"貴方に永遠の愛を"   作:ワーテル

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君の為に(貴方の為に) 私は歌う(僕は歌う)

 

 

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あの日から4日が経った

私達は今部室にいる

けど、練習は出来ていない

別に雨だからというわけじゃない

ただ、ここにもう1人足りないから

 

 

「やっぱり今日も?」

「うん、呼んでも出てこないし、電話も繋がらない。」

「返信も来ないし」

「千歌さんがこんな状態ではとても…」

「私、今日話してみる」

「梨子ちゃん、私も」

 

 

──────────────

 

 

あれからどのくらい経っただろう

 

あの後記憶が全くない

 

ただひとつ、私が確かに覚えているのは

 

 

「もうあの人はこの世にいない」

 

 

私の大好きな彼はもうこの世にいない

 

私は結局何も伝えられぬまま、彼が旅立つのを看ていることしかできなかった

 

この先どうすればいいんだろう…

もうわからないよ

何をどうしたら…

 

 

「千歌ちゃん…」

 

 

その時、窓の外から声が聞こえた。梨子ちゃんだ。

 

いつもなら障子を開けて、窓から落ちるんじゃないかって勢いで出て行くけど、今はそんなことどうでもよかった

 

りゅうくんがいない、なんの意味もないよ…

 

 

「千歌ちゃん、出てこなくてもいいから聞いて。私だって龍騎君が居なくなって、本当に辛かった。でも!今私達がすべき事はそうやっていつまでもグズグズしていることじゃない!こうなったから、今の状況だからこそ龍騎君の…」

 

 

バタン!

 

 

「梨子ちゃんに何がわかるって言うのさ!もうりゅうくんは居ないのに、もう何をしても意味ないよ…」

 

「確かにaqoursは10人揃って1つ。でも、龍騎君はもういない。じゃあ千歌ちゃんは龍騎君が居なくなっちゃったからもうaqoursのメンバーじゃないっていうの?」

 

「違うよ!そんなこと言ってないじゃん!でももう意味ないの、りゅうくんが居なきゃ…」

 

「私たちね考えたの。今私達はどうするべきかって。それで2つの案が出た。このままラブライブに出るか、それとも辞退するか。」

 

「…」

 

「その時思ったの、龍騎君ならどう言うかなって。それではっきりした。私達がこれからしなくちゃいけないのは龍騎君に届けること。輝きを見てもらうことなんだって。彼が見たいって、好きだって言ってくれた私たちの輝く姿を」

 

 

その時、後ろでドアが開く音がしたので振り返ると…

 

 

「そうだよ、いつまでも閉じこもってると天国から龍に説教されるよ」

 

 

曜ちゃんがいた

 

 

「私も龍が居なくなったって実感したら怖くて、寂しくてしょうがなかった。でもね、ここにはいないけど、きっと空の上から私達のことを見ててくれてる。そんな龍にいつまでも落ち込んでる姿見せられないでしょ?」

 

 

「龍騎君ならきっとこう言うよ」

 

 

『笑え、アイドルはみんなを笑顔にしないと』って

 

 

いつもりゅうくんがいた。辛い時、苦しい時、いつも助けてくれた。

でも、もうそんな彼は居ない…

 

 

「私達に残されたもの」

「私達が出来ること」

 

『それは何?』

 

 

だけど…!

 

 

「aqoursのみんなでラブライブに出る」

「千歌ちゃん…」

 

「いつまでも後ろばっかり見てたらりゅうくんに笑われちゃうよ」

 

「うん…」

 

「ラブライブに出る!そして私達の全力を輝きをりゅうくんに届けよう」

 

 

 

そして私達は走った

 

久しぶりの外はとても眩しい、でも、今はそれが清々しかった

 

坂を登り、階段を駆け上がり、扉を開けるとそこには…

 

 

「来ると思ってたよ」

「5日ぶりデスネ」

「待ってたズラ」

「練習もバッチリです」

「クック、やっと目覚めたようねリトルデーモン」

 

みんなが居た

 

「みんなごめん。私、わたし…」

 

私のせいで迷惑をかけた

でも、それなのに誰も私を責める人はいなかった

 

「全く、ラブライブまであと2日しかないのですよ、みっちり練習しないといけませんわね」

「ヨーソロー!頑張ろうね、千歌ちゃん」

「頑張りましょう」

「みんな…うん!」

 

 

私が好きだった彼はもうこの世にはいない

でも、私は自分のできることを全力でやる

彼がいつもそうしてくれたように

今度の大会は貴方のために歌う

だから、ちゃんとそっちで聴いててね

 

 

 

 

──────────────

 

 

 

 

そして、ラブライブ予選決勝当日

 

 

会場入りを済ませ、控え室でライブの準備をする

 

 

「うわぁ、人がいっぱい」

「当たり前でしょ、ここには県内で予選を勝ち抜いたチーム全員いるんだから」

「うゅ…なんか怖くなってきちゃった…」

「ルビィちゃん、いつも通りやれば問題ないズラ」

「花丸ちゃん…うん!」

 

「まさかまたこうしてみんなで立てるとはね」

「Oh! It's miracle!」

「そうですわね、あの頃は3人だけでしたが、今は9人、いえ、10人。

あの時よりずっといい演技をしないといけませんわね」

 

「今回も曜ちゃんの作ってくれた衣装素敵ね」

「えへへ、ありがとう。今回のはうんっと気合い入れて作ったから、どう?千歌ちゃん?」

「うん!すごくいい…よ」

「千歌ちゃん?」

「やっぱり龍のこと…」

「うん、そうだけど、でも!もう前だけ見るって決めたから。後ろばかり見てても何もない。私は前だけ見て走り続ける!きっと、りゅうくんもそうしろって言うでしょ?」

「そうだね、千歌ちゃん」

 

 

散々泣いた、後悔もした

何度も何度も…

だからもう振り返らない

前だけ向いて、今を全力で

そしてラブライブへ

 

 

「aqoursの皆さんそろそろお願いします」

 

 

時間だ

泣いても笑ってもこの数分で全てが決まる…

 

 

「千歌、どうしたの?」

「んー、なんかね、何言おうかなって考えてたけど、もうそれも必要ないかなって」

「どうして?」

「だって、もうみんなの心は繋がってるでしょ?だから何も言わなくても伝わってるよ」

「確かにそうですわね」

「たくさん笑って」

「たくさん泣いて」

「いろんなことを経験して」

「ここまで来れた」

「私達ならどんな困難だって乗り越えられる!aqoursなら」

「うん!」

 

 

私は一度大きく深呼吸をする

そして…

 

 

「1!」「2!」「3!」「4!」「5!」「6!」「7!」「8!」「9!」

 

「せーの!」

 

 

『10!!』

 

 

私達ならなんだって出来る

この10人ならなんだって

 

 

「さぁ!行こう!今全力で輝こう!」

 

「aqours!」

 

 

『サンシャイン!!』

 

 

 

「それでは次はaqoursの皆さんで曲は“青空 jumping heart" です!」

 

 

 

 

──────────────

 

 

 

 

ラブライブ予選決勝が終わって数日後

 

「あぁー!暇だよー」

「千歌ちゃん、うるさいよ」

「だって、暇なんだもん!なんで発表まで練習ないのさ」

「ダイヤさんも言ってたでしょ?」

「ここ最近色んなことがあってみんな身体的にも精神的にも疲労があるだろうからって」

「それはそうだけど…」

「そんなに暇なら歌詞でも書いたら?」

「う…さ、さぁ、りゅうくんの曲聴こう」

 

 

曜ちゃんと梨子ちゃんの2人が遊びに来てくれたけど、やっぱり練習がないと暇だよ

 

 

「千歌ちゃんって暇さえあればずっと龍の曲聴いてるよね」

「うん!だって何か私たちみたいじゃん?」

「私達って、aqours?」

「うん!どこがって聞かれたら説明できないけど、でも、すっごくいい曲…」

「なんで決勝でそれ歌わなかったの?」

「んー、なんか、歌いたくなかった」

『え?』

「いや、そういう意味じゃなくて…この曲はもっと違うところ、それこそラブライブ本戦で歌いたかったから」

「千歌ちゃん…そうだね」

 

「千歌ちゃん、元気になってよかったね」

「うん、でも、やっぱりまだどこか無理してると思う。龍は千歌ちゃんにとって特別な存在だったから。私にとっても大切な人だったけど、千歌ちゃんにとってはそれ以上。だから、今回の傷が癒えるのはもう少し先になるかな」

「そっか…」

 

「あれ?」

 

 

すると突然千歌ちゃんが気の抜けた声を出す

 

 

「どうしたの?」

「これ見て」

「これは…」

 

 

これは私達が龍騎君から受け取ったUSBのデータ、龍騎君の作った曲が入っている筈なんだけど、その中に見覚えのないファイルが1つ

 

 

「これって最初からあったのかな?」

「でも、今日初めて見たわよ」

「もしかしたら、あっちの曲に夢中でこれに気づかなかったのかも」

「開けるよ…」

 

 

ファイルを開けると、そこには無題の曲が1つ

 

 

「何だろうこれ」

「曲?にしては長いような…って、千歌ちゃん!?」

 

 

 

千歌ちゃんは何の躊躇もなくそれをクリックした

 

 

そしてこの後、私達は衝撃を受けることになる

 

 

そのファイルを押すとやがて流れてきたのは…

 

「千歌」

 

「りゅうくん…」

 

 

漆原 龍騎。彼の肉声。

 

 

これは、龍騎から千歌へのメッセージ

 

 

"お前がこれを聴く時、既に俺はもうそっちの世界にはいないだろう

 

小さい時、勝手にいなくなって、そのまま連絡もよこさないで、ノコノコ帰ってきた俺を、散々迷惑かけたにも関わらず、君や曜や果南姉は何も言わずに昔のように接してくれた。

本当にありがとう

 

千歌がスクールアイドルやりたいって言った時、正直こいつ何言ってんだろうって思った。こんなど田舎でスクールアイドルなんてって。

でも、飽き性なお前があんなに一生懸命にやってる姿を見せられた。

断る理由がなかったよ。支えてやりたいと思った。最後の時間、君のために使おうって、そう決めたんだ。

 

それから曜や梨子や一年生が加わって、ある程度軌道に乗ってきた。本当は俺はここで身を引くはずだったんだ。俺が死んだなんて分かったら、どうなるかなんて簡単に想像ついた。

 

でも、無理だった。

 

俺はもう君達の放つ光に夢中になっていた。出来ることなら最後まで見ていたい。この未完の光がどんな輝きを灯すんだろう、そう思って続けてたら、いつのまにか9人になってた。

 

日に日に増していく、成長していく君達を見るのが本当に楽しかった。

 

でも、楽しい時間は長くは続かない。

 

俺は17年間生きて、本当にいい人生だったと思う。

 

ただ、君達の輝きが洗練され、たくさんの人を魅了する。そんな姿を見れないことだけが俺の心残りだ”

 

 

「りゅうくん…」

 

 

彼は亡くなる間際にも同じようなことを言っていた

 

私達だって最後まで彼に見てほしかった

 

出来ることならずっと一緒にいたかった…

 

 

 

"それだけだと、思ってたんだ…"

 

 

少しの間が空いて再び彼の声が流れた

 

 

 

"最後まで俺は自分の想いを告げなかった

 

生きる意味を失った俺に、暗い暗いトンネルの中を彷徨ってる俺に、光をくれた。

 

その子の存在は日に日に俺の中で大きくなっていった。

 

でも、やがて死にゆく俺にはこの想いを伝える資格なんてない。

 

そう思った。

 

だけど、やっぱり俺は…

 

千歌…君のことが好きなんだ"

 

 

 

彼の本当の気持ち

 

それを聞いた瞬間、涙が止まらなくなった

 

 

 

"弱虫で、泣き虫で、ずっと子供だと思ってた。

 

でも、何年かぶりに会う君は、俺なんかよりもずっと強くて、キラキラしてた

 

俺にも手を差し伸べてくれた

 

そしてなお成長していく君の姿は、本当に眩しかった

 

このままずっと一緒にいられたらどんなに幸せだろう

 

君のそばで過ごせたらどんなに楽しいだろう

 

そんなことばかり考えてた

 

でも、それは叶わぬ願い

 

だけど、これだけは言える

 

俺は君と出会えて本当に良かった

 

最後に俺と一緒に歩んでくれて、ありがとう

 

俺に輝きを教えてくれて、ありがとう"

 

 

「ばか….ばか…」

 

 

"俺は本当に幸せだった

 

ありがとう、大好きだよ

 

千歌"

 

 

 

 

 

 

どんな言葉なら伝わるだろう

 

君を想う時 切なくて

 

それが報われない 夢だとしても

 

君の幸せを祈れるかい

 

ふさわしい恋人になりたい

 

教えて 僕は鏡の中 ため息

 

愛する人よ 叶わぬ恋よ

 

片想いのくせに なんで…

 

さよなら言えない 僕を許して

 

君じゃない誰かなんて 意味がないよ

 

風に揺らいでた 淡いスカート

 

気まぐれに描いた似顔絵も

 

いつか読み返す日記みたいに

 

君を思い出にできるかな

 

君の視線は僕にないと

 

わかって… だけど 見つめるのは君だけ

 

愛する人よ 叶わぬ恋よ

 

片想いのくせになんで…

 

さよなら言えない 僕を許して

 

君じゃない誰かなんて 意味がないよ

 

 

君に似合わない 君が愛さない

 

小さな宇宙の僕の星

 

闇が吸い込んで また弾けたら

 

次も君のそば 生まれたい

 

くしゃみするくらい簡単に

 

忘れることが できるのならいいのに

 

愛する人よ 叶わぬ恋よ

 

片想いのくせになんで…

 

ひとつ摘めば手品のように

 

この気持ち連なるから 君に会いたい

 

愛する人よ 叶わぬ恋よ

 

片想いのくせになんで…

 

さよなら言えない 僕を許して

 

君じゃない誰かなんて 意味がないよ

 

この気持ちは 手品のように

 

 

 

彼の歌声とギターの音が部屋中に鳴り響いた

 

 

曲は終わり、代わりに流れたのは彼女の叫び

 

 

「ばか…ばか…なんで言ってくれなかったの…

私だって、りゅうくんのことが、貴方のことが…

 

大好きだよ…

 

今まで人を好きになるなんて、考えたこともなかった

 

でも、貴方だから、優しいそんな貴方だったから

 

私は惹かれた、好きになったんだよ

 

でも、貴方の全てを知った

 

それなら私の気持ちは閉まっておこう、そう思った

 

貴方の負担になりたくなかったから

 

でも、こんなことなら、

 

もっと素直に

 

貴方に私の気持ち伝えればよかったね

 

大好きだよ、りゅうくん」

 

 

 

彼女は泣いた

 

泣き続けた、気の済むままに

 

隣に座る二人の少女も涙を流していた

 

あのときこうしていれば、なぜ、どうして

 

そんな後悔が彼女を取り巻く

 

 

再生が止まったパソコンの画面には無題のメッセージはもうなかった

 

 

 

『君に永遠の愛を』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日の空は青く、海はとても輝いていた

 

2人が出会ったあの日のように…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




私の実力ではこれが限界でしたが、皆さんいかがでしたでしょうか?

この小説を読み始めた時、イチャイチャ話を期待された方には申し訳ありませんが、こういう結末です。

そもそも今回執筆を始めたのは、当時私が読んでいた小説がきっかけです。
それを基にしたわけではありませんが、少し書いてみたいなという完全な私の自己満足です。

そんな小説を最後まで読んでくださった方々、本当にありがとうございました

評価や感想等をくださったり、お気に入りに登録してくれる方が増え、嬉しい気持ちと共に、感謝の想いでいっぱいです。

まだ最終話を残しております
更新は少し遅くなるかと思いますが、そちらの方もご閲覧下さい


評価、感想等ありましたらまたよろしくお願いします

それでは最終回もよろしくお願いします

ありがとうございました

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