畜生道からごきげんよう   作:家葉 テイク

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この話は元々前話の終盤に入っていた話だったのですが、長くなったので分割し、次に来る話のアバン(?)と連結させました。

評価数100ありがとうございます。これからもまったり頑張っていきますのでよしなに。


二四話:単眼大収穫祭

「さあ、次の食べ物はどこだと思いますよ。まだまだもっと収穫したいと思いますよ」

「植物園は食べ物の博覧会じゃないからな?」

 

 何か勘違いしているらしいチベスナに言い返しつつ、俺は先ほどのドラゴンフルーツ収穫で手に入れたドラゴンフルーツを手で弄んでいた。…………生ものだからオアシスの外まで持っていくのは危険だが、別にこの施設内なら腐る心配もない。俺だっておいしいものを食べながら歩きたいのは同じだ。

 

 そんな俺達は現在、受付のある冷房の利いた館に戻ってきていた。

 このオアシス植物園、文字がかすれていたのでどこに何があるかはいまいち判然としないものの、この館から三方向に道が分かれていたからな。

 案内板によれば植物園内の屋内展示物はこれが全てで、後は屋外コーナーらしい。さっきのサボテンの館は真ん中の扉だったので、屋内コーナーは両側の扉が残っているわけだが……。

 

「どっちから行く?」

「うーん……。くんくん……匂いでは分かりづらいと思いますよ」

「空気が混ざらないように気密性は高いだろうからなぁ」

 

 そりゃ、分かりづらいだろうな――と思いつつ言うと、チベスナの頭からはてなが飛び出していた。気密性とかチベスナには分からんか。

 

「扉がきっちりしまってるから、匂いも入ってこないってことだよ」

「ああ、なるほど。それならそうとしっかり言うといいと思いますよ」

 

 最初からそう言ってんだよなぁ……。お前が理解できてないだけなんだよなぁ……。

 

「じゃあ……左から行きましょうか。なんとなく」

「んー」

 

 どうせどっちにも行くつもりではあったので、俺は適当に返事をしながら、左の扉に手をかける。

 ガラス戸越しに見た感じ砂漠に生えてる木の植物園みたいだ。どことなく砂というより土っぽい地面な感じがするが…………。……そういえば、砂漠といっても本当に砂ばかりの砂漠は数少ないとかなんとかって話だったっけ。リアルな砂漠の生態なのかもしれないな。

 

「いざ、新たな植物園へ、っと」

 

 そう(うそぶ)きながら、俺は扉にかけた手に力を入れた。

 ギィ、とガラスが擦れる音をあたり一面に響かせながら、扉が開く――――。

 

の の の の の の

 

さばくちほー

 

二四話:単眼大収穫祭

 

の の の の の の

 

「――――!」

 

 その瞬間。

 場の『空気』が大きく変化した。

 …………匂う。この匂いは、何度も嗅いだ匂いだ。ヤツらの……背筋に嫌なものが這い回るような匂い。

 

「…………セルリアンだ。いるぞ。それも大勢だ」

 

 声を押し殺して言うと、チベスナも表情を硬くしながら頷いた。

 なぜセルリアンがここに……? ……いや、そこを考えることに意味はないか。それより今重要なのは、ここに複数のセルリアンがいて、そして俺達はここに入るときにけっこう大きな物音をたててしまった――即ち、向こうも俺達の存在を認識しているという点だ。

 さて……ここでの最適解は、迷わず扉を閉めて回れ右をして退散すること……。

 …………だと思ってしまいがちだが、実はそうではない。

 

「ど、どうします……? この感じ……五体以上はいそうだと思いますよ。たった二人で相手をするのは……。逃げた方がいいと思いますよ」

「いや。もう連中にも俺達の存在は気づかれてる。ここで逃げてもヤツらは俺達を追いかけるだろう。それも、施設を破壊しながら、だ」

 

 施設を破壊しながら追いかけられては、あたり一面砂漠のこの状況、俺達にやり過ごせるような場所はないに等しい。

 一応、チベスナを抱えて走って逃げることも可能といえば可能だが……。…………外は猛暑。スタミナに乏しい俺が、足場の悪い環境でどれほど走れるかは未知数だ。

 ……それに。

 

「…………ここ、壊されてしまうんですか? それは……ちょっといやだと思いますよ」

「俺も同感」

 

 なるべくなら、此処は壊さずになんとか切り抜けたい。まだろくに休憩もできていないことだし、ここで命からがら逃げきって……っていうのは、精神的にも疲れがひどくなるだろうし。

 何より、この施設。フレンズにとってはだいぶ暮らしやすい環境だ。ひょっとしたら、今も此処にフレンズが来ているかもしれない。セルリアンが暴れ出したら、そっちまで危険に晒してしまう可能性だって十分にありえる。

 …………その危険性を回避するためには、ここでセルリアンを潰す算段をどうにか練らねばなるまい。

 

「チーター、何かいいアイデアありますか?」

「…………今から考える」

 

 正直、敵の数も正確には――匂いの濃さから言って、五体以上一〇体未満って感じだとは想像できるが――分からないうちに作戦を考えるのは難しい。難しいが、ここで策を思いつけなければ、勝算のない後味の悪いギャンブル逃走劇しかなくなってしまう。

 何か、何かないか……。

 

 状況を整理しよう。

 セルリアンは視覚と聴覚を持ち、フレンズを優先的に狙う性質を持つ。その行動に知性はなく、単純に直進して捕食しようとする傾向が強い――のは間違いないと思う。前にその性質を利用して、衝突させて同士討ちさせたこともあったし。

 ただ、この植物園は通路が平原ほど広くはないから、同士討ちさせるだけのセルリアンを一か所に集めるには少し場所が足りない。つまり俺のスピードで翻弄するだけでは決め手に欠ける、ということになる。

 

「チーター、セルリアンの匂いがだいぶ近くに……!」

 

 ただ、別にこの狭い通路でもセルリアンを躱せないってわけではない。狭かろうがセルリアンは俺からすればノロマだ。地面がしっかりしている以上、俺のスピードに不安材料はない。

 また、木を展示する植物園コーナーという性質上、天井もそれなりに高い作りになっている、と。

 とすると……。

 

「…………よし」

「お。何か思いつきましたか?」

 

 食い気味に問いかけてくるチベスナに頷き、俺はこう言った。

 

「チベスナ。お前今から…………吹っ飛べ」

 

の の の の の の

 

 混乱しているチベスナを状況説明もそこそこに()()()()()()俺は、植物園の中に入って、セルリアン達を待ち構えていた。

 どうやらこの植物園は『砂漠の高木』コーナーというらしく、植物園中比較的背の高い木が多く並んでいる。ここから見える限りでは……『ポプラ』や『スナナツメ』というプレートが目に入った。

 ……しかし、砂漠にもこういう木って育つんだな。いったいどうやって栄養とか得てるんだろうか…………。

 

 と。

 そんな益体(やくたい)もないことを考えていると、通路の奥から、黄土色のセルリアンがぞろぞろと現れてきた。

 連中の身体は、球体を基本として下半分にベールのようなパーツが生えている不思議なスタイルだ。ぱっと見は砂山。揺らめいている姿は流砂のような印象だが……流砂がセルリアン化したとか?

 セルリアンができる仕組みって正直よく分かんないんだよな……。確か、アニメで出てきた黒セルリアンは四足歩行のロボットがセルリアン化したものっていう考察があったような気がするが。

 

「…………まぁいい。それより、こっちだな」

 

 呟くことで、俺は目の前のセルリアンに意識を集中させる。

 通路に湧いて出てきたセルリアンの数は、全部で九体。大きさはそこそこあって、大体直径一メートル強程度といったところか。このくらいならば俺の速度で十分翻弄できるレベルであるとはいえ、油断は禁物だ。

 

「――――さて、チベスナ……お前が頼りだぞ!」

 

 言った瞬間、世界の時間が停滞する。

 緩やかな動きのセルリアン――砂セルリアンとでも呼ぶか――に走り寄った俺は、突如加速した俺の動きに対応できない砂セルリアンの一匹に蹴りを食らわして吹っ飛ばす。石を破壊するほどの攻撃は、数的にちと厳しいが……出会い頭に蹴りの一発を食らわせるくらいなら全然余裕だ。

 蹴っ飛ばしたことで砂セルリアンは後続の何匹かと衝突し、それによってわりといっぱいだった通路に、俺が移動するだけの隙間が生まれる。

 

「ふッ……!」

 

 その隙間に体をねじ込むようにして、俺は砂セルリアンの間を縫って移動する。

 流石に高速であろうと至近距離を通り抜けられればセルリアンの優先攻撃対象は完全に俺に集中するらしく、後ろを向いて確認してみると、全てのセルリアンは一拍遅れて俺の方へと振り向いてくれた。

 それを見た俺は、一旦スピードを落とす。俺の全速で移動すると、速すぎてセルリアンが俺のことを見失ってしまう可能性があるからな。あくまで、連中の注意は完全に俺に引き付けていなくてはならないのだ。()()()()()()()()()()()()

 

「どうした単細胞ども! そんなノロノロした動きじゃあ、追いつく前に地球を周回しちまうぞ!」

 

 言いながら、しっぽで地面を叩いて見せる。

 ……そしてそれが、チベスナへの合図になった。

 

「とおおおー!」

 

 真剣な、なのにどこか気の抜ける緊張感に欠けた雄叫びの音源は、頭上。

 砂漠の高木コーナーの並木道を形作っている、木の一本の上だった。……不意打ちだから雄叫び上げんなって言っておいたのに、あのバカ……。

 

「チベスナさんの力を見るといいと思いますよ!」

 

 頭上からセルリアンの群れのど真ん中に落下したチベスナは、そう言いながら右手をセルリアンの核へと振り下ろす。ぱっかーん! という小気味のいい音が連続していく……が、いかんせん手が遅いな。

 

「ったく……せっかくお膳立てしてやったというのに」

 

 ぼやきつつ、俺は再度加速する。

 チベスナが下りた時の木々の揺らめきすらもスローになっていく中、俺は粛々とチベスナの取りこぼし――突然の襲撃に混乱しているのか、俺へのマークは完全に消えていた――を処理していく。

 

 …………これこそが、俺の立てた戦略だった。

 俺一人ならば、確かに決め手に欠ける。しかし俺が注意を一手に引き受ければ、セルリアンは隙だらけ。つまり、チベスナを事前に木の上に投げ飛ばすなどして隠れさせ、俺が注意を引き付けていれば、上にいるチベスナは無防備のセルリアンの核を狙い撃ちできるという寸法だったのだ。

 まぁ、実際には飛び掛かる直前にチベスナが雄叫びを上げてしまったことでその存在をセルリアンに気づかれ、しかも微妙に手際が悪かったせいで本来俺が引き受けるはずだった注意を引き付ける役が途中でチベスナと入れ替わってしまったが……ま、きっちりと、

 

「……ふぅ。なんとか片付いたか」

 

 ――砂セルリアンは全滅させることができたし、良しとしておこうか。

 

「で、どうだったチベスナ。もっと収穫したいって言ってたが、セルリアンの収穫は楽しかったか?」

「チベスナさんはもっと美味しいものが収穫したかったと思いますよ……」

 

 何を言う。目立ちたがり屋的には十分オイシかっただろ?

 

の の の の の の

 

 その後高木コーナーを探索してみると、壁面の一部が老朽化のせいか破壊されているのを発見した。くぐれば普通に通り抜けられる感じだったので、おそらくここからセルリアンが潜り込んでしまったのだろう。

 なんとなくそのままにしておくのもはばかられたので、瓦礫を積んでその上から掘った土を盛っておいた。ラッキーも実の管理をするならこういうところもちゃんと保全してほし、……いや、セルリアンがいるから危なくてできなかったのか。やっぱセルリアンは害悪だな……。

 

 どうやら試食コーナーは知名度のあるドラゴンフルーツが特別だったらしく、ドラゴンフルーツ片手に探索してみたもののほかのコーナーに試食コーナーはついていなかった。一応高木コーナーには木を模したアスレチックとかもあったのだが、チベスナのお気に召した感じではなく。

 

「……低木コーナーも微妙だったと思いますよ」

「そうか? 俺は砂漠盆栽コーナーけっこうおもしろかったけど……」

「あんなのどこがいいのかさっぱりだと思いますよ」

 

 やれやれ、風情を理解しろよ。

 

 ……ということで最後の一つ、低木コーナーも微妙の烙印を()され、屋内コーナーを制覇した俺達はぼんやりと館の外に出ていた。

 このオアシスの施設で残っているのは、案内板からして屋外コーナーのみ。地下道への道があるとしたら、そっちだし。

 案内板を見る限りだと、屋外には何やら水場的なものがあるような感じだったが、果たしてどんなもんだろうか。

 

「……どんなもんだろうか、っていうか、オアシスと言えばまず水場だよな」

 

 なんとなく植物園の方に意識が集中していて忘れていたが、オアシスっていうのは植物よりも水の方がメインだろう。なんで俺達は半日くらいかけて植物をじっくり見たりしていたんだろうか……。

 

「水場ですか。そういえばえいがを見てるときも思ったんですが、どうして砂漠に水場ができるんでしょう? 雨も降らないのに」

「なんでだろうなぁ……。多分、地下水が出てきてるとかだと思うが」

「地下水はなくならないんですか??」

「それは俺も分からん。水があるところから流れてきて補給されてる……とかじゃないか?」

 

 こういうのって、多分地質学とかの専門的な話になってくるだろうからな……。ド素人の俺には、想像で適当に理屈をこねくり回すことくらいしかできん。水場のプレートとかで解説してくれるのを期待しよう。多分ジャパリパークの説明好きな感じなら説明してくれると思うし。

 

「はぇー……。まぁ、どこだって水は湧くものですしね。チベスナさんが前に住んでいた岩山も、雨なんて殆ど降らないのに湧き水が出ていたところがあったと思いますよ」

「お、そうなのか」

 

 チベスナのもともとの住処の話はちょっと気になるな。どんなところなんだろう。

 

「ええ。お水は貴重でしたから、いつも誰かしらがいたと思いますよ。たまに鳥のフレンズが遊びにきたりとか……」

「賑やかだなぁ……」

 

 そういえば、サバンナ地方でも水場はいつも場所取りになるとかサーバルが言ってたような気がする。

 

「……でも、だとすると今のところこのオアシスにフレンズがいないのは、なんでだろうな…………」

「ここに、フレンズがいない理由ですかー?」

 

 などと言っていると。

 

 不意に、後ろから間延びした声がかけられた。




チーターの対セルリアン戦略は、『目論み自体は失敗したが地力の高さのお蔭で強引に成功させた』という感じです。
この辺にヒトのフレンズ(閃き特化)であるかばんちゃんとの差を感じていただければ。

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