"貴方に永遠の愛を"   作:ワーテル

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最後の嘘

 

 

 

 

 

 

 

 

『退 部 届』

 

 

机の上に置かれた、たった1枚の紙

私達はただその前で呆然としていた

みんな何が起きているのか、あまりに急なことすぎて頭が整理できていなかったんだ

 

そんな時、この沈黙を破ったのは…

 

 

「何これ」

 

 

千歌ちゃんだった。

 

 

「誰がこれ置いたの?ここにはみんないるし、梨子ちゃんだって今見送りに行ったし。りゅうくんだって、風邪だって…」

 

 

千歌ちゃんの声が段々と弱々しくなる

千歌ちゃんもわかってるんだ。

これを誰が置いたのか、だって、その筆跡は私達がずっと一緒だった幼馴染と同じものだったから

 

 

「でも、なんで龍騎さんがこんなものを…」

「意味がわからないわね」

 

 

そう、私達には龍が退部する理由がわからなかった

それにもし仮にその意思があったのなら、なぜ直接言わなかったのか。

言いにくかった、そんな性格じゃないし。

 

 

「お兄ちゃんがなんで…」

「龍にぃに何があったんズラ…」

「はっ!まさか闇の魔力に…」

 

 

私は今まで、スクールアイドルを始めてから今日までの龍の行動を思い返していた。

が、やっぱりただの1つもそれらしい行動をしたことはなかった

龍の退部の意味は全くわからない

だけど、ただ1つ言えるのは、

 

 

 

《《彼はもう私達に会うつもりはないということ》》

 

 

 

千歌ちゃんが電話をしている

おそらく相手は龍だろう

 

「出ない…」

 

何回コールしても聞こえてくるのはあの機械的な言葉のみ

 

メッセージを送ってみるが、既読が付かない

 

 

「行こう…」

「千歌ちゃん?」

「こんなの意味わからないよ、昨日までみんなで練習して、お話しして、一緒に帰って。急にこんなのなんて…そうだ、梨子ちゃんに連絡しないと」

 

 

『梨子ちゃん』

私はその言葉を聞いた時、胸が痛んだ

なぜかよくわからないこの感情

龍の退部と《《謎の感情》》のせいで私の頭は真っ白だった

 

 

「千歌!」

 

 

今までずっと黙っていた、幼馴染(果南ちゃん)が強い口調で千歌ちゃんの名前を呼ぶ

 

 

「果南、ちゃん?」

「ダメだよ、梨子は幸いこのことを知らないんだ。知らせたらピアノコンクールの邪魔になる。それに私達も予備予選が近い。《《いない人》》のこと気にしてる暇なんてないよ」

 

 

よく言えば、冷静、悪く言えば、冷酷。

こんな果南ちゃんを見るのは初めてだった。

 

 

「なんでそんなこと言うの?りゅうくんはずっと私達のために支えてくれた大事なaqoursのメンバーでしょ?なのにそれを…「そう思うならそっとしてあげなよ。千歌もよく知ってるでしょ?龍騎にも何かわけがあるんだよ。意味もなくこんなことする人じゃない。それがきっと、正しいんだよ…」

 

 

果南ちゃんの言葉、表情、それには迷いが感じられた

自分でも何を言っているのかわからない、何が正しいのかわからない。

そんなような

 

 

「そんなの、納得できないよ!」

 

 

千歌ちゃんも自然と強い口調になる

 

「私はここにいるメンバー1人でも欠けた状態でラブライブになんて出たくない。アキバドームに立つ時は10人みんなで立っていたい。1人も欠けちゃダメなんだよ…」

 

 

「そんなみんな一緒だよ!」

「じゃあ、なんでほっとけなんて言うの!?」

「それは…」

 

 

『10人みんなで』

 

その想いはみんな同じ

だけど、急に訪れたこの状況をどう打開すればいいのか

私達はその答えが出せず、ただ俯いているばかりだった

 

 

「私1人でもりゅうくんの所へ行く」

「待って!千歌!」

 

 

果南ちゃんの制止の言葉に耳も貸さず、部室を出て行ってしまった

 

 

「ルビィも…」

「ルビィ、おやめなさい」

「お姉ちゃん…」

 

 

ルビィちゃんも千歌ちゃんと一緒に行こうとしたが、ダイヤさんがそれを止めた

 

 

「果南さん、龍騎さんについて何か知っているんじゃありませんか?」

「別に何も…」

「じゃあ、なんで()()()()()()()()

「・・・」

 

 

いつもの果南ちゃんなら、あんな言い方はしない。

それ故にダイヤさんは果南ちゃんが龍について何か知っている、と感じたようだった

 

 

「曜」

「何?果南ちゃん」

「千歌を連れてきて、龍騎の所へ行くならその後でもいい」

「果南ちゃん…?」

「曜!早く!」

 

 

私は軽く頷き千歌ちゃんのもとへ向かった

やっぱり果南ちゃんは今回の一件の何かを知ってる

私は今すぐにでも訊き出したかったけど、その気持ちを振り払って、千歌ちゃんを追いかけた

 

 

 

 

 

 

私は部室を飛び出し、誰もいないバス停にやってきた

そしてベンチに腰をかけ何度も、何度も電話の受話器のマークを押し続けた

それでも、一度たりとも私の求めている声を聴くことはできなかった

 

 

「千歌ちゃん…」

 

 

そんな私の耳に入ってきたのは、もう1人の幼馴染の声

 

 

「曜ちゃん…」

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

急いで来たおかげで、バスはまだ来ていなかった

もちろん千歌ちゃんいた。

 

 

「千歌ちゃん、部室に戻ろ?」

 

 

私はダメ元で千歌ちゃんに問いかける

 

 

「嫌だ…」

 

 

予想通りの答えが返ってくる

 

 

「龍の所へ行っても、何も変わらないかもよ?」

「でも、行かなかったら何もわからないもん。私はそれじゃあ納得できない!」

 

 

付き合い始めて十数年の幼馴染

その子はとても友達思いで、優しくて

千歌ちゃんは納得できない、って言うけど、本当は心配なんだ、龍のことが。

龍の性格上からして、もし仮に龍に何かあれば、私達を巻き込まないように、と自分から身を引く

そんな龍のことをよく知ってるから、心配でしょうがないんだ

 

あともう1つ、千歌ちゃんがここまで必死になるのは、

龍のことが好きだから。

幼馴染としてではなく、1人の男の子として。

私は気づいていた、千歌ちゃんが龍のことを好きだってこと

だから私は止めなかった、千歌ちゃんが龍の所は行くことを

 

 

「じゃあ、私も行くよ」

「曜ちゃん…うん!」

 

 

()()を見つけた時、

私も本当は行きたかった、真っ先に龍の家へ向かいたかった

だって、彼は私に恋の始まりも終わりも教えてくれた、初恋の人だから…

 

 

その後すぐにバスが来て、私達は龍の家に向かう

バスの中はがらんっしていて、私達は終始無言のままだった

 

 

 

 

 

 

 

 

ふと思うことがある

『優しさ』とは何なのか

幼い頃、母親の手荷物持ってあげたり、こども園で友達の片付けの手伝いなどをしていたりすると、「優しいね」と言われたことがある人も多いと思う。

その頃は、自分は褒められているんだ、としか感じない。幼さ故の純粋な気持ちである。

ただ、歳をとるにつれ、何もかもが相手の望む『優しさ』とは違うことに気づく。

自分が良かれと思った行動が、相手にとっては実はお節介であったり。

相手を庇う『優しさ』だったはずが、それはただの自己満であったり。

 

中学の時も、そして高校でも、俺はよく「優しいね」と言われる

しかし、俺にはそれがただの皮肉にしか聞こえない時もある

歳をとるのも考えものだ

 

なぜ急にこんな話をし出したかと言えば、俺は今日『退部届』を出してきた。

理由を簡潔に述べれば、()()()()()()()()()()()()()()()()

俺がこのまま、あの輪の中にい続ければ、確実に彼女達の足枷になる。

俺が支えることはあっても、彼女達に迷惑をかけるのはごめんだ。

だから、今日、ああいう行動をとった

これが俺の『優しさ』なのか、それともただの自己満なのか…

俺にはよくわからない

 

俺はしばらくそんなくだらないことを考えながら、真っ白な天井を見上げていた

 

 

コンッコンッ

 

 

ドアを叩く音がする

 

 

「入るわよ」

 

母さんだ

 

「どうかしたの?」

「あんた、本当にあんな別れ方してよかったの?」

 

おそらく退部届の一件だろう

 

「いいんだ、あいつらのためにも、俺のためにも…」

「そう、あんたの決めたことだから、母さんに口出す権利はないわ」

「ありがとう、母さん」

 

母さんは俺を抱きしめる

俺は何の抵抗もすることなく、ただ母さんに身を委ねていた

 

「そういえば、()()はできたの?」

 

机の方を指差して俺に尋ねる

 

「もう少しで完成しそうだよ」

「そう、よかった」

 

あと俺ができるのは"あれ"を完成させることぐらいだ

最後の大仕事、絶対に…

 

 

ピーンポーン

 

 

その時、家のインターホンが鳴る

 

相手は見なくてもわかる

一応最善の策は打ったつもりだが、それで引き下がるような2人じゃない

それは何年も関わってきた、幼馴染だからわかること

 

「俺が出るよ」

 

俺は階段を下り、真っ直ぐ玄関に向かった

意を決しておれはとびらをひらく

 

 

 

 

 

 

 

数十分して、私達の目的の場所に着いた

何度も来た、慣れ親しんだ場所なのに、今日はどこか別の場所にすら感じた。

 

「押すよ?」

「うん…」

 

 

千歌ちゃんがインターホンのボタンを押す

 

 

そして間も無くして扉が開いた

そこに立っていたのは…

 

龍だった

 

彼の表情は厳しく、睨むように私達を見ていた

 

 

「龍…」

「何の用だよ」

 

 

私は高圧的な態度話す龍に怯えて後退りをした

 

 

「なんで、部活辞めるの?!なんでまた私達に何も言わずにいなくなろうとするの?」

 

 

千歌ちゃんは初めから今回の騒動の核心をつく質問をした

 

私は再び龍の方を見ると、彼はニヤッとした笑みを浮かべており、私にはそれが不気味で仕方がなかった

こんな龍は見たことがなかったから…

そして私達は次に発せられる龍の言葉に驚愕することになる

 

 

()()()()()()()()()()

 

 

私達は言葉も出なかった

続けて龍は言う

 

 

「丁度良かったんだよ、こっちに引っ越して来てから東京とかと違って退屈でさ。そんな時千歌が「スクールアイドルやる!」なんて言うもんだから、暇つぶしぐらいにはなると思って始めただけ!いや〜半年間楽しませてもらったよ。お前らの()()には!」

 

 

龍は終始笑っていた、いや、嘲笑っていたという方が正しいかもしれない

もう何も言えなかった

 

 

「なんで、なんでそんなこと言うの…嘘でしょ?りゅうくんはそんなこと「嘘じゃねーよ」えっ?」

「嘘じゃない、全部本心。大体地味なお前がスクールアイドルなんてやれるわけないだろ。東京で評価されなかった時点でもう諦めるべきだったんだよ!」

 

 

いつも優しい言葉をかけてくれた、支えてくれた龍がここまで言うなんて

これが龍の本心…

そんなことって…

 

 

パチンッ!

 

 

千歌ちゃんが龍の頰を叩いた

初めて見た。何年も一緒にいたけど、千歌ちゃんが龍に本気で叩いたのは初めてだとおもう

 

それに怯まず、寧ろ一層殺気の増した目で私達を睨む龍

そんな龍とは対照的に千歌ちゃんの目には涙が…

 

やめてよ…

 

あまりにも弱々しい千歌ちゃんの声

そして私が声をかける間も無く、千歌ちゃんは走り出してしまった

 

私も千歌ちゃんを追いかけるため走り出す

 

 

「これでいいんだ」

 

 

龍が何か言ったような気がした

それで後ろを振り返ってみるけど、扉はすでに閉められていた

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

千歌ちゃんを見失ってから探すこと数分

 

 

「いた」

 

 

田舎だからってのもあるけど、私はすぐ千歌ちゃんも見つけられた

だって、この辺りに千歌ちゃんが行きそうな場所なんて1つしかないから

 

 

「曜ちゃん…」

 

 

相変わらず沈んだ表情の幼馴染

 

 

「昔はさここで、曜ちゃんとりゅうくんと果南ちゃんでよく遊んだよね」

「そうだね」

 

 

そうここは小さい頃、幼馴染4人でよく遊んだ公園

あの頃と比べたら遊具の塗装も剥がれ、決して綺麗とは言えないけど、私達の思い出がたくさん詰まった場所

 

 

「千歌ちゃん」

 

私は励まそうと思って声をかける

私も辛いけど、それよりもこんなに辛そうな千歌ちゃんをこれ以上見ていられなかった

 

「曜ちゃん」

「何?」

 

私の声を遮るように千歌ちゃんは私に話しかける

 

 

()()()()()ならどうするかな…?」

 

 

・・・!

『梨子ちゃん』

その言葉がまた私の頭で反芻する

そしてまたなんとも言えぬ感情に襲われる

 

 

「どうだろうね…」

 

 

私はそんな言葉しか彼女に伝えることはできなかった

 

 

 





書いててスマホを投げたくなった作者です^_^;

今回はシリアスな感じを出したかったので前書きは省きました
まあ、どれだけ雰囲気を作っても私の技術ではこれが限界ですが…泣

短いですが、今回はこの辺で


評価を付けてくださった方、お気に入りにしてくださった方、ありがとうございます。
ではまた次回お会いしましょう

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