さつきのかわいさにもっとたくさんの人に気付いてほしいです。
簾木 健
「さつき起きろ」
俺はベッドで眠るさつきの身体を揺らす。
「うー……あと五分」
「その五分は永遠に終わらない五分だよな」
俺はさつきの被っている布団をバッと剥ぎ取る。今は真冬。布団がなければ寒いかろう。
「寒い!!」
案の状布団を剥ぎ取られたさつきは元気に起床した。
「おはようさつき。そろそろ起きないと遅刻するから起きろ」
「はーい」
さつきは眼をこすりながら雑な返事をする。場所は俺の部屋。結局一週間ずっとさつきは俺と一緒に寝た。おかげで俺はかなりの寝不足であまり頭は回ってない。さつきはかなりスタイルがいい。しかも眠ってると抱き着いてきてかなり色んなところがあたる。特に胸とか胸とか……そんな状況で眠れるはずがない。だからかわりに学校ではほぼ熟睡していた。この一週間ひたすら先生から起こされては寝てという攻防戦を行い、仕舞いには諦めらてしまったほどだった。合宿のかいがあり一週間でさつきの学力はかなり伸びた。これならこのまま勉強すれば泉坂には普通に合格できるだろう。
「そういえばさつき。一週間頑張ったご褒美はどうするんだ?」
「あーそれさ」
さつきが少し考えてから頷いていった。
「泉坂に合格してからでいい?」
「?ああ。別にいいけど?」
「じゃあそういうことにしといて!!」
珍しいこともあるもんだな。さつきは今を生きているから結構直近で色々と要求してくることが多い。少し何か考えることもあるということだろう。
「さってじゃあさつき飯食べて学校行くぞ。とりあえず制服に着替えてくれ」
「わかった!それよりも…」
さつきは目をつぶって唇を少し出す。
「はいはい…」
二人の顔が近づいてチュッという柔らかい音。この音は少し照れくさいが幸せになれる。
「おはようさつき。今日も頑張ろう」
「おはよう康太。今日もよろしくね」
「あいかわらず夫婦で仲よく登校して……爆発しろ」
「お前いつもながらあたりがキツイな」
「いいだろ。あんなにかわいくて……胸も大きく、うおい!!」
おれは目の前にいる顔の良い男の顔面に向かって拳を突き出す。それをそいつは紙一重で避けた。っち!!
「お前もいつもながら北大路のこととなると簡単に手出すな。しかも顔に!!」
「横田の顔はいいんだからいいだろ?」
「顔がいいやつは殴って良いのか!?」
「顔がいいやつには女子からの人権を持っているんだ男子からの人権は必要ないだろ?」
「康太もそんなに悪い顔、うおい!!」
また避けられる。横田は顔もいいし運動神経もいいのだ。
「だからなんでほめたのに殴られるんだよ!?」
「顔は本当にいいやつに褒められるとムカつくだけなんだよ」
「なんでそんなに卑屈なんだよ!!!」
「お前がムカつくだけよ」
「だからなんで!?」
横田は騒がしい。騒がしさで言えばさつき以上だ。でもなんというか一緒にいて悪い気はしない。
「それで?横田今日の宿題は?」
「えっ……宿題?」
「数学の宿題出てたぞ。今日お前当たったらどうすんの?」
横田の顔が段々と青ざめていく。あーもうなんとなくわかった。俺は鞄からノートを取り出す。
「今度ラーメンでどう?」
「……乗った」
そう言って横田は俺からノートを取り自分の机に向かう。俺はフッと笑って鞄から文庫本を取り出しそのページを開ける。俺とさつきはクラスは違う。かなり寂しいが、クラス分けはどうしようもない。
「あ、あの山内君」
そこでクラスの女子に話しかけられる。はっきり言って名前はわからない。てか同性はともかく異性のクラスメイトとは関わりが薄い。しかし全員の顔と名前が一致することができる人は本当にすごいし尊敬に値すると思う。俺自身がそうなるつもりはないけど……しかしクラスメイトであることは確かだしそれなり返しておこう。
「なに?」
「えっと今度なんだけどクラスみんなでどこかで遊び行こうって話になってるんだけど……どうかな?」
「あーごめん。俺は行かないわ」
「そっか……わかった」
「ああ。悪いな」
女子は少し残念そうに俺から離れていく。そのタイミングで前の席の横田が俺のノートを持って振り返る。量が多かった訳ではないからもう写し終わったのだろう。
「なんでいかねえんだ?」
「さつきと一緒にいたいから」
「お前ブレないな」
クラスは違うおかげで授業中は一緒にいれないのだ。授業以外の時はなるべくさつきと一緒にいたい。まぁあまりにも一緒にいると束縛っぽくなってしまうのでそこは絶妙な距離感を保っているが、できるかぎりは一緒にいたいのだ。それに……
「そんなこと言ってるけどお前も参加しないんだろ?」
「まぁそうだけどよ」
横田は騒がしいやつだが、こういったクラスのイベントには参加しない。そのこともあり、ちょっとクラスから浮いてしまった二人として最初は仲よくなった。ただ俺はさつきという理由があるのだが、横田はいくら聞いても理由は教えてはくれないので、もうそれは聞かないことにしている。
「横田がいないなら俺仲がいいクラスメイトいないし行く意味もないだろ」
「寂しいやつだな」
「横田こそ部活以外のやつだったら俺くらいしかいないだろ?」
「そこを突かれると痛いな」
横田は笑う。その笑顔につられて俺も笑顔になってしまう。こうしてクラスで話すことができる友達がいることは本当にありがいたい。そんなことを思っていると担任の先生が騒がしいクラスに向かってお決まりのことを言いながら入ってくる。俺はちょっと伸びをした。
「さてまずは昼休みまで頑張りますか」
「おう!」
「終わった!」
そう言って横田は自分の弁当を鞄から取り出し、椅子を反転させて俺の机に弁当を置いた。
「今日北大路は?」
「もちろん来るよ」
「もちろんとは……おっ」
「来たみたいだな」
クラスの外の廊下が騒がしい。さつきは人気者だし、かわいい!!うちのクラスに昼休みやってくるとすぐに廊下が騒がしくなるからわかりやすい。
「康太!!」
笑顔で教室のドアを開け俺の名前を呼ぶ。揺れるポニーテールにちょっと上がった息がここに早くくるために走ってくれたことを伝えてくれる。そんなこの子の笑顔はもう何物にも代えがたい。本当に俺幸せ者だな。
「さつき。ほらここに来い」
俺は空いていた椅子を俺の机にくっつけてさつきに手招きをする。さつきは何事にもオープンな性格なので中学入ってから付き合い始めるとすぐに全学年に俺とさつきの関係は知れ渡った。それでたまに俺が先輩から呼ぶ出されることもあったが、きちんと
「ほいさつき弁当」
俺は鞄から二つの弁当を取りだし、一つをさつきに渡し、もう一つを俺の前に置く。今日さつきは俺の家から来たため弁当は母さんが用意してくれた。それにを嬉しそうに受け取り、さつきは自分の前に置いてパカっと弁当を開けた。
「おいしそう!!さすがは康太のお母さん!!」
「それはよかったな。ほら食べようぜ。飲み物は買ってきたんだろ?」
「うん。ここに来る前に康太の分ももちろんあるよ」
「ありがとう。お金は食べ終わってからでいい?」
「もちろん」
さつきから買ってきてもらったお茶を受け取り俺も弁当を開けた。そして合掌に食べ始める。すると横田はポソッと零した。
「慣れるもんだな」
「慣れる?」
「ああ。今の状況にさ。最初はこの甘々空間に嫌気がさして飯もゆっくりしか食えなかったけど、今じゃ普通に飯も食える」
「俺としては俺とさつきの空間に入って平気でいる図太いやつだけどな」
「確かに。横田くらいだよ。あたしと康太が一緒にいる時に平気でいる人なんて」
俺とさつきがそう言うと横田はエヘンと胸を張った。
「俺は図太いからな。それに俺は康太がいないとクラスで一人で飯を食うことになる。それはさすがに嫌だ」
「そ、そうか」
なんかこいつ変わってるよな。イケメンだし、良いやつだけどちょっと付き合い方考えた方がいいかもな。
「そういえばもうすぐ受験だな。康太は確実にうかるだろうけど、北大路どうなの?」
その回答にさつきはグッと親指を立てる。
「康太がしっかり教えてくれたから大丈夫。今日の英語の小テストも満点だった」
「俺が1週間しっかり教えたし、それくらいはしてもらわないとだけど……まぁよく頑張ったな。満点はすごい」
俺はさつきの頭を軽く撫でる。強くすると髪型が乱れてしまうからな。それを気持ちよさそうに受けるさつき。こりゃもう参ったね。本当にかわすぎるよこの子。
「今日も平和だな」
俺の前に座った横田がそう言ってジュースを飲みほした。
いかがだったでしょうか?
次回は受験の合否かな……それからあの男が登場するかな?
楽しみにしていただけると嬉しいです。
ではまた次回会いましょう
簾木 健