天帝の眼が開眼しました。   作:池上

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第10話です。投稿してない間に色々あったみたいで小説情報が大きく変わっていたので驚きました。いろいろとありがとうございます!
では、どうぞ~


第10話 途中交代

 幸先よく先制に成功した俺たち武蒼。このまま順調に試合を展開できるかと思われたけど、そう上手くはいかないのがサッカーだった。

 前半20分を過ぎようとした時だった。さっきまで俺の対面のマッチアップだった小早川は向こうの監督さんがポジションを変えるように指示を受けてから下がり目で、俺は深追いできない状況に置かれた。なので、中盤そこ近くでボールを持って回すうちに気持ちも徐々に試合へと集中度を上げていた。

 

(もう、さっきのあの人とは考えない方がいいな)

 

 さっきまで食って掛かっていた小早川だったが、俺とのマッチアップを避けることで冷静さを取り戻しつつあった。それを1本のパスで気付かされた。

 

「戸部行けっ!」

 

 対面のマッチアップで戸部さんがマークに付くも、一瞬だった。ダイレクトで外に走らせようと見せかけて中央に一発で浮き球のスルーパスを通したのだ。

 相手のFWも来ることが分かっていたように最高の抜け出しをする。ナベケンも飛び出すかで迷いポジションがイマイチだった。マズい――。

 

「レノンさん!?」

 

 俺の前を走るレノンさんはボールに対してスライディングを掛けるも、相手のスパイクに掛かって倒してしまった。主審はレノンさんにイエローカードの提示を受ける。

 

「なんで! ボールに行ったでしょ!」

「ポールさん落ちついて」

「よせっ、裏取らせちまったのが悪いんだ……」

 

 俺は主審に抗議するポールさんを一度審判から離し宥めた。レノンさんもわかった上でのファウル覚悟だった。

 そしてFKはエリア内近く外中央の位置だった。

 

「壁! 近い近い。せこい真似すんなよ……」

 

 ほぼゴール正面での小早川のFK。完全に彼のシュートレンジと言ったところだろう。

 

「ちょい半歩! も、ちょい!!」

 

 ナベケンはFKの壁の位置に指示を出す。ナベケンはFKに強かったはずだ。ここはナベケンを信じて任せよう。何となくだが止めてくれるとナベケンの顔からうかがえただけに。

 

――――ピィ~~……

 

 小早川は短い助走距離を取る。そこから、ゆっくりとボールに近づくと右足を一気に振り上げた。ボールは――! 壁の上で通った!

 

「どるあ!!」

 

 ナベは壁の上から巻いてきたボールを左手で弾いてゴールを防いだ。ビッグセーブだ。

 

「まだだコーナーだ!」

 

 ナベケンのファインセーブに助けられた武蒼は、その後も堅守速攻からリズムを作るも前半は俺の得点による1点で折り返すことになった。

 

 

 後半開始前、黒部先生はもう一度パスを供給し始めた小早川へのマークに付くように言われた。確かに、前半途中から吹っ切れたのかいいパスを送っていたからな。しっかりとマークしようと思った。

 

『小田さんが頭から来た!』

『黒部先生攻めに出た――!!』

 

 後半が始まる前に小田さんがピッチにで待つイレブンの許へやってくる。後半開始早々から黒部先生は攻撃の1枚を代えてきた。追加点を取ってこいという意味合いだろう。

 

「聖和台も代えてきましたね、2人。8番と7番交代みたいです」

「そうみたいだな」

 

 隣にいたレノンさんも気づいていたように相手の聖和台は前半から2枚の交代カードを切って来た。1人は小柄なタイプ。もう1人は雰囲気のある上背が180ぐらいの選手だった。

 

「最初、気を付けた方がいいですね」

「おう」

 

 俺たちはとりあえず途中交代の相手選手を気にしつつ後半のピッチに散らばった。

 

△▼

 

 開始早々相手の中盤に入った16番選手が26番の小柄な選手へと左足でパスを送ったが、ジョージさんがしっかりと冷静にバックパスで逃げるも、さらに相手の26番がナベケンの方へ向かうボールへ向かう。

 

「は――っ!」

 

 もちろん、バックパスに追いつけなかった。それでもナベケンのパスを刈ろうとした26番はチェイスを掛けるも、取れるはずがないほど無理なプレーであったのは確かだった。

 

「戸部さん、相手の16番いいパス出すんで気を付けた方がよさそうです」

「あぁ、分かった」

 

 試合開始早々から相手の16番のパサータイプの選手がボールに絡んではFWの26番の選手の裏へのパスを何度も送っていた。いずれも、パスミスにはなっていたがつながっていたらいい攻撃だっただけに注意が必要だ。

 

「ねぇ~君」

「?」

 

 そんなことを考えていた時だった。相手の16番の選手が近く寄って来て声を掛けてきた。

 

「コバさん以上にやりあうなんてやるじゃん」

「どうも」

「それにしても、正直この学校に入ったことを損した気がしたけど……、君みたいなプレイヤーと対戦できるなんてラッキーだよ」

「……」

 

 何を言っているんだ? コイツ。さっきからへらへらして喋りかけてくる変な奴だ。

 

「16番入るぞ!」

 

 そんなことを話しているときだった。右サイドでボールロストした白川さん。それを奪われてすぐに16番へパスを送った。

 

「確かに、コバさん1人じゃ荷が重いけど――」

 

――――2人ならどうかな?

 

「っ!」

 

 そういうことか。やっぱりインサイドハーフにもう1人決定的なパスを出せるパサーを置くことで小早川へのマークの負担を減らす考えだったのか。くそっ、左側でワンツーつながれた。――前、向かれてる!

 

「おっと、俺は削られたくないから――」

 

 俺がワンツーで受けた16番の選手にチェイスを掛けたが、相手は分かっていたように横にパスを送った。こいつ、やっぱり戦術眼も優れている。

 

「小早川だ!」

「マークに付け!!」

 

 そうキャプテンが指示を飛ばした瞬間だった。小早川はこの時を狙っていたようにミドルシュートを放った。

 

「ナベ!」

 

 ボールはナベの右方向に向かっていた。キャッチできるボールであったが、ナベは弾いて止めた。底から一気に混戦になり――

 

「うおっしゃ――――!!」

 

 26番のFWの選手に混戦から執念で押し込まれた。同点だ。

 いいキッカー2人にこぼれ球に対して強いストライカー……嫌なコンビだな。

 

「さぁ! 取られた取り返す! 今度はこっちの番っしょ!」

 

 ナベケンの言う通りだ。取られたらまた取り返してやったらいいんだ。センターサークルでボールをセットした小田さんもその通りだと親指を立てて応えた。

 

「やるぜマコ!」

「あぁ!」

 

 二人のFWが得点に集中しやすくするために、俺が今取るべき行動は――、相手の二人のパサーを自由にさせないことに加えて、攻撃にリズムを作ることだった。

 試合は再開されるとやはり聖和台がボールを奪うと、しっかりとボールを繋いで攻撃の機会を伺う。

 

「行けっ! 光一!」

 

 そして、1本のパスをFWの26番・保志にラストパスを小早川が送ろうとする。でも、そう簡単には通させなかった。

 

「なっ!?」

 

 俺がギリギリのところで足を入れてブロックする。それからも何度も決定的なパスを送ろうとする10番の小早川と16番の三淵の2人。サイドに散らさせてクロスを簡単に上げられなければうちの強固なCBの2人、ジョージさんとキャプテンが守ってくれる。その信頼感から俺はしっかりと中へのスルーパスへの注意を高めた。

 

「ったく、もう。さっきからサイドに散らされてばっかりだね」

「だったら、中に通すか? 無理してでも」

 

 今も16番・三淵のマークに付く俺。小早川に対しては戸部さんがいい距離感でマークについて簡単にはパスを出させないようにしていた。

 ボールが三淵に渡るとそのままリターンで返す。そしてまた最終ラインへ渡って組み立て直す聖和台。あそこでボールを回されている分には問題なかった。

 

「チェイス!」

 

 そして、最前線から寄せていく小田さんとマコさん。相手のDFは慌ててボールを前に蹴り出した。ボールは俺と三淵の許へと頭での競り合いになった。その時だった。

 

――――悪いけど、消えてもらうわ。

 

 この言葉の意味を俺は気にせず上背のある三淵と競り合った。この時、三淵は俺の右腕をホールドするように絡ませたまま強引に飛んで競り合った。そして、競り合った後だった。腕の拘束を解かれないまま俺は不十分な体勢のまま地面に叩きつけれられた。

 

――――ピィ、ピィ!!

 

 あぁ……、やばい。頭を思いっきり地面に叩きつけられた。それも三淵の下敷きになったせいで十分な受け身もとれずに……。

 何か周りでみんなが集まって審判に詰め寄っている……、俺は大丈夫っすよ、と言いたかったがうまく言えず、そのまま担架に運ばれてしまった。

 

――――大丈夫か! 赤星!!

 

 石峰コーチが必死に俺を呼び掛けた後、俺の目元を確認する。俺は大丈夫だと言ったが、石峰コーチと一緒にいた梶原コーチは脳震盪を起こしていると話した。多分、俺の目の動きがおかしかったからだろう。

 

「黒部先生!」

 

 え? 俺行けますよ、と言ったが石峰コーチはバツサインを出して続行不可能を知らせた。

 

「ホラ、肩貸して」

 

 俺はそのままベンチに戻らず病院へ直行。結果は軽い脳震盪で済んだ。でも、チームはあの後、延長の末に貴重な勝ち越し点をマコさんが挙げて決勝進出、この時点でインターハイへの切符を手にしたのだった。

 それを知った時の俺は中途半端な形でピッチを抜けたことに申し訳なさでいっぱいだった。

 

▼△▼

 

――勝ったらしいぞ! 赤星!!

 

 あの後、病院に向かう最中にそう石峰コーチの電話に入って来た連絡でチームの勝利を知った俺はホッとしたのか、そのまま目を閉じた。それからしばらくして市内の病院についてみてもらった結果、軽い脳震盪で安静にしておけば大丈夫だと医師に診断を受けた。

 そしてみんなが待つ学校へ戻るとみんなが待ち構えていた。え? 何かあったのか?

 

「赤星! 大丈夫だったか!?」

 

 ジョージさんを先頭に迫ってくるメンバーたち。いや、大丈夫だけどそんなに肩をもって振られると辛い……。

 

「こらぁ、ジョージ! あんまり動かすな」

「す、すんません」

 

 石峰コーチから俺の容体は伝えられた。

 

「そうか、明日は無理なのか」

「なに! 明日は俺たちで埼玉1での出場を勝ち取ってやるよ! なぁ、レノン!」

「なんで俺に振るんだよ……」

 

 明日の決勝戦は、俺の不出場が決定的なだけにポールさんが息巻いてそう言ってレノンさんに振るも、レノンさんはあまり振ってほしくない様子だった。

 

「とりあえず、明日はまた明日で頑張ろう!」

 

 キャプテンの倫吾さんが最後を締めてこの場は収まった。

 とりあえず、ゆっくりと明日は試合を観戦するか……ん?

 

「翼! 大丈夫か?」

「「翼くん!」」

 

 幼馴染たちも心配して待っていてくれてたようだ。とりあえず、無事だったことを伝えると胸をなでおろしてホッとする龍と優希と優人だった。




第10話でした。原作ではインターハイにはいかなかったですが、行きます。
また、とびとびになるかもしれないですが、よろしくお願いします。
では、また!

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