「「「個性把握テスト?」」」
担任である相澤から体操服に着替えさせられグラウンドに出たA組の面々に告げられたのは個性把握テストなるものだった。
クラスメイトたちは驚いているが、円にはそんなことよりもきになることがあった。
(入学式出なかったらぶっ飛ばすって一佳に言われてるんだけどこれはセーフだよな、セーフ…)
中学時代円は入学式をサボり一佳にしめられた。今回もサボればぶっ飛ばすと言われていたがこんなことになっては仕方ない。円は無理やり自分を納得させた。そして、ぶっ飛ばすなら入学式をサボらせた相澤を殴らせよう、と同時に決意した。
こんなことを考えている間に説明は進む。どうやら中学までもやっていた体力テストを個性ありでやるらしいと円は予測をつける。
それはかなり面白そうだ。
「実技入試成績のトップは円城だったな」
後ろからお前トップだったのかよすげー、という上鳴の声が聞こえる。さらに机に足を乗っけっていた敵面の生徒からは殺されそうなほど睨まれる。
(うわっ、なんだあの顔面凶器こぇ…)
円がビビっていると相澤から個性なしのボール投げの記録を聞かれる。
「曖昧ですけど、確か74とかだったと思います」
「なら、個性ありでやってみろ。円から出なきゃ何してもいい」
ボールを渡され準備をさせられる。
(まぁ、見世物になんのは癪だけど仕方ない。とりあえず投げる瞬間衝撃を増幅させて…)
「らぁぁ!!!」
ボールを投げる瞬間、衝撃が増幅されボールがありえないほど飛んでいく。
「まずは自分の最大限を知る。それがヒーローの素地を形成する合理的手段」
そう言ってクラスメイトたちに見せた携帯端末には円の記録が表示されていた。
うぉぉぉー!という歓声が聞こえる。円も気になって覗いてみると表示された記録は756メートル。
この記録には正直記録を出した円本人もビビった。
(こんな出るとは思わんかった…)
クラスメイトたちは、なにこれおもしろそう、個性思いっきり使えんのか、とかなり盛り上がっている。
だが、相澤にはこの雰囲気が気に入らなかったらしい。一通り苦言を呈してこう言い放った。
「よし、8種目トータル成績最下位の者は見込みなしと判断し、除籍処分としよう」
「はぁぁぁぁ?」
円も含めクラスメイトたちが驚愕する。もちろん円は1位を取るつもりなので最下位なんかにはなるつもりもないが、いくらなんでもこれは横暴が過ぎた。
「生徒のいかんは俺たちの自由。ようこそ、これが雄英高校ヒーロー科だ!」
なるほど、流石はヒーロー科最高峰に位置しているだけはある。つまりはこの苦難を乗り越えていけということだ。
(いいね、腕がなる)
「最下位除籍って入学初日ですよ!いや、初日じゃなくても理不尽すぎる!」
だがまぁ、いきなり除籍処分と言われて「はい、そうですか」、と受けいることは難しいのだろう。教室の前の方で緑谷と話していたなんか雰囲気が麗らかな感じの女子生徒が相澤に苦言を呈した。
だが、相澤は受け入れるつもりがないらしい。災害に事故に敵たち、日本は理不尽にまみれている。そして、それを覆すのがヒーローだ、と円たちに言って聞かせる。
「放課後マックで談笑したかったならごあいにく、これから3年間雄英は君たちに全力で苦難を与え続ける。さらに向こうへ、Plus Ultraさ。全力で乗り越えてこい」
この相澤の言葉にクラスメイトたちの表情も変わる。確かに最下位除籍はやり過ぎなような気もする。しかし、それも与えられた苦難だ。ならば、乗り越えなくてはいけない。
(おもしろい!やってやるさ!!)
円も決意を新たにする。ヒーローになるためにはまずはこの苦難から吹き飛ばして行こう、と。
「さて、デモンストレーションは終わり。こっからが本番だ」
▽ ▽ ▽
最初の競技は50メートル走だ。円にとっては個性を使うことのできる競技だ。円は個性なしでも十分に速いが個性を使えばもはや速いというレベルではない。
タイムを計る機械がスタートの合図をした瞬間。地面を蹴った衝撃を増幅する。
ズドンッッ!!
「1秒42」
クラスメイトたちの、おぉ〜という驚嘆の声が聞こえる。
告げられた記録は現段階ではぶっちぎり。恐らくA組の中でトップだろう。
やっぱ円城めちゃくちゃはぇな!という上鳴の声が後ろの方から聞こえてきた。
「いや〜、円城くんめっちゃ速いね!」
走り終えたのだろう。少し息が切れている一緒に走った女子生徒が声をかけてきた。
緑谷と話していたうららかな感じの女子だ。
「ありがとう。でも、これは個性使えたからな。えっとうららかちゃん?」
「あれ?私名前言ったっけ?」
名前は分からなかったのでとりあえず印象をちゃん付けで呼んでみたのだがまさかの当たりだった。
円が固まっていると、うららかな感じの女子生徒改めてほんとにうららかだった麗日が円の顔を訝しげに覗き混んでくる。
不信感もたれた!と思い円は正直に弁明することにした。
「悪い。第一印象がうららかって感じだったから適当だった…」
「なーんだそうやったんや。じゃあ、改めて!麗日お茶子です!よろしくね円城くん!」
(もうなんだろ、この人は天使かな?)
麗日は気分を害した様子もなく、円に自己紹介をする。間違いなくうららかだった。
「こちらこそよろしく頼む。円城 円だ」
「下の名前円って言うんだ!女の子みたいな名前だね」
「言わないでくれ。意外と気にしてる」
一佳との関係と同じくらい初対面の相手に言われる言葉だ。
そして、この手の話題を弄ってくるやつが円にとって唯一のA組の知り合いにいた。
「お〜、円ちゃ〜ん。50メートルめっちゃ速かったな〜」
ムカつく顔をした上鳴が円のことをちゃん付けで呼びさらに肩を組んできた。
むかついたので適当に殴ってあしらう。
「麗日次の競技行こうぜ。そいつほっといていいよ。アホだからな」
麗日と連れ立って次の種目の場所へ移動する。
「ちょっ!円城初対面の女子にそれはやめてくれ〜」
後ろから上鳴の、情けない声が聞こえたが円はもちろん聞こえないふりをした。
やはり流石は雄英高校ヒーロー科に、入学を果たした生徒たち。誰もが何か1つくらいは個性を利用しありえないような記録を打ち立てていく。
触手のようなものがある生徒は腕を増やして500キロを超える握力を叩き出した。円は握る衝撃を増幅させたら握力の測定器が壊れてしまったために測定不能だった。
反復横跳びでは頭にぶどうのようなものをつけた生徒がもはや人の域を超えた記録を出していた。円は個性を使わずに83回。逆にみんなを驚かせる結果になった。
そして、今はボール投げ。先ほど麗日が無限という信じられないような記録をだし、みんなを驚かせた。円もものすごくびっくりした。
そして、順番は緑谷の番なのだが、少し空気が悪い。
「おい、上鳴どうしたんだ?」
円はよく、この空気の意味がわかっていなかった。故に癪だか上鳴に聞くことにした。
「いや、今順番来てるあいつ記録やべえんだって。このままじゃ多分最下位」
「個性使った記録出てねぇってことか?なら体力測定で使える個性じゃねえんじゃねえのか?」
「いや、確かにそうなのかもしれねえけど、だとしたら可哀想だな」
まぁ、確かに可哀想かもしれない。だが、個性を使えないなら体を鍛えればいい。緑谷の記録はどれも平凡の域を出ない。それは体を鍛えてこなかったことを意味する。可哀想かもしれないが円にとっては自業自得としか思えない。
そして、今緑谷が投げたボール投げの記録は40メートル程度。雰囲気からなにかをしそうな気配はしたのだが、どうやら相澤が個性で個性を消したらしい。
個性を消す個性。円は多少だが聞いたことがあった。
「イレイザーヘッド…」
「は?誰だそれ」
「多分相澤先生のヒーロー名だ。個性を消す個性を持つアングラ系のヒーローだから知名度はねえかもな。あと、メディア嫌いで有名だ」
「へぇ俺は初めて知ったぜ」
イレイザーヘッドの名を聞いて周りが少しざわつく。どうやらほとんど全員が知らないらしい。まぁアングラ系ヒーローに詳しいやつもちょっとどうかと思うが…。
緑谷が相澤に指導を受ける。その中で気になることが聞こえてきた。
「個性が制御できないねぇ…」
「どうしたんだ?いきなり」
円の独り言に上鳴が反応する。
「いや、相澤先生が緑谷に個性が制御でないって言ってんのが気になってさ」
「え?お前今の聞こえたの!耳すげーいいな!」
円は生まれつき耳と目がものすごくいい。何故だか理由は不明だ。父も母も良かったので恐らく遺伝だろう。
指導が終わったらしく緑谷がボールを投げた。そのボールは凄まじい勢いで飛んでいく。
だが、緑谷の指は真っ赤に腫れ上がっている。どうやら個性を制御できていないのは事実らしい。
周りが700メートルを超える大記録にざわついている。
「おい、円城700メートル越えだぞ!すげーな」
「お前、あいつの指見てみろ。確かにすごい記録だけど、あれじゃあな」
緑谷の指を見た上鳴が若干引いている。見た目通り痛いのとか熱血が嫌いなのかもしれない。
そんなことを思っていると、円を睨みつけていた敵面が緑谷に殴りかかろうとしているのを相澤が止める。どうやらあの布みたいなものは捕縛武器らしい。
「たく、何度も何度も個性使わせるなよ。俺はドライアイなんだ!」
クラスの全員の心が1つになった。
(((個性すごいのにもったいない!)))
見たものの個性を消す。強力な個性なのに本当にもったいなかった。
▽ ▽ ▽
その後はとくに何事もなく体力テストは続き。結果の発表になった。
結果は円は一位だった。ちなみに上鳴は17位。そして、除籍すると言われていた最下位はやはり緑谷だった。
「ちなみに除籍は嘘な」
相澤がポツリと衝撃の一言を落とした。
周りが全員ポカンとしている。かなりのアホ面を晒している。
「君らの個性を最大限引き出す合理的虚偽」
緑谷と麗日それに眼鏡の男子生徒が大袈裟に驚いている。
「そんなの嘘に決まってるじゃない。ちょっと考えればわかりますわ」
「まぁ、入学初日に強制退学とか普通に社会問題だしな」
ポニーテールの女子生徒に続き円も一応突っ込んでおく。ちなみに円は嘘だろうと思っていた。嘘ではない。ほんとに。
隣にいる上鳴は気づいていないようだった。他にも数名。
「これにて、終わりだ。教室にカリキュラムなどの書類があるから戻ったら目を通しておけ」
相澤の一言で入学初日いきなり始まった個性把握テストは終わりを告げた。
▽ ▽ ▽
「おい!てめぇこら!クソ黒髪!!」
教室に戻り帰りの支度を済ませていると個性把握テストで睨みつけてきた敵面が円に向かって怒鳴り込んできた。
だが、円はそれを華麗にスルーして帰りの支度を進める。
「おい!無視してんじゃねえよ!!なめてんのかゴラァ!!」
さらに勢いを増して怒鳴ってくる。流石にこれを無視し続けるのは他のクラスメイトに申し訳が立たない。仕方なく円は応えることにした。
「円城 円だ、敵面。せめて名前を覚えてきてから話しかけてこい」
円の一言に周りのクラスメイトたちが吹き出した。
「ちょっ、円城敵面ってっ…」
上鳴が笑いを堪えきれずに声を漏らす。案の定敵面にものすごいメンチを切られ、上鳴は口を閉じた。まだ少し吹き出しているが。
「で、お前の名前は?いつまでも敵面じゃ嫌だろ」
「ちっ!クソが、爆豪勝己だ!!ぜってぇてめえには負けねぇからな!絶対だ!!」
名前を告げて、さらに勝ってやる宣言をして敵面改め、爆豪はドスドスと擬音のつきそうな歩き方で帰っていた。
「いきなり、喧嘩売られたのか…」
「あいつ、実技2位だったらしいからな」
円の言葉に赤い髪を逆立てたクラスメイトが答えてくれる。
「俺は切島鋭児郎だ。よろしくな円城!」
「そうか、それで俺に。円城 円だ。よろしく頼む切島」
切島に自己紹介を返し、爆豪が円に喧嘩を売った理由も解決した。
切島と円の会話に上鳴も混ざり話が盛り上がってきたところで事件は起きた。
A組のドアが大きな音を立てて開く。教室に残っているクラスメイトたちが軒並み驚いている。
教室の、ドアを強く開けたのは円のよく知る幼馴染の少女、のはずだった。今の彼女は恐らく怒りのせいだろう。まるで鬼のような形相で円を睨んでいる。近くにいた切島と上鳴はおもわず、といった様子で一歩後ろに下がった。
「ま〜ど〜か〜!!私、入学式サボるなって言ったよなぁ!!」
「待ってくれ!一佳これには理由があるんだ!殴るならおれじゃなくてサボらせた相澤先生を殴ってくれ!」
「うるさい!言い訳するな!問答無用!!」
ドスドスと足音を鳴らして一佳近づいてくる。それに合わせて切島と上鳴は後ろに下がる。円の前にきた一佳が腕を思いっきり振りかぶっている。
「言うことなんかある?」
「殴らないでください…」
ドガンッ!!円の願いもむなしく一佳の振りかぶった拳が円の頭に吸い込まれる。
確実に周りのクラスメイトたちは引いていた。
その後、上鳴が事情を説明し自分の非を悟った一佳はA組のクラスメイトたちに謝り、それを見て鼻で笑ってしまった円は結局、一佳にしめられることになった…。
個性把握テストです。
やっぱり小説かくの難しいなって思います。でも、頑張ります!