た翼に預ける。翼はボールを持たずにダイレクトに右サイドのスペースにスルーパスを送る、小田だ。

 

「小田ちゃん!」

 

 中央のニアへ走り込む竜崎、そしてファーには左サイドから一気に中へはいる春畑。小田はこの時、もう一人の動きを視野で捉えていた。

 

「翼!」

 

 翼だった。エリア内中央でボールを受ける構えを取っていた翼へラストパスが送られた。

 

「なっ!?」

 

 この時、パスを送った小田は驚く。完全にフリーで受けていたはずの翼に最前線から守備に戻って来ていた青山が迫っていたから。

 

「赤星っ!」

 

 青山は後ろから翼に迫る。翼も分かっていたのかそのまま来る前にダイレクトでシュートに行こうとした。

 

「ダイレクトでも追いつきそうだぞ!?」

 

 右SBで後ろから見ていたレノンも驚く。一瞬のスピードとトップスピードへ入る時間の短さなら同じ年代別の代表にも選ばれフィジカルモンスターとも言われる藤原乃亜に引けを取るどころか超えていた。

 

(止められる!)

 

青山はこの時、スライディングで足を入れればシュートブロックが出来ると思った。そして、そこから一気に攻撃に傾いている武蒼に対してカウンター攻撃を仕掛けられることも。

 

「なっ!?」

 

 ただ右背後からスライディングで足を入れようとした青山に感づいていたのか翼は一度ボールを足裏で転がして後ろにボールを当てる。

 

「マジかっ!?」

 

 青山は完全に翼がダイレクトで行く動きを見てスライディングで行った。だが、翼はそこから直前で切り返したのだ。あまりの切り返し・ターンの動きの良さに青山は躱されてしまう。

 

「くそっ(ここで奴なら――)」

 

 青山は確実にファウル覚悟で止めに行かないと思って自身の後ろを回っていた翼に対してスライディングから更に右足を投げ出す。

 

(右足を投げ出して更に右へ流す)

「くっ、分かっていたか」

 

 青山はなす術もなく翼に躱されたかのように見えた。でも、必死に繋いだDFで市舩の強固なDF陣が翼に迫っていた。

 

「1年が守っているんだ! 行かせるかよっ!!」

 

 身を挺して守りを固める市舩DF陣に対して翼は冷静にゴールへの流れが見えていた。ポンっとまたタイミングを掴ませないタッチで左へボールを流し、細かいタッチを刻んで相手のCBを左右に振る前に尻餅をつかせる。

 

『CBの富田さんがこかされた!?』

『嘘だろ!?』

 

 千葉を代表するDFがあっさりと尻餅をつかされた状況に相手の観客席を始めスタンドがどよめく。

 

「いかせんっ!」

『まだ藤谷さんがいる! 舐めるな1年が!』

 

 同じくCBの藤谷が密集の中で危機を察知して翼に寄せた、が。

 

――――見える。ゴールへの道筋が。

 

 たくさんの敵を引きつけて完全にパスコースが無いよう見えた状況で翼にしか見えないパスルートが浮かんだ。1本のパスを左足のアウトサイドで中央へ流し込む。

 

「うっそだろ!?」

 

 CBの藤谷は一体何が起こったんだと動揺をするもまだゴールラインを割ってない状況なので諦めてなかった。

 

「止めてくれ! 清川!!」

 

 清川にそう言うも、混戦からの1本のまさかのパスで寄せられずポジショニングで躊躇う。

 

「おおぉぉ!!」

 

 中央で受けたのは竜崎。ストライカーの本能なのかそれとも翼のパスのメッセージを受けたのか、ボールを止めずにそのまま右足のインサイドでゴールへダイレクトで流し込んだ。

 

『はっ、入った――――!!』

『武蒼が残り10分で追いついた――!!』

 

 武蒼は残り10分のところで竜崎のゴールで追いつくことに成功した。

 

「ナイス、マコ! よくダイレクトで行った!」

 

 同じFWの小田がすぐにゴールを決めた竜崎の許へ、遅れて他のメンバー数人も近づき喜びをかみしめるが、竜崎はすぐにボールを捕ってセンターサークルへ向かおうとした。

 

「もう1点! 点取って勝つぞ!!」

 

 竜崎のゴールで追いついた武蒼。追いつかれた市舩としては残り時間を考えると痛い失点となった。

 

「マジかよっ! ハハハハっ!!」

 

 残り10分間を凌ぎつつ追加点を奪う予定だっただけに、悔しさをにじませる市舩イレブンの中で1人笑うのは青山だった。

 

「あそこでパスってやばいでしょっ!」

「あ、あぁ」

「いいね……。やっぱり良い相手だよ、武蒼は」

 

 青山は自陣へすぐに戻って行く武蒼を見ているつもりだったが、市舩イレブンからは明らかに翼の後姿を捉えているのを分かっていた。

 

「ホラっ! さっさと行って来い!」

「最低でも2-1だ」

 

 CBの冨田と藤谷は青山に残り時間で点を取ってこいと守ってみせるとメッセージを込める。

 

「うっす」

 

 青山は最前線に置かれたセンターサークルのボールへ向かった。

 そして、青山が後ろに蹴りだしてリスタート。そこから本当の意味での両チームの地力を見せ合う死闘となった。残り時間とロスタイムに加えて約10分弱はさらに攻守において激しさが増して行った。球際では激しさも一層増し競技場全体を通して熱くなっていく。皆が熱くなる一方で冷静に試合を見通すのは翼と青山だった。

 翼は同点後すぐの失点だけはマズいと思いバランスを考えての攻撃のリズムを作る。それに対して青山は自身の絶対的な攻撃力をゴリ押しで武蒼DFに突き刺していく。市舩の矛と武蒼の盾、両チームのストロングポイントがぶつかり合った。

 

『青山がシュート!』

 

 強引に密集地帯からシュートを放つ青山に翼がしっかりと足を投げ出してブロックする。

 

「セカンド、絶対!」

 

 GKの健太の指示が飛ぶ。それを受けてセカンドを奪ったポールはすぐさま自陣からかきだすように敵陣へクリアした。と、ここで――

 

――ピィ、ピィ、ピィ~~!!

 

『準決勝第1試合、武蒼対市立舩川の試合は前後半35分ハーフで決着つかず!』

『決着はPK戦だ!!』

 

 死力を尽くした試合、結果は35分では決着がつかず大会レギュレーションにより決勝以外は延長戦なしなのでPK戦へと入った。

 

「練習通りの順番で行くぞ」

 

 武蒼の監督の黒部はそう言って順番を名前で呼びあげて行く。1番は小田、2番はレノン。3番は倫吾、4番はジョージ、5番は春畑、それからも続くことが考えて11番目のPKが大の苦手な翼まで順番を決めてベンチ前からイレブンたちはセンターサークルへと向かった。

 PK戦、先攻はコイントスの結果武蒼に回り1番手の小田がペナルティースポットのボールの位置へ着いた。相手GKの清川はフッと一息ついて両手を広げて待つ。

 

――ピィ!

 

 小田はジッとキーパーを見てからボールから助走をとる、そして――、一気に蹴り込んだ。

 

『武蒼1人目成功!!』

 

 小田のPKはキーパーに触られたが、勢いもあってそのままゴールネットを揺らした。先ず1本目を成功した武蒼は先攻有利のアドバンテージを得た。

 次は市舩の1人目のキッカーがゆっくりとペナルティースポットへやって来る、青山だ。対して武蒼のGK渡辺もゆっくりとゴールマウスへ近づく。決めればイーブンで続き、止めればリードが奪えるだけにいきなりだったが、重要な局面を迎えた。

 

――ピィっ!

 

 青山はルーティンがあるのか大きい歩幅をエリア外に出るぐらいとる。そして両手を腰に当てて一度下を向いて集中をした後だった。迷いなくペナルティースポットのボールへと向かっていた。

 

△▼

 

 PK戦からしばらくして武蒼の選手たちはマイクロバスの車中で宿舎へ戻ろうとしていた。どのメンバーも悔しさを露わにしていた。負けたのだ、俺たち武蒼はPK戦の末に市舩に。

 

「青山のPK……。あれで一気に持っていかれたな」

 

 隣のシートに座るレノンさんがそうボソッとこぼす様に、青山のPKで一気に流れを持っていかれたのは確かだった。

 

――なっ!?

――パネンカ!?

 

 あの緊張の場面で青山は迷いなくナベケンの裏をかき、あざ笑うかのようにふわっと浮かせたPK、パネンカで流し込んだ。あれで一気に会場の雰囲気も味方に付けてしまい結果的にPK戦は1番目の小田さん以降の武蒼の選手は全員決められず、対して市舩は全員が決めてスコア1-1(1-3)で敗れた。

 

「アイツらを倒さない限り……全国制覇は無理だろうな」

「……そうですね」

 

 レノンさんが言うように、間違いなく市舩や同等の相手を倒さない限り全国制覇は夢のまた夢に終わるだろう。でも、少しだが試合中に全国制覇への光が見えた気がしたのは俺だけではなかったような気がした。皆悔しそうだった。それでも次の段階に行ける気がしたのは確かだった。

 

「これからだな」

「そうですね、これからどう過ごすかが重要ですね」

 

 武蒼のインターハイはベスト4で終わるのだった。




第14話でした。やっと終わったインターハイでした。と、言ってもダイジェストみたいな気がした私自身です。
やっと原作主要キャラたちと話を絡ませることが出来て何よりです。さて、カスラバをどうしようか……。次は選手権に向けてかいていこうと思います。また不定期に出すと思うのでしばしのお待ちを。では、また!

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