畜生道からごきげんよう   作:家葉 テイク

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どん兵衛コラボCM来ましたね! 奇しくも最近やってる部分の考察が捗りそうです……。


六〇話:銀盤浮かぶ宝物庫

 そういうわけで、満を持してゲーセンなのであった。

 ……とはいえ、横のチベスナ的に一番重要なのはクレーンゲームであってその他のアーケードゲームでないのは明白なので、当然遊ぶのはクレーンゲームからである。

 

「ついにぬいぐるみがこの手に……。フフフ、チーター、チベスナさんにこんなぬいぐるみ取り放題チャンスを与えて、後悔すると思いますよ」

「おー」

「……あっ、もしぬいぐるみをいっぱい取れたら、その分さっきのお店のものと交換したりは……」

「おー」

「……さてはチーター、チベスナさんがぬいぐるみを取れるなんて微塵も思ってませんね?」

「おー」

「ああああああ! チーターのくせにチベスナさんをおちょくるとは良い度胸だと思いますよ! こんな楽ちんなゲーム、ちゃっちゃとクリアしてぬいぐるみの山の前でチーターを跪かせてやると思いますよ!!」

 

 頑張りたまえ。そんなの無理だとは思うけどな。というかこんなの、人間でも難しいんだ。機械に疎いチベスナにどうしてできようか。カメラすら使えないというのに。

 ……いやでも野性の特性がどうのこうのってこともあるか? とちょっと思ったが、元より野性っていうよりふてぶてしい飼い猫感がある(イヌ科なのに)チベスナである。野性とかどっかに投げ捨ててそうだし、そもそもクレーンゲームに応用できそうな野性とかありそうもないし。

 そんな感じで高をくくった俺は、空いてるカゴに適当に半分くらい(よりもちょっと多めに)コインを入れてチベスナに渡しながら言う。

 

「じゃあ、コインは半分やるから俺はこっちでゲームして遊んでるわ」

 

 前世じゃゲーセンなんて、本当にあんまり行かなかったからな。流石に二〇回くらいは行ったが、逆に言えば二〇年強でたったの二〇回。年一で行くか行かないか程度にはなじみの浅い……というか多分高校に上がって以来全く行ってないから実に一〇年以上ぶりになる。

 なので、簡単に言うと……俺は今、非常にゲーセンで遊びたいのだ。レースゲームとかシューティングゲームとかリズムゲームとか、とりあえず大体のゲームは一通りコンプリートしたい。

 そういうわけで、結果が見えているチベスナのチャレンジに付き合っている暇はないのである。

 

「くっ……ここまで露骨にバカにされるとは、チーターちょっと調子に乗ってると思いますよ。いいでしょう! 目にものを見せてやると思いますよ!」

「おー」

 

 やる気の炎を燃え上がらせるチベスナに適当な返事をしつつ、俺は意気揚々とゲーセンの奥に歩を進める。まぁ、どうせそのうちコインが切れて半泣きで泣きついてくるだろ。そしたら一個くらいヘルプで取ってやっておしまいにすればいい。

 

 ……なんて風に甘く考えていた俺は、正しく慢心していたのだろう。あるいは、遊びたさのせいで細かい判断力が鈍っていたか。どちらにせよ――この時の俺の決定は、完全に油断の産物だった。

 知っていたはずだ。相手は、ただの見栄っ張りな馬鹿などではない。

 相手は目を離しておけば必ずと言って良いほど斜め上のハプニングを巻き起こす『チベスナ』だったというのに――。

 

の の の の の の

 

さばんなちほー

 

六〇話:銀盤浮かぶ宝物庫

 

の の の の の の

 

「チーター! これはどういうことなんだと思いますよ!」

 

 ……クレーンゲームを始めたはずのチベスナは、ものの一〇分としないうちに鼻息を荒くして俺に詰め寄ってきていた。いや、コインはまだまだ大量にあるだろ。

 

「どうしたんだ?」

 

 スロットゲームを切り上げた俺は、そう言ってチベスナを見上げる。椅子に座っているので必然的に視線が低くなるのだ。

 それに対しチベスナは憤慨したように、

 

「どうしたもこうしたもないと思いますよ! このくれーんげーむという遊び、欠陥品もいいところだと思いますよ」

「そりゃ随分な物言いだな……何かあったのか?」

 

 流石にラッキーがメンテしてるわけだし、まともに遊べないということはないと思うが……。

 怪訝に思いつつ(九割以上はチベスナのやり方が悪いんだろうなとも思いつつ)スロットゲームにしばしの別れを告げ、コインケース片手にクレーンゲームの方へと足を運んでみる。

 すると――。

 

「……別にどこもおかしくないじゃないか」

 

 やはりそこには、何の変哲もないクレーンゲームの姿が。

 中は小高い丘のような形状になっていて、その上に様々な種類のぬいぐるみが山のように積まれていた。手前側には土管型のアクリルが設置されており、それが取り出し口と繋がっている。ぬいぐるみが詰まらないようにするためか、取り出し口もアクリルもかなり大きい。子どもくらいなら簡単に入れそうだ。

 総じて、変哲どころか中のぬいぐるみの配置含めて何ら変化が見られない。いったいコイン何枚すったんだろうなコイツ。

 

「おかしいと思いますよ! ちょっと見ててください!」

 

 チベスナはそう言って、クレーンゲームにコインを投入する。軽快な音楽が鳴り始め、チベスナがボタン類の前に立つ。……そういえばアイツ、操作方法とか知ってたっけ? ぬいぐるみを取る取らない以前の問題という可能性も……と危惧した、そのとき。

 

「ここは、分かると思いますよ……」

 

 言いながら、チベスナはたどたどしい動きながらもボタンを押してクレーンを操作しだした。

 

「おお」

 

 と、俺は思わず声をあげてしまう。

 まさかチベスナがボタン操作を習得しているとは。

 

「ふふん。このぼたんを押せばくれーんが動くということくらい、チベスナさんも何度かやってるうちに分かりました。チベスナさんはむーびーすたーだと思いますよ? このくらいは余裕です」

 

 ムービースターは関係ねぇしそもそも一発で分かるところだけどなそこは。

 でもまぁ、機械オンチだったチベスナからしてみれば大きな成長だ。ここは余計な茶々を入れて水を差すようなことはすまい。

 

「でも……」

 

 そこで、チベスナの声に若干翳りが生まれる。

 

「ここで、こうやっても……!」

 

 チベスナの言葉に呼応するように、クレーンはぬいぐるみの真上に陣取った。……若干ずれている気がするが、まぁ素人目にはドンピシャのように見えなくもない。

 そして、クレーンが下りる――――。

 

「あっ」

 

 が。

 

「こうやってすりぬけるんだと思いますよー!」

 

 その言葉通りに、クレーンは一度は掴んだはずのぬいぐるみをするっと取り落して定位置に戻ってしまっていた。あー……アームの力が弱っちゃってるタイプね……。

 俺もゲーセンはそこまで詳しくはないのだが、クレーンゲームはアームが弱くてぼったくりー、みたいな話は聞いたことがある。実際どうなのか分からなかったが、やはりジャパリパークでもそこは同じらしい。

 景品をそんなにぽんぽんとられてしまっては商売あがったりというのもあるだろうが………………原価もそんなに高くないだろうに。

 とはいえ、今はそうした『アームの力が弱いクレーン』を前提にクレーンゲームの攻略法というのは存在しているという話も聞いたことがある。特に此処が悪質というわけではないだろう。

 

「別にこれで普通だぞ」

 

 それ以外にとくに異常があるというものではない。きちんとやろうと思えばとれるし、難易度が高いだけで問題があるわけではないのだ。

 あっさりと言った俺に、チベスナは眉を八の字にして不満を言う。

 

「ええー! こんなのがふつうだなんておかしいと思いますよ! こんなのちっとも楽しくないと思いますよ!」

「まぁそうかもな……」

 

 確かに言われてみれば、なんでこんなにイライラが蓄積する仕様なんだろうな。どうせならもっとこう、楽しめるゲーム性も追求すればよかったのに。いやそれは言うは易しか。

 

「ま、頑張りたまえ。俺はレースゲームに戻るから」

「あ! チーター、待つといいと思いますよ! チベスナさんを見捨てるのですか!?」

「だって俺ぬいぐるみほしくないし……コインだってまだまだあるじゃん」

「待つといいと思いますよ! チーター! チーター!! なんでさっきやってたゲームと違うゲームを始めてるんだと思いますよー!?」

 

 それはスロットゲームに飽きたからである。

 ともあれ、そんな感じで俺はチベスナを放置してゲームに興じるのであった。ぬいぐるみ関連では一回満足いくまで集めさせたし、どうせこの様子なら適当に飽きるかコインがなくなるかしたら俺のところに来るだろうと思っていたのだ。

 

 …………そしてその判断が、最大の間違いだった。

 

の の の の の の

 

『……チーター! チーター!』

 

 その声を聞いて、俺は『またか……』と思った。

 まぁ、だいぶ時間が空いたのでチベスナ的にはかなり頑張った方だろう。そう思いながらシューティングゲームを切り上げて席を立つと、あたりを見渡して声の主チベスナを探してみるが…………。

 

 …………いない。

 

「……チベスナ?」

 

 クレーンゲームのところからこっちに来ないで声だけで呼びかけているのだろうか。横着な……と思いつつ、俺はクレーンゲームの方へと足を運ぶ。

 その途中で、ふと思う。

 そういえば……さっきのチベスナの声、なんだかくぐもっていたような?

 

『チーター! 助けるといいと思いますよ!』

 

 なーんて脳裏をよぎった嫌な予感は、これ以上ない確度で的中してしまっていた。

 

「…………お前………………」

 

 俺の目の前には。

 空飛ぶ銀色の円盤っぽいアームの入ったガラス張りの筐体の中で。

 ぬいぐるみに囲われてガラスにへばりついているチベスナの姿があった。

 

「何してんの……?」

 

 思わず、俺の口から掠れた声が漏れた。

 いや、分かる。

 わざわざ説明されずともチベスナが何をどうやってあそこに入ったのか、どうしてそんなことをしたのかくらいはよーく分かる。

 だが、それでもなお、そう呟かなくてはならないくらい思考が混乱していたのだ。

 っていうかなんだあれ。どうやって入ったんだよ取り出し口ぬいぐるみサイズだぞ。

 

『それが……』

 

 対するチベスナは恥ずかしそうに身をよじりながら、

 

『コインを全部使ったけどぬいぐるみがどうしてもほしくて、中に入ったら……出られなくなってしまったと思いますよ』

「バカ!!」

『ごめんなさい!』

 

 即座にツッコミを入れると、チベスナも流石に筐体の中に入ることがダメな行為であるとは分かっているらしく、すぐにしゅんと耳を垂らした。

 

『チベスナさんもいけないとは思ったと思いますよ。でもチーター、さっき手伝ってくれなかったし……』

 

 ああ、俺が中に入ったことを怒ってると思ったのか。だがな……俺が怒ってるのはそこではない。

 

「なんで出られなくなってるんだよ! 入ったんなら出られるだろ! こんなところラッキーに見つかってみろ! 俺まで巻き添え食らって怒られるんだよ!」

『あれっそっちなんですか?』

「俺は不正上等だしな」

 

 そもそもコインを集めるためにコインシューターの筐体を揺らしていたのが俺である。ルールを守れだなんてお行儀のいいことを言うつもりはない。規則を作って守るのは確かに文明的な人間の要件だが、『バレないように破る』分にはそれもまた人間の業というものである。

 まぁ、バレないようにやったらそのときはそのときで『ぬいぐるみが大量に手に入ると邪魔だから』文句は言うが。

 

「ともかく、ラッキーに見つからないうちにそこを出るぞ」

『どうやって出ればいいと思いますよ?』

「とりあえずその場で屈んでろ」

 

 筐体の中にいれば、視点的にラッキーからは見えなくなるからな。それから脱出の方法を考えるのだ。

 俺に言われてその場で丸くなりながら、チベスナは首を傾げる。

 

『くれーんで運んでみますか?』

「お前それで散々できないできないって言ってたろ」

 

 そもそも、問題はチベスナが取り出し口に上手く入れないところにあるのであって、別にクレーンゲームを使う必要はない。

 ……とすると、やはりやるとすれば…………筐体そのものの分解か。

 クレーンゲームの景品っていうのは、年中同じものというわけじゃないはずだ。補充したり、キャンペーンが終わったら入れ替えたり、そういったことをするのに、この状態じゃあ難しいだろう。

 であれば当然、この筐体を分解(多分ガラス部分が取り外しできるはず)して入れ替えているはずだ。ならば俺もそれにならえばいい。

 無論、これはラッキーに先ほど怒られた手法だが…………今はもう、邪魔者はいない!

 

 一応使用電気量カモフラージュの為にクレーンゲームにコインを投入しつつ、俺は筐体の周りをぐるぐる回ってどこかに取り外せそうなパーツがないか探してみる。こういうのは大体裏側にあるもんだが…………と。

 

「あった!」

 

 ちょうどボタン類が並んでいる裏面にあたる部分に、鍵穴が設置されていた。どうやらガラスが取り外せるわけではないみたいだが、ここを開ければ中に入ってぬいぐるみが取り出せるのだろうなと分かる扉みたいなものが設置されていた。

 よし、あとは多分先ほど見つけた鍵束を使えば万事解決である。

 ちなみに、鍵束は先ほどのラッキーの徴収でも地味に取り上げられなかったのだった。ラッキーのヤツ、コインだけ回収して満足したらしい。やはり詰めが甘いな……。

 これであとは開けるだけ……と思っていたら。

 

 ピリリリリ……と。

 

 背後からの電子音に、俺は思わず全身総毛だった。振り向いてみるとそこには……。

 

「ラッキー!?」

 

 咄嗟に俺は、大きな声で叫んだ。チベスナにラッキーがいることを伝えるためだ。それに、ラッキーに対して負い目がある俺がラッキーの登場に驚くのはそこまで不自然なことじゃないしな。

 チベスナもその意図を理解したのか、俺の叫びに対してノーリアクションを貫いてくれた。

 ……が、いったいどうしたんだろうか。さっきコインを俺達に渡した時点でラッキーの役目は終わってるし、まさかチベスナの不正を感知したのか……? いや、それならもっと慌ただしい感じできているはずだ。

 なんかこう、今のラッキーは『ちょっといいことありますよ』みたいなニュアンスを感じる。

 

「な、なんだラッキー。俺は今、こう……いろんな角度から景品を見てるんだよ」

『…………………………』

 

 内心冷や汗をかきつつ裏側に回っていた理由を説明する俺に対して、ラッキーはやはり無言を貫いていた。…………緊張するなぁ、コイツの相手。

 ともあれ、今のところ俺の説明は破綻していないはず。どうにかコイツを追い払ってチベスナの救助をしなくては……。

 と。

 

 ピョン、とラッキーは飛び跳ねながら、耳で持っているものを俺に見せた。それは……、

 

「鍵?」

 

 ああ、あれか。スペアキー、ってやつか? 本来の鍵は俺が持っちゃってたしな。でも、なんで鍵を……?

 首を傾げる俺の前で、ラッキーはクレーンゲームの筐体の横に立つと、ぴょんと一回跳ねて耳で筐体を叩いた。

 んー……? なんだろう。………………あ、中からぬいぐるみを取り出してくれる、と?

 確かに、だいぶ長くやってたからな。それで俺がぬいぐるみを持ってない様子だったから、それならぬいぐるみをあげるよ……という感じになってもおかしくはない。

 ……いや、だとしたら面倒見良いなラッキー! でも今このタイミングだとすごく困る!

 

「い、いやその……」

 

 俺は泳ぎそうになる目を必死で制御しながら、

 

「なんていうかもうちょいチャレンジしたいかなって……だからヘルプはいらないっていうか……」

『ピリリリリリ』

「あ、もしかしてもう閉店時刻? そこまで厳密にしなくても……あー分かった分かった!」

 

 『駄々こねないでほしいな……』みたいな雰囲気を漂わせ始めたラッキーに降参の意を示しながら、俺は一歩退いてしまう。

 くそ! もう閉店だと……楽しすぎて時間を完全に忘れてた……。というか何気に腕時計を持ってないのが致命的すぎるんだよな……。明日辺り回収したい。

 

 ……はっ。いかん! 思考が逸れてた……! 閉店時刻ってことはここでラッキーを退けてもすぐ出て行かないといけなくなるしそうするとチベスナを救助する時間もなくなってしまう……!

 ……………………もういっそ、チベスナにはここで一夜を明かしてもらうか?

 

 そんな思いが一瞬脳裏をよぎったからだろうか。

 無言を肯定ととったのか、ラッキーは俺の横をすりぬけてあっさり鍵を開けてしまう。

 

「あっ……!」

 

 まずい、チベスナがバレる……!

 と思わず身を強張らせた俺だったのだが。

 

「おー! あっさり開いたと思いますよ!」

 

 開いたのと同じタイミングで、横から回り込んできたチベスナの姿に二重の意味で身を強張らせたのだった。

 ラッキーの手前何故脱出できたのかを聞くこともできない俺に、チベスナはどやりと微笑みを向けて、

 

「なんかくねくねしてたらいけました」

 

 と誇らしげに言った。

 

「……………………」

 

 …………お前……それじゃあ俺は何のためにここまで気を揉んで……。

 

の の の の の の

 

 あ、ちなみにラッキーが持って来てくれたぬいぐるみは『やっぱり自力で手に入れないと据わりが悪いから』とか適当な理由をつけてチベスナよろしく取り出し口から中に戻しておいた。

 やっぱりこういうのは自分の力で取るのが一番だよね。おらっ、チベスナ文句言ってんじゃねぇよ今回自業自得だからなお前おらっ。




難産でした(ゲーセン行った記憶がほぼ残ってないから)。

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