戦闘訓練開始の合図と共に円は屋内に突入。目立つことも構わずに個性を利用し、迷いなく核兵器が置いてある部屋まで向かう。
だが向かうのは円1人だ。上鳴は未だ屋内に入らず、外に待機している。
これは円と上鳴のペアの作戦だった。
▽ ▽ ▽
「轟!もう扉の目の前まで来ているぞ!」
障子の声に轟は顔に焦りを浮かべる。それもそのはずだ。開始からまだ1分も経っていない。それなのに既に円は核兵器のありかを見つけ、轟たちのところまで迫っているのだ!
「くるぞ!」
この障子の叫びと同時だった。ドガァッン!!という音と共に飛び込んで来たのは円ではなくこの部屋の扉だった。吹き飛ばされた扉の向こうに走り出した円が見える。
「チッ!」
1つ舌打ちをして、それでも冷静に轟は飛んで来た扉を凍らせることで無効化する。半冷半熱、氷と炎、単純だがそれ故に強力な轟の"個性"だ。
轟はドアを無効化しただけにとどまらず氷を放射状に広げることで、後ろから走ってくる円にまで攻撃を行なっていた!
円が腕を強く振るう。
ズガァァッン!!
それとほぼ同時に何らかの衝撃と氷がぶつかり、相殺される。
そのまま走り続ける円を迎撃しようとした轟だったが円は轟を無視して「行くぜ、行くぜ、行くぜえええ!!」と声を張り上げながら障子に向かっていく。
障子が突っ込んでくる円を迎え撃とうと身構える。その時には既に円は障子の目の前から消えていた。
敵側の3人が全員あっけにとられる。もっとも早く気づいたのは耳郎だった。
「障子!上!!」
耳郎の声に障子が反射的に上を向く。目に入ってきたのはかかと落としの体勢をとる円だ。
「反応、遅えよ!!」
障子に向かって円のかかと落としが叩き込まれる!
しかし、このかかと落としは障子にダメージを与えるにはいかなかった。障子の"個性"複製腕によって、触手に複製された2本の腕がかかと落としを防いだ。
「やるじゃねえか!」
円はそのまま障子に張り付かんばかりの距離で格闘戦を演じる。
これでは轟の攻撃は強力な範囲攻撃故に、味方までも巻き込む恐れがありおいそれと"個性"を使えない。
同じようになにもできず顔に焦りを浮かべる耳郎も恐らくは味方を巻き込む可能性のある"個性"だと円は推測する。
「障子!距離取れ!!巻き込む!!」
轟の叫び声に障子は素早く反応する。大振りの攻撃により円を後退させ、自らも距離をとる。距離が離れるやいなや轟の方からまたも氷が地面を走り襲ってくる!しかし味方を巻き込むことを恐れてか先ほどよりも範囲が狭い。
円はこれを個性を使わずに避ける。しかし、避けた方向に衝撃波のような攻撃と爆音が円を襲った!!
「グッッッ!!」
思わず足が止まってしまうが横からさらに轟の氷が襲ってくる。
一歩足を強く踏み込む。ドガァッン!という音ともに円の姿が消える。
「個性把握テストのときの高速移動か!厄介だな」
耳郎と轟の攻撃をどうにか避けて円は再び障子に狙いを定め張り付きながらの格闘戦を演じる。
2人の攻撃手段が範囲攻撃な以上、味方である障子に、張り付いていれば迂闊には攻撃できない。
これがもし、円1人で3人を相手にすることになるならば、まずは範囲攻撃持ちの轟と耳郎から無効化するだろう。しかし、今回は上鳴とのコンビだ。今回の円の仕事は時間稼ぎ。つまり囮でしかない。
▽ ▽ ▽
「いいか、上鳴。おれの"個性"は絶対領域。簡単に言えば範囲内を知覚して、そこに自分が発生させた衝撃を増幅したり拡散できる"個性"だ」
5分間の作戦会議の時間、円は上鳴に自分の"個性"について説明していた。
「お〜、すげー個性じゃん!いろんなとこで役立ちそうだしよ!」
「まぁ、確かに便利な個性だけどな。デメリットは使いすぎると頭痛や吐き気が起きることだ。正確にはあまりの情報量に脳が追いつかなくなって酔うんだけどな」
上鳴の"個性"については円は既に理解している。電気を纏うだけ、放電することはできるが狙いはつけられない。そして許容量を超えるとウェーイとしか言わないアホになる。
指向性がない電撃を核兵器の置いてある部屋でぶっ放すわけにはいかない。狙いはつけられないことを知っているはずなのに指向性の補助をつけなかった上鳴に円は呆れていた。
「ほんとにお前はバカだな…」
「ちょっ!急になんだよ!いきなり酷くね!」
「まぁ、いいか。今回の屋内戦闘では少なくとも核兵器の置いてある部屋ではお前の"個性"を迂闊には使えない」
「まぁ、そうなるよな。てことは俺足手まとい…」
足手まといになることに落ち込んでいる上鳴だがどんな能力でも使いようだ。指向性が伴わないといっても電気を操る"個性"は強力だ。使い用はいくらだってある。
「そこで作戦だ!」
「ちなみに、どんなだよ」
「まずはおれの"個性"を使えばこの規模のビルなら全容を把握できる。そこでおれは1人で核兵器の置いてある部屋まで突入する」
「はぁ?お前1人でか?俺はっ!」
「まぁ、落ち着けよ。続きがあるからよ」
上鳴が落ち着いたのを確認し作戦の続きを語っていく。
「まず、おれ一人で突入するのは上鳴にはトドメの役割を担って欲しいからだ」
「とどめ?」
「あぁ。おれが一人で突入し3人と戦ってる間に上鳴はできる限り静かに戦ってる階の1つ下の部屋に行って欲しい。お前の準備が出来次第おれが床を抜く。そして放電して全員を戦闘不能にする!」
「なるほどな、確かにそれなら核兵器にダメージもいかねーか。でもよー、1人で突入しなくてもよくねえか?」
「おれみたいに知覚できる索敵系の"個性"だったらお手上げだけどな、音で索敵するタイプの"個性"だったら戦闘音である程度無効化できる。とどめの役割を担う上鳴が何処にいるかはできる限りバレない方がいい」
はぁ〜、なるほど〜、と感心した様子の上鳴だがでもよ、と続ける。
「肝心なとこだけどさ、円城つえーのは知ってるけど3人も相手にできんのか?」
確かに上鳴の言っていることはもっともだ。何故ならこの作戦は円が3人を足止めできなかったら全くと言っていいほど意味がない。
だが、と心の中で呟いて繋げる。
「絶対ってわけじゃない。でも多分大丈夫だ。倒すんじゃなくて足止めだしな」
▽ ▽ ▽
(クソッ!円城が障子にずっと張り付いてるせいで攻撃できねぇ!)
轟は焦っていた。開始1分足らずで3人に強襲を仕掛けてきたかと思えば、そのままたった1人で3人を相手に上手く立ち回っている。
味方を巻き込んでしまう轟と耳郎は障子に張り付いてるいる円に対して効果的な攻撃をできないでいた。
なによりも円の立ち回り方がうまかった。何度も円を引き剥がそうと障子は行動を起こしているが、それを上手くかわされ最初の一回を除いて円を引き離すことはできていない。
完全に膠着状態だった。
轟と耳郎は迂闊には手を出せず、障子は円を無効化できていない。円も必要以上に攻撃してカウンターを食らうのを警戒し迂闊には攻撃しない。
円の耳についた小型の通信機へ上鳴からの通信が入る。
『円城、準備できたぜ』
この通信が入り思わず円はニヤッと笑みを浮かべる。
敵側の3人は円に翻弄されて上鳴から完全に意識が外れている。恐らくどうすれば円を無効化できるのか考えることで頭が一杯なはずだ。あとは床を抜くだけ。
屋内での大規模な破壊行為は下策だ。だから床を抜くにしても破壊は最小限に、3人をできる限り近くにまとめておきたい。
核兵器からは引き離した。あとは3人をひとまとめにすればいい。
視線を少し横にずらす。そうすることで障子の視線が円の見た方向に移動した。単純な視線誘導だったが引っかかってくれた。
ドガッン!
一瞬障子が円から目を離したすきに轟の元へ移動する。
「クソッ!」
轟が氷で防御しようとするがもう遅い。
移動の勢いのまま轟を障子の方に蹴り飛ばす!耳郎の意識が蹴り飛ばされた轟の方に向いた。
その隙を円は逃さない。轟を蹴り飛ばしたときと同じように一瞬で耳郎の元へ移動し障子と轟の元へ蹴り飛ばす!
障子が轟と耳郎を受け止めている。3人がひとまとまりになった。
これで条件は整った!
轟たちのいる方向に向かって走る。
「悪いな、これで終わりだ!」
強く地面を踏み込む。円を中心に敵側の3人を含む範囲の床に放射状にヒビが入り砕ける。
「クソッ!」
「むっ!」
「うわっ!」
3人が驚きの声を上げる中不敵に声を上げるやつが下で待ち受けていた。
「よっしゃ!待ってたぜえ!!ちゃんと防げよ円城!!くらっえぇぇ!!!」
上鳴が電撃を解き放つ!円のスーツは耐電機能も備えている、丸まってできる限り電撃に当たる面積を小さくする。
なんの準備もない3人には防ぐ手立てがなかった。
「ふぅ…。かなりの強さでやったからなしばらく痺れて動けねぇよ。円城は大丈夫か?」
核兵器の置いてある1つ下の部屋では敵側の3人が上鳴の放電をうけて痺れて動けないでいる。
円のスーツには耐電機能はあるがそれでも少し痺れている。このことが上鳴の強さを円に再認識させる。
「ああ、多少痺れはあるけどな。上鳴は3人を捕獲してくれ。俺は核兵器の方に向かう。万が一こいつらが動き出す可能性もあるからな」
▽ ▽ ▽
円が部屋を出て行った。確かにいくら電撃で無効化したって言っても動ける可能性もある"個性"を使って何かしてくる可能性もある。
「やっぱり、円城はすげーな。悪いけどさ、ここまで円城にお膳立てしてもらってんだよ。これで負けたら申し訳ねぇ」
上鳴が先ほどよりも弱いが放電を開始する。
「許容量を超えない電撃を捕獲するまで垂れ流す。これなら動けねぇだろ」
放電をしたまま上鳴は3人を拘束していく。
「ヒーローチームWIN!!」
オールマイトの声が響く。
円と上鳴の勝利が決定した!
次は少し遅くなるかもしれません。
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