異世界で剣術修行してみた件   作:A i

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今回の話は前回の後編となっています。
戦闘シーンやエマちゃんのかわいさを詰め込んだ回となっていますので楽しんで読んでいただければありがたいです。
感想、評価お願いします。


魔女二人 後編

今俺が入ってきたドアは閉ざされ、窓も無いせいか部屋の中は薄暗い。

膝をついた状態の俺は前にいる敵と思わしき真っ黒な美女を見据えた。

 

格好は全身真っ黒。しかしこの薄暗い闇の中で紫紺の目だけがぎらぎらと輝いている。

 

なんだ?こいつ。やばい目つきしてやがる。

そう思い、すぐにでも戦闘に移れるよう体勢を整えた。

敵はゆっくりと近づきながら口を開いた。

 

「やあ!君がエマの契約者だよな?私はペナ!急なことで悪いんだけどさ、君には死んでもらわないといけないんだ・・・?」

 

申し訳なさそうな言葉面とは裏腹に、口調や態度何より満面の笑みがそんなことを1ミリ足りとも思っていないことを伝えてくる。

本当にこいつやばいな・・・。

俺を殺すことしか頭に無い感じだ。

しかも、ほとばしる殺気や身のこなしが並大抵のものじゃない。

こいつ、かなりの手練れ・・・。

しかし、そんな手練れの魔女がなぜ俺を殺そうとするのか。

それになぜ俺たちがこの店に寄ることがばれていたのか。

疑問がつきない・・・。

 

「なぜ俺を狙う?それにどうしてここに来ることが分かってたんだ?」

 

するとペナはキョトンとした顔をした後、心底呆れた様子で

 

「ここの店主に聞いたのさ。お前達が明日ここに来るってな。ようやく、今日ここで君を殺して、ジャバウォックさまに「殺しましたよー」って報告することができるよ・・・。」

 

やれやれ・・・。みたいな感じでしゃべりまくるペナ。

俺はその内容を聞いてすこし驚くとともに希望も見いだしていた。

ジャバウォックの手先っていうからにはやはりこいつはかなり強いのか。

でもまだジャバウォックに報告はしていない。

 

――ならこいつをここで倒せば・・・。

 

キュッと刀を持つ手に力を入れる。

魔装はさっき転がった時に装備詰みだ。

 

ペナは整った顔をすこし傾け、極上に可愛い顔をしながら

 

「だ・か・ら・・・。死んで?」

 

そう言いながら猛烈な勢いで突進してくる。

いつの間にか右手には身長ほど大きな鎌が握られている。

おそらく、エマちゃんがさっき見せてくれた収納用の魔法をこいつも使えるのだろう。

口元には恍惚とした笑みを浮かべながらとんでもない速さで距離を詰めてくる。

以前の俺なら目でとらえることなんてできなかったであろう。

しかし、今の俺には敵がどちらの脚に力が入っているか、重心がどこにあるか、顔がどれだけ可愛いかまではっきり分かっている。

最後のは余計だったな・・・。

なので俺は落ち着いて対処することができた。

迫り来る鎌をかがみ込みながら左方向へ右足を軸にしてすべってかわし、その勢いを利用して突っ込む・・・!

予定だったが敵の左手になにやら紫色の発光が見えたので、とっさにさらに左へと跳躍した。

すると、先ほど飛び込む予定だった場所が吹き飛んでいる。

ヒエー、マジか・・・。危なかった。

そう思い敵を見ると心底戦闘を楽しんでいる、といった感じに見受けられる。

ケラケラと笑いながらペナはしゃべり掛ける。

 

「おー、よく躱したなあ。だいたいあれでどの契約者も死んじゃうんだけどぉ・・・君は楽しめそうだ。」

 

舌なめずりしながらそんなことを言うペナちゃん。

なんかエロい・・・いかんいかん。集中集中!

と自分を叱咤激励しながらしっかり今の言動を分析する。

今の発言からしてまだまだ本気にはなっていない。

なら、油断している今がチャンスだ。

これ以上強くなる危険性があるならその本当の力を発揮する前に倒してしまうのが得策だろう。

そう思い、今度は自分から仕掛ける。

 

「魔装!」

 

そう唱えると刀が紫色の光を放ち出す。

これは武器強化魔法で威力はもちろん、リーチまで伸びる優れものである。

未だ初期段階ではあるが破壊力は師匠のお墨付きをいただいている。

さあて、これで終わりだっ!

右足で思いきっり地面を蹴って加速する。

まだ、敵との距離は十メートル近くあるため通常ならここからの斬撃など届くはずも無い。

しかし今の俺には魔装がある。

左足でさらに踏み込みながら体を絞っていく。

――この技は師匠から教わった最速の突き技である。

ひねったからだに溜まったエネルギーを解放する様にして、右手で持った剣を思いっきり敵に向かって突き出した。

 

「突風!」

 

突きだしたと同時に敵がいた場所が木っ端みじんに吹き飛び、砂埃が部屋に立ちこめる。

やったか・・・?

判別が付かない・・・。

あたりが静けさに包まれる。

終わったのか・・・?

そう思ったときだった。

 

「あははははははははははははははははははは」

 

という笑い声が聞こえてきたのは。

砂埃の向こうで影がゆらりと立ち上がってくるのが見える。

これでもダメか・・・。

だが、ノーダメージというわけではどうやら無いらしい。

砂埃が晴れだし、敵の姿も視認可能になってきた。

敵の服は至る所が破れ肌が露出しているし、腕には切り傷が付いている。

口が切れたのか血が一筋流れている。

ペナはその口元をぬぐいながら快活に笑う。

 

「あんなの初めて見たぞ!あんなに刀が伸びてくるなんてな、驚いたよ。君のことを侮りすぎてたみたいだ。ごめんナ?」

 

そう言ってものすごく申し訳なさそうに眉をへの字にする。

でもすぐに好戦的な目つきに変わった。

 

「じゃあ、ここからは本気で戦うことにするよ・・・!」

 

そう言うと全身がどす黒いオーラに包まれ出す。

オイオイ、嘘だろ・・・?

全身魔装じゃねーか。

やばいな、これは・・・。

 

「行くよ!」

 

そう言って突っ込んでくるペナは先ほどまでの突進とは比べものにならない速さだ。

かろうじて鎌が見えたので急いで弾き、距離をとろうとするが再度詰め寄られる。

左手にさっき見たものと同じ輝きが目に入ったので体をこれでもかとひねり、後ろに跳躍したが先ほどのような爆発は無い。

フェイクッ!

そう気づいたときには跳躍する俺の上空にペナがいる。

ニヤリと笑いながら強烈な蹴りをお見舞いしてきた。

 

「カハッ!」

 

あばらが何本か行かれたのか、呼吸することもままならない激痛だ。

ペナは勝利を確信したのだろう、ゆっくりとほほえみながら近づいてくる。

 

「あなたには楽しませてもらったわ・・・。だから最高にいたぶってから殺してあ・げ・る?」

 

そう言って恍惚とした表情である。

まずい、これはまずい。

 

俺はこのまま殺されるのか?

この狂気の殺人者であるペナは殺すことにおそらく何のためらいも無い。

彼女の気が済むまでいたぶられた後俺は殺される。

あっけない最後だ・・・。

まあ、現実にいたときの俺からしたらほんとによくやったよ。

なんの力も無かった俺が一時でもエマちゃんを守るために本気で努力して強くなれたんだから上出来じゃ無いか?

ああ、晋介物語もここで終わりか・・・。

そう思い目を閉じようとしたときだった、

 

「あきらめんじゃねぇぇぇええええええ!!」

 

という声が頭の中に響く。

何だ?今の声・・・、エマちゃん?

 

「晋介、何あきらめようとしてんの?全部聞こえてるわよ、あなたの心の声。私もこの子を片付けたら助けに行く!絶対に行くからあなたはそれまで必ず持ちこたえなさい。あなたが死んじゃったら私まで死んじゃうのよ?忘れてない?そんなことになったらあの世でも絶対許してあげないんだから!」

 

鼻声で罵倒してくるエマちゃん。

あんなに必死になってるエマちゃん初めてだ・・・。

なぜかそれを思うと胸がジーンと熱くなり、先ほどまでのあばらの痛みも薄らいできた。

そう、そうだよな。

俺が死んだらエマちゃんも死んじまう。

そんなこと絶対許さねー、許される訳ねー。

愛する女の子の命も守れねー男。

そんなやつ男なんかじゃねー!

 

目頭が熱くなり涙がこぼれる・・・。

 

ありがとう・・・エマちゃん。君のおかげで俺はまだあきらめないでいられる。

 

そうして左目が熱くなりまた一滴涙がこぼれる。

あれ?左目が熱い・・・、いくら何でも熱すぎる。

 

そう思い、横にあった鏡を横目で伺うと、左目に青い炎が宿っている・・・。

何だ、これ・・・?

左手で触れてみると暖かく、そして力がわいてくる。

今は何だって良い。

戦える力をくれるんだったらかまうものか!

 

そう思い両足に力を入れて立ち上げる。

 

ペナは不思議なものを見る目で

 

「あれ?まだ立ち上がれるんですか?いいですね・・・踊りましょうか?」

 

うれしそうに鎌を構える。

 

「踊らねーよ、お前を始末するだけだ。」

 

そういってこちらも剣を構えた。

 

二人の間に静かで張り詰めた空気が流れる。

静寂。

不用意に動けば死。

そんな雰囲気だ。

 

しかしそんな静寂を破り、先に動いたのはペナだった。

 

全身にまとった魔装でブーストした圧倒的なスピードは、瞬時に晋介との距離をゼロにしてしまう。

晋介はまだ動かない。

ペナは口角をキュウッとあげ勝利を確信した笑みを浮かべる。

 

「これで、終わりっ!」

 

そう言って鎌を晋介に振り抜いた・・・。

 

 

「見えてるんだよ、クソ野郎!」

 

晋介の右手が閃光のようにきらめきペナの鎌を吹き飛ばす。

そして滑るようにしてペナの懐に入り込んだ。

あまりの速さにペナは目を見開き動けない。

 

「お返しだ!破岩一掌!」

 

左手手のひらによる強烈きわまりない掌底打ちがペナのみぞおちにたたき込まれた。

ペナの体は浮き上がり、目にもとまらぬ速さで吹っ飛ぶ。

 

これで・・・どうだ?

 

晋介は先ほどの一撃にすべての力を注ぎ込んだため今にも倒れそうである。

これでも立ち上がってこられたら・・・。

 

砂埃が晴れるとそこには依然として立つペナの姿が。

全身ぼろぼろでふらふらだ。

 

「やる・・・わね・・・。でもま・・・だ、おわっちゃ・・・いない・・・。」

 

ふらつく脚で一歩二歩と近づいてくるペナ。

クソッ!化け物が・・・!

と思い剣を構えるが、そこまでだった。

 

ペナは崩れるようにして倒れ、動かなくなった。。

 

今度こそ、おわったのか・・・?

 

そう安心すると急に意識が遠のき、晋介はその場に倒れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・すけ!し・・・け!晋介!」

 

誰かが俺を呼んでいる?

そう思い、目を開けるとそこには泣きじゃくるエマちゃんの姿が・・・。

泣き顔もかわいい・・・。

 

「無茶してっ!心配したわよ・・・!」

 

そういって胸に抱きついてくる。

ああ、すごく暖かくて柔らかくて気持ちいい・・・。

こんなに幸せでいいのか・・・?

すこし上体を起こすが、いっこうにエマちゃんは離れようとしない。

うーん、すっごく小さい子をあやしている気分になってきたぞ?

目の前にサラサラと流れる綺麗な金髪がある。

右手でこわごわではあるが、一度なでてみる。

するとエマちゃんが頭を動かしたので、すぐに手を引いた。

 

「やめないで・・・。」

 

と鼻声でお願いしてくるエマちゃん。

右手を動かし、エマちゃんの頭を優しくなでてあげると

 

「きもち・・・いい。」

 

とご満悦な様子。

それがうれしくて、歯がゆくて、でもやっぱりうれしいので何度も何度も優しく優しくなでてあげたのだった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございました。
いかがでしたでしょうか?
ギルちゃんが全然出ていない!と思っている方。
すんません。
次話に登場するので期待しといてください。
感想、評価お願いします!

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