バカと捨て子と召喚獣    作:鯉の隠れ蓑

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プロローグ:出会い

 日が沈むのが早くなり始めた冬頃。一人の少女は脱兎のごとく駆け足で走っていた。顔色も悪く、肩で息をし始め、手の感覚がなくなりかけているのも彼女自身感じている。どうしてこうなったのか。どうしてこのような状況に陥らなくちゃいけないのか、彼女自身も混乱している。

 

「…私、ここで死ぬのかな」

 

いよいよ意識が混濁し始め、ついに駆け足だった速さも次第に落ちていき、歩くのがやっとの状態まで衰弱してしまっている。2日も食べておらず、公園の水で水分補給はしていたが、流石に限界が近くなっている。女性にとっての生命線である髪も体も洗うこともできず、ストレスもピークに近づいてきている。

 

「だ…誰か。た、助けて…」

 

フラフラしていた彼女はそのままどことも知れないマンションの入り口の近くに倒れこんだのであった。彼女はアスファルトの冷たさを感じたまま、静かに瞼を閉じていき、意識を手放した。その瞼から一筋の涙が毀れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここ文月学園では振り分け試験があり、この振り分け試験によってクラスが決まり、よい環境下で勉強し、青春を謳歌できるかどうかが決まる大事な試験である。

 

「それまで! 後ろから前へテスト用紙を集めてください」

 

そしてその振り分け試験がたった今終わり、この学年の主任である高橋先生がテストを受けた生徒たちに促す。そして一番後ろの席にいたバカの代名詞である吉井明久はテストを前の人に渡すとそのまま机に突っ伏す。

 

「(今回の出来は10問に1問は解けた気がするけど、Aクラス行けた気がしないよ)」

 

今回の出来に愚痴を零していた。そのまま振り分け試験を受けた生徒たちは答案用紙を前に送り、先生のいる一か所に集められる。そして全員の答案用紙を確認した先生は答案用紙の向きを整え、封筒に入れる。

 

「これで、振り分け試験を終わりにします。できればここにいる全員がいい結果であることを楽しみにしておきますね」

 

振り分け試験が終わったことを境に他の生徒たちは各々、帰り支度をし始める。僕も帰り支度をすると同時にさっきまでぐったりしていたが、心中ワクワクしていた。この試験中できなかったゲームを一気に消化することができると。ルンルン気分で帰ろうとしたその矢先であった。

 

「あ、吉井君は観察処分者の仕事があるので残っていてくれと西村先生が言っていましたよ。雑用頑張ってください」

 

さらば、僕のゲーム時間! こんにちは僕の雑用! 鉄人のことを恨みながら、僕は帰り支度をやめ、職員室へと行ったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後試験が終わってから1時間の雑用を終えた僕は夕暮れの中一人草臥れていた。折角テストが終わったというのに余韻も色々と台無しであると。

 

「まあ、これで今度こそ終わったし、さっさと帰るかな!」

 

校門をくぐると、そこには僕の見知った赤髪のゴリラがニヒルな笑みを浮かべ、門で待ち構えていた。これが美少女だったら最高だったけど、現実は非情なものである。

 

「おっ、明久。ようやく雑用は終わったか、毎日ご苦労なこった」

 

「チェンジで!」

 

「おい、明久。いきなり喧嘩売るとはいい度胸じゃねえか!」

 

「だって、女の子だったらうれしかったけど、暑苦しい鉄人の雑用が終わってようやく解放されたと思った矢先にまた暑苦しいゴリラが待ち構えているとかどんな二重苦だよ!?」

 

「てめえ! 俺も好き好んでお前みたいなバカでブサイク面を待ち構えていたわけじゃねえよ!」

 

「「……」」

 

「やめよう、雄二。これ以上は僕たちが傷つくだけだ…」

 

「奇遇だな、明久。俺もそう思っていた所だ」

 

何も生まれない罵倒の仕合に互いに悲しんだ俺たちは両方とも矛を収める。罵倒し合ったこいつは僕の悪友である坂本雄二。神童と言われたことがあり、小学校のころは凄く優秀な生徒だったらしい。中学から悪鬼羅刹と言われ恐れられていたようだけど、高校では最初のころは尖っていたものの今はこの通り丸くなっているらしい。

 

「っで、雄二。僕のこと待っていたみたいだけど何か用?」

 

「あぁ。明久、お前新しいゲーム買ったんだってな。丁度テストも終わったし、お前の家でゲームしたいけどいいか?」

 

「別にいいけど、なんでまた?」

 

「ちょっとお前の家で駄弁りたいだけだ」

 

雄二の顔色から何かどことなく帰りたくないオーラを漂わせている。これは深くは聞かない方がいいかもしれない。

 

「わかったよ、それじゃあ一緒に新作のゲームでやろうか。雄二」

 

「おお、ありがとうな。明久」

 

僕と雄二はお互い試験から解放され、野郎2人でウキウキしながら帰るという誰かに見られたら変な風に誤解されそうな感じで足取り軽く帰って行った。

 

「そういえば、雄二は試験どうだったの?」

 

「試験の方か、俺の方は多分駄目だなっていうより途中からやる気なくしちまったしな。明久は? いや、言わなくていいか。どうせ目に見えてるしな」

 

「あっ。雄二。今僕のことバカ扱いしたな」

 

「いや、事実だろ。実際どれくらい取れたと思うんだ?」

 

「10問に1問は解けた出来に決まっているじゃないか、我ながらいい出来だって。ちょっと、雄二! 憐みの目で僕を見ないで! やめて!」

 

雄二からの憐みの目線が突き刺さり、心を抉りに来ている。やはり精神攻撃は物凄くダメージが半端ない。それからくだらない事で駄弁っており、マンションの近くにもうすぐ着きそうになっていた。

 

「そろそろ、着くけど雄二って格闘ゲームって出来るの?」

 

「格闘ゲームかリアルならお前に勝てそうだけど、ゲームはまだ未経験だな」

 

「ちょっと! さりげなくファイティングポーズ取りながら僕の体殴ろうとするのやめて!」

 

「まあ、ヒートアップしなかったら多分大丈夫だから、安心しろ!」

 

「それヒートアップしたら、保障できないってことだよね!? 僕が明日病院送りにされるのが目に見えてるんだけど!?」

 

「冗談だから安心しろって。お、おい。明久」

 

「なんだい、雄二って…誰か倒れてる!?」

 

マンションの入り口までたどり着くと衣服がボロボロになって倒れている少女がいた。

 

「明久。予定変更だ。今すぐ救急車呼ぶぞ。電話自宅にあるな?」

 

「う、うん。雄二。これは流石に呼んだ方がいいよね。君大丈夫?」

 

反応がないことを確認して、雄二は緊急性が高いと判断し、そのまま僕のマンションへと入って行き、受話器の方へ急いで行った。僕も彼女をまずマンションに運ぶためにおんぶして、運んでいくが。その時彼女にふとした違和感を感じる。

 

「(身長の割に体重がないような気がする。バカな僕でも分かるくらいにこの人すごくやせ細ってる! それに手首よく見たら、何かで擦れた跡がある。酷い)」

 

マンションの玄関までおんぶしながらゆっくりと入り、彼女の身体に負担がかからない様にソッと降ろした。顔色の方も見てみると蒼白で気分が悪そうに唸っている。目元も閉じてはいるが、涙の痕がくっきり残っている。これはいよいよ時間との勝負になりそうだ。

 

「大丈夫ですか? 意識ありますか!?」

 

そう呼びかけると、その少女は僕の手を弱々しく握る。

 

「やめて…やめて…独りは嫌…なんで、なんで捨てられたの…嫌。嫌」

 

そして弱々しく彼女口から独り言のように発せられた。この言葉に戸惑いを覚えるが、今はなりふり構ってられない。雄二は救急車要請を済ましたのか、すぐさまこっちの様子を見に来た。

 

「っで、そいつはどうだ明久? 何か変わったことがあったか?」

 

「それなんだけど、なんかやめてとか独りは嫌ってさっきからずっと呟いているんだ」

 

雄二はそれを聞き、ギョッとする。そして今度は云々と頷きながら思考をし始める。

 

「かなり重大なことがあったんだろうな。その様子から察するに、家出…っていうよりは追い出された可能性はあるかもな」

 

「追い出されたって! それってかなりまずいじゃないか!? なんでそんなことが起きるんだよ! おかしいよ!」

 

「落着け、明久。お前の気持ちはよく分かるが、今は救急車を待とうじゃねえか。それにもし俺の憶測が当たってる場合でもここは病院に連れて行ってこいつの意識を取り戻してからだ」

 

熱くなって雄二の胸ぐらを掴んでしまったことを反省しながら、彼女の意識を取り戻すための救急車を待ち続けていたのである。

 

 

これが僕と彼女の最初の出会いだった。

 




感想などがあったらドシドシ待ってます。

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