畜生道からごきげんよう   作:家葉 テイク

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思ったより長くなったので、今回は一話を分割した前半部分です。


四四話:未だ見ぬ先達の影

「おぉぉぉ~~! すっごい速いと思いますよ~!」

 

 のんきなチベスナの声が、高山に響き渡る。

 しかし実際、まさにチベスナの言う通りであった。えっほえっほという掛け声とともに上下する山の景色は、少し前までの俺達ではありえないほど滑らかに後ろの方へと流れていく。背負う――とアルパカが言ったときには『どんな体勢になるんだろうな?』と一抹の不安を抱いたものの、なんてことはなくアルパカは普通に俺とチベスナを両肩にそれぞれ座らせて普通に進んでいた。

 

「しかし、よかったのか?」

 

 そんな風にしてアルパカの世話になりつつ、俺はアルパカに問いかける。

 

「……図書館に行く途中だったろうに」

 

 そう。

 図書館は、この高山地帯の北に位置している。つまり、南西に位置するジャングル地方はまさしく真逆方向ということになるのだ。

 要するにアルパカは今来た道を戻っている真っ最中なわけで、楽をできたのはいいことだがアルパカの旅の邪魔をしてしまっているということでちょっと後ろめたい部分があるのであった。

 しかしアルパカの方はあっさりと笑いながら、

 

「あぇ? あぁ~、いいのいいのぉ。どぉせすぐ着くしぃ。それに困ってる子は放っておけないもんねぇ」

 

 と言ってくれた。アルパカ、もはやほぼ聖人なのでは……? そういうことなら、お言葉に甘えようと思うが……。

 フレンズってたまに、アルパカみたいな『なんでお前そこまで他人の為に頑張れるの……?』ってヤツがいるよなぁ。ライオンとかビーバーとか。俺はまだ知り合ってないが、かばんやサーバルもな……。

 畜生道に堕ちるのもやむなしな俺としては、そこのところは流石に理解ができない。純朴にも程があると思うよマジで。チベスナくらい畜生な性格の方がまだ理解はできるな。

 

「チーター、なんか失礼なことを考えているのでは?」

「何を言うか。気のせいだろ」

「耳がなんか失礼だと思いますよ」

「なんだよ耳が失礼って!?」

 

 聞いたことない内心の見抜き方しやがって……! やっぱり耳か! この耳が俺のポーカーフェイスを邪魔しているのかー!!

 

「わっわっわっわわっ……チーター、あんま暴れちゃダメだぁよ」

 

 衝動的に耳を掴んだ俺に、アルパカの慌てたような制止の声がかけられる。

 ……そうだった、今アルパカの上なんだった。あんまりにも安定していたもんだから、すっかり忘れてた。

 

の の の の の の

 

こうざん

 

四四話:未だ見ぬ先達の影

 

の の の の の の

 

 アルパカの協力による移動は、劇的な移動スピードの変化を齎した。

 地図を見た感じ、歩き始めて大体二時間といったところで既に山二つを乗り越えているのである。ちなみに、俺達は寄り道があったとはいえ一日かけてようやく山一つ。それを考えるとアルパカの足の速さたるや、流石高山出身といった感じである。

 チベスナもこれと同じくらいとまではいかなくてもそこそこの速さでいけるとすれば……俺の高地適性のなさが如実に出ているということになるかなぁ。今から来たる雪山地方のために準備しといた方がいいかもしれない。

 

「ふぁあ……なんだか似たような景色が続いてて退屈だと思いますよ」

 

 そんな風に先々のことを考えている俺の横で、この畜生はアルパカさんのお世話になっていることも忘れてのんきにあくびをしていた。お前アルパカさんに失礼だぞ! アルパカさんに!

 

「そぉだねぇ……。このへんなんもないからねぇ~。山の上には色々あるんだけどねぇ~」

 

 しかし、そんな無礼なチベスナにもアルパカさんは仏のごとき寛容さで笑顔を見せる。……いい加減このノリめんどくさいな。

 

「んじゃ、さっきの話についてもうちょい詳しく聞かせてもらいたいんだが」

 

 俺としても同じ景色が続いて飽きが来るというのは同じ気分ではあったので、話題を提供する意味も込めてそう切り出してみる。

 

 さっきの話……というのは、アルパカにカフェを教えたフレンズについてだ。

 アニメじゃそこらへんは深堀してなかった(と思う。俺が忘れてるだけかもしれんが)ということもあり、そのへんの未知の情報についてはかなり興味がある……というのももちろんあるが、それ以上にフレンズに文明についての知識を伝えているフレンズについての情報が気になる。

 あのアニメって、けっこう設定とかも表に出てない部分までかなり作りこまれてたから、多分本編に出てきてないけど実は重要な役割を担っているフレンズとかもいると思うんだよな……。一応俺もジャパリパークの一員になったわけだし、今後の為にもそういうフレンズの話は聞いておいたほうがいいだろうし。あわよくば会って色々とパークのことについて話を聞いてみたい。

 ……まぁ、変装した博士か助手って可能性もあるんだが。

 

「さっきの話ぃ?」

「ほら、アルパカにカフェのことを教えたフレンズって話してたろ? それだよ」

「あぁ~、あれねぇ」

 

 アルパカはようやく話がつかめたとばかりに頷いて、

 

「でもぉ、何のフレンズかとかは聞かなかったんだよねぇ。鳥のフレンズみたいだったけどぉ」

「鳥?」

「あ、でも頭に羽はなかったからねぇ、変わった鳥のフレンズだったよぉ。このあたりじゃ見たことない子だったかなぁ~」

「頭に羽がない鳥のフレンズですか? そんなのいないと思いますよ。アルパカ騙されているのでは?」

「ふぇぇ? そんなはずねぇよぉ。だぁってかふぇも教えてもらったんだからぁ~」

 

 ふぅむ……。頭に羽がない鳥のフレンズかぁ……。……そんなのいたっけ? …………脳内検索してみるも、ちょっと答えが出ない。そもそもフレンズのディティールが既にぼやけ気味なんだって……。そんな手元に資料がある人でも資料を見ないと思い出せないような高度な問題分かるわけがねぇ。

 でも、かといってアルパカが騙されているとは思えんしなぁ。カフェの情報は事実なわけだし。

 

「どんな感じの恰好してたとか、思い出せるか?」

 

 言いながら、俺はメモ帳と鉛筆を取り出して手に持つ。

 

「……何してるのぉ?」

「いや、アルパカの証言をもとに似顔絵でも作ってみようかと思ってな」

「おぉ~、面白そぉだねぇそれ」

「さすがはかんとくだと思いますよ」

 

 だから監督じゃないが。

 気を取り直して、俺はアルパカに言う。

 

「じゃ、始めるぞ。質問するから、アルパカはそれに答えてくれ」

「はいよ~」

 

 アルパカの準備もできたようなので、俺はメモ帳に既に知っている情報――小さいフレンズのおぼろげな輪郭だけ描いておく。体格しか分かってないので、本当に丸だけで構成されたおおざっぱな人影だ。

 ここからさらにディティールを詰めていくわけだが……。

 

「そのフレンズ、髪は長かったか?」

「おぅ~、すっごい長かったよぉ。チーターより長かったよぉ」

「それは凄いですね。チーターもかなり長いと思いますよ」

「確かになぁ」

 

 言いながら、俺はペンを持つ手で髪を梳いてみる。小柄で、俺よりも長髪。これだけでだいぶ特徴が分かる気がする。かなり特徴的なフレンズなんだな……。

 

「で、全体的な色合いは?」

「いろあい??」

 

 あー……色合いって言っても伝わりづらいか。

 

「ほら、全体的なカラーリングというか……。俺なら黄色、アルパカならクリーム色、チベスナなら薄茶色って感じで、ぱっと見の色みたいな」

「あぁ~、それなら、白っぽい灰色だったねぇ」

「白っぽい灰……」

 

 小さくて長髪でライトグレーなフレンズ。だいぶ全体像が見えてきた気がするぞ。

 

「あとは服装だな。どんな服着てた?」

「ふくぅ?」

 

 ……あ、そっか。フレンズにとって服は毛皮なんだったか。じゃあスカートがどうのとかって言っても通じないな……。着ている服の種類を聞いてみようと思ったんだが、この分じゃ多分無駄だろう。

 

「あー、なんていうか、俺のこの恰好……毛皮はネコ科っぽいだろ? チベスナはイヌ科。そんな感じで、どんな種類のけもののフレンズっぽいか、みたいな」

「んーと、ヘビの子みたいな感じだったかなぁ? でも手は鳥っぽかったよぉ」

 

 ヘビ……つまり爬虫類っぽい感じで、しかも手は鳥……。……なんだろう? 翼竜とかが思い浮かんだが、恐竜のフレンズなんか聞いたことないしなぁ。一応、アプリ版には絶滅種のフレンズも出てきてたって聞くけど。

 と、そこでアルパカははっとして新たに証言を付け加える。

 

「あ! あと頭に変なのつけてたよぉ」

「変なの?」

「えっとねぇ、こんな……よく分かんないのつけてたよぉ」

 

 そう言ってアルパカは手で頭のあたりに手を当て……わわっ!

 

「アルパカ! 手を動かすな! 落ちる! 落ちるから!」

「うわー! と思いますよー!」

「チベスナぁー!?」

 

 ああっ! チベスナが落ちたばかりか崖下の方まで転がり落ちてったぁ!? やっべぇ助けにいかないと!

 

「チーター、ちょっと待ってぇ! 今下に降りるから勝手に降りちゃダメだよぉ! 一緒に転がっちまうよぉ!」

 

 …………そんなこんなで、てんやわんやのうちに似顔絵の話は有耶無耶に終わってしまった。このくらいまで特徴が分かってれば、知ってるフレンズならすぐ分かるだろうし、まぁいっか。

 

の の の の の の

 

「はい、到着っとぉ」

 

 そうして、ほぼ日も暮れた頃。

 実に数時間ほどで高山地帯を越えたアルパカは、そう言って俺とチベスナを地面に下ろした。

 岩ばかりが転がっていた高山とは違い、麓は木がかなり密集して生えており、ちょっとした森の様相を呈していた。ああ、平地に木がいっぱいあると安心するなぁ。

 

 ちなみにこの時間になった理由として、崖下に転がり落ちたチベスナが落としたタオルの回収とかチベスナとの合流とかがかなりを占めているので、本当に順調にいけば一時間ちょっとで行けたんじゃないかと思われる。アルパカマジすげぇ。

 ほぼ垂直な斜面をぴょんぴょんと跳んでいくからな……。俺やチベスナの場合は歩いて登れそうな道を探して迂回するから、俺達が山越えをしていた場合と比べるとかなりの時短になっていると思う。

 

「ありがとな、アルパカ。お蔭でだいぶ楽に山を越えることができたよ。それに、気になるフレンズについての話も聞けたしな」

「チベスナさんもお礼を言うと思いますよ」

「いやぁ~、このくらい全然いいよぉ。あたしもチーターとチベスナとお喋りできて楽しかったからねぇ」

 

 ほんとよくできた子だよね……。

 

「あー、でも、時間大丈夫か? もう夕暮れ時だが。今からだと、多分山登ってる最中で夜になっちゃうぞ。危なくないか? セルリアンとか」

「あぇ? ほんとだねぇ。…………どぉしよっかなぁ?」

「ノープランだったのか……」

 

 そういうところはやっぱりフレンズだな、と思いつつ、

 

「そういうことなら、今日は俺達と一緒に夜を明かすか? 近くに木もあるからタオルハンモックも作れるだろうし……ちょっと手狭になりそうだが」

「チベスナさんはそれでも問題ないと思いますよ。チベスナさんは劇的な寝相ですので。ただチーターは寝相が悪いですから……」

「いやお前だよ」

 

 なんで俺の寝相が悪いことになってんだよ。自分の寝相を棚に上げるだけじゃ飽きたらず、俺の棚に突っ込んできやがったぞコイツ。

 

「はんもっくぅ? ってよく分かんないけど、なんだか面白そうだし一緒にやらせてもらっていいかなぁ? なんだかほかの子と一緒に寝るなんて久しぶりだねぇ、楽しみだねぇ」

「多分そう言ってられるのも今のうちだと思うが……」

 

 チベスナの寝相をなめてはいけない。並んで寝ているのに気付けば顔面に足が置かれてることとか、チベスナと一緒に寝てると日常茶飯事だからな。

 

「ま、日が暮れないうちに設営しちまうか。チベスナの寝相は、むしろ三人で寝ることで動くスペースが減って緩和されるかもだし」

 

 なんてことを適当に言いながら、俺はハンモックづくりに入っていく。

 しかし、この時の俺は気づかなかった。

 アルパカを加えたハンモックでの睡眠が、もこもこの毛皮による保温地獄と化すことに……。




※カフェを教えたフレンズはネタ振りです。
※でも多分しばらく出てこないので忘れてOKです。忘れた頃に出てくると思います。
※チーターは気づいてませんが既知のオーロックスも絶滅種です。

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