天帝の眼が開眼しました。   作:池上

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第12話です。



第12話 同種

《Aブロック決勝! 埼玉1・埼玉屈指の強豪・武蒼高校。対しては同じく県内で強豪としての地位を持つ静名学園のゲーム! 互いに勝ち上がって来たこともあり白熱のゲームが展開される中で先に試合を動かしたのは強豪・武蒼で1年生ながら中心選手と活躍する――――、赤星翼選手!》

 

 煽るなぁ~。と、地元のケーブルテレビでスポーツアナウンサーを務める・女子アナの人が映像を交えて話していた。

 今は、宿舎のある大きな1室で俺や武蒼のインターハイのメンバーたち全員が長い旅館座卓に肘を掛け乍ら大きな液晶テレビに映る自分たちの試合映像を見ていた。

 

《前半、このまま終わるかと思われた32分。ついに試合が動きます。相手の縦パスを一気にインターセプトした赤星選手! 一気に駆け上がるとFW・竜崎君とワンツーで一気に相手を振り切りシュート! ボールはそのままゴールネットに吸い込まれるビューティフルゴールで武蒼が先制に成功!》

 

「地方の女子アナも可愛いな~」

「そうっすね、ジョージさん」

「“そうっすね” じゃーねぇよ! この野郎!!」

 

 ジョージさんの傘下に属する左SB・ポールさんが俺の首根っこを掴んで頭をぐりぐりしようとしてきた。が、そう簡単にやられる俺でもなくすっと首元を開放する。

 

「ぐぬぬっ! ジョージさん! 大会中だったから我慢してたけどもう我慢できないっすよ!!」

 

 心の叫びをあげるポールさん。一体、何を我慢がしていたのか?

 

「そうだな、俺も我慢の限界に達しそうだ……」

 

 同じように肩を震わせつつも、声は冷静に語るジョージさん。どうしたんだ? 一体……?

 

「おい! 皆川アナの取材のとき近すぎたよな! いや、至近距離だった!」

 

 確かに今日の試合の後の取材のときに来ていた今テレビで熱く試合語っている女子アナウンサー・皆川? さん。だったかが、ジョージさんや頷いで中指を立てるポールさんの様子から察する反感を買ったようだった。

 

「いや、記者の人多かったから――」

「密着だったろ!? 当たっていただろ! おいっっっ!!!」

「さぁ、みんな。今日はこいつを生かして帰すなよ」

 

 ジョージさんは血の涙を流すとはこう言うことかと分かるぐらい流す。本当に血は流してないが。それとポールさんは左手だけだったのが両手で中指を立てた。

 

《凄かったですよ~。3点目のFKは綺麗な放物線を描いてのゴールでしたからね☆》

 

「はい、死刑」

 

 この後、ジョージとポール(戦いの場では上下関係なし)対俺のスパーリングが始まったが、俺は向かってくる2人を軽くいなして捻り潰したのだった。

 

「おい、ジョージ・ポール。おふざけはほどほどにしておけよ」

「倫吾。結構本気だったんだぞ」

「倫吾さん! コイツ、関節技が掛けられないっす」

「いいじゃないか、怪我しなくて済む」

 

 倫吾さんの真面目な意見。そういうところ、流石キャプテンです。

 

「1日空いたが明日も暑い時間帯の試合だ。もうお開きにしよう」

 

 キャプテンも言う通り明日は各ブロック決勝から勝ち上がった武蒼を含めた4チームが準決勝を戦う。相手は千葉の市立舩川、インターハイに加え選手権でも優勝した経験を持つ数少ない超強豪との試合が待っていた。ウチもそれなりに多くの試合で得点を奪っていたが、それ以上の破壊力抜群の攻撃を見せている市舩との対戦。さっきまでおふざけが過ぎたジョージさんもキリっとした表情に戻って部屋へと出て行くときだった。

 

「頼むぜ、しっかり前でチャンスを作ってくれ。後ろは俺たち4人で支えてやるからよ」

 

 やっぱりジョージさんはジョージさんだった。意味が分からない気がするけど。最後に、もっと先輩アピールを記者たちにするようにとジョージさんと同室の倫吾さんは部屋へ帰っていた。

 

「へっ、あんな破壊力抜群の攻撃魅せられても気持ち切れない辺りは流石だぜ」

「レノンさん」

 

 レノンさんはチームの大黒柱のCB2人が強気であることがチームにどれだけ重要かを分かっていたようだ。確かに、後ろであれだけのDFをされたら前の選手は半端な攻撃では済まされないからな。

 

「明日は俺も1年の怪物FWとのマッチアップになるだろうからな。気合入れねぇと。とりあえず、前は頼んだ」

 

 レノンさんも同じようなことを行って部屋へと帰っていく。去り際に俺の胸にグーで押して。それから、全員が俺の胸にグーで気持ちを託すように入れて自室へと戻っていた。まぁ、ポールさんは怨念が混じっていたが。

 

「ナベ、明日も頑張ろうぜ」

「おう。俺も明日は大変そうだからな!」

 

 翌日、準決勝当日の朝は快晴に恵まれた。

 

 

 Jの2部リーグのチームが主催の時に使う競技場での試合。ある程度の収容観客数が見込める競技場にはインターハイの準決勝とあってチラホラと観客席に人が見える。相手の千葉1の市舩は全国の常連で県内だけでなく県外からのファンもいるほどの有名校だ。にしても、多いな。

 

「今日も暑くなりそうだな」

 

 空高くから照り付くような熱さが肌に突き刺さる。でも、それだけじゃない。相手からほとばしる威圧感からもあるだろう。今も両校登場から近くにいたところから1列に並ぶので離れたが、かなり力強い目をしていた。

 

「市舩ってやっぱいつの時代にカッコいいからな」

「ナベケン」

「でも、今日は俺たちのサッカーで勝とうぜ。市舩に」

 

 今日の試合もゴールマウスを守るナベケンは静かに試合の始まりを待っていた。そして、両校のイレブンたちはガッチリと握手を交わす。そんな中でも意図的にこちらに気を向けるように握手をする相手の7番の選手がいた。

 

(コイツが……)

 

 そいつは褐色肌をしたいかにも雰囲気のある背番号7の4-3-3システムの左ウィングに入る青山大樹、相手の得点のほとんどがコイツの個人技からだっただけに要注意だったわけだが――

 

「後がつかえているぞ」

 

 ずっと手を離さない相手の青山に俺は一応後ろがつかえていることを言う。すると、悪いなと前に進んでいた。一体何がしたかったのだ?

 まぁ、でも握手して向かい合っただけで俺よりも上背が約10cmの長身186cmの身長に加えてしなやかな体の動き……。コイツが1年生ながらチームの主軸として回っていることは間違いなかった。

 そして両高の選手たちの健闘を称え合う握手が終わった所で俺たちは整列写真を収めてピッチに散らばっていく。遅れて倫吾さんがボールとサイド決めから戻ってくる。相手のボールで始まるみたいだった。

 

「さぁ、相手は市舩。でも、恐れるに足らず。だな」

 

 倫吾さんは不敵に笑みを浮かべる。

 

「全国の猛者・市舩。倒して先に進もうじゃないか!」

 

 倫吾さんも覚悟の決まった顔でイレブンたちに語りかけ、グッと隣にいた俺のユニフォームを握る。

 

「行くぞっ!!」

『おぉ!!』

 

 円陣を切った俺たちはそれぞれのポジションへと散らばっていく。相手は既に円陣を済ましてセンターサークルのボールを踏んで青山が1人ジッとこちらを見据えて待っていた。

 

「さぁ! 市舩だ!!」

「さぁ、今日は何点取るんだ!!」

「いったれー! 市舩!!」

 

 会場全体が高校サッカーのキング・市舩に対して声援を飛ばす。この会場において誰もが試合を優位に市舩が進めて行くことを考えているのだろう――――。だったら、そう簡単に行かないことを思い知らせてやろうじゃないか。

 

△▼

 

 準決勝の1つ、武蒼対市舩の試合は市舩目当てに見に来た観客たちの大声援の中で始まった。だが、今は違う。

 

『あっ! またあいつだ!』

 

 今は完全に試合を武蒼のある1人の選手によって支配していた。翼だ。

 

『どこにでも顔を出してパスの受け手になるから市舩がボールを奪えない!』

『そんでもってボールを持つと――』

 

 そう観客たちが話していると、1本のパスが左サイドの春畑に渡る。

 

『クロスあげた!』

 

 春畑は最高のパスを受けてそのままドリブルで抜けた後にクロスをあげる。クロスの先には長身FWの竜崎へ。

 

「うぐっ!」

 

 市舩のCBもしっかりと体を寄せて逆にボールを弾き返す。

 

「セカンド!!」

 

 セカンドボールを捕る様に指示を出す市舩のGK。だが、先に反応したのは中盤の底にいたはずの翼だった。

 

『赤星シュート!!』

 

 シュートの左足が一閃、ボールはゴールマウス右上をギリギリ掠る様に抜けて行き、ゴールとはならなかった。

 

『あのDFをしない青山が戻って来たぞ……』

攻撃(オフェンス)の鬼が……』

 

 足を投げ出したことでゴールを防いだ青山はふっと一息ついてゴールが入らなかったことに落ち着く。

 

「あ、どうも」

 

 スライディングで止めに行ったので座り込んでいたが、翼が手を差し出して起こすの手伝う。

 

「いやぁ~、足出してなかったら枠に行ってたかもな」

「そうだな(まさか、あのタイミングで足を出してきたから避けて上にフカしてしまった)」

 

 翼は青山を引っ張って起こすときに、そう思いつつポジションへと戻って行く。今までなら寸分のところで足を出される場面はなくゴール枠内へ押し込んでいたが違った。明らかに寄せが早かったことに思わず、翼は心のどこかで他の相手と違うと感づく。

 

「にしても、よくボールの行くところに顔出すよな? どうしてだ」

「さぁ、俺も知りたいぐらい」

「なんだよ!? 天然もんかよぉ!」

 

 ポジションが互い近いせいもあって戻りながら話す2人、というよりも一方的に青山が話しかけていた。

 

「戦術眼が良いって言われないか?」

「別に、こうしてサッカーの試合中に話すことなんてないから」

「ぇ……。でも、あんまり俺も試合中に話さないかもな」

 

 翼は良くしゃべる奴だと思いながら相手のGKが蹴られるのを見た。ボールは長身の青山ではなくセンターFWの選手を当てるもジョージさんがブロックして弾き返す。

 

「やっぱり、お前も俺と同種(・・)……だから気になるんだろうな」

「え?」

 

 青山の言うことにどう言うことか分からない翼だった。でも、次のワンプレーで考えさせられた。

 

「青山に渡った!!」

 

 ボールが落ち着かない中で1本のパスが青山に渡る。それも、対面のレノンとの1対1で。その瞬間だった。軽くボールを触っただけの青山に対して翼の危険感知度がMaxに膨れ上がった。

 

「レノンさん!」

 

 翼の予想は当たる。レノンが2つのフェイントに付いていくもあっさりと抜き去られる。尋常ないほどのアビリティ・クイックネスの速さ。レノンが警戒しているにもかかわらずぶち抜いた。

 

「行かせるかよっ――!?」

 

 レノンが抜かれてすぐにフォローに入る倫吾。だが、青山は引かずにドリブルで突っかかりまた抜いてしまう。

 

「!」

 

 そして、抜いてすぐにシュート。

 

「らるぁ!」

 

 ここはナベケンがしっかりとグラウンダー性のシュートをガッチリと掴みゴールを許さなかったが、一気に会場は盛り上がった。

 

『これだよ! これを見に来たんだよ!!』

『攻撃の鬼! やっぱり青山だ!』

 

 会場が盛り上がる中で、青山はすこし舌打ちしながら近くにいた翼を見る。本当ならあの後もう少し前で攻めようと思ったが、視界に翼が入ってシュートを打たされた格好となった。

 

「そういうことか。だろうと思った」

「?」

「赤星。今ので確信したわ――――」

 

――――お前も俺と同様“世界”で戦えるだけの器を持った奴だ。

 

 そう言って青山は翼の横を通り過ぎた。翼はなるほど、と青山と同様に笑みを浮かべるのだった。




青山大樹というライバルキャラを立てました。また情報を公開します。

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