畜生道からごきげんよう   作:家葉 テイク

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一〇話:聳え立つ百獣の城

 俺たちの目の前に立っていたのは、二人のフレンズだった。

 一人は迷彩柄の服装をした褐色肌で黒髪の少女。

 もう一人は白を基調にした服装をした白髪の少女。

 ……確か、ライオンの部下をやってるフレンズだったか。名前ははっきり覚えてないけども……確か、オーロックスと……なんとかオリックス。アラビアだったっけ?

 二匹とも、角を模していると思しき長物を手に持って警戒している。シロサイの話はやっぱり間違いなかったみたいだな。

 

「おい! お前達ここで何をしているって言ってるんだ!」

 

 そんな風に考え込んでいたからか、しびれを切らしたオーロックスが声を荒げた。ほんとにピリピリしてるなあ……。

 

「チベスナさん達は歩いていると思いますよ」

「それは分かってる。何しに歩いてるんだい?」

「もうすぐヘラジカ達との合戦だからな。もしお前らがヘラジカのスパイなら……。……ただじゃあおかねぇ」

 

 それでも、チベスナのおちょくってんのか? って感じの発言にキレる様子がないあたりは、流石フレンズって感じの大らかさが垣間見えるが。

 しかし……うーむ、スパイ疑惑か。確かかばんとサーバルもそんなこと言われてたっけ。素直に事情を説明してもいいが、そうすると多分スパイだと勘違いされるし、かといって嘘をついても多分チベスナがボロ出すしな……。

 チベスナが聞いたら『そんなことないと思いますよ!』って文句を言いそうなことを考えつつ、俺は対応を決めた。

 

「めんどくさい。チベスナ、行くぞ」

 

 そう言って、チベスナをお姫様だっこする。突然のことにチベスナはリアクションすらできず、オーロックスとオリックスも――、

 

「ふッッ」

 

 具体的に行動を起こす前に、世界の動きが停滞した。

 脚に力を込めて加速した俺は、突然動き出した俺に武器を構えて防御態勢に移った二人の脇を通り抜け、そのまま走って行く。

 

「わっ!? はやーい!」

「あっ、おい! 待てー!」

「ち、チーター!?」

「あそこで相手してても、時間の無駄だからな。とっとと城の方に行って地図とかもらっちまおう!」

 

 言いながら後ろを確認してみると、既にオーロックスとオリックスはかなり遠ざかっていた。……もう力を緩めても大丈夫そうだな。

 そう判断した俺は、チベスナを地面に降ろして走り続ける。

 

「しかしさっきのあれ、チーターが速く走っても苦しくならなかったし、チベスナさんも疲れないのでもっと積極的にやっていいと思いますよ」

「自発的にやっといてこう言うのもなんだが、お前もう少し遠慮ってもんはないのか……?」

 

 遠慮とは無縁そうな顔してるけども。

 

「チベスナさん、悪路を走るのは得意ですけど、速く走るのはそんなに得意じゃないんです。苦手なものはチーターにやってもらった方が楽ちんだと思いますよ」

「その楽ちんの分のしわ寄せが俺に来てることは気にしねぇってのか……」

 

 まぁ、そこがチベスナらしいといえばチベスナらしいんだが……。

 

「……ん、もう完全に見えなくなったな」

 

 後ろを確認した俺がそう言うと、どちらからともなく歩みも小走りに、そして歩きにとギアが落とされていく。

 既に遠くにはライオンの城が見えている。オーロックスとオリックスの匂いも……しないし、アイツらに追いかけ回される心配もなかろう。

まぁ、俺は目に比べて耳と鼻はそこまで良いってわけでもないから過信は禁物なんだが……まぁ、チベスナの方も特に警戒してねぇし大丈夫だろ。

 

「あれが、ライオンの城か……」

「前に見たえいがに出てきた、悪役の住んでるお城みたいだと思いますよ。なんだかわくわくしてきました」

 

 奇遇だな。俺もちょっとわくわくしてるぞ。

 さぁて、城の中には何が待っているのかなっと。

 

の の の の の の

 

へいげん

 

一〇話:聳え立つ百獣の城

 

の の の の の の

 

 城の目の前まで来てみると、石を積んで作ったと思しき塀が目に飛び込んできた。

 しかしこの城、いったいどういう用途で作られたんだろうなぁ……。ランドマーク的なものだとは思うんだが、そもそもジャパリパークにランドマーク的なものっているのか? という疑問が……。まぁ、考えても仕方がないところではあるんだが。

 

「う、ううむ……緊張してきたと思いますよ。中に入ったら大岩が転がってくるトラップとかないですよね?」

「遺跡じゃあるまいし、そんなのあるわけないだろ。第一これも多分アトラクションの一つだし……」

「あとらくしょん?」

「あー……こっちの話だよ」

「チーターはたまによく分からないことを言いますよね。もう少し分かりやすく話したらいいと思いますよ」

「ほっとけ」

 

 適当に言いつつ、俺達は城の中へと入っていく。

 中は石造りになっていた。足元は普通の地面だが、天井は木造なので二階以降は板張りになっているのだろう。なんというか、アトラクションというわりにはけっこう内部の構造がガチって感じがするなぁ……。

 ジャパリパークの運営陣、多分けっこうな趣味人が内部に潜り込んでたんじゃないかと思う。じゃなきゃテーマパークなのにこんな本気で史跡みたいな城を建てたりはしないだろう。せめて床はちゃんとビニール張りにするとかね……。

 ともかく。そこはかとない『大人な子ども』の本気に戦きつつ、俺達は先へと進んでいく。

 

「……。なんだか、中はしっとりしていますね。床もひんやりです。岩山の洞窟みたいで過ごしやすそうだと思いますよ」

 

 歩いている最中、横のチベスナがボソリとそんなこと呟いた。そういえば悪路を走るのが得意とか言ってたっけ。チベットスナギツネって岩山に住む動物だったのかもしれないな。

 それがなんでジャパリシアターに居着いたのかは気になるが……まぁ、雪山にカピバラ(だったと思う)がいたりしてるし、フレンズになった後の生息地についてはけっこう曖昧なんだろうな。

 

「確かに、平原地方でこう石に囲まれてる環境は珍しいよな……お。あれ見てみろ」

 

 言いながら歩いていると、視界の端に城内図を発見した。一応アトラクションならあるだろうとは思っていたが、これは助かるな。

 すぐに駆け寄ってみる。城内図を見てみると……構造は『三重三階』というらしい。妙にひらがなの多い子ども向けの説明文によれば、城の構造は屋根の数が『重』、床の数が『階』と数えるようだ。

 ……なんといえばいいのか、なんか凄い『知育施設』って感じがする。ここってひょっとしたら博物館か何かだったりしたのかもしれないな……。

 

「チーター、そんなところをまじまじと見てどうしたんで? 城の地図はこっちだと思いますよ?」

「ああ、説明文を読んでたんだ。ほら」

「……読めないと思いますよ」

「だろうな」

 

 文字が読めるフレンズなんて、多分博士達くらいのもんだろ。

 『読めー読んだ方がいいと思いますよー』と言い募るチベスナはどうせ教えてもはてなマークを飛ばすのでスルーして、俺は城内図の読み込みに集中する。

 これによると一階の南西端に売店があり、北側と南側にそれぞれ階段があるらしい。筆記用具は多分ここにあるだろうし、うまくすれば地図もここで手に入るかもな。

 

「よし、目的地が分かったぞ」

「えっ、もうですかっ?」

 

 俺の言葉に、そろそろ掴みかかりそうな勢いだったチベスナははっとしたように言う。

 

「……いや、城内図を見れば分かる……いや、城内図も文字で説明されてるから分からないのか」

 

 此処とか、ばっちり『売店』って書いてあるし。

 しかし、識字できないっていうのは面倒だな……。チベスナには追々文字でも教えておいてやるか。

 分からないならしょうがないので、俺は売店のある一階の南西端を指差してやる。

 

「とりあえず、地図がありそうなのがここ。売店だ。今俺達がいるのが真ん中の赤い点だから……。……こっちに行けば売店に行けるな」

「おおー! ここがチベスナさん達のいる場所だったんですね!」

「…………やっぱ全然分かってなかったんだな」

「というか、似たようなのが三つも並んでてややこしいと思いますよ。一個にまとめたらいいと思いますよ」

 

 三階建てなんだよ。一個にまとめたら平屋建てになっちまうんだよ。

 まぁ、無知は罪ではないが基本方針な俺は、チベスナの不平を軽く流して歩を進めていく。雰囲気のある薄暗い廊下を歩いて角を二つほど曲がると、右手の世界観が崩壊していた。

 

 ……いや、だって薄暗い感じだったのに、なんか急に棚とか置いてあるもんだからな。一応カラーリングとか周りに合わせてはいるが、なまじ基本フォーマットが本格的すぎるのでそれでも浮いて見えてしまう。

 ……でもまぁ、こういうところでなんか『見知った世界』に戻ってきたなぁと安心感もあるので複雑な気分だが。

 

「おぉ! 明るいと思いますよ。チーター、此処がばいてんですか?」

「ああ、そうだな。地図があるといいんだが……」

 

 ぱあっと目を輝かせるチベスナを伴って、俺は棚の間を練り歩く。売店内は流石に超巨大動物園ジャパリパークだけあって、動物をモチーフにした商品が殆どだった。特に草原に住む動物たち。

 

「いっぱいあると思いますよ。まるで森です」

「だな……手分けして探すか」

「よし! 先に見つけてやると思いますよ!」

「はいはい」

 

 というわけで、手分けして探すことに。

 チベスナ曰く動物グッズの森を練り歩いていると……あった。これまた動物のイラストが描かれた、手のひらサイズのメモ帳と、同じようなデザインの鉛筆。少し離れたところには鉛筆削りもある。

 何タイプか用意されているようだな。ライオン、バッファロー、シマウマ、ヌー、水牛、バイソン……。

 

「いやウシ系多すぎねぇか!?」

「チーター、どうかしましたかー?」

「い、いやすまん。何でもない……」

 

 棚の向こうからひょっこり顔を出したチベスナにそう言って、俺は気を取り直して筆記用具一式を手に取る。うん、このくらいなら持ち歩けそうだな。しかしどこにしまおうか……。

 と、なんとなしに体を確認した俺は気付く。そういえば、胸ポケットがある。ここにメモ帳と鉛筆をしまって、と。鉛筆削りは流石に厳しいな……。……あ、スカートにもポケットがある。ここにしまっとこ。

 ついでに胸ポケットに予備の鉛筆をもう一本挿した俺は、満足して地図探しを再開する。

 このへんは商品を売ってる場所っぽいから……。サバンナ地方での配置のされ方を見るに、多分地図ってフリーペーパーだよな。だとすると、あるとすれば多分端っこの方だと思うんだが……。

 

 と、そんなことを考えながら散策していると、視線の先――ちょうどレジのところにアニメでも見た透明の箱があり、中に地図がしまわれていた。

 ここに地図がある、ということを分かりやすくするためか、箱の上にわざわざ広げた地図を掲示してくれる親切設計付きだ。

 

「おお、こんなところにあっ――」

「見つけたと思いますよーっ!」

 

 ――た、と言うか言わないかのところで、反対サイドから顔を出したチベスナが我先にと駆けだしてくる。

 ……いや、今俺が先に……。……まぁいいか。

 

「見つけました! 見つけましたよチーター! この地図を引っ剥がして持っていけばもはや我々は無敵のコンビだと思いますよ!」

「ああ、だがそれじゃちょっとかさばるな。もっと良い方法がある」

 

 言いながら、俺は透明の箱を開け、

 

 がりっ。

 がりっがりっ。

 

 開け……、

 

 がりっがりっがりっ。

 

「ええい! まどろっこしい!!」

 

 両手で蓋を挟み込んでどうにか開け、中から地図を一枚引っ張り出す。

 

「お、おお……!? 開いた、というかこれ箱なのですか!?」

「……まぁな……」

「……? チーターどうしたのです? お手柄なのでちょっとくらい自慢げにしてもチベスナさんは怒りませんよ?」

「気にすんな……」

 

 ちょっと手先の不器用さに絶望してるだけだから。

 これ、チベスナに読み書きを教える以前に俺が文字の練習しないと駄目かなぁ……。オオカミは絵まで描けていたというのに。くっ……。

 

「まぁいいですけど。調子が悪いならジャパリまんを食べたらいいと思いますよ」

 

 なんてことを言い合っていると……ザッ、という足音が、売店の外から聞こえてきた。

 しまった! 買い物(金ないけど)に夢中で、音に気を配るの忘れてた……! しかも道幅が狭いから逃げるのも一苦労だぞ!

 

 一応今の自分達が縄張りに侵入している自覚はあるので身構えながら相手の様子を見ていると……。

 

「なになに? そこに誰かいるの~?……って、うわぁ! 誰!?」

 

 黒髪のフレンズが、俺達の前に顔を出した。

 ……どうでもいいが、その肉球の熊手かわいいな。




なお、チーターは知る由もありませんが熊手ではなくハンマーです。

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