畜生道からごきげんよう   作:家葉 テイク

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一〇万UAありがとうございます。ヤオヨロズUAまでは頑張りたいですね。


二九話:鎮座する金字塔

「……これどうすんだよ……」

 

 気付けば、俺の口からそんな言葉が飛び出していた。

 いやだってこれは……駄目だろ。これ、完全に入り口が崩落してふさがっちゃってるし……。それ以外もちょこちょこ崩れてるし……。

 ……ど、どこかに入り込めそうな隙間は………………ないよなぁ。っていうか、あったとしても下手に無理やり入り込んだらさらに崩落するかもしれないから入るのは下策だろう。

 

「ここで本当に合ってるんです? もしかしたら別の場所が本当の入り口かもしれないと思いますよ」

「残念ながら、ここで間違いないんだよなぁ……」

 

 希望的観測を口にするチベスナに、俺は遺憾ながら現実を突きつける役目を果たす。本当にそうだったらどれだけよかったことか……。

 だが路面に矢印とか地下道入口とか書いてあるし、ここまでジャパリパークの施設を探索してみた感じここの標識類はだいぶ利用者に親切なので、俺が間違えるようなややこしい表示がされている可能性は低い。

 それに、なんかゲートっぽい装置もあることだし……。

 

「多分、過去にセルリアンとの戦闘とかで脆くなってたところが経年劣化で倒壊したんだと思う。他のジャパリパークの施設はここまで派手に壊れるほど劣化がひどいわけじゃなかったし。何にしても、ここは使えそうもないな……」

「……あ! そうですチーター、この瓦礫、チーターが蹴っ飛ばせばいいと思いますよ。邪魔なものがあれば蹴っ飛ばせばいいんです」

「馬鹿か! 余計に崩れるわ!」

 

 今言ったばっかりだろう、セルリアンとの戦闘とかで脆くなってたところが経年劣化で倒壊したんだと思うって。そんな場所で、たとえ瓦礫相手だろうと蹴りを入れればどうなるかなど分かったものじゃない。あと、俺の蹴りの威力はあくまで膂力+爪の鋭さから来てるから……正直コンクリをバラバラにできるほど蹴りの力が強いってわけじゃない――と思う。試したことないからなんとも言えないが。

 でも、流石にフレンズの身体とはいえ思いっきりコンクリの瓦礫を蹴れば痛いだろうし……そういう意味でも、積極的にやりたくはないな。

 

「うむむ…………。そうですね…………それでは、チベスナさんが穴を掘ればいいのでは? ……おお、意外と名案だと思いますよ。チベスナさんと一緒に旅をしていた幸運を喜ぶといいと思いますよ」

「だめ」

「なんでですか!?」

 

 いや、なんでも何も……。

 

「崩落がまだ終わったとは限らないだろ。瓦礫をどかしたら、また別の瓦礫が降ってくるかもしれない。というか、まず間違いなくそうなる。それでお前が下敷きになったらどうするんだ」

「その時はチーターが引っ張り出してくれれば……」

「無理!!」

 

 そりゃ必死になればできないこともないと思うが、きっとめちゃくちゃ時間がかかるし疲れる……。

 これで崩れない可能性の方が高いとかだったらやってみる価値もあったかもしれんが、この崩落具合を見る限り確実に一つの瓦礫をどかせばそこからさらにガラガラと崩れそうだしなぁ……。もはやどこから手を付ければいいのか分からないレベルだし。ここの交通を解放するには、ちょっと二人だけじゃ荷が重すぎるぞ。

 …………いや、そもそも重機とか使わないとどうにもならないわけだから、『ヘラジカ組かライオン組がいてくれればなんとかなったのになぁ』とか頭の片隅で考えちゃってる時点でフレンズのおかしさを感じざるを得ないわけだが……。

 

「これは……ここから地下道に入るのは諦めた方がいいな」

 

 此処はもう駄目だ。切り替えよう。

 地下道に拘泥(こうでい)していたら、無駄に時間を食って暑い中砂漠を歩き倒すハメになると考えた俺は、すぐさまトートバッグから地図とコンパスを取り出して地面に広げる。

 別に、俺達の旅は一本道じゃなきゃいけないってわけじゃない。ここがダメなら、回り道でもいいから別のルートを通ればいいのだ。幸い、まだ日の出からそこまで時間は経っていない。急いで出発すれば、本格的に暑くなる前に別の砂漠のアトラクションに着けるかもしれない。

 

「いきなり地図を広げて何をしてるんだと思いますよ?」

「別ルートを探そうと思ってな。ええと……ここから一番近いのは……」

 

 地図によれば――このオアシスが、砂漠地方の西部分。他にも砂漠地方のアトラクションは何個かあるみたいだが、ここから一番近いのは…………ここか。

 

「砂漠地方のほぼ中央。地図によれば、この先にあるアトラクションが一番近いな」

 

 それでも、距離的にフレンズの足で三時間くらいはかかりそうだが。今が大体五~六時くらいとして、着くのは九時くらいかぁ……そのくらいなら、まぁ日差しも大丈夫か。

 

「ほうほう。それで、そのアトラクションとはいったいなんだと思いますよ」

 

 俺が地図を指さしていると、チベスナはすっかり気持ちを切り替えて次のアトラクションに興味津々になっていた。そりゃ気になるよな、もったいぶらずに教えてやるか。

 この先にあるのは――、

 

「『ピラミッド』だな」

「『ぴらみっど』……? …………ああ! 聞き覚えが! 聞き覚えがあると思いますよ! 前に見たえいがで……」

「お」

 

 意外なところで引っかかりが。そういえばミイラがどうのこうのと言ってたしな、ピラミッドだって登場してるだろうし、そういう意味では知っていてもおかしくないか。

 

「そう、それだな。お前の大好きなミイラがいるところ」

「ミイラのフレンズ!?」

「いやフレンズかどうかは知らんけども」

 

 その場合はヒトのフレンズってことになるんだろうか。それともUMA枠? そう考えると、あながちミイラのフレンズもいそうな気がするから不思議だ。

 まぁ、そもそもジャパリパークにミイラの展示なんか来るわけないだろという常識的なツッコミによってそういう可能性は俺の中で却下されたが。

 

「いいですね……行きましょう、『ぴらみっど』。目指すはミイラのフレンズ!」

「いやだからフレンズかどうかは知らんけども……っていうかミイラがいるかも…………あーすまん、適当こいた俺が悪かったからとりあえず話の混線をなんとかさせてくれ」

 

 ……結局、その後チベスナの誤解(?)をとくので数分無駄にしてしまった。

 

の の の の の の

 

さばくちほー

 

二九話:鎮座する金字塔

 

の の の の の の

 

「砂漠と言えばピラミッドだよな」

 

 少し熱くなり始めた砂の上を歩きながら、俺は横を歩くチベスナにそんなことを言っていた。

 太陽は徐々に高くなり始め、今はもうあたりはすっかり明るくなっている。日差しが既に昨日の鋭さの片鱗を見せ始めているので、俺としては正直少しずつ焦り始めていたりしていた。一応、ターバンとかのお蔭で日差しのダメージは(二の腕や太ももとかの露出している部分に比べれば)だいぶ軽減されている感じがするが。

 …………そういえば、フレンズの身体って日焼けとかどうなるんだろうな。スナネコの肌がめっちゃ白かったからしないのかもしれないが、アレは砂漠のフレンズだから耐性があるだけなのかもしれないし。

 

「そうなんです?」

「ああ。砂漠と言えば、俺はピラミッドとか……オアシス。そんなイメージだ」

 

 あとはスフィンクス? いや、スフィンクスはピラミッドとかとはちょっと違うかもしれないが。あれってオリジナルは世界に一つしかないだろうしな。

 

「……そう考えると、砂漠って意外と何もないんだな……名所的なものが」

 

 無理やり挙げようとすれば、サボテンや蜃気楼、流砂など砂漠ならではのものは思いつくが、名所になりそうな要素というとピラミッドとオアシス以外には何も思いつかない。まぁ、砂漠ってそもそも観光地じゃないから名所になりそうなものがないのも仕方がないかもしれないが。

 

「そうです? ピラミッドとオアシスがあれば十分だとチベスナさんは思いますよ」

 

 しかし、感慨深さをにじませて呟いた俺に、チベスナは逆にあっけらかんと返してきた。

 

「へいげんちほーも、じゃぱりしあたーとライオンのお城くらいしか名所はなかったと思いますよ。……あ、あとヘラジカの寝床も」

「そんなついでみたいな……。……でも、そうだな」

 

 言われてみれば、その通りではある。

 確かに平原地方には名所になりそうな平原由来の場所はなかったな……。そのかわり、全体的にピクニックやバーベキューに最適って感じではあったが。

 そう考えると、平原地方に平原と関係のないアトラクション類がけっこうあったのも納得だな。平原本来のロケーションからアトラクションに脹らませられるようなものがなかった、ということなのだろう。

 平原っていうと植生の幅も広いから、『平原の植物園』みたいなコーナーを作るのも難しいだろうしな。

 

「とすると、どの地方でも地方の環境由来のアトラクションと関係ないアトラクションが混在して、地方ごとのアトラクション量が一定になるように調整されてる、って感じなのか……? 意外と考えられてるなぁ」

 

 確か地下迷宮なんかは正式オープン前だったって話……だったと思うし、あのままジャパリパークが平和に運営されてたら多分もっとアトラクションがいっぱいになってたんだろうな。

 

「チーター、分かるように」

「ジャパリパークを作ったヤツは色々と考えてるんだなぁってことだよ」

 

 そしてチベスナの要約催促もいよいよ雑になってきたな……。

 

「…………チーター、そろそろ暑くなってきませんか?」

「ん……まぁ、確かにキツくなってきたな……」

 

 言われて、俺は天を仰ぎ見てみる。

 太陽はもう既にかなり高いところまで上ってきており、気温もだいぶ高い。途中何度か休憩を挟んでいるので疲れてはいないが、そろそろピラミッドが見えてこないと気温的にも辛くなってくるな……。

 時間的にも、そろそろ着いておかしくない頃なんだが……。

 

「ちょっと休憩入れるか? いや、これ以上時間かけすぎると本格的に暑さがヤバくなりそうだからな…………、…………ん?」

 

 と。

 そこでチーターの研ぎ澄まされた視覚が、前方に何かを捉えた。

 岩で作られたらしき、伏せた姿勢の四足獣のあれは…………、

 

「顔が人間? あれ…………スフィンクスか?」

 

 えぇ……スフィンクスって。

 あれか、平原地方の城みたいな感じで、砂漠にある文化をモチーフにしたモニュメントか何かなんだろうか。

 

「すふぃんくす……ってなんです?」

「ピラミッドの隣にある、顔がヒト、身体がライオンになっている……像? だと思う」

 

 『何』って聞かれると、俺もちょっと答えづらいな……。スフィンクスが何かなんて俺も詳しくは知らないし。正直ピラミッドの添え物くらいの認識しかないぞ。

 

「ほら、あれだよ」

 

 そうこう言っているうちにチベスナでも目視できるくらいまで近づいてきたので、俺はスフィンクスの方を指さして見せた。

 スフィンクスを改めて認めたチベスナは、こくりと納得したようにうなずく。

 

「なるほど。つまりこれは……スフィンクスというフレンズというわけですね」

「いや確かに人面ではあるけども」

 

 スフィンクスはスフィンクスだよ。どっちかというと元動物枠だから。

 っていうかお前、ミイラといいフレンズにするの好きな。連中、実在してないんだけど……。

 

 そこまで考えかけてスフィンクスに近づいた俺はふとあることに気づいた。

 このスフィンクス……妙にヴィジュアルのデザインが可愛らしいというか、俺の記憶にあるスフィンクスよりもデザインがこぎれいというか……。

 ひょっとして、なんかモデルでもあるんだろうか? 案外、スフィンクスのフレンズが実際に存在していた可能性もあるな。よく考えたら前世の世界じゃ実在してなかったツチノコもこっちではフレンズ化してるんだし。こっちの世界ではUMAだけでなく神話上の生物とかも普通に存在している可能性はある。

 

「そして――」

 

 さっき、俺はこう考えたはずだ。

 『スフィンクスはピラミッドの添え物』。つまり、ここにスフィンクスがあるということは。

 

「……なんとか、暑さが厳しくなる前に辿り着けたな」

 

 すぐ近くに、スフィンクスが添えられるべき主役もあるということだ。

 

 スフィンクスの裏手へ回り込むと、少し歩いた先にそれはあった。

 石を大量に積み上げて作られた、四角錐の建造物。見上げるほどに巨大なその威容は、まさに歴史に名を刻む偉業の代名詞に相応しい迫力を伴っていた。

 金字塔(ピラミッド)

 それが、俺達の目の前にあった。

 

「おお! これがピラミッドですか。ついにチベスナさん達もピラミッドを探検できるのですね……。これは胸が高鳴ると思いますよ」

「……俺は、なんか罰が当たらないか心配だなぁ」

 

 ピラミッドの呪いだっけ? 盗掘者が次々と不幸に襲われたっていう……。さすがにジャパリパークのピラミッドは本物ではないからそういうのはないと思うが。

 

「ふふん。平気だと思いますよ。ミイラが出てきても、たぶん話してみたら意外と良いヤツだと思いますよ」

「そういう話じゃないんだが……」

 

 あと、そこは出てきてもなんとかしてみせるとかそういうのじゃないのか。チベスナらしいといえばチベスナらしいがな。

 まぁ、ともかく。

 

「今度こそ、地下道への入り口がちゃんとあるのを祈ろう……」

 

 もしなかったら……。

 今日はここで一泊して、明日朝イチでダッシュで高山まで行くか。




◆スフィンクスの豆知識
一般的に有名なのはギザの大スフィンクスと呼ばれる彫像ですが、スフィンクスをかたどった彫像自体はほかにも色々あるらしいです。無論チーターはそんなこと知らないので、スフィンクス=ギザの大スフィンクスそのものをさす、と思っているようです。

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