畜生道からごきげんよう   作:家葉 テイク

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サブタイトルは『(物語の)始まり』と『(人類の)始まり』がかかっています。


五三話:始まりの地へ

「わーい! ソリだと思いますよー!」

「あんまはしゃぎすぎるなよー」

 

 トートバッグを肩にかけた俺は、タオルを入れたソリを(多少優しめに)引っ張るチベスナに声をかけながら、のんびりとその背中を追いかけていた。

 エキストラをやってくれたフレンズ達とはもう別れて、俺達と行動を共にしているのはボロボロのソリを曳いているジャガーである。

 

 撮影の翌日。

 ソリを作ったらいい時間になったので、洞窟に戻って一泊した俺達はもう一度朝一番で水道施設に行ってソリを回収し、そして一路サバンナ地方へと歩を進めているのであった。

 ジャガーも昨日はソリを置いたまま縄張りに戻っていったので、せっかくだしということでちょうど現地で待ち合わせして見送りついでにこうして歩いている。

 

「ジャガーのソリは大丈夫か? 一回派手に壊れたもんだから、ヤバそうなら作り直しも考えてるが……」

「あー、大丈夫大丈夫。けっこう頑丈だよ、これ。へたに暴れたりしなければ壊れないって」

「いや、へたに暴れたヤツが身内にいるもんだからさ……」

「…………」

 

 俺の言葉に、ジャガーは黙って目を逸らした。優しさが逆に辛いタイプだよジャガー、それ。

 で、肝心のチベスナはソリが楽しすぎるのか先行してるから聞いてないし。いや聞いてない方がいいんだが。変に落ち込まれたら慰めるのがめんどくさい。

 

「にしても、チーター達がじゃんぐるちほーに来てまだ五日かぁ。もうちょっとゆっくりしていけばいいのに」

 

 と、横でソリを曳いているジャガーがそんなことを言った。

 確かに、正直ジャガーの遊覧川渡はもう一度やってみたかったのでその必要がないことは残念だが……ま、それはまた今度でもいいか。別に一周したら旅終わり、そこからはずっと動かない……って話でもないしな。

 

「そこは旅だからしょうがない。基本的に立ち止まるのは夜寝る時だけっていうか。というか今回が立ち止まりすぎてたんだよ。俺がダウンしてたからだが」

 

 五日。何気に最長滞在記録である。このままだらだらしてたら、この地方に根が生えてしまいそう……という危機感も正直あるくらいだ。

 

「チベスナさんはもっとゆっくりしてもいいと思いますけど、別のちほーも気になりますからね。せっかちなチーターが先に進みたくなるのも仕方がないと思いますよ」

 

 そんな風に言っていると、先を歩いていたチベスナがいつの間にかわりと近くにいて、そんなことを言っていた。

 そうなんだよな。この地方にあるものを深堀りしてもいいんだが、次の地方でのアトラクションやフレンズとの出会いも気になるのだ。

 

「別にせっかちではねぇからな。……それに別に二度と同じ場所に来ないってわけじゃないし。つか、この感じだと島を一周するのも多分一か月くらいで済むからな……」

 

 意外と、旅程がそんなに長くならないんだよな……。俺も最初はてっきり一年くらいかかるかと思ってたんだが、全然そんなことはなかった。この島が意外と小さいのか、あるいはフレンズの健脚っぷりが凄まじすぎるのか……。どっちにしろ、ジャングル地方には来ようと思えばまたすぐ来られるのである。島の外とかになったらまた話も変わってくるが。

 ともかく。そう考えるとそんなに一つの地方に留まるより、さくっと切り上げて次の地方を見に行って、見落とした場所はまた次の機会に……という『周回数を稼ぐ』スタイルが一番いいと思うのだ。

 現に今回の旅も平原地方の西側にある地方とか行ってないしな。

 

「そっかぁ……」

 

 ジャガーはそんな俺の言葉に分かってるんだか分かってないんだか微妙な様子で頷く。

 

「わたしはじゃんぐるちほーの外にはあんまり行かないから、また来ることがあったら面白そうな話も聞かせてよ」

「おう。でも旅はいいぞー。色々と見たりできるからな」

 

 あっさりとしたジャガーの頼みに、俺もあっさりと了承する。そのくらいならお茶の子さいさいだ。

 ……そういえば俺の他にも旅をしてるフレンズって、アルパカくらいしか見たことないんだよな……。そのアルパカにしてもカフェについて図書館に聞きに行くってだけだし。

 あとはトキとか……? 鳥のフレンズはけっこう旅してたりすんのかもな。

 

「ですね。チベスナさんも、チーターの旅についていってよかったと思いますよ」

 

 おう、そりゃよかった。

 

の の の の の の

 

じゃんぐるちほー

 

五三話:始まりの地へ

 

の の の の の の

 

「じゃあ、見送りはこのくらいでいいかな」

 

 ロータリーに到着したタイミングで、ジャガーはそう言った。

 実際、地図を見る限りこのロータリーを道なりに進んでいけば、サバンナ地方に続く道がそのまま続いているわけなので、流石に迷ったりはしないだろう。

 というか、俺には地図があるしな。ここまで案内してくれたのだって、ジャガーの親切心というか別れ際のお喋りついでみたいなところがあるし。

 

「ありがとな、ジャガー。この五日間、本当に助かった」

「困ったときはお互い様だよ。それにこんないいものをもらっちゃったしね」

「あはは……」

 

 チベスナが笑いながら目を逸らす。まぁアレ壊したのお前だしな。

 

「またな。近くに寄ったら顔出すよ」

「他のフレンズ達にもよろしく言っておいてほしいと思いますよー」

「はーい。二人とも、またねー」

 

 そう言って互いに手を振りあい、ジャガーと別れる。

 その後は、自然とチベスナと二人並びながら歩いていく形になるのだが。

 

「にしても、このソリは便利だと思いますよ。前までタオルを持つのがすごく大変だったのに今は全然だと思いますよ」

「確かに」

 

 チベスナは途中からぐっと膂力で抑え込んで小さくして持ち運びする……という手を思いついたらしいが、それでも大変そうだったしな。ソリによってだいぶ動きやすくなっただろうし。

 

「その為のソリみたいなところはあるしな。これなら今の三倍くらいは荷物も入りそうだ」

 

 言いながら、俺はソリの中に乗り込んでみる。うむ、疲れた時はこうして休むこともできる。タオルが敷き詰められているから眠り心地もばっちりだしな。夜寝るときは安全第一ってことで木の上で寝るのがデフォだが。

 

「ちょっとチーター、それはずるいと思いますよ。チベスナさんばかりに働かせてはダメだと思いますよ」

「はいはい。ちょっとどんな具合か確認しておきたくてな」

 

 そう言って、俺はソリから飛び降りてチベスナと並び立つ。

 ちなみに、ソリの運搬係はチベスナの担当だ。

 これはチベスナがソリを引っ張りたいと強く希望したからというのもあるが、トートバッグ(及び水筒管理)が俺の担当であること、ソリを引っ張っていたら余計に早くスタミナが尽きてしまうのではという懸念なども関係している。

 ただ実際、この点は余計なお世話ではあると思う。こんなソリ……大体何キロくらいだろう? まぁ五〇キロはいってないと思うが、五〇キロ程度あってもなくても同じだ。あってもなくても歩けば疲れるのだ。

 …………かなしい。

 

「でも、これで色んなものをいっぱい持っていけますね。ぬいぐるみとか」

「意外と執念深いよな、お前……」

 

 ソリを作るのにあんだけ執着してたあたり、執念深いのは俺も人のことを言えたもんじゃないとは思うが。

 ただ、チベスナの言う通りこのソリなら別にぬいるぐみの五個や一〇個くらい搭載しても別に問題ないしなぁ。そういう意味では、チベスナの執念が実を結んだともいえるのか。俺としては、もっと旅に必要なものだけを置いておきたいんだが……まぁぬいぐるみくらいならいいか。

 

「いいけどあんまり趣味のものでいっぱいになったら、いらないものから捨てていくからな」

「えー。チーターは心がせまいと思いますよ。もっと心を広くするといいと思いますよ。せめてこのソリくらいに……」

「お前が俺のことをイラつかせるたびに心はどんどん狭くなっていくんだが」

 

 ちなみに今は猫の額くらいだ。ネコ科動物だけに。

 

「わーわー! 悪かったと思いますよ!」

 

 ……慌てて機嫌をとろうとするチベスナはさておき。

 

「さて、さばんなちほーではどこを回るか……」

 

 言いながら、俺はひとまず地図を広げてみる。

 今俺達はロータリーをぐるっと回って、サバンナ地方へと続く車道へ向かっている最中だ。んで、その先はサバンナ地方なわけだが……。

 

「何かあると思いますよ?」

「おいチベスナ、急に近づくなよ。持ち手の部分が当たって痛いだろ」

「もうチーターも一緒に曳けばいいと思いますよ」

「歩きづらいだろ……」

 

 言いながら、俺はチベスナの少しだけ前を歩いて地図だけ見せる。

 

「えーと……サバンナ地方にはサバンナがあるな」

「そんなの見なくても分かると思いますよ」

 

 当たり前のことを言った俺に、チベスナは馬鹿にしくさった声色で言い返してくる。いやだって、殆どそれしかねぇんだもん。多分ジャングル地方と同じように、サファリ的な部分を押し出してるか…………あるいは、『ここ』があるから他は人工物色を排しているのか。

 

「他には何かないんですか?」

「あとは……キョウシュウアーケードがあるな」

 

 そう言って、俺は地図のある一点を指さす。

 そこには、『キョウシュウアーケード』という説明と共に、今まで行ったどの施設よりずっと大規模な人工物が描かれていた。

 商業施設やアトラクションの点在していたここ――キョウシュウエリアだが、ここはどうやらそれらとは一線を画した施設らしい。エリアの名を冠しているあたり、国でいう首都みたいな役割を担っているのだろう。パークの往時には、ここで働いている従業員の居住区でもあったのかもしれない。

 

「なんですかそれ?」

 

 広げた地図へ首を伸ばして覗き込みながら、チベスナが問いかけてくる。

 んー、俺も地図を見ただけだから何があるかとか詳しいことはよく分からないんだけどな。

 

「簡単に言うと、多分大型の商店街……? みたいなのだな」

 

 あれ。なんか建築様式みたいな感じなんだっけ? 確かどっかのテーマパークのエリアが別に商店街ってわけでもないのにアーケードって言われてたような……あ、ここのアーケードはそこから来てるのか。でもまぁ土産店はいっぱいだろうし、商店街でも間違ってない気はする。

 

「しょうてんがい……ってなんだと思いますよ?」

「あー、そっか」

 

 チベスナに商店街が何かなんて分かるはずもないか。

 

「んー、簡単に言うとライオンの城とかにあった売店を大きくしたものが、たくさん並んでるところ……かね」

「おおー!!」

 

 俺の説明に、チベスナは分かりやすく目を輝かせた。あ、コイツが今何考えてるのか、俺でも分かるぞ。

 

「一応言っておくが、ぬいぐるみは五つまでな」

「えー! なんでだと思いますよ! これなら二〇個は持っていけますよ!」

「多すぎるわ! 他に何か荷物を持っていくときに入りきらなくなるだろ!」

 

 大体、ぬいぐるみを二〇個も持って行ったところで何に使うというのだ。寝るとき抱き締めるとか? チベスナの寝相だと最悪蹴っ飛ばしてそのままなくすまであるぞ。探すの大変そうだから勘弁してほしい。

 

「えー……。じゃあ一〇個で勘弁してあげると思いますよ。チーターはチベスナさんの寛大さに感謝するといいと思いますよ」

「〇個にすんぞ」

「それはおーぼーだと思いますよー!」

 

 ぶーぶーと抗議するチベスナはスルーして、俺は地図を畳む。

 

「あれ? 他の施設はいいと思いますよ?」

「あとはバス停とかそういうのしかなかったからな。いちいちそういうの見て行ったらキリがないし、見ても面白くないし……それに多分キョウシュウアーケード見たら十分って感じになるだろ」

 

 何せ地図に書かれるほど大きなアーケードなんだ。多分見て回るだけで一日使い切ると思うし。

 それに、俺はサバンナ地方に出向くにあたって、一つ裏の目標を設定している。なので観光に関してはそこまで本気出さなくてもいいのだ。

 

「そうですか? チベスナさんはもっと色々探せば出てくると思いますよ。地下とか……」

「地下は砂漠地方だけだから」

 

 あと幽霊出るかもしれないからあったところでもう地下はあんまり行きたくない。

 

「ともかく。そろそろサバンナ地方だ。多分こっちとは違う感じでの暑さになるから、水は大切にな」

「言うのが遅いと思いますよ。もう殆どないと思いますよ」

「…………だぁぁ――っ!! 学習しろ! 馬鹿!」

「馬鹿とはなんですか馬鹿とは!」

「水、もつかなぁ……いやもつはもつだろうけどチベスナがうるさくなるし……どうしよ…………」

 

 結局、その後俺とチベスナは来た道を引き返して川で水を汲み、それからようやくジャングル地方を後にしたのだった。

 途中でジャガーに会って笑われた。チベスナ許さん。




唐突なアーケードですが、これは公式設定です(GB初出)。
ジャパリパークでは各エリアに気候制御施設とチホーアーケードがあるらしいですよ。
(ちなみにキョウシュウの制御施設はへいげんちほーのライオン城のようです)

まあ、肝心のアーケード編はもうちょっと後になりますが……。

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