畜生道からごきげんよう   作:家葉 テイク

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今回は一回休みの回です。
今章からサクサク進めるつもりだったのに全然サクサク進まない不思議。


四九話:光明差す療養の巌

「……ん…………」

 

 鳥のさえずりを耳にして、俺は目を覚ました。

 ……いや、鳥のさえずりとしか言わないと語弊があるな。鳥のさえずりとか虫のさざめきとか猿の金切声とか猛獣の唸り声とかそういうのを耳にして、俺は目を覚ました……そういった方が正確だ。

 

「あー……俺、寝てたのか」

 

 目を開けてあたりを見ると、そこは洞窟の中だった。

 入り口付近なため朝の陽ざしが入ってくるからよく見える。広めの入り口から徐々に下っていく緩やかな坂道の中腹あたりで、俺達は眠っていた。チベスナは俺の身体の上に覆いかぶさるようにうつ伏せで寝ていて、ジャガーは少し離れたところで丸くなっていた。どうやら俺が一番に起きたようだな。まぁ一番早く寝てたんだろうし当然だろうけど。

 

「よいせ、と……」

 

 チベスナを転がして上からどかしてから、俺は起き上がる。

 

「んん~~っ……」

 

 洞窟の硬い地面で寝ていたせいか、身体の筋肉が凝り固まっているような気はするが……思っていたよりはずっとマシだ。ヒトだった頃は床が硬いと首が痛くなるもんだからなるべく快眠できる環境にしたかったのだが……まぁ、フレンズだしな。床が硬いくらいじゃ別にどうともならないか。

 

「ぅ……チーター、おはようと思いますよ」

「おう、おはようチベスナ」

 

 そんな風に伸びをしていると、雑にころがしていたチベスナも目元をこすりながら起き出す。

 

「悪いな、昨日は結局あのあと寝ちまったみたいだし」

 

 そう言って、俺はチベスナの方へ向き直って座る。

 昨日の記憶は、チベスナに背負われているところまでしかない。ということはおそらく、俺は途中で寝入ってしまってたんだろう。そのまま気づかず朝まで寝ていたということは、チベスナが起こさないでそのまま寝かせていてくれたってことだ。

 ……にしても、寝るつもりはなかったんだがなぁ。チベスナに背負われたまま寝たらあとでブーブー言われるだろうって思ってたから寝るの我慢してたし。それでもこらえきれず寝てたってことは、俺も相当疲れてたってことなんだろうな。

 

「別にいいと思いますよ。それよりチーター、昨日ジャガーと話してたんですけど」

 

 お。俺が寝てる間になんか話してたのか。なんだろうなんだろう。

 そんな風に軽い好奇心で聞く態勢に入った俺に、チベスナはこんなことを言った。

 

「今日からしばらく、旅はお休みすると思いますよ」

 

の の の の の の

 

じゃんぐるちほー

 

四九話:光明差す療養の巌

 

の の の の の の

 

「……………………」

 

 突如告げられた言葉に、俺は何も言えなかった。

 いや、旅を休むのは正直なところ、俺も賛成ではあるのだ。

 なんだかんだで今回俺が倒れたのは、高山地帯から続くスタミナ切れを放置し続けてきたツケだと思うしな。それが一晩で回復しているとは思えないし、万全を期すなら数日くらいかけてゆっくり体力を回復させた方がいいとは思う。

 それに、ソリづくりもちょっと難航してたしな。とりあえず真っ直ぐ歪みなく木材を切断できる方法を見つけないことには、しっかりしたソリを作ることも難しい。

 そういうわけなので、ぶっちゃけチベスナが言ってなかったら俺の方から提案しようと思っていたまである。では何故俺が何も言えなくなったかといえば……それは、その提案をチベスナが提案してきたからだ。

 

「チーターはいやかもしれませんけど、疲れてる時にしっかり休まないと寿命が縮むと思いますよ。それに……合わないちほーの暮らしは疲れるらしいです。合わないちほーを旅したあとこそ、ゆっくり休んだ方がいいと思いますよ」

 

 俺は、静かに感動していた。

 チベスナって基本フィーリングで生きてるみたいなところがあるじゃないか。そのチベスナが、こうまで考えて……おそらくジャガーと相談までしてくれているのだ。つまり、俺達の旅のことについてそれだけ真面目に考えてるってことなわけで。

 まぁそれのどこが感動なのかって言われたら俺もちょっと言語化は難しいんだが……でもやっぱ嬉しいわ。

 だからか、俺は即答していた。

 

「分かった」

 

 そもそも俺もその方針には賛成だったしな。のんびり休んで英気を養う。たまにはそういうのも必要だと思うし。

 

「それに、ソリづくりのためにももう少し手先の器用さというか、経験値をつけておきたいし。サンドスターを消費するようなのは本末転倒だからやらないが、そうじゃない普通の手先の器用さとかな」

「おお、今日のチーターは昨日がうそみたいに話が分かると思いますよ」

「一言余計」

 

 せっかく大いに感動してるんだからそこで止めておかせてくれよ。

 あと昨日はね……俺も自分が疲れてるってことに気づいてなかったから。

 

「んーっ。二人ともおはよ。起きるの早いねー」

 

 と、チベスナと話し込んでいると、いつの間にか起きたのかジャガーが既に立ち上がって体を伸ばしていた。

 どうでもいいけど、正座の態勢のまま前屈っぽく体を伸ばすのってけもの時代の名残的なアレなんだろうか。パッと見とてもネコっぽい……。

 

「チーター、ジャガーのことじっと見てどうかしたと思いますよ?」

「いや、ああいう伸びの仕方ってけもの時代の名残なのかなってさ」

「チーターもいつもやってると思いますよ?」

 

 マジ……か……!?

 

「チーターどうかしたの?」

「いつものことだと思いますよ」

 

 マジか……手招きだけじゃなかったんだ……俺いったいどれだけの動作が猫っぽくなってるんだろう……気になるけど怖いから知りたくねぇ……。

 

「それより、二人とも今日はどうするの? わたしはこのあと川に行くけどさ」

「川? 川に行って何をするんだと思いますよ?」

「川を渡りたくても渡れない子がいるからさー、その子達を渡してあげるんだ」

「はえー……よくやると思いますよ。チベスナさん達はしばらくここでお休みしているので、それが終わったらジャパリまんを持ってきてくれると嬉しいと思いますよ」

「ん。分かったよ」

 

 ……あれ、頭を抱えているうちにチベスナがまた超厚かましいお願いをしてた気がする。しかも普通に快諾されてた気がする。ジャガーほんといい奴すぎるだろ……。

 

「じゃあ、行ってくるね。またあとでー」

「またあとでと思いますよー」

「気をつけてな」

 

 二人で手を振ってジャガーを見送り、またしても二人きりに。

 

「……では、やることもないのでチベスナさんはもう一眠りすると思いますよ」

「いや寝るんかい!」

 

 速攻で丸くなったチベスナに、俺は間髪入れずにツッコミを入れる。さっき起きたじゃん。一度起きたらもう起きるでしょそれは。

 

「えー……というかチーターこそもっと寝た方がいいと思いますよ。疲れてるんですし」

「疲れてるのはそうだが、別に寝ても寝なくても変わらんだろ。むしろ起きてラッキーからごはんをもらいに行った方がいい気がする。ジャガーも川渡しの仕事が終わるまで帰ってこないからな」

 

 一日三食がモットーの俺としては、ジャガーが帰って来るまでに一食挟んでおきたいところだ。

 

「でも、チーターは動いちゃダメだと思いますよ」

「いやあ、ちょっとそのへんをうろちょろするくらいならいいだろ。ジャングル地方は高山地帯と違ってそんなに俺の身体に合ってないってわけでもないし、サンドスターも使わないし」

「動いちゃダメだと思いますよ?」

 

 ……う、完全に聞く耳を持ってらっしゃらない。まあ倒れた俺が昨日の今日で動けますよなんて言っても説得力ないか……。

 

「じゃあ、チベスナが代わりに行ってくれるか?」

「なんでチベスナさんが行かなきゃいけないんですか。これから寝るのに」

「この野郎……」

 

 それはそうなんだが。確かにそうなんだが! でもジャパリまん探すのダメって言ってるのにダメって言ってる張本人が寝る気満々っておかしいだろ! おかしいだろ!

 

「……仕方ない。じゃあこうしよう。チベスナは俺のことを背負ってジャパリまんを探す。その間、俺はこのあたりの地形を把握する。昨日は途中で寝ちゃったから周辺の状況がよく分かってないし、チベスナもどうせジャガーについて行っただけでこのへん何があるかとか分かってないだろ?」

「おお、それならいいと思いますよ」

 

 俺も一緒について行くってだけでチベスナの作業内容は変わってないどころか若干めんどくさくなってるんだが、それでいいんだコイツ……。

 そこはかとなくチョロいチベスナに内心微妙な気分になりつつ、

 

「じゃ、行くか」

 

 俺達は、朝ごはんの獲得に乗り出したのだった。

 

の の の の の の

 

 ちなみに、探索は本当に一瞬で終わった。

 というのも、洞窟から出て少し歩いたところで、かごを持ったラッキーに出くわしたのだ。けっこうジャパリまんが入っていたから、おそらく周辺のフレンズに配っている真っ最中だったのだろう。

 ありがたくジャパリまんを三つ(チベスナ一つ・俺二つ)もらった俺達は、そのまま来た道を戻った。所要時間は大体一〇分。まさに朝飯前であった。

 

 で、洞窟に戻った俺達はジャパリまんを食べ終え、腹ごなしに手先の器用さの訓練をしているのであった。今日は……というか俺の体力が完全回復するまではここから動かないので、時間は有り余ってるぞ。

 

「今日は、折り紙を作りたいと思いまーす」

 

 言いながら、俺はメモ帳から二枚、白紙のページをちぎり取り、一枚をチベスナに手渡す。

 

「折り紙? それはなんだと思いますよ?」

「紙を折って、色々なものを作る遊びだよ」

 

 まぁ、俺が覚えてるのはツルと紙飛行機くらいのものなんだが。ツルってけっこう難しいのに何でか覚えてるよな……。子供のころの記憶というやつだろうか。三つ子の魂百までとはよくいったものだな。

 …………なんか違う気がするけど。

 まぁ、今回作るのはツルではない。

 

「まずはここの角を折って、余った部分を切り取って……紙を正方形にする」

「おー、なんだかきれいな四角になったと思いますよ?」

「折り紙っていうのは、基本正方形じゃないとできないからな」

 

 少なくとも俺は見たことない。

 

「まあこのやり方だとどうしても折り目が一本入っちまうが……そこはご愛嬌ということで。次に、正方形の状態から辺に対して折り目が垂直になるように半分に折る。これを二回繰り返す」

「チーター」

「二回半分に折って小さい四角形にする」

 

 見事に簡単にまとまってしまった。なんかチベスナと会話してると簡単な言い回しが上手くなるような気がするわ。

 でも、図形の定義って難しいよな……。正方形が四辺の長さが等しい四角形で、二等辺三角形は二辺の長さが等しい三角形。……っていうのは楽だけど、チベスナには辺って何? とか三角形とか四角形って何? ってところから話をはじめないといけないので余計に大変だ。

 

「で、続いてこの折った紙を広げる。すると十字の折り目が入った紙になる」

「おっ、ほんとになったと思いますよ」

「そうしたら、この十字の中心に接するように四隅を折り込んでいく」

「おおー……器用だと思いますよ」

「そりゃ高山であれだけ練習すればな」

 

 言いながら、俺は滑らかに折り紙を進めていく。我ながら器用になったものだ。ほんとに。

 

「……あれ? 結局元の形になったと思いますよ?」

 

 チベスナは、実際に四隅を中心に折り込んだ俺の折り紙を見て首を傾げた。しっかり折ってはいるので大きさは一回り小さくなっているが、確かに形は変わっていない。こういうところ、なんでだろうって考えると折り紙って不思議だよな。

 

「そういうもんなのさ。で、次にこの折った形のまま、今度は紙をひっくり返して、同じように四隅を織り込む」

「めんどくさいと思いますよ……」

 

 折り紙はそういうもんなんだよ。

 

「で、それも終わったら今度は四隅が直接くっつくように折る。ちょうど、折った後上から見たら十字になるようにな」

「??? ちょっとよく分からないと思いますよ……あ、こうですか?」

「そうそう」

 

 それから、ビラビラしてる部分を引っ張って広げれば……完成。

 

「パクパクだ」

「ぱくぱく?」

「そういう折り紙の題名な。ほら、ここに手を入れて、指を動かせば……ぱくぱく」

「おお~~!」

 

 実際に指を動かしてみると、それに呼応して(というか指を中に入れてるので当然だが)パクパクも口を動かす。

 

「これに番号を書いて口を動かさせて、それに応じて広げていって最後に書いてあった数字があなたの運勢…………みたいな遊びもできる」

 

 小学生のころよくやった。

 

「なんですかそれなんですかそれ! 面白そうだと思いますよ! チーター、やってみるといいと思いますよ!」

「うんまぁ、暇つぶしには悪くないしな」

 

 今朝のダウナーぶりはどこへやら、すっかり目を輝かせたチベスナに、俺は思わず苦笑する。乗ってくれた方が俺も嬉しいからいいんだけどな。

 

「しかし、地面が硬くてもこうでこぼこしてると文字も書きづらいなぁ……昨日の水道施設みたいに真っ直ぐなところなら書きやすいんだが……、」

 

 と。

 そこまで言って、俺の脳裏にふと閃くものがあった。

 どうしても改善できない工作の歪み、そして直線的な形状の人工物……。

 

 これって、ソリづくりの光明が見えてきたのではないか……!?




今回の折り紙のシーンは実際に作りながら書きました。
詳しいヴィジュアルについては「折り紙 パクパク」で検索!

次回、ちょっと時間が空きます。作中の。

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