異世界で剣術修行してみた件   作:A i

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今回は冒頭の詩的な文章を書くことに苦労しました。
自分の思う中秋の名月に酔いしれる心を描写したつもりなので場面をイメージしながら読んでいただけると、私の中にある満月に対するあこがれが伝わってくると思います。
共感してもらえたらうれしいです。
感想、評価よろしくお願いします。


茨の道

中庭を見下ろすと、木々が穏やかな風に吹かれ、涼しげに揺れている。

リンリン リンリン リンリン

綺麗な鈴の音色を思わせる虫の鳴き声が心地いい。

夜更けだというのに月明かりに照らされ、すべてが優しい光に包まれている。

なんて、美しく、幻想的な夜なんだろうか。

光と影。夢と現実。

相反する存在の輪郭が曖昧になり、互いに溶け合う。

世界から境界が消え、一つになる感覚。

自分の意識さえあるのかないのか分からない。

ただ、溶けていくような感覚に身を任せる。

これを陶酔というのだろう。

不安も恐怖もない。

心地よさに身をゆだね、世界に没入する。

ああ、なんて素晴らしい夜なんだ。

 

 

 

 

エマはさらにワインに口をつける。顔はすでに真っ赤だ。

 

「これを人はぁ、とうすい、と呼ぶのねぇ、ヒック。」

 

「いや違う。お前のはただの酔っ払いだ。」

 

この城の主カーティスが呆れながら指摘する。見ての通り、エマはすでにベロベロにできあがってしまっており、つぶれかけ寸前って感じである。

 

カーティスがワインに口をつけて、

 

「相変わらず酒に弱いんだなエマは。まだグラス一杯しか飲んでないだろ?」

 

「うるっさいなあー、師匠が強すぎるんだよぉ。もう何本目なのよ、ボトル。」

 

「十本目だな」

 

「いやぁ、飲み過ぎでしょ。」

 

エマが極端に酒に弱いのに対して師匠であるカーティスは無類の酒好きなのだ。今もボトル十本も飲んでいる割には平然としている。

カーティスの持論は、真の強者は酒にも負けん!だ。むちゃくちゃである。

 

今二人は師弟二人水入らずな時間を楽しんでいる。テーブルにはワインやオードブルが並び、まるでパーティーをするかのような様相である。カーティスは大食いなのでワインの肴としていつもこれぐらい必要なのだそう。

ぱくぱくモリモリご飯をたべ、酒をカパカパ飲む様子は戦国武将顔負けである。

テーブルの上があらかた片付いてきた頃、カーティスが突然

 

「良い契約者を連れてきたな。」

 

とエマに向かって話し出した。

 

「あの契約者は一見なんの変哲もない男だが、あれは大器だ。しっかりと育て上げれば良い剣士に育つ。」

 

そう聞くとエマは不敵に笑って

 

「当たり前でしょぉ。この私が見込んだ男なんだから。」エッヘン

 

と腰に両手を当てふんぞり返って答える。するとカーティスはほほえみエマを見つめていたのだが、一転まじめな表情を造った。

 

「しかし、気をつけろよ、エマ。ほかの魔女が契約者欲しさに晋介君を狙ってくるかもしれん。ほかの魔女もバカではない。優秀な契約者かそうじゃないかぐらいたやすく見分ける。目をつけられたら最後、契約の上書きを達成するために躍起になっておそってくるぞ。」

 

そう。これから当面の間に警戒しなければならないのは契約者を渇望している魔女からの奇襲だ。

当然、今の晋介の戦闘力じゃ手練れの魔女には敵わない。

晋介が単独行動している時に襲われたら瞬時に戦闘不能にされ、上書き契約を結ばれてしまう。

なので、晋介には師匠か私が常にそばにいる状況を作ることが必要であり、それ以上に安全な策など無いというのが現状である。

おそらく、師匠もそれを分かっているので今の話は私の気持ちを引き締めるために言ったのだと思われる。

 

ここでなぜ魔女は契約をしたがるのか、ということについて説明しておこう

魔女は生まれながらに大量の魔力をその身に宿しているためある程度の魔法は訓練すれば使えるようになる。

魔法が使えるなら契約者なんかいらないのでは?

という疑問は当然生まれるだろう。

しかし契約者付きとそうでない魔女では一つ格が違ってくる。

二人の生命の共有によって成り立っているこの契約は、魂の共鳴によってさらに強力な魔力を生み出す。

互いが互いを思えば思うほど契約の結びつきは強く、確固としたものになり、魔女の中の魔力もより強力なものになっていくのだ。

だから、契約者付きとただの魔女では圧倒的に戦闘力が変わってくる。

当たり前だ。力の源のレベルが違うんだから、発動する魔法も段違いになる。

優秀な契約者がいればこの世の覇者にだってなれる力を手にすることができるかもしれないんだからのどから手が出るほどに晋介と契約を結びたい、という訳なのである。

 

 

「ありがと、師匠。せいぜい晋介の寝首をかかれないように気をつけるわ。」

 

そう言ってエマはカーティスにほほえむ。

 

「うむ、気をつけ給え。私はもう少しワインを飲むつもりだから先に休みな。」

「うん、ありがと。じゃあお先に失礼するわ。お休み。」

「ああ、お休み。」

そう言ってエマはふらふらと部屋に戻っていった。あの子ちゃんと部屋に戻れるのかしら。少し不安には思ったもののワインに口をつける。

それにしても晋介君は変わった子だったわね。

エマからの魔力の流れ以外に左目が独立した魔力を保持しているなんて。

あの魔力は誰のものなのかしら。

エマの魔力の色ではなかった。

じゃあ、誰の?

うーん、まあ考えていても仕方ないわね。

じきに分かるでしょ。そう思い直しもう一口ワインを飲む。

「ああ、いい夜だわ。」

こうして、師弟の夜は更けていった。

 

 

 

 

「うおー、うめー!エマちゃんの作った朝ご飯超うめー。」

「朝からほんと騒がしいわね、晋介君は」

「はっはっは、元気そうで結構だ!」

今俺はカーティスとエマちゃんの二人と朝食をともにしている。

今日の朝食もエマちゃんが作ってくれたみたいで感謝感激雨嵐、である。

そしてこの朝食の後にはついにカーティスさんが剣術の修行をつけてくれるらしい。

「カーティスさん、今日から剣術の修行をつけてくれるんですよね?」

そう聞くと口いっぱいにパンをため込んでいたカーティスさんは慌てた様子で口の中のものを飲み込むとしている。ゴクン!という豪快な音を立てて嚥下したカーティスさんはにこやかに言った。

「ああ、つけてやるとも!私の教えは厳しいぞ?覚悟はできているか?」

ああ、俺の中ではもうとっくに覚悟は決まっている。

自分が強くなってエマちゃんを守り抜くという覚悟が。

強くなるためなら何だってやってやる。

昨日、そう誓ったんだ!

「はい!死ぬ気でがんばりますのでよろしくお願いします!」

「よく言った!ではこれを片付けた後に中庭で修行をつけてやる。先に降りて昨日の復習でもしておきなさい。」

「分かりました、ではまた後ほど。エマちゃん、ごちそうさま。おいしかったよ」

そう言って食事部屋から中庭へと向かった。

 

 

 

 

「とりあえず、昨日の復習からだな。」

 

そうつぶやいて、魔力を集める。

 

「charge!」

 

右手に魔力を集めることは簡単にできるようになってきた。こっからだ。

指先に神経をとがらせ、魔力を指先に集める。よし、良い調子だ。

後は、両足に触れれば・・・。

「よし!できたぞ。」

成功の証に両足が燐光を放っている。よかったー、寝て起きて、できなくなってたらどうしようかとおもったぞー。そんな風に成功の余韻に浸っていると

 

「やるじゃないか、晋作君。魔装の初期段階だな。昨日習ったばかりだと聞いていたんだが、上出来だ。」

カーティスさんが中庭に降りてきながらそんなことを言う。

というか、これって魔装って言うのか。

「いえ、飲み込みには自信あるんで。」

「なるほど、それは頼もしい。しかし、これからは、飲み込みなんかではなく、積み重ねだ。習得することは往々にしてそれほど苦しいものではないのだ。習得した後、そこからが茨の道なのだよ。出口の見えない長い長い修練の先にこそ、本当に大切な力が手に入るということを忘れてはいけない。分かったかね、晋介君。」

確かにその通りだ。手に入れた力も研ぎ澄まし続けることができなければなまくらになってしまう。俺にはそんな力はもういらない。エマちゃんを守り抜くことができる本当の強さを手に入れるって誓ったんだから。

「すみません、少しうぬぼれていました。」

「良いんだよ。今、間違いに気づけたんだから。修練を積み重ねていく覚悟は決まったかい?」

「はい、お願いします。」

「よろしい。では早速始めていこう。」

どんな修行が始まるんだ?と思っているとカーティスさんが木刀を渡してくる。

それを受け取ると

 

「この木刀を振ってみなさい。」

 

そう言われたので、振ってみる。しかし、力の抜けた弱々しい斬撃で、皆目、敵を倒せる気はしない。

 

ぶん ぶん ぶん

 

いくらやってもチャンバラ感が出てしまう。

するとカーティスさんが

 

「はじめはそんなものだよ。何の修行もしていないのに何かができてしまうことの方がきわめて珍しいことだからそう落ち込まなくて良い。」

 

そう言って慰めてくれるカーティスさん。いい人だ、この人。惚れてまうやろー!心の中で絶叫する。

するとカーティスさんは自らの木刀を鞘から抜き放った。

 

「まあ少し見ていなさい。これが本当の素振りだ。」

 

そう言うと、木刀を両手で持ち、大上段にかまえた。

 

美しいかまえだ。

体のどこにも無駄な力みはなくリラックスしている。

しかし、それでいて全身から鋼のような力強さを感じさせる。

まさに剣身一体という感じだ。

 

ほとばしる剣気が徐々に高まっていく。

自分の肌が粟立つのが分かる。

とんでもない殺気を感じる。

自分はただの木刀の素振りにおびえているのか?

ありえない!

 

そして集中力が最高潮に達したとき、木刀が振り下ろされた。

 

「はっ!」

ズパーン!  パラパラパラ

 

カーティスさんが裂帛と同時にはなった素振りは、地面をたたき割り、振動した空気で城を揺らした。

あり得ない・・・。

これで素振りとか。どんな腕力してんだよ・・・。

 

「どうだ、これが本当の素振りだ。わかったか?」

 

笑いながら近づいてくるカーティスさん。

とんでもない素振りを見せたのに息一つ乱れていない。

 

「素振りのポイントを教えておく。まずはかまえ、だ。このかまえ、を適当にやっていると上達する見込みはない。先ほど見せた構えをイメージしてやりなさい。二つ目には、集中力だ。自分の中で剣気を極限に高めてからしか、木刀を振ってはならない。まずはこの二つを意識して素振り200回やってみなさい。」

 

200回。仮に適当に木刀を振っても俺には半日かかりそうだ。

なぜなら、怠けてばかりだった自分には筋肉が備わっていないから。

でも、そう言って、自分を甘えさせることはしたくない。

途方も無い修行でもやると、そう決めたのだから。

 

「はい!やってみます!」

 

空元気でも返事ぐらいは元気にはっきりと。

そうすることで、まだ心の底に眠る弱い自分を追い出せる気がした。

 

 

季節が秋とは言え、昼間は30度近くまで気温が上がる。

晋作の額には大粒の汗が浮かんでいる

 

「196!」

 

ただ木刀を素振りしているだけでここまでヘロヘロになるとは。

体力的にはもうすでに限界が近い。

しかし、意思の力で木刀を大上段に構える。

 

「197!」

 

いくら疲れていようとも、構えの型だけはカーティスさんのものをイメージする。

 

「198!」

 

そして集中力も切らさない。

 

「199!」

 

俺はもっと強くなる。そのためにもこの素振りはなんとしてもやり遂げてみせる!

 

「うぉぉぉおおおおお!」

 

最後の力を振り絞り、また木刀を大上段にもち、構える。

そして、集中力を高め、剣気を全身に練り上げる。

集中力が張り詰め、最高潮に達したときに振り抜く!

 

「200!」

 

「よっしゃー!なんとか・・・なんとかやりきったぞ。」ゼエゼエゼエ

 

その場に倒れ込みながら晋介はそういった。疲れ切ってはいるが顔は喜びに満ちている。

するとカーティスが近づいてきた。

 

「本当によくやった。見ていると君の気迫が伝わってくる、そんな素晴らしい素振りだったよ。

今日はここまでにしよう。立てるかい?」

 

そう言って肩を貸してくれる。

 

満身創痍。

今の俺を表すぴったりの四字熟語だ。

 

でも、悪くない。

 

そんなことを思っている自分がいることに苦笑しながら、脚を一歩一歩と前に踏み出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか?
まだ、素振りしかしてないので物足りない、という方。
すみません。
次話はもう少し剣術っぽいものを入れていくつもりなので、次も読んでいただけたらうれしいです。
感想、評価、ブックマークよろしくお願いします。

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