畜生道からごきげんよう   作:家葉 テイク

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今回はイレギュラーな時間帯で更新ですが、気にしないでやってください。


六一話:欠在する未来の英雄

 翌朝。

 ゲーセンでの死闘を終えた俺達はチベスナたっての希望からぬいぐるみ店のアニマルランドで一泊し、そしてアーケード二日目に突入していた。

 といってももうゲーセンでやることはやったので、もうアーケードで回りたいところは殆どない。強いていうなら…………ソーラー電源の腕時計を探すとかかな。普通の動力の時計はもう動かなさそうだし、ジャパリパークならソーラー電源の腕時計くらい普通に売ってそうだし。それにやっぱり時間感覚って大事だなと昨日のことで思ったからな。

 

「今日は時計を探して、それからアーケードを出ようと思う」

「異議ありと思いますよ! くれーんげーむ!」

「却下」

 

 というわけで時計探しなのだった。

 ……チベスナは多少不満そうだったが、前日大量にぬいぐるみを手に入れていたこともあってかそこまで派手にごねたりはしなかった。そりゃそうか。いくら中身が欲しくても、取れないなら意味ないしなぁ(昨日はラッキーが引っ張り出してくれてたんだが)。

 

 ちなみにだが、実は時計については昨日のうちに心当たりがあった。というのも、色々見て回っているうちに時計屋も見つけていたのである。まぁあの時点では時計が必要という発想すらなかったのでスルーしてたが。

 やっぱちょこちょこ文明の遺物に触れてても、朝起きて夜寝るフレンズの生活だと時間とか全然考えないのでよくない。時間の概念という感覚を得てこそ、真に文化的な生活ができるというものだろう。

 

「むー……そもそもそのとけい? というのは、何のためのものなんだと思いますよ?」

 

 歩きながら、チベスナはしかめっ面でそう問いかけてきた。よくぞ聞いてくれたなチベスナ。

 

「それはだな……。この島のサンドスターによる気候変動が関係しているのだ。サンドスターは気温だけじゃなく日差しまで変化させるだろ?」

「チーター」

「………………」

 

 こ、この野郎……話が長くなるとみてすぐにトバしてきやがった……。

 

「……要するに、日差しで時刻を把握しようにも、その日差しが地域によってバラバラだから時間経過をはかるのが難しいって話なんだよ」

「なるほどー。……分かったような分からないようなだと思いますよ?」

「俺が助かるって話だよ!」

 

 極限まで簡潔にまとめると、チベスナはようやく得心がいったような表情を浮かべた。まぁ、チベスナに『時刻が分かる意義』とか理解するのは至難の業だとは思うけどな。普通のヒトだって『時刻が分かって何がいいの?』って言われたら説明大変そうだし。

 

「まぁ、チベスナさんは満足とまではいかなくともぬいぐるみいっぱい手に入りましたし……チーターもとけいの一つや二つくらいなら別にいいとチベスナさんは思いますよ」

 

 そう言って、チベスナは俺の前を歩いていく。

 珍しく余裕な感じの発言をしてるが、お前……、

 

「チベスナ、そこ。そこの店だから通り過ぎてるぞ」

「……。そういうこと、先に言った方がいいと思いますよ!」

 

 やっぱりそこは恥ずかしかったのか、チベスナはぷりぷりと怒りながらこちらの方へ振り返って歩いてくる。いや、お前が言う間もなくさっさと歩いちゃったんだからね……。

 

 と。

 

 いつもの調子でチベスナに苦笑していた、その時。

 不意にチベスナを隔てた向こうに、一人の少女が見えた………………ような気がした。白っぽい体躯と、黒い尻尾のようなものが一瞬だけちらっと見えただけだが……あれは、フレンズ……?

 

「チーター、どうしたと思いますよ?」

「……ああいや、なんでもない」

 

 本当に一瞬の出来事だったから、正直チーターの視力があるといっても本当にフレンズだったのか自信はない。何よりこの場所にほかのフレンズが足を運ぶことなんて考えづらいしなぁ。カバをして『変わったフレンズしか行かない場所』みたいな言われようだったし。

 

「それより、さっさととけいだと思いますよ。ぱぱっと済ませましょう」

「おう、そだな」

 

 ちなみに俺の目が正しければあのフレンズ影(?)、俺達が昨日足を運んだぬいぐるみ店に入っていったような気がするのだが………………。

 

 なんというか、せっかくキープしたぬいぐるみが取られないといいね。

 そんなこと言って騒がれたらめんどくさいので黙っておくが。

 

の の の の の の

 

さばんなちほー

 

六一話:欠在する未来の英雄

 

の の の の の の

 

 買い物は無難に終わった。流石に現役稼働する腕時計はなかったものの、ソーラー電源の置時計はいくつか揃っていたため、そのうちのサバンナの動物たちが描かれた子供向けっぽいデザインのものを一つ入手。これで我が陣営に時間の概念が生まれた。

 ちなみに、時計はぬいぐるみと一緒にソリの中にしまっている。地味に両手で掴んでも包めないくらい大きい代物なので、持ち運ぶにはちょっとかさみすぎたのだ。ソリ作っててよかったと思った瞬間である。

 だが…………一方で俺は、ある種の焦燥感に駆られてもいた。

 何故か?

 

 ………………サーバルに、出会わないのである。

 

 広いサバンナ地方、サーバルの縄張りはその一部でしかないし、そりゃあサーバルと出会わないこともあるだろう、というのはもちろん分かっている。だがそもそもからして、今回サバンナ地方の裏目標は『サーバルと会ってみる』ことだったわけで。その裏目標が達成できないまま、アーケードを出てサバンナ地方を後にしそうなこの流れには、多少の焦りを感じざるを得なかった。

 

「わー、雨降ってると思いますよ」

 

 が、そんな俺のほんのりとした焦りなんかはチベスナには関係ないわけで。

 ソリを曳きながらアーケードの端から空を見上げたチベスナは、能天気そうにぽつりと呟いた。

 

「だなぁ……」

 

 その言葉に、俺も意識を現実に戻しながら空を見上げる。

 鈍い灰色に覆いつくされた空からはしとしとと雨粒が降り注ぎ、泥濘んだ地面をひたひたと叩き続けていた。

 そう。

 俺は今、ジャパリパークに転生してから初めての『雨天』を経験していた。今まではなんだかんだで曇ってたり晴れてたりで、雨模様のジャパリパークは(前世含めて)一度も見たことがなかったのだが、流石に雨季のサバンナとなればそうもいかないらしい。

 というか今の今まで雨天を回避し続けていた俺達の雨回避力が凄い。なんだかんだでチベスナはそういうところを『持っている』んじゃないか? と思わされる。

 

「とりあえず傘は差しておくか……」

「あっ、チーターずるいと思いますよ! チベスナさんはどうなるんですか!?」

 

 何気なくトートバッグから傘を取り出した俺に、チベスナは即座に文句を言いだした。いや、そんなこと言われてもな……。

 

「つっても、チベスナ両手塞がってるから傘差せないだろ。それに俺はカメラ持ってるし。電子機器に水は天敵だからなー」

「ならチベスナさんも傘の下に入れるといいと思いますよ!」

「だからお前ソリ曳いてるだろ! その持ち手の内側に二人とか相当キツイぞ! スペース的にも絵面的にも!」

 

 一応入れなくもなくもなくもないという感じで微妙にいけそうなのだが、あくまで微妙は微妙である。俺としてはなるべくチャレンジしたくないところだ。

 が、一方でチベスナの『自分だけ濡れるのはいや』という気持ちも分からんでもない……。というか、撮影道具としてしか考えてなかったので一本しか傘を持ってきてなかったのは俺の落ち度だしな。

 

「じゃあこうしよう。俺がソリに乗って後ろから一緒に傘を差して、」

「えー…………」

 

 チベスナは『それじゃお前が楽するじゃん』とでも言いたげな視線を向けていたが、どうやら雨風を凌げる誘惑ほどではなかったらしい。渋々といった様子で溜息を吐くと、

 

「しょうがないと思いますよ。じゃあ後ろに乗るといいと思いますよ」

 

 そう言って、ソリを曳き出した。

 よーし、じゃあ乗らせてもらいますよっと。

 

の の の の の の

 

 …………ここで一つ俺に誤算があったとするならば……そうだな。

 いくらビーバー設計のソリとはいえ、ソリはソリであるということを忘れていた、という部分だろうか。

 考えてみれば当然だが、この木造ソリにはサスペンションやらなんやらはついていないわけで、雨垂れ石を穿つを泥相手に実践しているサバンナ地方の地面はガタガタなわけで。

 さらにここにチベスナの人を運搬するという概念を知らない無遠慮な走行が加わることにより……。

 

「おぅっぐっわぅっほっ」

 

 ……芸術的な乗り心地の悪さが誕生した。

 

「チーターなんか面白いと思いますよ?」

「お前のソリ曳きが悪いんっだよっ! くっ……」

 

 なんとか下半身の動きで揺れを相殺しているものの、急な揺れがくるとさっきの通りである。そもそもよく考えたら、ぬいぐるみをしまっていたブルーシートにカメラも突っ込めばよかったんだよ。雨が降ってて屋根もない今ブルーシートを広げるとぬいぐるみが大層濡れそうなのでできないのが痛い……。なんで俺はこの事実に出発前に気付けなかったのか。

 

「そういえば、もうずっと地図見てないけど大丈夫だと思いますよ?」

「そりゃ迂闊に地図広げたら雨に濡れかねないからな……」

 

 心配せずとも、地図の中身は頭に入れてる。あとは方位磁針の指し示す方角だけで目的地まで一直線なのだ。下手に道とか森とかで進路を遮られることがないサバンナ地方だからこそできる強行突破技だな。

 

「心配はいらん。遊園地はすぐ傍だぞ」

「ゆうえんち??」

 

 俺の言葉に、チベスナは思い切り首を傾げる。そっか、アーケードを知らないなら当然遊園地も知らないか。

 

「この先にある地方の名前だよ。キョウシュウエリアの玄関口。遊園地っつって……いろんなアトラクションが集まってる場所だな」

「あとらくしょんが!?」

 

 俺の言葉に、チベスナが一瞬でこちらを振り返ってきた。そんな驚くほどか……と思ったが、すぐに気付いた。そっか、今の言い方だとピラミッドとかそのへん級のものが集まったオールスターチームみがいなイメージしかねないよな。

 

「正確には()()アトラクションな。さすがにそこまでデカイもんが集まってるわけじゃない。乗り物に乗ったり観覧車があったりとか……まぁそのくらいだな。ジェットコースターの類はなさそうだし」

「チーター! ちっとも分からないけどチベスナさん楽しみなことしか聞いてないと思いますよ! なんですかじぇっとこーすたーって!」

「だからその類はなさそうなんだって」

 

 話を聞け。

 

「ともかく、だ。そんな次の地方はもうすぐだから迷う心配はないという話をしてたんだよ」

「了解と思いますよ! よーし、チベスナさんのソリを曳く気力もがぜん湧いてきたと思いますよ!!」

「頑張りな~」

 

 本当に現金なヤツだな~……と思いつつ。

 俺達はそのまま、サバンナ地方を後にしたのだった。

 

 ………………結局本当にサーバルとは出くわさなかったなぁ。雨季だからよその地方に出かけてたんだろうか?




というわけでさばんなちほー編終了です。(予定の二倍)
途中で出てきたフレンズ影(?)は……伏線のような、ただの小ネタのような……。

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