拝啓、私の愛しい妹へ   作:つくねサンタ

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 投稿遅れてごめんなさい!!(土下座)
 もう一方の方の筆がまっっっったく進まないのでこっちを先に書くことにしました。もう一方の更新はもう少し待ってください(土下座)



絶望の復活

 まだ日も昇っていない早朝、すでにカルネ村は起き始めていた。村の朝は早いのだ。そしてそれはエモット家も同じである。家族のご飯を作る母親よりも早く起きたエンリは台所で大量の食材を消費して料理を作っていた。肉や野菜がたっぷり使われているそれは以前までのカルネ村の食事に比べるとかなり豪華である。

 

「よし。こんなものかな」

 

 エンリは大きな皿に山盛りになった御飯を持って家を出た。かなりの大きさなのだが、最近妙に力が強くなった彼女にとってはそこまでの重量ではない。

 

 彼女が向かったのは家のすぐ隣に建てられたまだ新しい小屋。中からは大きないびき声が聞こえる。そのいびきはエンリが小屋の中に入っても途切れることは無い。野生動物としてこんなにのんきでいいのかと最初は思ったエンリだったがもう慣れてしまった。今は圧倒的実力を持つが故の余裕なのだと思うことにしている。

 

「ハムスケさん。朝ですよ」

 

 エンリが小屋の中に入りその体をゆすることでようやくハムスケが目を覚ました。

 

「ふわぁ…。姫、おはようでござる」

「はい。おはようございます」

 

 まだぼんやり様子のハムスケに笑顔であいさつするエンリ。そんなエンリにハムスケも思わず笑みを浮かべる。

 

「朝ごはん作ってきましたよ」

「おお!朝餉でござるか!姫の作った御飯はおいしいでござるからなあ」

「そんな大げさですよ」

 

 エンリはハムスケの言葉に両手を振って謙遜するがそもそも今までハムスケは”料理”というものを食べたことがなかったのだ。エンリの料理の腕は高いと言うわけではないが、今まで料理を食べたことのないハムスケにとってはかなりの御馳走なのである。

 ガツガツとエンリの作った大量の料理をすさまじい勢いで消費するハムスケ。エンリはそれを見ながら思う。大分この生活にも慣れて来たな、と。

 

「(最初はすごい騒ぎになったものね)」

 

 エンリが初めてハムスケと出会ったのは今から三カ月前。最初カルネ村まで連れて行った時は本当に大変な騒ぎになったものだが、伝説に名高い森の賢王であるハムスケすら勝てないトレントの存在を聞かされた村人たちは恐れ多のいた。そして議論の結果そのようなモンスターがいるのならハムスケに村にいてもらった方が良いということになった。

 トレントが森で暴れまわっている影響で森の生態系が多いに乱れている。そのせいでハムスケの元の縄張りを無視してこの村まで逃げてくるモンスターが一定数いる。なのでエンリの今の仕事は農作業ではなくハムスケと一緒にトブの大森林の調査と、モンスターたちの間引きをすることであった。

 

「姫?」

「いえ、なんでもありません」

 

 いきなり頭を撫で始めたエンリにハムスケが食事を中断して理由を問うが、エンリは微笑みを浮かべてごまかした。

 

「さて、私も朝ご飯食べてこよう」

 

 エンリは立ちあがるとハムスケに声をかけてから小屋を出る。すでに家ではエンリの母親が料理を作り始めているころだろう。すでに家からはいい匂いが漂っている。

 

「お母さんおはよう」

「おはようエンリ。ハムスケさんにご飯はあげたの?」

「うん。何か手伝うことある?」

「じゃあ手を洗ってからお皿を持ってきてくれる?」

「うん!」

 

 エンリは家にある大きな甕から水を掬って手を洗う。そしてうきうきとした気分でお皿を用意する。エンリもそこそこ料理は出来るが、やはり母親の料理のような家庭の味というものは出せない。素朴ながらに優しい母親の料理がエンリは大好きだった。

 

「お姉ちゃんおはよう!」

「おはようエンリ」

「おはようネム。お父さん」

 

 エンリとエンリの母が朝食を用意し終わる頃に妹のネムと父親が起きだしてくる。エンリは二人に顔を洗ってくるように言い、机の上に食事を並べる。数か月前までとは比べ物にならないくらい豪華になったメニューは見てるだけでもよだれが垂れてきそうだ。

 

「うわー!今日もすごい!」

「こらネム!椅子の上に立たないの!」

「えへへ、ごめんなさい」

 

 エンリがネムのことをしかりつける。しかし内心ネムの態度に共感もしていた。何度も言うがほんの数か月前までとは食卓に乗ってる食材のレベルが違うのだ。特に変わったのは肉だ。それはエンリがハムスケと一緒にトブの大森林に行って様々な調査をするついでに狩った生き物の肉だ。ハムスケは伝説に名高い大魔獣だ。毎日大量の肉を確保することなど文字通り朝飯前にこなすこともできる。

 

「ふぅ、おいしかった」

 

 ちゃっちゃとご飯を食べたエンリは母に感想を告げてから物置に移動する。ハムスケという護衛がいるとは言えトブの大森林はとても危険な場所である。なのでエンリも防具を身に付け、武器も持って行く。エンリが今使っている武器は短槍に分類されるもの。森の中では普通の槍の長さでは振り回せないので選んだものだ。ちなみに槍以外の武器はなぜか肌に合わなかった。

 

「これとこれ、あとポーションを入れて」

 

 エンリは腰のポシェットに希少なポーションと解体用に使うナイフなどを入れていく。特にポーションは自分の命を守る重要かつ貴重な品である。割れることがないようにちゃんと固定しておく。

 ちなみにただの村人でありお金のないエンリがなぜ高価なポーションを持っているかと言うと、一カ月ほど前に友人のンフィーレアがこの村にやってきた時に貰ったのだ。ンフィーレアはエンリが森の賢王を従えていることに驚いてはいたが、決して距離を取ったりせずに今まで通り接してくれた。ただハムスケと初めて出会った際にハムスケにポーションを使ったことを語ったら、失敗作だから貰ってくれとポーションを二本くれたのだ。

 

「(本当にンフィーレアは私にとって最高の友人だ)」

 

 ただそう言った時ンフィーレアがとても微妙な顔をしてた理由だけはエンリには分からなかった。その時窓の外から一部始終を除いていたハムスケも似たような顔をしていたのだが、その理由もエンリには分からなかった。

 エンリは超が付くほどの鈍感なのだ。

 

 太陽が昇っていても薄暗い森の中を人間の少女を乗せた強大な魔獣が走る。当然それはエンリとハムスケのことである。エンリが落ちないようにあまり速度を出さずに走るハムスケの上でエンリは乱れる髪をかきあげる。

 

「何度来ても森の中は気持ちが良いですね」

「村よりも涼しいでござるからな」

 

 森は常に木々が生い茂っていて太陽の光をさえぎっている。そのおかげもあって村よりもはるかに快適な空間であった。それこそモンスターさえいなければ散歩やピクニックに最適である。

 

「姫、そろそろトレントが見えてくるでござる」

「はい」

 

 しばらく穏やかな空気のまま進んでいた二人だったが、ハムスケの声かけによって急に緊張感が増す。そしてエンリの目にもその巨体が見えて来たあたりで二人は大きめの茂みに隠れ、トレントの様子を観察する。

 トレントはこの三カ月ゆっくりと東に向かっており、それはカルネ村とは全く違う方向である。そのためトレントの位置はカルネ村からどんどん遠ざかっている。今のトレントのいる場所まではハムスケの足を持ってしてもかなりの時間がかかる。

 

「東にはあれに勝てるモンスターっていないんですか?」

「さあ?それがしは縄張りからは出たことがないでござるからなあ」

「そうですか」

 

 ハムスケは全然役に立たなかったが、エンリ達もトブの大森林については今まで何も知ろうとはしなかったのだから責めることはできないだろう。トレントは問題なく東に向かっているし問題ない。そう判断したエンリはさっさとこの場から離脱することにした。

 ちなみにエンリ達はすでにこのトレントのことをエ・ランテルの冒険者組合に報告している。それもエ・ランテルでは有名なンフィーレアを通して。しかし現状王国に向かってきていないことから特に冒険者が派遣されたりはされていなかった。カルネ村の村人はそんな組合の対応に怒りをあらわにしていたがエンリはまあ仕方ないなと思っていた。アダマンタイト級の冒険者をも超えるハムスケであっても逃げることしかできない怪物だ。ミスリル冒険者までしかいないエ・ランテルの冒険者組合じゃあどうしようもできないだろう。

 

「切り上げましょう。村に帰ります」

「合点でござる」

「あれから十分に慣れたらお昼にしましょうね」

「むほぉー!それは素晴らしい提案でござるよ姫!それがしお腹すいてしまったでござる」

 

 エンリは現金なハムスケに微笑みを向けてからハムスケに飛び乗る。二人はしばらく走ってから布を敷いてお昼にした。お昼はお弁当であり、エンリが朝の内に作っておいたものだ。エンリの背負うバックの半分ほどを占めている。しかしそれはハムスケにとって多いとは言い難い量であった。

 

「お弁当おいしいでござるな!料理とは本当に偉大でござる!」

 

 がつがつと食べるハムスケ。エンリは自分の分をつまみながら汚しまくっているハムスケの口を拭いてあげる。

 

「姫はそれだけで足りるでござるか?」

「ええ、全然足ります」

 

 エンリの弁当はかなり少なく、ハムスケが心配してしまうほどだった。しかしカルネ村の様な開拓村の村人は一日二食が普通である。弁当を持ってきているだけ多いとも言えた。

 

「では行きましょうか」

「姫の作った料理を食べたから元気百倍でござる!」

「ふふ、大げさですよ」

 

 後片付けをしているエンリにハムスケが元気いっぱいに答える。エンリはそれを大げさと笑ったが、それは大げさでも何でもなかった。エンリはこの数カ月でハムスケと一緒に探索を行うなかでレベルが上がっているのだ。その結果コックのレベルを得て料理に効果が付くようになったためなのだがハムスケもエンリもそれには気付かない。

 

「愛ですかね?」

「愛でござるか!それはいいものでござるな!」

 

 そんな雑談をしながら二人は村へと帰る。帰り道に倒した獣や採集した薬草何かをいっぱい持って。それはまさしく優しくも幸せな日常であり、エンリにとっての全てだった。

 しかしこの三日後、絶望はいともたやすく目を覚ました。

 

 

 

 その日の朝は普段と何も変わらない平穏なものだった。しかし普段通り森へ向かったエンリとハムスケが見たのは変わり果てた森とそこで暴れ続けるとてつもなく巨大なトレントだった。

 

「な、何ですかあれ!?」

 

 エンリはつい恐怖の悲鳴を上げてしまう。今まで観察していたトレントは何もかもが違い過ぎた。二人は知らなかったがそれはザイトルクワエという名前のモンスターの本体だった。今まで二人が観察していたトレントも13英雄が封印したものもすべて子機でしかなかったのだ。ここにザイトルクワエは完全覚醒を果たした。

 そのザイトルクワエを見てハムスケはすぐさま獣の本能で実力差を感じ取った。当然だ。ハムスケの強さは難度で言うなら100程度。ザイトルクワエの難度は驚異の240を超える。

 そしてさらに悪いことは重なる。ザイトルクワエの進行方向は間違いなくカルネ村の方向。動きは今までのトレント同様遅く見えるがそれは巨体だからそう見えるだけだ。あれはほんの数十分でカルネ村に到着する。

 

「―――っ」

 

 エンリは絶句した。このままでは自分の生まれ育った村がいともたやすく粉砕され、消えてなくなることを悟ったのだ。それから逃れる方法はただ一つ。

 

「ハムスケさん!カルネ村まで全力でお願いします!みんなにこのことを知らせないと!」

「言われるまでもないでござる!」

 

 ハムスケは全速力で村へと走る。エンリはそれに振り落とされないように身をかがめ、必死にへばりついた。さすがに足の速さだけではハムスケの方が上だったようだ。ザイトルクワエを引き離し二人はカルネ村へと到着した。そして村中に避難を要請する。村人たちもそのエンリのあまりの動揺にまずいことを察したのだろう。急いで村を離れようとした。

 しかし、全ては遅すぎた。

 

「あ………来た」

「な、なんだあれは!?」

 

 ついにザイトルクワエが村のまじかに迫っていた。エンリの隣にいる父が驚愕の声を漏らすのをどこか遠くで聞いていたエンリ。あまりにも、あまりにも目の前の光景は現実感がなかった。しかしエンリが呆然としている間にもザイトルクワエは決して足を止めたりはしない。

 

「ハムスケ殿!今すぐエンリを連れてこの村から離れてください!」

「しかし父上殿達はどうするでござる!?」

「もう間に合わない!ネムと母さんは家、あの怪物がいる方向だ!」

 

 父は畑仕事の最中でたまたま村の中でも森から一番遠い場所にいた。そして父の言う通り今から村の中に行っても共倒れだ。なにせもうすでにザイトルクワエの触手が届く位置に村がある。あの触手の一撃を喰らえばさすがのハムスケも一撃で死ぬだろう。そして逃げるにあたってエンリの父を連れていくことも得策ではない。すでにエンリを乗せて走ることになれたハムスケもさらに男を一人抱えて走るとどうなるかは分からない。あまりにも懸けの部分が大きかった。だからこそエンリの父は自分を連れて行けとは言わなかった。

 この土壇場でそのような合理的な判断ができるエンリの父をハムスケは見直した。そしてその頼みを聞くことに決めた。

 

「エンリ!しっかりしなさい!」

 

 エンリの父は呆然とするエンリをハムスケの背中に乗せて渇を入れる。エンリはその父の言葉にようやく現実に戻ってきた。

 

「え?お父さん?」

「ハムスケ殿!」

「承知」

 

 エンリの父の呼びかけにハムスケは勢いよく走りだす。エンリはついいつもの癖でハムスケにへばりついた。

 

「え、うそなんで、お父さん?」

 

 徐々に遠くなっていく父の姿を呆然と見つめるエンリ。そのエンリにすでに声も届かないほど遠くなってしまった父が叫ぶ。

 

「エンリ!―――!―――――――――――!―――――!」

「お父さん!お父さん!!」

 

 そしてその父と後ろに広がる彼女の生まれ育った故郷に無慈悲の一撃が繰り出される。300mにも及ぶ巨大な触手による攻撃である。

 

「いや、いやあああああああ!!!」

 

ゴシャ!!!

 

 とてつもない轟音と共にその一撃は全てを、エンリにとっての全てを悉く粉砕した。

 

 

 

 カルネ村壊滅。生存者一名。

 

 

エンリ・エモット      lv9

カルネ村の少女

ビーストテイマー      lv5

ライダー          lv3 

コック           lv1 

 




強さ表
ザイトルクワエ(80~85)>ザイトルクワエ子機(40~50)>ハムスケ(33)>平均的なアダマンタイト冒険者(28)>平均的なミスリル冒険者(18)>エンリ(9)>カルネ村で二番目に強い人(2)

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