いつもなら幼馴染である一佳が起こすまでなかなか起きることのない円も今日ばかりは時間前に準備をしていた。
中学の制服に袖を通し、荷物を確認する。
「よし!とりあえずこれでばっちりだな」
今日は雄英高校ヒーロー科の入学試験の日だ。ゆえに円も珍しくしっかりと起きることができていた。
「円ー。流石に今日は準備できてるよね?」
部屋のドアの外から一佳が声をかけてくる。いくら寝坊癖のある円とはいえ今日くらいはしっかり起きたのだが、心配だったのだろう。
「おう!流石に今日はしっかり準備終わってるよ」
そう声を上げつつ、ドアを開けて廊下に出るとすでに一佳も同じ中学の制服に袖を通し、荷物の準備も終えて待っていた。
「よかったよ。今日も寝てたらどうしようかと思った」
「毎回毎回布団剥ぎ取られて殴られのは勘弁だからな」
「あんたがずっと寝てんのが悪い」
いつものように会話をしつつ階段をおり一佳の両親に挨拶をすませ食卓について、朝食をとる。
「今日は雄英の入試か。2人なら大丈夫だと思うけどがんばってくるんだよ」
「はい、頑張ってきます!」
「うん、頑張ってくるよ」
一佳の父に円と一佳の順に答える。朝食を済ませ、同じように一佳の母にも決意を伝え2人で玄関を出る。
「「いってきます!」」
「「いってらしゃい」」
円と一佳は並んで試験会場である雄英高校へ向かう。
「2人の夢への第一歩。2人で合格できるといいな」
「大丈夫ですよ。2人なら必ず合格しますから。合格発表の日は2人の好きなものうんと作ってあげます!」
「そうしてやってくれ」
2人の背中を見ながら語る夫婦の会話だった。
▽ ▽ ▽
「やっぱり雄英でけぇな」
雄英高校はかなりの大きさを誇っている。そして今日は入学試験。人の数も相当いるのだ。
「あんた、迷子にならないようにしなさいよ。迷子になって試験受けられません、とか目も当てられないから」
「一佳こそ迷子ならないように気をつけろよ。泣いても助けてやれないからな」
「泣かないわよ!」
一佳は子供の頃円と逸れて泣いたことがある。それをからかったのが伝わったのだろう。ややキレ気味だ。
いつもどおりのやり取りを交わしていたが、周りからかなりの注目を集めている。
まぁ、緊張してる中にこんなに騒がしいと仕方ないだろう。
「注目集めてるみたいだし、早く行って受付済ましちまおうぜ」
「あんたのせいだからね」
「わかった、わかった早く行くぞ」
受付を済ませ、筆記試験を終える。その後、全員が講堂に移る。
「筆記試験、あんたはどうだった?」
「俺は多分問題ないぞ」
「そっかそれならよかった。私も問題なし」
「まぁ、問題は筆記よりも実技だろ」
「そうね。あ、説明始まるみたい!」
一佳の言った通り1人の教師が出てきて実技試験の説明を始める。
説明しているのはプロヒーローでもある、プレゼントマイクだ。雄英の教師はプロヒーローが勤めている。こんな贅沢な環境なのも雄英が人気な理由の1つだろう。
「10分間の模擬市街地演習ねぇ」
「なにかあんの?」
「いや、特に疑問はねぇよ。さっき眼鏡君がもう一体のやつについても質問してくれたしな」
先ほど眼鏡をかけたいかにも優等生といった生徒が要項に記載されていた4種の仮想敵に対して質問を行なっていた。ついでにボゾボソ喋っていた生徒にも注意を促していたようだが。それは置いておいていいだろう。
そのおかげで疑問も解消できた。
「3種類のポイント付きに1種類のポイントなしのお邪魔虫。ある程度の戦略も必要そうだ」
実技試験の内容は10分間の模擬市街地演習。3種類のポイント付きの仮想敵を倒してポイントを獲得する、という単純なものだ。
だが、その中に一体だけそこらじゅうを暴れまわる0ポイントの仮想敵がいるらしい。
だが、この手の捜索し撃破するタイプの試験なら円の個性にとってはやりやすい。
「まぁ、お互い受かるように頑張ろうぜ。この試験なら大丈夫だと思うけどな、俺の個性有利だし」
「あんたねぇ、そういうこと言わない!まぁ、お互い頑張りましょ。また、後で」
「おう」
おそらく友人同士で連携を取らせないような措置だろう。円と一佳の試験会場は受験番号は連番だったが別だった。円はD組だ。
ここでいったん一佳とは別れ円は演習場へ向かうためのバスへ乗り込んだ。
▽ ▽ ▽
D組の試験会場に到着した円ははっきりと驚愕していた。
「なんじゃこりゃ…。もはや街じゃねぇか。学校にこんなん何個もあんのかよ…」
いや、驚愕を通り越して呆れていたかもしれない。目の前にある演習場はどう考えても規模が街と言って差し支えないレベルだった。
ひとしきり設備に驚いていると「おーい」という声が聞こえてきた。
おそらく知り合いでも見つけたんだろう。だが、円の近くで何度も聞こえてくる。
「おーい!あんただよ!あんた!」
キョロキョロ首を回した円だったがどうやらこの金髪のいかにもチャラそうな少年は円に声をかけてきたようだった。
「誰だおまえ?なんかようか?」
「ちょっ!いきなり酷くね!俺は上鳴電気だ、よろしくな」
「円城円だ、よろしく。で、何の用だ?」
上鳴電気と名乗った少年が握手を求めてくるので円も握手に応じて先ほどと同じ質問をもう一度投げかけた。
「ああ、いやあんたさっき校門のとこで可愛い子と騒いでたやつだろ。印象残っててさ」
「あ〜…、そうかあれを見てたのか」
「おう、見てたんだよ。それでか「幼馴染だ」のじょ…」
円は聞かれることを予想していたため、食い気味で答える。この質問は中学時代何度も何度もされた定番の質問だ。
はっきり言ってもう答えるのすらめんどくさいが訂正しておかなければもっとめんどうなことになるのは明らかだった。
「なんだよ、彼女じゃなかったのか」
「ああ、そうだ。それよりいいのか?」
「え?なにが?」
「もう全員出発したぞ」
円と、上鳴が話している間に門が開き前の方にいた受験生たちが一斉に演習場に向かっていったのだ。
「嘘だろぉ!!やべっえ!早く行こうぜ!」
「落ち着け。まぁ話しかけたのはお前だが、応じたのはおれだ。手を掴め。手伝ってやる」
「は?いや、何言って」
「いいから」
上鳴は疑問を持ちつつもおずおずと円の手を握る。
円はその手きつく握る。
「飛ばして行くぞ!振り落とされるなよ!」
「え?何言って…」
ズドンッッ!!!という音を置き去りにして入口から円と上鳴が掻き消えた。
「ぎゃゃぁぁぁぁーー!!!!」
上鳴の悲鳴だけが虚しく響いていった。
とりあえず二話目になります。
できたら感想だったり評価よろしくお願いします