畜生道からごきげんよう   作:家葉 テイク

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湖畔を後にした(今回から砂漠地方とは言っていない)。


二一話:そして砂漠へ

 ビーバーと別れた俺達は、そのまま湖畔のある平原地方の次――砂漠地方へ向かっていた……のだが。

 ここで一つ、誰もが想定もしていなかったある大問題に直面することになってしまった。

 その大問題とは――――。

 

 

「チーター! もう! お水がないと思いますよ!!」

「だからあれほど水は節約しとけって言っただろ!!」

 

 …………チベスナのこらえ性が、思った以上になかったということだった。

 

「だってだって、いつでもお水が飲めるんですよ? それはもう……飲みながら歩いちゃうと思いますよ。むしろなんでチーターはそんなに我慢できるんですか? 汗かかないからですか?」

「単純に、砂漠でたくさん水を飲むって分かってるから我慢してるんだよ!」

 

 水筒は水を入れるとだいぶ重たかったので、紐をかけて各自携帯しておくスタイルにしていたのだが……それが逆に仇となった。水筒を常備したチベスナは、別に飲まなくてもいいタイミングで水を飲み、結果として二時間もしないうちに満タンだった水筒の水はすっかり空になってしまった。

 もちろん俺の分の水は残っているので、まぁ砂漠地方に入っても俺の水を分け与えることでなんとかやりくりしていくことは可能だと思うが……その場合は『なんとかやっていける』というだけで、少なくとも余裕をもって砂漠地方を踏破できるわけじゃない。確実に喉の渇きに耐えながら移動したりしなければいけない。それじゃあ水筒を手に入れた意味がないだろう。

 

「どうしましょう……このままでは、さばくちほーでチベスナさんが干からびてしまうと思いますよ」

「流石のお前でもそれは分かるんだな」

「チベスナさん、えいがで見ましたので。みいらは怖いと思いますよ……」

 

 心配しなくてもミイラにはならないが。

 あとミイラが出てくる映画って、けっこうジャパリパークの映画の種類豊富だな。とはいえチベスナが色んな種類の映画を見たりできるほど映写機器を使えるとも思えないが……いったいどういう経緯で見てたんだろうか。案外博士に教えてもらった――みたいな感じかもしれないな。

 だとすれば、カメラの使い方も教えといてやってくれよ……と思うが、そうしたら今頃俺はチベスナを旅の道連れにしていなかったわけで、なんというか、色々と難しいな。

 

「でも、どうしますか? 水がないままさばくちほーに入るのは無謀だと思いますよ」

「無謀だと分かってるならなんで水飲んだし……」

 

 呆れて呟きながら、俺は地図を広げ、その中の一部に視線を落とす。

 

「…………しょうがないな」

 

 俺の視線の先には――――平原地方、その中を走る何本かの『水色の線』の一本があった。

 つまりは。

 

「川、探すぞ」

 

の の の の の の

 

こはん

 

二一話:そして砂漠へ

 

の の の の の の

 

「川……ですか?」

 

 俺の言葉に、チベスナは真意をはかりかねていますという感じで首を傾げる。……そうだよ。川だよ。

 いまいち話にのっかれていないチベスナに説明する為、俺は地図を広げながらチベスナを脇に招き寄せる。

 

「見ろ。この地図。ここが俺達がさっきまでいた湖。この湖は、そこに繋がる川もあったが……その川は砂漠地方へと続く道を通っているうちに外れちまってる。で、俺達の現在地はここ。だから、最寄りの川はこっちの……」

「なるほど! 右にあるところの川が一番近いということですね!」

「東な?」

 

 右だと南方向になるから。

 

「まぁ、この地図の縮尺だと……大体二キロかそこらってとこか」

「しゅくしゃく?」

「あー…………説明難しいな」

 

 縮尺。説明しろって言われると、どうしても長くなるな……めんどくせぇ。

 

「あ! 今チーター、めんどくさいって思いましたね! きちんと説明した方がいいと思いますよ!」

「はいはい……」

 

 まぁ、チベスナにはこの先地図を見てもらうようになるかもしれないし……一応、説明しておくに越したことはないか。

 

「地図ってのはそもそも実際の地形を上から見た図を、実際よりも小さく描いたものだ。これは分かるよな?」

「はい」

 

 素直にこくりと頷くチベスナ。うむ、まぁこのへんは前にも説明した気がするし分かるだろう。

 

「その時の、『実際の大きさからどれくらい小さくしたか』の度合……これを縮尺という」

「なるほど、分かりやすいと思いますよ。で、その縮尺はどこに書いてあるんですか?」

「いや、書いてない」

「えっ!?」

 

 俺の回答に目を丸くするチベスナ。

 

「だから『大体』って言ったろ。売り物の地図ならともかく、フリーペーパーの地図にいちいち縮尺が書いてあるわけないじゃねぇか。川や道路が書かれてるだけ御の字だよ」

「よ、よく分かりませんが、縮尺が書いてたり書いてなかったり、地図ってめんどくさいと思いますよ」

「それは分かる」

 

 まぁ、実際にパークが運営されていた頃にはもっと設備とかも整っていただろうから、わざわざフリーペーパーの地図をそこまで充実させる意味もなかったんだろうが。

 ああ、ラッキーが旅に同行してくれてればこんなアナログな努力しないでも旅ができたんだろうけどなぁ……。…………俺の前世はヒトですとか言ってみたら案外反応してくれるようにならないかな? なるわけないかぁ、この間会ったとき無反応だったし。

 

「ですが、なんとなくわかったと思いますよ。とりあえず東に行けば、お水を回収できるというわけですね」

「だな。まぁ、本来のルートからは外れるから、約五キロ分の体力と時間が無駄になるが……」

「なぁに、ちょっとくらい砂漠に行く前の準備運動だと思いますよ。気にしない気にしない」

「………………水筒、ちゃんと俺が管理しよう」

 

 静かに決意を固めながら、俺は地図と方位磁針を手に先を進む。コイツに水筒任せてたら、多分また同じことになるだろうし……。

 ともあれ、ここから先は湖畔の前と同じように道なき道だ。地図片手でないと迷ってしまうかもしれない。砂漠で迷子になるよりははるかにマシだが、下手すると旅程が数日単位でずれ込みかねないし、注意しておかないとな……。

 

「さあ、行きますよチーター! まだ見ぬ川が我々を待っていると思いますよ!」

 

 …………でなきゃ、あそこで意気揚々と歩いている馬鹿はちょっと気を緩めるとすぐ何かやらかしそうだしな。

 

「……つか、あんま先に行き過ぎるなよー。お前地図持ってないんだから」

「ふふん。あまりチベスナを見くびらない方がいいと思いますよ。これでも、チーターの場所は匂いとか音ではっきりと分かっているのです。迷うことなどありえませんね」

「へー……そうなのか」

 

 それは純粋に意外だった。俺の方ももちろん耳と鼻はきくが、動体視力の方がずば抜けていいせいか、それでチベスナの位置が分かるってほど正確なものじゃないからな。チベットスナギツネの生態については全くと言っていいほど知らないから、ちょっと侮ってたぞ。

 

「それだけではありません。チベスナさんは水の匂いや音も感じ取ることができると思いますよ。まだいまいち水が流れる音も匂いもしませんが」

 

 そう言って自信満々に胸を張るチベスナ。いや、しないならそんなに迷いなく先行するなよ。

 

 なんてやりとりをしつつ、歩いていくこと数分。

 …………いや、歩きで数分なんて距離じゃないと思うんだが、実際のところ体感時間で数分だったのだから仕方がない。まぁ、フレンズの身体能力って高いからな。

 ともあれ。

 歩くこと数分、チベスナの反応が明確に変化した。そして――俺の感覚器官にも、情報が伝わってくる。

 

「……チーター!」

「ああ、俺も分かるぞ」

 

 『水の匂い』。

 おかしな話だが、確かにそれが感じられた。正確には、水によって生まれる泥や、水辺に生える草の匂い――といった方が正しいか。そんな水を連想させる匂いと、川の流れる音。それが、確かに俺の感覚器官に飛び込んできていた。

 距離的には…………まだちょっとあるな。数百メートルってところか。数百メートル先の水音を聞くって、よく考えたらだいぶ超人的だ。

 

「――ようやく、水場だと思いますよ!」

 

 一足先に茂みをかき分けていったチベスナが、感嘆の声を上げる。

 

 湖畔から続くちょっとした森林地帯を抜けた先にあるのは――やはり、平原地方らしい平原だ。ただ、それは何もないだだっ広い草原があるというわけではなかった。俺達の目の前には、景色を横断するように一本の長い川が流れていたのだ。

 そして、その川を中心として、動物たちの営みもあった。川の中は注意深く見れば魚が泳いでいるのが分かったし、水辺の草には虫やカエルが棲んでいる。草原にも、川から少し離れたところに何かの動物の巣穴が――あ、なんかリスみたいなのが顔を出してる。なんだろうあの動物……。プレーリードッグ?

 

「チーター、何してるんです? さっさと水を汲んで戻るといいと思いますよ」

「お前は風情ってもんがねぇなぁ……」

 

 もっとこの雄大な大自然を感じようぜ。……と言っても、チベスナにはこういうのが日常だから感動も何もないか。まぁ、その分俺は感動しておこう。

 そんなことを思いつつ、俺は川の畔まで歩く。チベスナの方は、その間に川の中に入って水を汲み始めたようだ。湖での経験のせいか、もうすっかり水に対しての苦手意識はないと見える。……いや、元々あったのかは疑問なところだが。

 しかし、今まで意識したこともなかったが、こうしてみるとフレンズ以外の動物たちもいっぱいいるな、当然のことだが。

 

「おおお、綺麗なお水だと思いますよ。ついでに飲んでおきましょう」

「さっさとしろよー」

 

 きゃっきゃとはしゃぐチベスナに俺は適当に呼びかけつつ、周囲の自然を五感で楽しんでいた。

 いやあ、これまでも確かに大自然は大自然だったが、こういう『旅行代理店の宣伝で使われるような分かりやすい大自然』は初めてだからなぁー……。気分が良い。前世でも、山登りとかしてみたかったが色々と忙しくてできなかったし。

 あ、さっきの穴掘りリス(?)だ。やっほー。

 

 しかし、チベスナもよくよく物怖じしないよなぁ……。一度は川で溺れたこともあるってのに、よくもまぁあんな調子ではしゃぎ倒せるもんだ。俺ならもう一度溺れたりしないようにって細心の注意を払っちまうが……。

 ……ん?

 もう一度溺れたりしないように?

 

「……! チベスナ……!」

 

 嫌な予感が、俺の脳内を駆け巡った。

 

 その本能とも呼べる直感に従って川の方を見てみれば――、

 

「ほあっ!? 川底意外と滑っ……あぁぁああああぁぁああぁぁぁあ……」

 

 ちょうど、チベスナが滑って転んで流されているところだった。

 

「……………………」

 

 ……いや! あまりにも鮮やかな流れだったからつい見とれてしまったが、何やってんだあいつ!

 くそ……まさか前に川で溺れていたらしい経験が伏線だったってのかよ! なんだそのさりげないくせに起きる被害はそこそこ甚大な伏線!!

 

「しかもあの川、意外と流れ速えぇ!? もうあんな遠くにいるし!」

 

 見た感じ、溺れているというよりひたすら流されているだけなのが幸いだが……このままだとどこに行くか分かったもんじゃねぇ!

 すぐさま俺は脚に力を込めると、バネが跳ねるみたいにしてその場から駆けだした。いくら流れが速いっつっても、所詮は川の流れ。(チーター)の高速移動ならば追いつくことはもちろん追い越すことだって余裕……!

 

 の、はずだったのだが。

 

「は!? この川……また森の中に入り込んでやがる!」

 

 チベスナが流されていった先を追いかけると、川は湖畔と同じちょっとした森林地帯を突っ切っていた。

 まぁルートのズレが少なくて済むって点では幸いなんだが、いかんせん木が生い茂りやがってるもんだから、障害物が多い。急カーブや障害物回避すらも得意な俺だが、流石に水辺で速度を維持しつつチベスナを追うのは、骨が折れる……!

 

「……! いや、違う!」

 

 そこで、俺の脳裏に電流が走った。

 

 そうだ……そもそも、障害物を馬鹿正直に躱す必要なんかないのだ。何故なら俺には、木くらいなら余裕で切断できる力があるのだから。

 

「……っくそ、世話焼かせやがってあの馬鹿ぁ!」

 

 吠えながら、俺は目の前にある木を斬り倒す。

 綺麗に両断された木はゆっくりと倒れ……そして、隣にある木の枝と絡まってそのまま停止した。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……湖畔の応用だ。高速で駆け上って、そのままジャンプしてやりゃあ……」

 

 木っていう面倒な障害物や水辺っていう足場の不利を無視して、高速でチベスナの先回りができる!

 ただの角度のついた走り幅跳びと侮ることなかれ。速度は――――

 

「弾丸並! だぁああああ!!」

 

 叫びながら、俺は横倒しになった木の上を高速で駆け上る。

 もちろん不安定な足場なのでトップスピードってわけにはいかないが、俺の脚は爪によるスパイクのお蔭で安定しない足場でもそこそこの速度は叩き出せるわけだ。

 ………………ただ、すっごく怖いが。

 

「ひっ……うわあああああああああ!!」

 

 当たり前だ。だって俺の精神性は普通の人間。フレンズと違って、『落ちたら死ぬ』っていう常識があるわけで……まぁこの体なら死なないってことは分かってても、精神は理屈じゃどうにもならないのだ。

 その恐怖を紛らわせるためにあえて独り言をつぶやいたりして自分を鼓舞してみたが……やっぱ怖い! クソ! チベスナの奴、合流したら同じ目に遭わせてやる!

 

 ただ、叫びながらでも俺の高速移動――に付随する視覚強化は健在だ。

 高速で流れていく景色は高速のまま、しかし俺の目ではばっちりと捉えられる。体勢を立て直すのも、そんな状態であれば容易だった。

 なんとか余裕を取り戻した俺は、改めて下の方に目を向けてみる。と……、

 あれは……チベスナ! 今、俺の真下のあたりにちょうどチベスナが流れているのを確認した。一応顔は上を向いているようだったので、あの分なら溺れる心配はないだろう。ひとまず安心だ。

 

 そして…………じ、地面が迫ってきた……! 幸い、落ちそうなところは木の少ない茂みだ。川からは……二〇メートルくらい離れているようだが、このくらいならまだ誤差! 俺は四肢を伸ばして衝撃を殺す為の体勢に入りつつ――――ガササササ!! と、茂みの中に無事着地することができた。

 が、立ち止まっている時間はない! すぐに川まで行って、流れてくるであろうチベスナを回収せねば!

 

「チベスナー! チベスナー、どこだー!? いたら返事しろー!」

 

 ………………。

 呼びかけてみるも、返事はなし。

 ……ひょっとして溺れたか……? だが、先回りしたとはいえおそらく十数秒程度の時間くらいしか稼げていないだろう。待っていればそのうち、チベスナが流れてくるはず…………。

 

 ……一分が経過した。

 あれ? おかしいな、俺ちょっと飛びすぎたか? まだ流れ着いていないのはおかしいと思うんだが……。

 

 …………二分経過。

 やっぱりおかしい。流石におかしい。方向はさっき合っているのを確認したし、チベスナはこの川を流れてくるはず。いったい何があった? 他の動物に襲われたとか? いや、だとしたら大騒ぎになっているはずだ。ほかのフレンズに助けられた? だったらいいが、この川が別のアトラクションの非常口になっているとかでそこからチベスナが入りこんじまったとかだったらかなり厄介だぞ……。

 

「…………どうする。探しに行くか……?」

 

 このままここで待っていても、おそらくチベスナと合流するのは難しいだろう。ここはチベスナを迎えに探しに行った方がいいかもしれない。

 

「おーい、チベスナー!」

 

 声をかけながら、俺は川から離れて歩き出した。

 ……あ、そうだ。そういえば匂いでチベスナの居場所が分かるかも…………いや、アイツ水の中に落ちたんだった。匂いも消えてるか……。大体、俺の鼻ってそこまでよくないし。

 音は…………。

 

「……ィー……ァー…………」

 

 聞こえる! 微かにだが、森林地帯の動物や木々の葉っぱのこすれる音なんかに混じって、チベスナらしき声が聞こえてくる。

 

「チベスナ!? そこにいるのか! 他の誰かも一緒か!?」

「……ますよ! …………に! …………が!」

 

 間違いない。チベスナの声だ。誰かと一緒かまでは分からないが、前方数十メートルあたりからチベスナの声が聞こえる。

 …………ん? 待てよ、なんでアイツ川と全く別方向から来てるわけ?

 

「よかった! 全く、チーターってば勝手に迷子になるんですから……」

 

 なんて思っていると、前方の茂みからチベスナがやってきた。ほっと一安心――という表情だ。いや、その顔俺がするヤツだから。

 

「っていうか、お前だろ迷子になってたの! 川に流されやがって……」

「うっ。それは悪かったと思いますよ。でも、チベスナさんだって学んだと思いますよ。川べりを掘ってそこに手をかけて、よじ登って脱出に成功したと思いますよ」

「えっ」

 

 …………それって。

 

「で、戻っていったら、なんだか木を斬り倒した跡があったと思いますよ。だからしょうがなく森に戻って、チーターを探してたんだと思いますよ」

 

 ……うわぁ、完全に焦り損だ、俺……。黙って待ってれば勝手にチベスナは戻ってきたっていうのに。かなりのタイムロスだよこれ。

 一応、このままでも元のルートに戻れるが…………これ、平原地方で一泊してから、明日の明け方砂漠地方に入ったほうがいいよなぁ。

 

「まぁまぁ、チーター、そんなにげんなりした顔をしないでいいと思いますよ」

「誰のせいだと……」

「分かってます。チベスナさんもちょっとは悪いと思いました。……しかし! 今回はその失敗を帳消しにする大発見を、したと思いますよ!」

「…………失敗を帳消しにする、大発見?」

「ついて来るといいと思いますよ!」

 

 思わず首を傾げる俺の手を()いて、チベスナは意気揚々と歩き出す。いったい、何を見つけたっていうんだ……?

 疑問に思いつつ――ついでにちょっとだけ期待しつつ――チベスナに連れていかれていると、やがて木々に覆われていた景色が開け、目の前に平原が広がった――のだが、そこで俺は異様な光景に出くわした。

 

「これ…………さ、砂漠……?」

 

 平原から――一歩出れば、砂漠。

 ……いや、知識の上では分かっていたことだ。サンドスターの影響で地方ごとに気候が大きく変化しているから、こんな風にがらっと、それこそゲームみたいに地形も変化している――というのは、まぁ事前情報で知っていた。

 だが、実際に見てみるとやはり異様だ。

 

 まともな現実では、絶対にありえない光景。サンドスターの神秘なしでは、おそらく実現しえないであろう現象。……改めて、此処が異常な法則を帯びた空間だってことを思い知らされる。

 

「見てください、これです!」

「……この景色、か? いや、確かに凄いが――」

 

 それは地図を見ていて分かってたことだろう、と言いかけたところで、チベスナはさらに被せるようにこう言った。

 

「そうではありませんよ。こっちです、こっち。この『かんばん』です」

 

 チベスナが指さした先にあるのは、おそらく地方の境に設置されている案内板――だったものだ。今は既に朽ちかけている。一応、文字は読めるが……。

 

「チベスナさんは文字が読めませんが、文字があるということはつまり、何か説明したい『もの』があるということ。そうでしょう? チベスナさん、今日はかなりクレバーだと思いますよ」

「いや……。…………うん、いやそうだな、確かにクレバーだ」

 

 その看板に書いてある文字を読みながら、俺は思わず生返事を返していた。

 チベスナはあまりリアクションがない俺に不満そうだったが…………それよりも、俺はその看板に書いてある内容に心躍らされていた。

 

「…………この先、『オアシス』……」

 

 オアシス。

 つまり、この暑さの過酷な砂漠地方で、かなり楽の出来るルート、ということ。

 

「チベスナ、でかした!」

「え? やっぱりですか? えへへ、もうちょっと褒めてもいいと思いますよ」

 

 怪我の功名。

 案外、コイツの為にある言葉かもしれんな。




当SSで意識していることの一つに『オープンワールド感』があります。
今回は色々とクエストをやっていたら、いつの間にか正規ルートとは違うルートでエリア移動してしまった……みたいななイメージです。

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