世紀末戦記   作:溶けない氷

5 / 8
白銀

(どうしてこうなった・・・・・)

私、ターニャ・デグレチャフはバックパックから取り出したチェーンガンならぬレーザーガトリングをレイダーの一団に向ける。

VATSで照準、目標をセンターに捉えスイッチ。

軽装甲車程度なら貫通しうる超高温に人間が耐えられようはずもなく一瞬で水分を蒸発させ炭化、後には消しかすしか残らない。

(ドウシテコウナッタ・・・・)次から次へと湧いてくるレイダーの悲鳴に反応したのか更にフェラルグールの集団がこのグレイガーデンに殺到してくる。

橋の上に設置されたレーザー砲台が自動的に迎撃を開始するが、圧倒的な数の前にたちまちバリケードの前まで押し込まれる。

ミニッツメンもレーザーマスケットで応戦しているが狙い撃つのが主眼のマスケットで突進してくるだけのグールの相手はいささか向いていない。

瞬時に驚異度をパワーアーマーに内蔵されたコンピューターが再設定し、接続された銃のAIMを補正。

あとはそれを承認するだけの引き金を引くと瞬時に数十体のフェラルが塵と化す。

鉄条網やバリケードで足を止めて機関銃で薙倒すだけの日露戦争以来の簡単なお仕事です!

・・・・・・そう、私が納得いかないのは・・・

「なんで私がこんな事やってるんだー!」

わたし、たーにゃ・でぐれちゃふ 8さい!(たぶん)

大切な農園を守るため、ミニッツメンとなってたたかいます!・・・

パワーアーマーに身を包んでな!

ヒャッハー!汚物は消毒だー!

 

ターニャ専用パワーアーマー T-60 model95 敵味方双方からそのペイントから”白銀”と呼ばれることになる。

既存のT-60を改造し高性能を追求した結果、極めてピーキーになった性能から使用されずにウィルソン・アトマトイズ本社に放って置かれた。

なんで玩具会社が核兵器を作ってるんですかねぇ・・・

 

話はちょっと戻る。

 

『ほら、おみやげだよ。』

 

「うわぁい、ギディアップバターカップだぁ!ありがとうパパ!大好き!」

何が大好きだ!なんだコラ!幼女だからってこんな玩具が好きだろうって安直すぎるだろ!

・・・・いや、実際に幼女らしく振舞うのはかなりしんどい。

くうっ!だが、これも将来の野望のための布石なのだ!

実際、外で食うや食わずの世紀末ライフに比べればここでの暮らしは恵まれている。

『オジョウサマ、イッテラッシャイマセ』

 

心を殺し、今日も店番をセキュリトロンに任せて学校に通う。

”たーにゃのお店ではいつも冷蔵庫で冷やした新鮮で美味しいお野菜を取り扱ってます!

みんな!買いに来てね!”

今日もわたしの心をガリガリとえぐる幼女の媚び媚び営業ボイスがダイアモンドシティの中央に響き渡る。

(やめてクレェェェ!くっ!いっその事殺してクレェェ)

今日も精神的に朝から限界を迎えるが、それを顔には出さない。

通りすがりの人にもスワッターおじさんにも笑顔で

”おはようございまーす”と挨拶を欠かさない。

そう、これこそが選挙に向けての布石!外面のいいところを見せて印象を良くするのは選挙活動でも営業でも基本!基本なのだ!

疲れや不機嫌なところを見せるなぞ、プロの営業にあるまじきこと!

・・・・・今はプロの幼女だが・・・

 

学校に着くと授業が始まる、思ったことは小学校低学年レベルの授業なら楽勝だろと思ったことだ。

実際、自分は中身40なのだから・・・

考えが甘かった!

『それでは皆さーん、今日の工作では基本的なセキュリトロンのAI設定と各モジュラーのチェックをしましょうねー』

なんだこの高度な内容!?

文系の自分は苦労しながら目の前のクラシカルなブリキのロボットのマニュアルと格闘する。

考えてみれば、レイダー、スーパーミュータント、アボミネーションといった各種脅威が跳梁跋扈する魔界都市ボストンのど真ん中にあるダイアモンドシティで必要とされる能力に自衛が含まれるのは当然。

子供でもロボットを製作できれば立派に防衛力になるのだから、授業が実践的になるのは当然だろう。

甘く考えてた自分をぶん殴ってやりたい。

そのほかにも、算数・国語もある。

だが重要なのはやはり理科らしく、銃の分解・結合にスコープやバレルなどの各種モジュラーの製造。

薬学コースでは基本的なスティムパックやMed-Xなどの製造方法。

農業ではデイドなどの食料から薬効植物の栽培と薬物への応用。

生物学で、各種アボミネーションへの対応方法。

原子力工学でのフュージョンコアの製造・充電に各種の作業機会の修理・製造。

何が小学校レベルだ、文系のおっさんはついていくだけでもいっぱいいっぱいだぞ!

 

考えてみればこれくらいの知識で武装しないとウェイストランドでは生き残れないのか・・・

つくづく日本の生活が懐かしい・・・くっ!だが耐えて見せる!

・・・

(はぁ・・・・)

学校が終わると、シティの中の家に帰って宿題をする。

子供でも扱いやすいレーザーピストルを接近戦に向いたスプリット加工だが、これは小学生でするべきことだろうか?

店番をしながら勉強する幼女というのはなかなか外から見ていると、しっかりしているように見えるらしく。

「たーにゃちゃん!しっかりと頑張るんだよ!ほら、飴ちゃん食べるかい?」

と近所のおばさんたちが買い物ついでにお菓子まで持って来てくれる。

「うわぁい!ありがとう!」

 

笑顔だ!くそっ!プロの幼女に休むときはないのか!?

だが、そんな私にさらに試練が襲いかかる!

「ただいま、ほらお土産だよ」

そう、Vaultの男だ。

そういうなり、ギディアップバターカップをくれたのはいい。

いやよくない、やっぱいいや。

そして店の隣にでん!と置かれたのが巨大な銀色のパワーアーマーだった。

・・・・・なぜだろう、とてつもなく嫌な予感しかしない。

端的にいうと、何か別の世界線から流れ込んだ負の因果を感じる。

「ああ、これかい?拾ったパワーアーマーなんだけどどうしても動かなくってね、仕方ないから持って帰って来たんだ。

不良品でもバラして売ればそれなりの値段になるから、ターニャの生活費の足しくらいにならなると思ってね」

すみません、穀潰しで。必ず出世してこの恩は返します。

どっちにしろ、まともな経済活動が出来るレベルまでボストンの環境を回復させないとこれ以上の市馬の成長は見込めない。

健全な自由市場というものは健全な社会が成り立って初めて成立しうるものである。

断じてMADMAXや北斗の拳状態のこんな世紀末状態ではない。

そう思いながら夕食のマイアラークオムレツを頬張る、肉は・・・正直もういいや。

缶詰肉で何でみんなベジタリアンになるのかよくわかった。

幼女だから卵は食べるけど。

夕食を食べ終えると、Vaultの男が弄っているパワーアーマーに近づいてみる。

PA、正直使えるのなら使いたい。

あるとないとでは戦闘力に桁違いの差が出る。

暴力=権力のこの世界ではたとえジャンクPAでも持っているだけで既にそこらのチンピラレイダーの頭程度にはなれる。

私はそんな小物で終わる気は無いがな!

『うーん、これは・・・どうなってるんだ?システム上は何の問題もないのに起動しないなんて』

どうやら起動にトラブルがあるようで動かないらしい

「パパー、ターニャこのお人形さん触ってみたいー」

だがこれはチャンスでもある!こいつを修理できれば幼女の私でも戦闘力を格段に増強し

PA=強大な暴力=強大な権力の方程式からダイアモンドシティの支配者への道も一挙に近づくはずだ!

と、私が銀色のT-60に触った瞬間、時が止まりおぞましい奴が目の前に現れた!

『全くもって嘆かわしいな、信仰が芽生えるどころかますます遠ざかるとは』

「存在Xゥゥゥ!」

『だが他の連中に比べればかろうじて、微妙に見所があるのも事実か・・・・

さぁ祈るのだ!』

「ボケェ!テメェの助けなんざいらねぇよ!何だこの世界は!?幼女の主食が焼いたゴキブリ・・・うげえ、ゴキブリなんだぞ!?」

『ほう?そんな事を言っていていいのかな?ま、祈る祈らんはお前の自由だが・・・よくよく考えていた方がいいぞ』

「は?」

 

と、次の瞬間時間が動き出し 私が触れていたT-60が突然動き出し・・・

『ピッピッポーン、この機体は10秒後に核爆発します。

周囲の人員は速やかに退避してください』

・・・・ファァァァァァァック!

あのクソ野郎!街ん中に核爆弾放り込みやがった!畜生!祈るよ!ああ、いのりゃいいんだろど畜生め!

『いかん!フュージョンコアが暴走している!』

「前略!中略!後略!神様ターニャを助けて!ぴゃー!」

と、私がいつもの祈りを唱えると瞬時にコンピューターの暴走が止まり更に

『ピンポーン、ターニャ・デグレチャフをT-60 model95の専属オペレーターに登録しました

今後とも、ウィルソン・アトマトイズをよろしくお願いいたします。

あなたのお子様の自衛はウィルソン・アトマトイズ パワーアーアーマにお任せ!

子供達のお友達、ギディアップバターカップをお子さんの誕生日にぜひ!』

 

_____ファァァァッァック!なにおもちゃ会社が核兵器作っとんじゃぁ!

しかもこれ子供用パワーアーマかよ!

そうこう言っているとパワーアーマーの背部ハッチが開き、中に乗り込めるようになった。

なるほど、授業で見た義足・義手の人間でも使えるように改造したPA技術を応用しているのか・・・

サイズ調整機能がついたいるから幼女でも使えるのか・・・

しかし子供に軍用兵器を持たせるとか戦前の倫理観はどうなってるんだ?

いや、確かCMで子供が核弾頭を発射するシーンがあったような・・・どうなってんだこのくそったれな世界は!?

『おっと、これは・・・なるほどターニャしか使えないみたいだな

それじゃぁ、これもお土産だな。』

 

「うん!ターニャ頑張って悪い奴やっつけるー」

まぁさすがに幾ら何でもPAを持っているだけだからと言って幼女を前線に出すことはないだろ

 

・・・・・

そしてPAを手にいれたターニャは市警の一員兼ミニッツメン予備としてダイアモンドシティの八百屋に卸す野菜とキャップを狙って襲い来るレイダーと戦う運命にあるがこの時は知らない。

冒頭に戻る。

 

「うおぉぉぉぉ!幼女が!幼女なのに!最前線ってどういうことじゃぁぁぁぁ!」

さすがは世紀末将軍の義理の娘さんだ、強いので将軍同様に授業に支障が出ない範囲で呼び出される運命にあった。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。