畜生道からごきげんよう   作:家葉 テイク

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「さばくちほー」でバスの床が熱かったときのさばんなコンビの反応、サーバルちゃんはガチで熱がってるけどかばんちゃんは「サーバルちゃんが凄く熱がってるからとりあえず熱がってみたけど、あんまり熱くないな……?」って感じなんですよ(ぼんやりしててかわいい)。
ということを踏まえてご覧くださいませ。


さばくちほー
二二話:灼熱の道程


 平原地方、その出口…………そして同時に、砂漠地方の入り口。

 俺とチベスナは、ある種の感慨を抱きながら、二つの地方の境となるゲートの前に立っていた。

 俺は平原の出身。チベスナはどうも高山の出身みたいだが平原――正確にはジャパリシアター――で暮らしてかなり長い。もちろん二人とも砂漠地方になど行ったことはないわけで、今から向かうところは正真正銘未踏の地でもあるわけだ。

 当然、砂漠の暑さなど未経験……俺の心の中はわくわくと不安がない交ぜになった、不思議な気分だった。

 その中の弱気だけを押し殺して、俺は意気揚々と一歩前に踏み出す。

 

「さあ――――行くぞ、砂漠地方!」

「了解だと思いますよ!」

 

 そして。

 

 俺達が、ゲートを越えて文字通り砂漠地方に足を踏み入れた瞬間。

 

「あっっっっっっっつ!?!?!?!?」

 

 チベスナが()()()()()

 

 

「……は?」

 

 遅れて、俺の頬をそよ風が撫ぜる。

 チベスナの悲鳴めいた声にワンテンポ遅れて視線を向けると……チベスナは、今通って行ったばかりのゲートから平原地方に逆戻りし、足を押さえてのたうち回っていた。突然のことに、俺は思わず呆然とその様子を眺めてしまう。

 

「あっつ! あつい! あつ……あつい!! あついと思いますよ!」

「暑いって……そりゃまぁ砂漠地方だし暑いだろ。そんなに慌てるほどのことか……?」

 

 思わず首を傾げる俺に、チベスナは血相変えて足をさすりながら、

 

「そっちのあついじゃないと思いますよ! 地面が! 地面が熱いと思いますよ! なんですかこの地面は! 太陽でも埋まっているのですか!」

「いや、そんな大げさな……、」

 

 思わず呆れかけた俺だったが……言いかけた言葉を飲み込み、思いなおす。

 そういえばそうだったな。確かアニメでも、サーバルが床の熱さに飛び跳ねてたっけ。確か、フレンズの衣服は意識しなければ毛皮と同じ機能を持つって話だったから…………チベスナは素足で砂漠に足を踏み入れた的なダメージを負ったわけか。

 そして当然ながら、俺は靴を履いているという概念を理解しているわけだからそんなに熱くない。……いや、熱いが。熱いが、我慢できないレベルではない、といったところか。

 

 うーん、しかしそうなると、どうするか。このままだとチベスナは砂漠地方に足を踏み入れることすら危険ということになるので、どのみち一泊して明日の早朝に砂漠に行こうかって話になりかねないのだが……。……いや、そうか。もっといい方法があったな。

 

「というか、チーターはどうして平気なんです……? サンドスターを使ってるのですか? 正直無駄遣いだと思いますが……」

「サンドスター?」

 

 別に今はキラキラはさせてないが。まぁ、今まで散々足をキラキラさせてきたから勘違いするのも仕方ないか。

 

「そうじゃなくて……こういうのは、気の持ちようなんだよ」

「むちゃくちゃ言わないほうがいいと思いますよ。これが気持ちでどうにかなるんだったら、ハンターはいらないと思いますよ」

「そうじゃなくて。……チベスナ、さっき湖畔で話したこと覚えてるか?」

 

 俺の問いかけに、チベスナは少しだけ要領を得ない様子で首を傾げていたが――やがて、該当する記憶に思い至ったらしい。すぐにはっとした表情を浮かべた。

 

「ああ、あの、毛皮が脱げるという衝撃の事実ですか」

「そう。正確には、毛皮じゃなくて服だがな……」

 

 言いながら、俺はチベスナの靴を指さす。

 

「それ、さっき脱いでたろ。それを意識しながらもう一回歩いてみろ。だいぶ熱さが緩和される」

「なん……ですって……!? チーター、嘘は良くないと思いますよ」

「嘘じゃねぇよ。っていうか、じゃなけりゃ俺もお前と同じことになってただろうし」

 

 試しにやってみ、と無言で促してみると、チベスナは半信半疑といった様子で、踏み入れるというよりつま先で触るような調子でおそるおそるゲートの境を跨いだ。

 

「お……おおお。本当に熱くないと思いますよ。肉球も痛みません」

 

 チベスナは感心したように行って、地面を何度も踏みしめていた。よしよし、思った通り。これで最低限砂漠地方の旅は続行できるな。

 ……って、今チベスナまたなんか意味分かんないこと言ったな?

 

「……肉球?」

「足の裏にあると思いますよ、ほら」

 

 言いながら、チベスナは自分の足裏――靴底を指差す。そこには本当に、肉球があった。否、靴底に肉球っぽいデザインが施されていた、というべきか。

 ……いや、いうべきか、じゃねぇよ。

 

「え、えええええ……肉球て……つか、靴底ってそんなデザイ……マジだ! 俺のにもある!!」

「そんな当たり前のことに何を今さら驚いているんです?」

 

 俺にとっては青天の霹靂だよ! マジかよ、フレンズの靴底ってそうなってたんだ……。そりゃ地面が熱く感じるわけだよ。肉球剥き出しってことだからな。

 

 ただまぁ、そんな問題も無事解決されたことだし、ここからは特に問題もなかろう。とっとと行くとするか。

 

「ところでチーター、さばくちほーに入る前にチベスナさんの水筒を返して欲しいと思いますよ」

「だめ」

 

 お前すぐ全部飲むからな。

 

の の の の の の

 

さばくちほー

 

二二話:灼熱の道程

 

の の の の の の

 

「おみずーおみずー」

「だめ」

 

 そして道中。

 俺は、恨めしげにこちらを睨むチベスナを適当にいなしながら、オアシスへの道をひた走っていた。

 アニメでは砂しかないだだっ広いエリア……という印象だったのだが、意外と砂漠地方、文明が息づいている。

 というのも、確かに見渡す限り砂ではあるのだが、一応点々と、サボテンなどの砂漠の植物を模した標識が立っているのだ。

 まぁ時間が経っているせいかけっこう朽ちているのでどんな標識かは分からないのだが、それでも最低限『ヒトが進むことを想定されているであろう道筋』は標識の配置から読み取れる。お陰で、地図と相まって既に地図上での自分の位置は既に把握済みだ。

 

「けっこう歩いたな。この分だと……オアシスまではあと二〇分くらいってとこか」

 

 そろそろ俺も喉が渇いてきたので、チベスナに水筒を渡しつつそう呟いた。

 ちなみに、チベスナにはちゃんと『一回の水分補給につき三口分』という取水制限を言い渡してある。じゃないと一気に飲みかねないからなコイツは。

 

「……ぷは。まだ歩くんです?」

「まだ二時間も歩いてないだろ、多分」

 

 水を飲み終えてぶーたれるチベスナから水筒を回収しつつ、俺は軽く言い返す。途中で休憩を何度か挟んでるので、それを込みで考えれば三時間以上歩いてるとは思うが。

 

「おみずー。お水を返すといいと思いますよー」

「もうすぐ着く頃だ。あとちょっとだけ頑張れ」

「うー……砂が多すぎると思いますよ……。靴の中に入ってきてジャリジャリしますし」

「それは俺も分かる」

 

 こればっかりはしょうがない部分だけどな。

 靴を毛皮と認識したままでは、砂の熱をモロに受けることになる。だが、靴を靴と認識すると、今度は靴の中に砂が混じってしまうわけだ。

 解除→再発現で砂を取り除こうにもまたすぐ入りこんでしまうのでイタチごっこだから意味がない、というのと合わせて、どうしようもない問題だった。オアシス着いたら取ろうな。

 

「せめて砂漠に車道でも整備してくれてたらよかったんだがなぁ……」

 

 そうしたら、車道の上を歩けたから大分歩きが楽になっていただろうに。

 というか、パークの移動ってバスが基本だから車道の整備は必須じゃないか? 湖畔にも車道があったし、全く整備されてないってわけではないんだろうが、なんで砂漠にそういうのがないのか……。雪山地方みたいなパーツもないし。バスのオフロード性能に頼りすぎじゃないか?

 …………いや、案外実は整備されていたのかもしれない。地下に。地上は熱いから、砂漠地方での客の移動は基本地下だったのかもな……。そう考えると、アニメでの砂漠地方の移動だけあんな風だったことにも納得がいくし。

 それだと砂漠での動物の生態が確認できなくて、『それって動物園としてアリなのか?』という疑問は生まれるが、地下に道やアトラクションへの入り口があったことを考えればそう外した推理でもあるまい。

 それに……もしそうだとしたら、これから行くオアシスは確実にヒトのための施設。地下道への入り口も間違いなくあるはずだ。

 

「しゃどー、ですか?」

「湖畔の近くにも、硬くて歩きやすい道があったろ? ああいうのだよ」

「ああ、なるほど。あれはしゃどーと言うんですね。チーターはやっぱり色々詳しいと思いますよ」

「チベスナも、俺の話聞いてるからわりと詳しくなってきてる気がするがな……」

 

 この島を一周する頃には意外と博士並みの博識になっている可能性も……嫌だな、博士並みに博識なチベスナ。なんか生意気って感じだ。

 ……正直、ヒトの知識をフレンズ達に教えるのはアリなのかな? と不安に思うことはたまーにある。なんか本来知り得ない文化を教えちゃうのはいいのかな的な。

 ただ、そういうことを言い出すと面倒くさいし、教えたところでそれが悪影響になるかどうかも分からないので、不安に思いはしても改めるつもりはない。それに、怒られるような団体もないしな。

 

「やはりですか? チベスナさんも最近かしこさの迸りを感じつつあったと思いますよ。むーびーすたーのめざめ……」

「知識量と賢さは比例しないからな」

 

 なんかよく分からない感じで感じ入っているチベスナは放っておいて、俺は遠方を目をこらして注視してみる。

 なんだかんだで喋りながら結構歩いたから、そろそろチーターの視力を以てすればオアシスが見えてもいい頃合いだと思うのだが……。

 

 と。

 

 陽炎に覆われた地平線に、ゆらりと一筋、砂色の景色とは違う、緑の色彩が混じったのを、俺の目は捉えた。

 ありがちな蜃気楼とかではない。正真正銘のオアシスだ。まぁ、仮に蜃気楼だとしても、フレンズの足なら誤差程度になってしまいそうだが。

 

「チベスナ、あったぞ! オアシスだ!」

「ほんとうですか! でかしたと思いますよチーター!」

 

 二人で手を取り合って喜び、俺はじっと目をこらしてみる。目測で……大体五〇〇メートルといったところか。あそこまでなら、俺達の足ならすぐだな。

 

「チーター、どっちが先にオアシスに辿りつくかかけっこだと思いますよ!」

「いやお前、俺と競走すんの?」

「一〇数えるといいと思いますよ!」

 

 ナチュラルにハンデつけやがったこいつ。

 まぁいいか。いーち、にーい……。

 

「さあ、行きますよ! 悪路に強いチベスナさんの力を見せてあげると思いますよ!」

 

 そういえばコイツ悪路が得意なんだっけ。小賢しい真似を……。速さで俺に勝てると思うなよ。

 ……確かにこの足場、悪路にそこまで強くないチーター的には厳しいロケーションだ。同時ならともかく一〇秒のハンデを乗り越えるのはなかなか厳しいだろう。

 しかし、それは()()()()()()()の話でしかない。

 よく、超素早いキャラが水の上を走ったりすることがあるが……それと同じことを俺もすれば良い。

 足が砂の中に沈み込む前に次の足を出す。一見荒唐無稽だが――俺ならできる! …………多分!

 

 さあ、チーターの真骨頂を見せてやる!

 

の の の の の の

 

「あ、チーター来ましたね。意外と早かったと思いますよ」

「ぜぇ、ぜぇ…………」

 

 まぁ無理だった。

 そもそも脚力が強いから足が速いのだから、加速最大の状態から行くならともかく速度ゼロの時点から踏み込んでもその踏み込みで地面に足が埋もれるだけだった。

 お陰で走ることにすら四苦八苦……それでも大して遅れてないあたりチーターの脚力って凄いとなったが。

 

 ともあれ、今、俺達の前には緑に覆われた施設が広がっていた。

 オアシス……というにはかなり植物が密集している上に、立派な建物もある。これじゃオアシスというよりは、砂漠植物の植物園って感じだな。まぁ、その方が地下道への期待も高まるってものだが。

 

「ここがオアシスですか。えいがで見たのとはちょっと違いますね」

「まぁ、多分砂漠の避暑施設だろうしなぁ。陽射しを避けられなかったら意味がないだろうし」

 

 あ、内部の空調が生きてるかちょっと心配になってきたぞ。……ジャパリカフェの照明も生きてるくらいだから大丈夫だとは思うが。

 えーと、入り口は……。あ、あったあった。やはり内部は空調がきいている設計になっているんだろう。出入り口は開けっ放しではなく大きなガラス戸になっていた。

 

「さあ、いざオアシスだと思いますよ。かかってきてもいいと思いますよミイラども」

「ミイラはオアシスには出ないだろ……」


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