畜生道からごきげんよう   作:家葉 テイク

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なんだかんだで当SSも五〇話になりました。皆さん三か月弱応援ありがとうございます。
そして多分プロット的にまだ半分も行ってないのでつまりはこれからもどうか……という感じです。


五〇話:復活の女王

 それから、瞬く間に数日の時が流れた。

 

 洞窟にいた期間は療養という目的に違うことなく、深刻なアクシデントもなく(チベスナが洞窟に生えてるキノコを食べて悶絶する事件はあった。おい野生動物)……朝起きて、ジャパリまんをラッキーからもらい、日中洞窟の中や出口周辺を探検し、手先の器用さ訓練をあの手この手でやり、夕方ごろ帰ってきたジャガーにジャパリまんをもらい、その日あったことを話してジャガーと別れ、その後まもなく就寝する。そんなサイクルで毎日を過ごしていた。

 お蔭でメモ帳はだいぶ消費してしまったが、代わりにチベスナも拙いながらも一応折り紙を折ることができるレベルまでは手先の器用さが成長した。文字もひらがななら読めるし(ゆっくり時間をかければ)書ける。……我ながらフレンズとしては破格の知識量なのではなかろうか。

 

 ちなみにジャガーは最初の一日を除けば洞窟で寝泊まりすることもなかった。多分自分の縄張りがあるんだろう。逆に言えば自分の縄張りを放っておいてまで初日は俺達の世話をしてくれたということだが。とはいえそれでも夕方にはジャパリまんを届けてくれたので、もうジャガーには頭が上がらない。

 ちなみに俺は数日間、ほぼチベスナと一つ屋根(?)の下でごろごろしていた。正直ジャガーが献身的にジャパリまんを毎日届けに来てくれる環境下で何もせずごろごろしているのは罪悪感的なものはけっこうあった……。

 流石にそこまで長く何もせずにいるとそれなりに退屈な時間ではあったのだが、その甲斐あって――、

 

「…………よし! 俺、完全復活!」

 

 洞窟の外に出た俺は伸びをして、肩を回し、そして自らの身体を巡るチカラを感じ取る。……いやそんなのを感知する能力なんかないけど、そこはそれ、雰囲気というヤツだ。なんとなくこうしてみると、自分の中にあるチカラが数日前よりも満ちているような、そんな気分になる。

 実際、体力は確実に回復していると思うので錯覚ではないだろう。多分。

 

 ともあれ、もうすっかり疲労も残っていない。高山から続いていたスタミナ切れがようやく終了した……という感じである。となれば、俺の、いやさ俺達のやるべきことはただ一つ! すぐさまソリ作りを再開し、

 

「チーター、朝からうるさいと思いますよぉ……」

 

 …………ようと思ったんだが、なんか気が抜けるなあ……。

 

の の の の の の

 

じゃんぐるちほー

 

五〇話:復活の女王

 

の の の の の の

 

「お! チーター、もう動いて大丈夫なの?」

 

 気を取り直して。

 

 早速洞窟を出てジャングルへと繰り出した俺達は、十数分ほど歩いたあたりの川のほとりでジャガーと出くわした。

 ジャガーは川渡しの仕事をしている真っ最中らしく、橋の残骸的なものを引っ張りながら川を泳いでいた。……普通にしているように見えるが、水に浮くとはいえアレを引っ張って川を泳ぎ続けるのって地味に大変だよな。ジャガーすげぇ。

 

「おう、おかげさんでな。体力もばっちり回復。とはいえ……」

「チーターはすぐに疲れるので、チベスナさんがそばで監視してると思いますよ」

「……チベスナの信頼を取り戻すには、もうちょいかかりそうだがな」

 

 朝からチベスナはこの調子である。

 でもまぁ、俺もチベスナが無理してぶっ倒れたら同じようなことを三倍くらい口うるさく言いそうなので、気持ちは分からないでもない。

 

「あっはっは! でも元気になったならよかったじゃないか。せっかくだし乗ってく? 行きたいところがあれば連れて行ってあげるよ」

「じゃあ、ロータリーの方まで運んでくれるか?」

 

 正直このへんの土地勘、全くないんだよな。

 この数日、一応洞窟の周辺を探索したにはしたんだが、流石に川に出るところまで見てたわけじゃないし……。地図見つつならロータリーまで戻ることも多分できるが、それをやるくらいならジャガーに運んで行ってもらった方が早いし楽だ。

 

「ろーたりー??」

「あー、そっか。そっちの言い方は知らないのか……」

 

 アンイン橋とかブンブン・ミサトみたいな地名が通じるから、少なくともジャガーはヒトが作った遺物の名称に関する知識があるんだと勝手に思ってた。多分、なんとなく昔からフレンズ達が使ってた地名だけが引き継がれてて、ロータリーみたいな名称に関しては継承されなかったんだろうなぁ……。

 

「ロータリーっていうのは、ほら、あれだ。道があるだろ? あれが丸くなってるところだ。俺達が出会った場所」

「あー、あそこ。あそこロータリーっていうの? チーターは変わったこと知ってるねぇ」

「そうだと思いますよ。チーターは色々知ってると思いますよ」

 

 なぜそこでお前が胸を張るし。

 

「んじゃ、そこの近くまで連れていくね。さあ乗って乗ってー」

「チベスナさん、これ乗るの初めてだと思いますよ」

「安心しろ、俺もだ」

 

 なんてことをチベスナと言い合いながら、俺はジャガーが引っ張っている橋の残骸に乗り込む。

 前世でも船に乗ったのは数えるほどしかなかったからなぁ、わりと新鮮な気分だ。

 水の上から見えるジャングルの景色は、いったいどんなものなんだろうか……。

 

の の の の の の

 

 ざざぁ……ん、と。

 俺達が乗り込む為に陸に上げられていた橋の残骸が川に入り込むと同時に、水飛沫が軽く跳ねて橋の表面を洗い流し、それから俺達の足元を湿らせる。

 

「わわ、これ大丈夫だと思いますよ? 沈みませんか?」

「へーきへーき! いつもこんなもんだよー!」

「豪快だなぁ……」

 

 流石にそこはフレンズらしいというべきか。まあ、別に沈んだところで泳げばいいので問題はないのだが――あ、そういえば俺、今の身体で泳げるんだろうか……? ヒトだった頃なら普通に泳げるのだが、フレンズ化したときに手先が不器用になったことを考えると、練習しないと泳げなくなっている可能性も十分にある気がする……。

 そ、そう考えると急速に危機感が湧いてきたぞ。大丈夫か? これ沈まないか……?

 

 ………………ってこれじゃまるっきりさっきのチベスナと同じじゃないか。落ち着け俺。

 

「でも……こうして水の上を進んでいく景色っていうのも、新鮮で面白いなあ」

 

 左右に視線を走らせながら、俺はぼんやりと呟く。

 今までにもこうして自然を横目に進んでいくことはあったが、自分の足を動かさずに見ることだけに集中できる環境というのはなかなか……というか全くなかったし、それに植生自体も、ジャングルの水辺に生えている植物――たとえばマングローブとかみたいなのは意外とじっくり見たことなかったりするので新鮮なのだ。

 

「そう? わたしはいつも見てるから、いつもの景色って感じなんだけど」

「チベスナさんももう見飽きたと思いますよ」

「お前ってヤツはほんとに……」

 

 風情がないなぁ。

 

「もっとこう……そこにある自然の面白さを感じてみろよ。マングローブの根っこのところとかどうなってんだろうとか、川の地面ってゆるそうなのになんであんなデカイ木が生えてられるんだろうとか、色々気になってくるだろ?」

「全然ならないと思いますよ」

「わたしも、考えたことなかったなぁ……」

 

 …………俺がおかしいんだろうか。

 

「そんなことより、チベスナさんは『これ』がどこにあったのか知りたいと思いますよ」

 

 思索に耽り始めた俺の横で、チベスナは今まさに乗っている橋の残骸をこんこんと叩く。

 

「これ? どうして?」

「これ、チベスナさん達が作ろうとしてるソリによく似てると思いますよ。もしソリがある場所があるなら、そこからもらった方が早いと思いますよ」

「ええ……」

 

 さらっと問題発言をしたチベスナに、俺は思わず困惑の声を上げてしまった。

 いやまあ、ジャガーが引っ張ってるのが橋の残骸だっていうのは俺しか知らないことだからいいとしても、そんなせっかくここまで色々準備したりしたのに最後の最後で既製品に頼るのはなしでしょ……。

 そんな困惑の視線を向ける俺に、チベスナは毛ほども悪びれずに言う。

 

「でも、既にあるものが使えるんだったらサンドスターも使わないし楽ができると思いますよ。楽できることで苦労するのは馬鹿らしいと思いますよ」

 

 …………確かに、それはある種の真理ではある。

 うーむ、野生ゆえの合理性というか。チベスナは巣も出来合いのものを使ったりする習性を持ってるっぽいからその絡みというのもあるかもしれんが。しかしたとえ非合理だとしても、俺は達成感を選びたいんだよなあ……。

 

「うーん、悪いけどそのそり? ってヤツがあるかどうかは分からないね」

 

 そんな感じで二人で話していると、ジャガーが申し訳なさそうに割り込んできた。

 いや、無茶振りなのは分かってるからそんな申し訳なさそうにしなくていいよ。

 

「これ見つけたのは川の近くだからね。似たようなのもあるけど、これと同じような形だよ?」

「そうですか……。これと同じではちょっと違うと思いますよ」

 

 これだと平べったすぎるし接地部分もつけにくいしな。結局は一から作らないといけないわけなのである。

 まあ今回は俺だけじゃなく、多少器用になってるチベスナにも協力してもらう予定なので俺の負担はそこまで重くならない予定だ。その分チベスナには疲れてもらうが……前回のチベスナはかなり暇してたみたいだしちょうどいいくらいだろ。

 

「二人とも、これ作ろうとしてるんだ。面白そうなことするねえ。何に使うの?」

「ああ、実はロータリーからさらに先に荷物を置いてきたんだが、それを運ぶ為のアイテムが欲しいんだよ。他にも旅をしているうちに色々と荷物が増えたら、この俺が持ってるトートバッグだけじゃ足りなくなるだろうからな」

「あと、チーターが疲れたらそこに入れて引っ張ると思いますよ」

「それは是非お願いしたいが」

 

 チベスナはおちょくるつもりで言ったようだったが、俺としてはそうしてくれると非常に楽なのでぜひお願いしたいところだ。……フフフ、イヌが豆鉄砲くらったような顔をしおって。貴様が俺をおちょくろうなど一〇〇年早いわ。

 

「じょじょ、冗談だと思いますよ……」

「はははは!」

 

 すっかり縮こまったチベスナにジャガーと二人で笑いつつ、ジャングルのクルージングは賑やかに続いて行った。




今回何気に初めて作中で数日(多分三日くらい)スキップしました。
現時点でチーター転生何日目かもう作者も覚えてません。

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