今回の話は、そんな私が書いた話なので、現実にそぐわないと思いますが、創作物という事でご容赦を…。
渚とあかりが付き合い始めた事を知り、元3-Eのメンバーたちは素直に祝福した。
あかりが渚に想いを寄せている事は、副担任の烏間先生以外クラス全員が気付いており、「ようやくくっついたか!」というのが全員の感想だった。
カルマは連絡を受けてすぐに…中村も留学を終え帰国したその翌日に、渚とあかりの仲を冷かしに行くほど、2人の仲の事はクラス全員が気に掛けていた。
2人が交際を始めてから、様々な事があった。
新任教師の渚の赴任先は教育実習先であった「市立極楽高校」。
渚の授業は生徒たちに評判が良かった事から、極楽高校の校長が手を回し、強引に渚を赴任させた。
全校生徒の9割9分9厘、不良学生で構成されている男子校であり、全学年が学級崩壊を起こしている教育困難校である。
そんな中、去年の渚が教育実習を受け持ったクラスだけが、ある程度まともになったという実績があった。
赴任した当初、外見は弱そうで威厳というモノがない渚は、最初の頃は生徒たちから完全に舐められ、殺せんせーのようには流石にいかなかったモノの、渚なりに生徒と全力で接し、やがて生徒たちの心を掴んでいった。
そんな渚に触発されたのか、生徒たちに課題だけ出して放置していた他の教員たちも次第に生徒たちと真剣に向き合うようになり、極楽高校は、渚が生まれる前の1980年代に放送された「荒廃した学校に闘いを挑んだ熱血教師」の実話を元にドラマ化した『ス●ール☆○ォーズ』の様に立ち直っていった。
高校で担任を務める渚と、女優業で忙しいあかりは、中々顔を会わす機会がなかったが、LINEや電話は欠かさず行っており、なんとか時間を作り、逢瀬を重ねていった。
一度は、渚が女優『磨瀬榛名』と知り合いであるという事を嗅ぎ付けた生徒たちが渚についてきて、2人きりの時間を台無しにされそうになった事もあったが……。
渚が極楽高校に赴任してもうすぐ3年になり、渚が1年目から受け持った生徒たちも今年度立派に卒業する。
忙しさのピークも過ぎ、お互い時間が空いた為、久しぶりに2人きりのデートを楽しんだ。
帰る前に景色のよい所で寛いでいる時、渚があかりに話をふった。
「何、渚?」
今日のデートにおいて、渚の様子が少しおかしかったのをあかりは感じていた。
デートそのモノは楽しんでいたが、なにやら緊張している様に感じられたのだ。
「…実は僕、今年度で極楽高校を辞める事になったんだ」
「えっ!?教師を辞めるの?」
「いや、高校を辞めるだけで、教師としての仕事は辞めないよ」
「…て、事は転任ってわけでもないのね…」
転任なら辞めるとは言わないだろう。
「実はね。前々から浅野先生から声を掛けられていてね」
「…浅野先生って、椚ヶ丘学園の前理事長のこと?」
浅野學峯。
椚ヶ丘学園の創設者で前・理事長。
渚たちが在学時は、彼らE組にとって最も脅威だった存在である。
教育者として殺せんせーと似た者同士であり、描いていた理想も似ていたが、やり方が違った為対立したが、後にお互いを認め合った殺せんせーの教師としての好敵手。
E組にとってはある意味「ラスボス」的存在だったが、渚は學峯の事を殺せんせーや烏間先生と同じくらい尊敬している。
殺せんせーの事が
しかし、教育に対する信念が折れない人なので、退任後、浅野塾という私塾を開校し、新たな教育活動を行っている。
學峯が1人で経営、事務、講師を兼任しているおり、現在は上手く回っているが、その辣腕振りのせいか、色々と事業の話が舞い込み流石に1人では手が回らなくなってきたらしい。
渚が極楽高校に赴任してからしばらくして、學峯は渚のところに赴き、浅野塾で教鞭を執る様スカウトに来たのだ。
「僕が受け持った生徒たちは今年で卒業するからね…それに前にあかりが僕に勧めてきた事があったでしょう」
それはあかりが漠然と渚に話した事だった。
以前、磯貝が自分たちが買い取った旧校舎を有効活用したいと意見を出した時、あかりは渚にこの校舎を使ってもらいたいと思った。
あかりに言われて、渚もその事を考える様になった。
殺せんせーが自分たちを教えた校舎で、今度は自分がそこで教鞭を執る。
やってみたいと思った。
そこで、學峯の下に赴き、私塾経営のノウハウを勉強しようと考える様になり、學峯のスカウトを受けたのだった。
「…そっか。頑張ってね渚」
渚の殺せんせーの様な教師になるという目的の新たな一歩。
でも、それが今日、緊張していた原因とは思えない。
他に何かあるのかと、渚の方を見たら、渚の顔がかなり赤くなっていた。
ここまで赤くなるのは、あかりが渚に告白した時以来ではないだろうか?
「…そ…それでね。だからというわけじゃないんだけど……あ…あかりにこれを受け取って欲しいんだ…」
渚が懐から取り出したそれは小さな箱―――指輪ケースだった。
あかりの心臓が高鳴った。
恋人から送られる指輪……その意味とは……!?
「け……結婚しよう…」
期待した通りの言葉が渚から出てきた。
あかりの告白から交際を始めてから3年。
プロポーズは自分の方からしようと渚は決めていた。
女優であるあかりはそう簡単に結婚できないだろうし、渚も職場が代わるので、ごたごたするだろうから直ぐには出来ないだろうれど、あかりと共に人生を歩みたいという気持ちは抑えられない。
しかし、あかりは涙を流しながら微笑んで頷いた。
あかりからすれば、渚との結婚は何よりも喜ばしい事だ。
確かにお互い立場もあるし、いろいろとごたごたするだろうが、渚と結婚できるのなら、『殺る気』になればそんな事は乗り越えられる。
それが、暗殺教室で学んだ事だから…。
「嬉しいよ渚。これからずっと、一緒に生きて行こう」
あかりの返答を聞き、渚はケースから取り出した指輪をあかりの左薬指に填めた。
それほど高価なモノではないが、教師の安月給ではかなり無理をしたのだろう。
あかりにしてみれば、渚から貰った婚約指輪ならば一番安いモノでも良かったのだが、自分のために頑張ってくれた事は素直に嬉しかった。
渚の首に腕を回し、口づけする。
渚は身長の低さを気にしているが、あかりからすればそんな事は気にならない。
むしろ渚と目線が合わせやすいので、むしろ良いとすら思っていた。
★☆★
渚とあかりは婚約を機に、それぞれの親に挨拶に行った。
あかりの母は既に逝去しており、姉であるあぐりが半分母親代わりだった。
そのあぐりも亡くなり、今は父1人子1人である。
初めてあかりの父に会う事になる渚は緊張でビクビクしていた。
あかりの父親は雪村製薬の代表取締役であるので、ただの一教師に過ぎない渚との結婚に反対されるかも知れないからだ。
しかし、予想に反してあかりの父は、特に反対しなかった。
「渚君。私が君に望むのはただ一つ。決してあかりを不幸にしないで欲しい…と、いう事だけだ」
あかりの父は、あかりの結婚相手は本人に決めさせる。
余程、変な人物でもない限り、反対しない。
と、決めていたようだ。
その原因は、長女あぐりの件だ。
雪村製薬は一時期、経営破綻に陥り民事再生手続きを申請し、それを受けたのが柳沢誇太郎という男だった。
彼は、援助の条件として長女のあぐりとの結婚を求めてきた。
有名バイオ企業の御曹司であり、天才科学者として名も馳せていた彼の経歴を見て、良縁と思いあぐりに話を持ちかけた。
妹のあかりは、この結婚に内心では反対していたし、あぐり自身も本心では望んでいない事も気付いていた。
しかし、会社の責任者として社員たちの生活を守らなければならず、柳沢の援助を断れば、雪村製薬は倒産していただろう。
心優しいあぐりは、父親である自分と会社の社員たちの為に、この結婚を承諾した。
しかし、柳沢と研究していた元部下に後で聞いた話ではとんでもない誤りであった事を知った。
柳沢は仮にも婚約者であるあぐりを「召使い」として扱い、「女」として扱わなかった。
それどころか、研究の為の「捨て石」として利用していた。
社員たちの生活は大事だが、頼る相手は選ばなくてはならなかった。
経歴ではなく人間性を……。
結果、あぐりは20代の若さで亡くなってしまった。
その遠因は間違いなく柳沢にあった。
柳沢の援助で会社は危機を脱したが、その代わり娘が犠牲になったのだ。
だからこそ、せめてあかりだけは、好きな相手と結ばれ幸せになってもらいたい。
それこそが、母親代わりにあかりの面倒を見てきたあぐりに対する最大の供養になると願い…。
そして、渚の両親。
息子が連れてきた結婚相手が、人気女優『磨瀬榛名』である事を知り、恐縮しまくっていた。
渚からは中3の時の同級生としか聞かされていなかったので、まさか芸能人とは思いも寄らなかったようだ。
★☆★
市立極楽高校卒業式の日。
渚は生徒たちの卒業を見送り、自らも3年間教鞭を執った職場を後にした。
その一週間後、朝起きてテレビを付けたら、朝の芸能ニュースである事件が放送されていた。
『女優「磨瀬榛名」婚約、引退発表』…と。
「えっ!?引退する?」
あかりから女優を引退する事を知らされた渚は寝耳に水の状態だった。
渚にしてみれば、結婚しても女優を辞めて欲しいと思っていたわけではなかったからだ。
「言ったでしょう。これからは渚の夢を応援するんじゃなくて、傍で支えたいって…」
あかりからすれば、女優業よりも渚とのこれからの生活を取るのは当然といえた。
「渚の夢の言いだしっぺは私だしね」
いつかあの旧校舎を、渚が教鞭を執る学び舎にする。
その為に渚は浅野前理事長が経営する私塾で講師として務めると共に私塾経営の勉強をする。
しかし、渚1人では難しいだろう。
無論、あの土地の共同地主であるE組の皆も協力してくれるだろうが、渚の妻となる自分が一番支える必要がある。
既にあかりは學峯と面接し、渚と同じく来年度から浅野塾の事務のアルバイトとして雇ってもらえるよう手続きを済ませていた。
「最初はアルバイトとして事務職の勉強と資格を取得してから就職して、渚と一緒に浅野先生に私塾経営の勉強させてもらおうってね」
渚が私塾を開くとき渚が講師をして、あかりが事務を務め、2人で経営していく。
「でも、急に芸能界を引退なんて出来るの?所属事務所との契約だって…」
「その点は心配ないよ」
『殺せんせーのアドバイス・ブック 茅野カエデ編』に女優業復帰に対する事務所との契約に関してのアドバイスが書いてあった。
殺せんせーは、あかりが渚と結ばれ、芸能界を引退する可能性も視野に入れており、その時事務所とトラブルにならない様に対策を練ってくれていたのだ。
そのアドバイスに従い、子役時代の芸能事務所に復帰した時の契約した時にその事を織り込んでおいたのだ。
「つまり、殺せんせーは僕らが結婚する事を前提にあかりのアドバイスブックを書いたって事?」
変な方向に用意周到なゴシップタコを思い起こし、渚は顔を引き攣らせた。
「渚は、私が女優を辞める事反対?」
「…あかりがそれでいいなら、僕としても嬉しいよ」
いくら結婚しても、売れっ子女優ともなれば、中々時間があわないだろう。
何より温厚な渚とはいえ、お芝居だと割り切っていても、
ファンのみんなの為の『磨瀬榛名』ではなく、自分だけの『雪村あかり』でいて欲しいと思う。
でも、あかりが女優を続けたいというのなら、それを尊重しなければと思っていたが、あかりは女優業にそれほど未練はなかった様だ。
「きっと殺せんせーもね。「君にあってる」って笑って言ってくれると思うの」
「ありがとう、あかり。一緒に進んで行こう」
スキャンダルらしいスキャンダルのなかった清純派女優である磨瀬榛名の突然の婚約、そして引退発表に芸能界に激震が起こった。
「まだ若いのに引退は早過ぎる」という声が、芸能関係者やファンたちから当然、出ていた。
また、人気女優の結婚相手である渚に対する中傷が磨瀬榛名のブログやツイッターで呟かれたりしていた。
一般人なので、渚の名前が公表されてないので、渚に直接被害が出ているわけではないが……渚自身も自分が叩かれる事はある程度予想できていたので、基本的にスルーしている。
芸能人の突然の引退は所属事務所はおろか、下手をすれば関係のある各所に損失を与えてしまうため難しいのだが、渚と交際を始めてから徐々に仕事を減らしていき、引退を発表する頃には、どこにも迷惑がかからない様、配慮されていた。
事務所側も、磨瀬榛名が子役のときにレッスンなどでそれなりの金を掛けたが、天才子役だったあかりはその分の元はしっかりと取っており、復帰後も長年のブランクをモノともしない活躍で、事務所の利益にかなり貢献しており、さらに丁度契約更新の時期であった事も重なり、強く反対できなかった。
さらに事務所の社長とあかりの父親は旧知の間柄であり、その口添えもあって、さしたトラブルも無く引退できたのだった。
「やあ、よく来てくれたね。潮田君に雪村さん」
3月末日。
渚とあかりは、これからの職場となる浅野塾に赴き、浅野學峯塾長に挨拶を交わした。
「よろしくお願いします、浅野塾長」
「こちらこそよろしく。期待してますよ潮田先生。そして雪村さん」
「はい」
「貴女ならば、今年中にも事務系の資格の殆どを取得できると思いますので、今年の秋ごろにはアルバイトから正式雇用とさせて頂きます」
「ありがとうございます塾長」
あかりは高校卒業後、女優業に専念しながらも勉強は続けていた。
学ぶ事は演技の幅を広げる事にもなるし、殺せんせーいわく、「第二の刃を持たざる者に暗殺者の資格なし」という教えにも合致している。
「君たちの夢、私も応援させてもらうよ。あの校舎は私の教育の始まりの場所でもある。一時は私の弱さの象徴だった場所だが、教育の原点に立ち返った場所でもある。私と殺せんせーの後を君たちが継いでくれるのを楽しみにさせてもらうよ」
「「はい!!」」
こうして、渚とあかりは新たな
他の方の後日談では、結婚してもあかりは女優を続けていくという話が多いですが、この作品ではあえて引退させました。
あかりは天才的演技の持ち主なので、結婚したら引退というのは不自然ではないか…とも思いますが、国民的人気を誇る某探偵漫画の主人公の母親も人気女優だったけど、結婚して女優を引退している設定なので、創作物たし深く考えなくてもいいか。
と、開き直りました。
次回はいよいよ渚とあかりの結婚の話になります。