逆行ハリー、ぼくのかんがえたりそうのせかい   作:うどん屋のジョーカー

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ダイアゴン横丁で再び

 初めてのはずの煙突飛行を成功させてダイアゴン横丁に着くと、ウィーズリー家の人々は感心したようにハリーを褒めた。

 正直に言えば、ハリーは煙突飛行での移動があまり好きじゃない。煤まみれになるし、案外手間がかかる。それならもう、酔うことがなくなった姿くらましの方が何倍も気楽だった。煙突を使わなくてもいいのなら出来るだけ使いたくない。

 けれど今のハリーは十二歳だった。「姿くらまし」と「姿現し」は成人しないと試験を受けられないのだから、十七歳にもなってない子がやるのは悪目立ちしてしまう。移動手段以外の魔法も、大人の魔法使いがいない場所では全く使えない。大人がいても、まだ子供のハリーが知らないはずの魔法を使う訳にもいかない。これが思ったよりも不便だった。昔はこの生活を普通に行っていたはずなのに、すっかり何でも魔法で解決しようとしてしまう癖がついたようだ。

 二年生なら「呼び寄せ呪文」も習ってないはずだ、と分かってどんなにガッカリしたことだろう。

 ウィーズリーおばさんが、煤で汚れたハリーの顔を魔法で綺麗にしてあげようとしていたときだった。ロンが「あっ」と声を上げる。

「ハリー、誰が見えたと思う?」ロンが嬉しそうに言った。「ハグリッドだ」

 ハリーもロンと同じところを見ようとしたが、おばさんが「スコージファイ」と唱えたため顔中が泡に包まれた。

「あ、ハーマイオニーも一緒だ」

 ハリーが咽た。ウィーズリーおばさんは呪文の所為だと思ったらしく、魔法を止めた後に心配して謝ってくる。丁寧におばさんの所為じゃないと伝えた後、ハリーは顔に残った泡を手の甲で拭いながら、小さく跳ね続けている心臓を落ち着かせようとした。

「なぁ、ハーマイオニーのやつ、宿題のことで色々言ってくると思う? だってあいつ、送ってくる手紙で毎回宿題の話題をだしてきたんだぜ」

 ロンがおばさんに聞こえないようハリーにそっと耳打ちする。

 この頃、ハーマイオニーはともかくロンは彼女をまだ何とも思っていなかったのだ。それに気が付いて、ハリーの心臓の鼓動はさらに加速した。

「よお、ハグリッド、ハーマイオニー!」

 ロンが手を大きく振っている方向を、ハリーは中々見ることが出来なかった。つい俯きがちになっていたが、意を決して顔を上げる。

 最初に目に映ったのはハグリッドだった。三十年後もハグリッドは現役で森番を務めているが、こうして見るとやっぱり少し老けていたんだなとハリーは思った。

 ハグリッドはごわごわした髭と髪の毛の隙間から真っ黒の瞳を覗かせ、ハリーとロンににっこり笑いかけた。

「久しぶりだなぁ、二人とも。元気だったか、えぇ? さっきそこでハーマイオニーに会ってな」

 ハリーは視線を下ろした。予想より随分下まで降ろして、ようやくふさふさした栗色の髪が見えた。

「小さい」

 思わず呟いたハリーにロンが首を傾げる。

「どうかした? ハリー」

「ううん」

 なんでもない、と言おうとしたとき、ハーマイオニーがハリーに抱きついた。

「心配したわ! 何回も手紙を送ったのに返事を寄越さなかったから。でも誰かに邪魔されていたんでしょう?」

 離れたハーマイオニーの口元から、少し大きい前歯が見えた。それが余計に顔を幼く見せている。

 ハリーは自分を嘲笑った。どうしてハーマイオニーが、数時間前に酒場で会ったときの姿で現れると思っていたのだろう。目の前で頬を上気させて微笑んでいる女の子に、ハリーも何とか笑顔を向けた。心臓はすっかり元のリズムに戻っていた。

 そこでハリーは、自分がハーマイオニーに対してある期待をしていたことに気づいた。途端に、ハリーの頬が恥ずかしさで赤らむ。自分の考えていたことが、どんなに残酷なことかと分かったからだ。向こうの方で、ウィーズリーおじさん達と話しているジニーが見える。

 ジニーの姿に心臓が疼いて、ハリーは目を逸らした。するとそこにはハーマイオニーがいる。どこを見たらいいか分からなくて、目が回りそうだった。

「それじゃあ、みんな。一時間後にフローリシュ・アンド・ブロッツ書店で落ち合いましょう」

 ウィーズリーおばさんが言った。

「行こうぜ、ハリー」

「行きましょ」

 右肩をロンが叩き、左腕にハーマイオニーが抱きついた。このときハリーは改めて、自分が十二歳のハリーとしてやっていかなければならないと気付かされたのだ。

 一時間ほどダイアゴン横丁をぶらぶらした後、三人は約束の書店へ向かった。夏休みだから、多くの買い物客が来ているだろうと予測していたが、それ以上に多くの人が集まっていた。女性の割合が多い客たちは、押し合いながら入り口に入ろうとしていて割り込む隙がない。

「いったい、何が起こってるんだ」

 ロンが呆れたように口をぽかんと開けた。

 やっと店に入って、ハリーは思い出した。真ん中が吹き抜けになっている二階の柵に、大きな横断幕があった。

「ギルデロイ・ロックハートか」

 ハリーの呟きは黄色い声にかき消された。

「本物の彼に会えるんだわ!」

 ハーマイオニーはロックハートがいると思われる場所に向かって背伸びしていた。

「ウヘー、マジかよ」

 ハーマイオニーの様子を見たロンがハリーに向かって苦い顔をする。

「ママだけじゃなくて、ハーマイオニーもあいつにお熱なんだ」

「だって、彼って、リストにある教科書をほとんど書いてるじゃない! すごい人よ!」

 ハーマイオニーのような熱烈な女性ファンたちが店にすし詰めになり、買い物どころではなかった。本屋の店主は店の外に押し出されたようで、当惑した顔で客に向かって何かを叫んでいがよく聞こえない。

 ハリーたちは急いでロックハートの本を一冊ずつ掴み取り、レジに並んだ。

 ロックハートを取り巻いているのはファンだけではなかった。どこかのカメラマンが、ちょこまかと動きながらロックハートの写真を撮っている。

 カメラのフラッシュが焚かれるたびに紫の煙が出て、ハリーの目はしょぼしょぼと涙ぐみ、鼻水が出そうだった。

「なんでわざわざ、こんな日に、来るんだって思ったけど、でも、ママはわざと今日にしたんだ。知ってたんだよ、ハーマイオニーも――ハックション!」

 ロンが耐え切れずに大きなくしゃみをした。あまりの大きさにハリーは耳を抑え、ハーマイオニーは苦い顔をする。そしてギルデロイ・ロックハートもこちらに気づいた。

「おやおやおやおや」

 ハリーが顔を上げると、ちょうどロックハートと目が合った。キラキラ光る目でハリーを見つめ、勢いよく立ち上がると店中に響く声で言った。

「もしや、ハリー・ポッターでは?」

 興奮した囁き声が広がっていく。ロックハートがハリーに近づくと、周囲に居た人垣がパッと割れて道を開けた。ロックハートはわざわざマントを翻してからハリーの方へ歩いて来た。

 ハーマイオニーはうっとりした顔でその動きに見惚れ、ロンは止まらない鼻水と格闘していた。ハリーはまたアレをやらなきゃいけないのかな、とげんなりした。

 ロックハートは強い力でハリーの肩を抱き、その手を握った。カメラマンが喜んで、シャッターを何度も切る。

「ハリー、にっこり笑って! 私と写れば一面の大見出しに載れますよ」

 ハリーに話しかけながらも、カメラから視線を外さないロックハートを見てハリーは驚いた。リーマス・ルーピンの息子であり、ハリーが後見人をしているテディは今のロックハートとほぼ同じ歳だ。

 無邪気な笑みを浮かべている分、ロックハートの方が幼く見えた。

 あの頃はうんと大人に見えたはずなのに、息子同然に思っているテディとそう変わらないと知るとなんだか奇妙であり、同時に、ロックハートにしっかり捕まえられて晒し者になっている今のこの状況を許せそうな気がした。

 確か、最後にロックハートと会ったのは、テディと結婚したビクトワールが赤ちゃんを産んだときだった。去年の秋頃だ。

 ビクトワールは難産で、さらに夫の父親が狼男であり、妻の父親も狼男に襲われたことがあるということから、家庭癒師の判断により病院で産むことになったのだ。

 赤ちゃんが出てくるのを待ちながら、ハリーたち関係者は六階の喫茶室と病室付近を行ったり来たりしていた。そのとき、ハリーはたまたまヤヌス・シッキー病棟の前を通った。

 ここは解除不能の呪いや不適正使用呪文により、長期入院する人のための病棟だった。ベラトリック・レストレンジとその夫、そしてクラウチの息子に磔の呪いを受けたネビルの両親もここに入院していた。ネビルによると、二人はだいぶ回復したらしい。今はネビルの名前と思わしき唸り声を発すようになったのだという。

 ロックハートは、病棟を出入りするための両面ドアにある小窓に、顔を貼り付けて通行人を見ていた。相変わらず、白い歯を見せて無邪気な笑みを浮かべていた。

 ただ、目の下や口の端に皺ができ、波打っていた金髪はハリを失っていて、年月が経ったことを表していた。その中でブルーの目だけが純粋だったことが異様だった。

 思わず動きを止めてロックハートを見つめてしまったハリーに、ロックハートがニコニコしながら近づいてきた。

「私のファンですか?」

 ハリーが返事をしない内に、病棟に繋がる扉が開いて、ライム色のローブを着た癒者が出てきた。どうやら、ロックハートを連れ戻しに来たらしい。ロックハートを見つけて近寄ろうとしたときに、ハリーに気づいた。

 ロックハートを呼び戻しに来た癒者は、前に会った人と違っていた。前は中年の女の人で、ロックハートをおませな二歳児のように優しく扱っていた。

 今度の癒者は若い男で、ロックハートを連れ戻すのはいかにも仕事だという顔をしていた。

「あなたは彼の知り合いなんですか?」

 ハリーを見つけた癒者は全く表情を変えずに尋ねた。

「ええ、まぁ……昔、一年間だけ彼の生徒だったことがあって」

「ああ、この人はホグワーツの教師をやったことがあったんでしたね」

 特に興味もなさそうな声音で、癒者は淡々としている。

「私が先生ですか? それは役立たずな先生だったんでしょうね」

 癒者はロックハートの言葉を無視した。

「この人には全く客が来ないんです。あなたが……いえ、あなたの前に一度だけ訪ねてきているようですね。だいぶ前のことですけど」

 ロックハートのことが記録されているのか、ライム色の手帳のようなものを見ながら癒者が言った。

「ああ、それも僕とその友達だと思います。あの、前についていた癒者の方とは違いますよね? それから、まだ彼はよくなっていないんですか? あのときは字も書けるようになって良い具合だと聞いたのですが」

「以前の方はもう歳なので退職されました。書けるようになったと言うのは、ミミズののたくった様な字のことですか? 今のところ、記憶の回復の兆しは見えないですね。たぶんもう無理でしょう。この年齢ですし」

 冷ややかな癒者の視線の先で、ロックハートは廊下に並べられていた椅子に腰かけて足をプラプラ振っていた。

「ファンからの手紙ももう全く届いてないんですか?」

「ええ、さすがにもうないですね。ああ、ですが、グラディス・ガージョンという方だけが未だに送ってきますね。週に一回くらい」

「その人はいつも送ってくれるんですよ! 私はその人の手紙が好きです!」

「部屋に行かれますか?」

 癒者はハリーの顔を見て質問した。ハリーは数秒悩んで断った。ビクトワールのことも心配だったのだ。ハリーが断るとすぐにロックハートは腕を掴まれて病棟に戻されていった。

 去り際に振り返ったロックハートは、ハリーに向かって「またね」とやけに甘ったれた声で言った。途端にハリーは小窓に貼りついていたロックハートを無視しておけばよかったと後悔したのだ。

「それじゃあ、ハリー。また学校で会おう」

 ホグワーツで働くことを大々的に宣言した後、ロックハートは全著書をハリーに渡して去り際にウインクした。重みでよろけながらも、ハリーは人垣をなんとか抜け出した。人があまりいない隅っこの方に、ジニーが立っている。傍に買ってもらったばかりの大鍋が置いてあった。

 ロックハートから無料でもらった本の山を、ハリーはジニーの大鍋の中に入れた。

「あげるよ。僕のは自分で買うから」

「さぞや、いい気持ちだっただろう、ポッター」

 上から粘着質な声が振ってきた。二階に繋がる階段から、ドラコ・マルフォイがゆっくりと降りてくる。

「こんにちは、スコ――マルフォイ」

 ハリーがにこやかに挨拶したのを、ドラコ・マルフォイは訝しく思ったらしい。眉間を寄せてハリーを睨んだ。

「有名人のハリー・ポッターは、書店へ行くだけで一面記事か?」

「ほっといてよ。あの人が勝手に言ったことよ!」

 ハリーは幼いジニーの声を久々に聞いた気がした。

「おや、ポッター。ガールフレンドが出来たじゃないか! 一面はこれで決まりだな」

 馬鹿にした笑みを浮かべるドラコに、ジニーの顔が赤らんだ。

 その後の展開は、まるで記憶をなぞるように同じだった。ロンとハーマイオニーが来てドラコと言い争い、そこにウィーズリーおじさんがやって来て、さらにルシウス・マルフォイが登場する。

「お役所はお忙しいようですな。あれだけ何回も抜き打ち調査をしているのだから、当然、残業代は払ってもらっているのでしょう」

 そう言いながらルシウス・マルフォイはジニーの大鍋に手を突っ込み、豪華なロックハートの本の中から、使い古しの擦り切れた本を一冊引っ張り出した。「変身術入門」だ。

「どうもそうではないようだ」

 ルシウス・マルフォイのせせら笑いに、ウィーズリーおじさんが唇を噛んだ。

 ハリーはふと思い出す。このあと、確かルシウス・マルフォイは……。黒ずくめの格好をしたルシウスを見つめた。正確には、その服の下に隠されているあるものを。

 ハリーがいろいろと考えを巡らせている間に、ルシウス・マルフォイとウィーズリーおじさんの言い争いはヒートアップしていった。

「ウィーズリー、こんな連中と付き合っているようでは……君の家族はもう落ちるところまで落ちたとおもっていたんですがねぇ」

 ルシウスがそう言った途端、ジニーの大鍋が宙を飛び、ドサッと金属の落ちる音がした。とうとうウィーズリー伯父さんがルシウス・マルフォイに飛び掛かったのだ。飛びついた勢いでルシウスの背中を本棚に叩き付けると、分厚い呪文の本が数十冊もみんなの頭にドサドサと落ちてきた。

「やっつけろ、パパ!」

 フレッドとジョージが叫んだ。おばさんが必死でおじさんを止めようとしている。だが二人の揉み合いは止まらない。

 それは、ハリーがつい最近に見た光景とそっくりだった。

 ローズがスコーピウスと付き合っていると分かり、ロンがマルフォイ邸へと乗り込もうとした時だ。実際、ロンはウィルトシャーにあるマルフォイの館の門の所まで来ていた。生垣を歩く白い孔雀を忌々しげに睨みつけ、魔法のかかった門を無理やり突破しようとしたのだ。

 ポッター夫妻とハーマイオニー、そしてローズとアルバスがロンを止めるために慌ててその後を追いかけていた。

 ジェームズが悪戯グッズを門に仕込んでこじ開けようとしたとき、館からドラコ・マルフォイが何事かと出てきた。その後ろにはスコーピウスがいた。怒り狂ったロンの顔を見て、何が起きているのか悟ったようだった。

「この間は申し訳ありません!」

 スコーピウスは駆け足で門の外に出ると、ロンに向かって深く頭を下げた。ドラコはそんな息子を見て当惑していた。

「ちゃんと話し合いましょう、お義父さん!」

 ハリーは思っていた。スコーピウスはとてもいい子だ。賢く、ハリーのスリザリンに対してのイメージをがらりと変えるほど優しくて、本当にアルバスは素晴らしい友を得た。しかし彼は、アルバスも常々漏らしているように、どこか少し抜けていた。

「お前にお義父さんと呼ばれる筋合いなどなヴぇヴぇヴぇ!」

 ロンの怒鳴り声はもはや何を言っているのか分からなかったが、何を言いたいのかはスコーピウスを除いた全員が理解した。

 唯一彼だけは、自分の何がロンをさらに怒らせたのか考え込んでしまった。その真剣に考え込む姿が余計にロンを怒らせた。いやもうスコーピウスが何をしてもロンは怒っていただろう。

 門によじ登りかけていたロンは、スコーピウスに飛び掛かった。

 するとドラコがその身を愛息子の前に出し庇った。

 もつれ合ったロンとドラコはそのままゴロゴロと地面を転がりながら殴る蹴るをしていた。

「いい加減、目を覚ませウィーズリー! 何があったにせよ、お前はもっと冷静になるべきだ!」

 ドラコがロンの横面を殴った。

「よくも、そんなことを! お前のところの息子を、うちの娘にけしかけたくせに! 許すものかぁぁぁ!」

 ロンはドラコに対して、最近テレビで覚えたばかりのプロレス技、アナコンダを決めた。

 技を決められて赤くなっていくドラコの顔色に、激しいもつれ合いに割り込めずにいたハリーは我に返った。慌ててロンを引きはがしにかかる。

「やめるんだ、ロン、落ち着け」

 ハリーがロンを引っ張ったことで、ドラコへの拘束が少し緩んだ。すると、ドラコが腹筋を使って足を振り上げ、ロンの頭を蹴り上げた。ロンの後頭部がハリーの顔面に直撃し、二人とも吹っ飛んだ。眼鏡がひしゃげ、レンズに大きなヒビが入った。ハリーは鼻から血が流れているのを感じた。

「はぁ、けしかけただと――はぁ、それはこっちの台詞だ、ウィーズリィィイ!」

 まだハリーの上に乗っかっていたロンに、ドラコは突進してきてロンの腹に上から肘を突っ込んだ。

 その衝撃はハリーの腹部にも伝わって、ハリーは朝食べたワッフルが逆流してくるのを感じた。

 騒動は、ローズが大きな声で「やめて!」と泣き叫んだことで終わりを告げた。娘の泣く声にロンが、若い女の子が泣く声にドラコが、ようやく動きを止めたのだ。

 泣き崩れそうになるローズを、スコーピウスが抱きとめた。そんな二人を見て、父親たちは気まずそうに顔を反らした。

 血と泥と若干の吐瀉物をまとったハリーは、レンズのヒビの隙間からなんとか視界を確保しながら、ロンとドラコの肩に手を置いて、「とりあえず、話し合ってみよう」と提案したのだった。

「やめんか、おっさんども!」

 ルシウス・マルフォイとウィーズリーおじさんの喧嘩は、ハグリッドによって収められた。ハグリッドによって引き離されてた二人は、それでも睨み合っていた。

 目を何かでぶたれたように腫らしたルシウス・マルフォイは、ギラギラした目でウィーズリーおじさんを睨みながらジニーに古本を突き出した。

 さきほどジニーの鍋から取っていた、「変身術入門」の古本だ。

 その本の間に、何かが挟まれているのをハリーはしっかり見た。

「ほら、小娘――お前の本だ。大事にしたまえ。お父上にとっては精一杯の代物だろうからな」

 そう吐き捨てると、ハグリッドの手を振りほどき、ドラコに目で合図して、ルシウス・マルフォイは敏速に店から出て行った。

 まだ肩を怒らせているおじさんをハグリッドが窘めている。ハリーはジニーの鍋にそっと近づいて、「変身術入門」の古本を取り出した。間に挟まっている物を素早く抜き取ると、それをズボンのポケットに突っ込み、マントで隠した。「変身術入門」の本を鍋に滑り込ませたとき、ジニーがハリーに気づいて首を傾げる。

「どうしたの?」

 ハリーは完璧な微笑みを浮かべて、何でもないよと言った。ジニーの顔が赤くなった。


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