異世界で剣術修行してみた件   作:A i

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すみません、投稿遅くなりました。

この頃忙しくて・・・・。

これからも少し遅くなるかもしれませんが変わらずお読みいただければなあ、と思っております。

今回はいろいろと難しくて筆が止まりまくりました・・・大変だったー。

でも、お気軽に読んでくださいね!

感想やらお気に入りやらお願いします。


エイラの秘密

この俺、高村晋助は今人生の絶頂期にいる!

なぜなら、俺は今日絶世の美女と呼んで差し支えないであろうペナ、エマ、ステラの三人と一つベッドの上で夜を明かしたからだ!

夜を明かしたからだ!などとカッコをつけたが残念ながらというか、当たり前というか、肉体関係みたいなものは一切ない。

ま、当たり前なんだけどね

でも、やっぱり健全な男子としては少しばかりの期待を持たないではないというかなんというか。

この三人にはその気がないとビシビシ伝わってはくるのだが、いつの日かそんな日が来て欲しい、と願わなくもなくもない。

というか、本音を言うと、来て!絶対来て!童貞はもう嫌!と言う感じなのだが、そんなことを三人に悟られたら惨めさと恥ずかしさと少しの期待とで押しつぶされそうだし絶対に口にはできない。

けど、実際そういう場面になったらどうしよう。

俺はズブの素人である。

冒険者でいうと駆け出してすらいない。

まあ、エマちゃんとキスはしたから歩き出したぐらいか?

そんなよちよち歩きの素人冒険者程度ではあの美少女軍団を手玉にとるなんざ100年かかる。

絶対緊張するし、変なことになりそう

しかし、俺はもうそんな風に怖気付いてばかりもいられない。

なぜなら男なら一度は憧れる夢

 

「ハーレム王になること」

 

それを目標に掲げたのだから!

目標がブレブレになってはいるがそこはご愛嬌。

ちゃんと神聖剣帝も倒し、ハーレム王にもなる。

これが俺のこの世界での現状における行動方針だ!

エマへの裏切りかもしれない、と考えてもみたが俺の中ではエマちゃんもペナも、まあしぶしぶではあるがステラも、みんな掛け替えのない子達だ。

この子達の中から今すぐ一番好きな子を選べ!なんか言われたらどんな経験豊富なリア充でも無理だと断言できる、と思う。

自信がなくて「と思う」をつけてしまうがそこは気にしないでくれ。

話を戻す。

だからこそ、自分にとって最も大切な人は誰なのか、自分が一生を添い遂げたいフィアンセは誰なのかを見極める少しばかりの時間が欲しいと思うのは間違いだろうか?

そしてその過程でハーレムを作るのは間違いだろうか?

否、間違いではない!

と言い切れないから珍しく少し悩んでんだよなあ。

はあ、と一つため息を吐き、開いた目を少しばかり下に向けると依然俺の胸の上で寝るステラや俺の腕枕で寝るエマ、ペナの二人の姿が見える。

ステラは体が大きくなったこともあってか少しばかり体重も重くなったようで上に乗っかられると結構重く感じる。

でもお得意の精霊術なのかなんなのか、全然苦しくもなんともないのだ、不思議なことに。

重みは感じるけど寝苦しさなんかは感じないし、腹部の圧迫による吐き気なんかも当然ない。

やだ、なんか怖い!俺の体どうなってんの!

体の感覚すらもステラには掌握されていそうで少しばかりの不安が募るのだが、この子の可愛い寝顔を見ているとそれすらもどうでもいい些細なことのように感じられる。

エマ、ペナの二人も穏やかな笑みを浮かべながらあどけない寝顔を俺に晒し続けている。

そんな和やかで微笑ましい光景に俺は自然とふふ、という笑みをこぼしていると、ステラが妙に艶かしい「ん」という声を発しながら目を覚ます。

 

「よお、起きたか。」

 

「うん、おはよ。晋助。」

 

「どうだった、俺の腹の上で眠るのは。」

 

「すっごいいい匂いだったし眠り心地良かったよ。」

 

「な・・・。いい匂いってお前な・・・。恥ずかしいから。」

 

「えーだって本当のことだもん。ずっと嗅いでられるよ?」

 

ステラはそう言って俺の首元に鼻を近づけてクンクン嗅いでくる。

この子引くぐらいのにおいフェチだな・・・。

時折首筋に触れる、柔らかい息づかいがくすぐったくて身をよじる。

 

「お前、やめろ。くすぐったいし恥ずかしい。」

 

「えー、いいじゃん。ペロ。」

 

「うひゃあ!」

 

ステラが俺の首筋を舌でなめ、俺は驚きのあまりに変な声を上げてしまう。

ステラはその反応を面白がるように目を細めてこちらに笑いかける。

 

「あはは、晋介の反応かわいい。」

 

「いや、お前面白がってるだけだろ。」

 

「えー、そんなことないよ・・・。」

 

そう言いながら、顔を近づけてくるステラ。

近づきすぎて鼻と鼻がつんつんと当たる。

いや、つんつんと当ててきているという方が正しいかもしれない。

あと、ほんの三センチ顔が近づくとキスができる距離。

俺は否応なくステラの唇に意識が向く。

柔らかでしっとりとした形の良い唇が目の前にある。

わずかな隙間からこぼれる吐息が俺の鼻下に当たり、俺自身の唇も意識させられる。

あー、このままこの唇に吸い付きたいな・・・。

そんな風に思ったせいか、気持ち顔が前に出る。

もう、互いの唇が重なりそうだ。

ステラは俺からのキスをご所望らしい。

彼女からはいっこうに近づく様子はないく、静に目を閉じている。

あー、ダメだ、こりゃ辛抱たまらん。

もうひと思いに楽になりたい、ままよ!

そう思ったときだった。

 

「「何してんのよ!」」

 

そんな罵声とともに俺の頬をぶん殴る二人。

あまりに容赦が無かったため俺の顔はひょっとこのように両サイドが押しつぶれている。

そして、めっちゃ痛い、超痛い。

 

「なにずんだびょ?」

 

「あんたこそ何してんのよ!」

「晋介なにしてんの!浮気?」

 

二人とも寝起きとは思えないほどにマックス激おこファイアーである。

エマは髪の毛がボッサーと広がっており、いかにも怒髪天をつくといった感じである。

ペナはかわいらしい寝癖がついていて、怒ってはいるがどこか小さい子といった感じがぬぐえない。

まあ、二人とも落ち着いて、そう思い声を出そうとするが彼女らは俺のことなど全く聞く耳を持っていない。

 

「おい、なんで二人は私たちのキスを邪魔するんだ?」

 

「ダメなものはダメよ!晋助は私のだし!」

「晋助は私の!」

 

「うん?どっちのなんだ?というかお前達は晋介のことが好きなのか?」

 

「え・・・。それは・・・。」

「好きだよ!誰よりも!」

 

やめて!恥ずかしいし照れ臭いしなんだこれ!

 

「ほう、ペナは好きなのか。」

 

「私も・・・好きよ。」

 

やめて!ホントやめて、僕死んじゃう。

 

「エマは照れ屋さんだな、ははは。」

 

「うるさい!照れるでしょうが、普通!」

 

何というか、その本人を目の前でこういうガールズトークをされると恥ずかしくてどうしていたら良いか分からんな。

俺は目の前で繰り広げられる女子達の姦しい晋介談義をボーとして見ていると突然こちらに話が飛んでくる。

 

「晋介はだれが一番好きなんだ?」

 

「え・・・?」

 

「「私よね?」」

 

エマ、ペナの二人が体をずいっと前に出す。

やばいって、二人ともパジャマの胸元がゆるいせいと前屈みになっているせいで谷間が見えちゃっているんですけどー!

それに、おへそなんかもちらっと見えちゃっているし・・・どんだけ無防備なんだ。

二人とも必死なのは分かるけど、俺のことも考えてほしい。

正直自制できるか怪しいぞ・・・だって俺は童貞だもの。

俺がなんとかこうとか二人に飛びつきたい欲求を抑えていると二人からは俺がただ答えに窮しているように見えたらしい。

エマもペナも顔を真っ赤にしてさらにずいっと前に寄る。

 

「「どっち!」」

 

だめだ、こりゃあ、奥の手を使わせてもらおう。

 

「二人とも大好きさ!」

 

俺は二人にわざと顔を近づけながら腰に手を回しギュウーと抱きしめてやる。

二人の柔らかなほっぺがむにーと俺のほっぺに当たり気持ちいい。

だめ押しにスリスリーと顔を動かして彼女たちに愛情表現を行う。

 

これでどうだ・・・!

 

横目に彼女らの様子をうかがうと、

ペナは目を細めて心地よさそうにしている

エマは顔を赤く染め、照れながらも気持ちよさそうである。

よし、作戦成功だぜ!

ニヤリと悪い顔で笑う俺。

 

「うーん、晋介も侮れないなー。」

 

ステラが笑いながらそうつぶやいたのだった。

 

 

 

あの後、なんとか彼女たちの機嫌も収まり、朝ご飯は、ステラとエイラさん特製サンドウィッチをおいしくいただいた。

 

朝食を終え俺たちは小川に向かっている。

何でも、水を用いた修行をするらしい。

どんな修行なんだ?滝行とかかな?

そう思い前を歩く、大人っぽくなっているステラに聞いてみる。

 

「今日はどんな修行なんだ?」

 

ステラは首をこちらに向け、淡々と答える。

 

「ああ、今日の授業は、水になってもらう修行だ。」

 

「ん?水になる?どういうことだ?」

 

訳分からんぞ・・・。

言葉通りの意味だったら俺はスライムみたいになっちまうって言うことか?

嫌すぎる・・・。

そんなことを思っていたのが顔に思いっきり出ていたのかステラが苦笑しながら答える。

 

「はは、お前の思っているようなことにはならないよ。物理的に水になれと言うことではない。心を水のようにする、ということだ。」

 

「心を水のように?落ち着けるということか?」

 

「簡単に言うとそうなるな。この前に教えた超感覚あれに入るにはどんな条件があった?」

 

「たしか、ある一定値まで集中力を上げる、だったか。」

 

「そうだ。集中力を上げることが超感覚に入るための唯一の手立てなのだ。しかし、私はお前はまだまだ初心者だ、とも言ったな?」

 

「ああ、それはどういうことなんだよ?だって同じ超感覚なのによ。」

 

「うむ、良いことを聞く。実は今からやってもらう修行もそこに関連しているのだ。」

 

そこまで話を聞いた時、かすかに水の流れる音が耳に入った。

当然ステラも気づいているようで、そこで話を区切る。

 

「ここからは川についてから話そう。」

 

そう言って、少しばかり速く歩き出す。

俺もそのあとをついていく。

100メートルほど進むと川幅10メートルほどの小川と呼ぶには少しばかり大きな川にでた。

 

「あれ?小川じゃないの?でかくない?」

 

「これぐらいなら小川だろう?しかもこのサイズよりも小さくては修行がやりづらいからな。」

 

ニッと笑いかけてくるステラ。

今日も白いワンピースという出で立ちだが、大きくなったことでやけに色っぽく見える。

今もステラの笑顔を見たらドキッとしてしまった。

顔が赤くなっていないかな?大丈夫だよね?

 

「顔が赤いぞ。晋助。風邪か?」

 

「え!違う違う。だいぎょうぶたから」

 

「噛みまくってるぞ」

 

ククッという笑いをこぼすステラ。

ヤバいめっちゃ恥ずかしいんだけど

いや、切り替えだ切り替え。

気にするな俺。

自らをそう鼓舞してステラに向き直る。

 

「で、ここで何するんだ?」

 

「ええ、説明するわ。でもまずは同じ超感覚になぜ優劣があるのか、を説明していくね。」

 

近くにある岩に腰掛けるステラ。

俺の座れそうな岩が手近にないのであきらめて立っておく。

すると、ステラはこちらを見て再度言葉を紡ぎ出す。

 

「超感覚の最も重要なファクターとはなにか分かるかしら?」

 

「ああ、多分だけど集中力だろ?超感覚に入る時にもかなりの集中力がいったし。」

 

「よく理解しているわね。偉いわ、晋介。」

 

「いや、それほどでもないだろ?」

 

「うふふ、照れてるわね、かわいい。」

 

「うるせ!いいから早く続きを説明してくれ。」

 

ステラは俺のことを優しく見つめ、ふふ、と軽く笑う。

 

「そうね。続きを説明するわ。」

 

そう言うと一転、少しばかりまじめな顔になった。

 

「集中力がポイントだということは分かってくれていて安心したわ。実はなぜあなたと私の実力が大きく離れているかもこの集中力が肝なの。」

 

「うん?なんで集中力が実力と関係があるんだ?それに、俺はかなり戦闘に集中していたし、むしろお前の方が注意力散漫なように見えたんだが。」

 

前回の稽古を付けてもらったときのことを思い出しながらそう伝える。

すると、ステラはクスリと一つ嫌みな笑いを見せる。

 

「あなた集中力の意味を勘違いしているのよ。あなたは敵の動きを一つも残らず見定めようとすることが戦闘に集中するということだと思っていない?」

 

「ああ、そう思っているよ。だって、より早く反応するにはより多くの情報を敵から得る方が有利だろ?」

 

少しばかりむっとしながら反駁してみると、彼女はあくまで冷静に答えてくる。

 

「ええ、敵の動きを感知するにはより多くの情報を手にすることが必要だという主張は全くもって正しいわ。」

 

「なら・・・。」

 

「でも、それは敵を注視することとイコールではない。」

 

「な・・・。どういうことだ?だって敵のことをよく見ようとしないと敵の動きがどうなるかなんて分かりっこないじゃないか。」

 

俺は混乱気味に主張する。

ステラは全く表情を変えずに淡々とした態度を貫いている。

 

「いいえ、それは違うのよ。勿論、敵の姿を見ていなければ敵の動きを判断することはほぼ不可能と言えるでしょう。

でも、だからといって見ることにばかり囚われてはいけないの。

見よう見ようとすればするほどに物事の真の姿はあなたから遠ざかっていく。

だから、真の姿を見極めようというなら、見ているとも見ていないともつかないままに見るということを心がけなければならないのよ。

そして、真に集中しているということはそういう状態に入っていることを言うの。」

 

どういうことだ?

見ているとも、見ていないとも言えないままに見る、ってそんなことができるようになるのだろうか。

曖昧模糊とした概念に俺は釈然としない。

しかし、直感的には彼女の主張は正しいようにも思える。

理解はできていないが、納得はできそうだ。

 

「なるほど、納得はした。理解はできていないがな。」

 

「ええ、そうでしょうね。それで十分よ。未体験のことをはじめから本当の意味で理解できる人間なんて誰一人いなやしないもの。」

 

「そうか。」

 

「ええ。まあ、納得はして貰えたみたいだから、続きを話していくわ。」

 

「おう、頼む。」

 

「集中力がどういったものか、が分かれば次に考えていくのは当然、どうやってその集中力を伸ばしていくのかよね。」

 

「そうだな。あまりにも抽象的な能力はただ漠然と修行していて身につくものではないだろうし。」

 

「素晴らしいわ、晋介。その通りよ。集中力を引き上げるには少し特殊なイメージが必要なの。」

 

「特殊なイメージ?」

 

「そう、そのイメージを作るためにわざわざこんなところにまで来たのよ。」

 

「もしかして、そのイメージって・・・水か?」

 

「惜しいわね。正しくは流水よ。水が流れている、というイメージが大切なの。」

 

「水が流れているイメージ。イメージするだけで良いならすぐにでもできそうだけど。」

 

俺は自分の思ったことを素直に口に出したまでなのだが、ステラはチッチッチ、とやたら鬱陶しい顔つきで反論してくる。

 

「分かってないわね、晋介君。この流水のイメージを持つことに十年かかる精霊術士もいるぐらいなんだから。」

 

「十年!?」

 

「ええ、それを残りのひと月でマスターしてもらうんだから甘く見てもらっちゃ困るわよ?」

 

な・・・!そんなの無理なんじゃねーか?俺にそんな難易度のミッションこなせんのか?

俺が先の道のりを想像して、絶望していると、それを見ていたステラはそれまでの淡々とした態度から一転、快活な表情を浮かべる。

 

「だいじょーぶ!そんなにビビることはないわ!だってこの私がついているんだもの。私はこの修行をたった三日で終わらせたのよ?」

 

「三日!?あまりにも早すぎないか?」

 

「でしょ?私天才だから。そして、あなたはそんな天才の私が編み出した修行方法を伝授してもらっているのだから一生懸命にやってくれたら何の問題も無く一週間ぐらいでできるようになると思うわ。」

 

「ほんとかよ・・・。」

 

あまりにも漠然とした根拠に俺は不安を覚えたが、ステラを信じることしか今の俺にはできない。

はあ、と一つ嘆息し、ステラを見据える。

 

「頼むぞ、ステラ。俺には一ヶ月しか時間が無い。全力で食らいついていくから必ず俺に修得させてくれ。」

 

「ええ、任せておきなさい!」

 

ステラはあくまで自身満々だ。

そのあまりにも変わらないスタンスに俺は苦笑し、ステラに話の続きを促す。

 

「で、水が流れるイメージを付けるには何をしなくてはならないんだ?」

 

ステラは笑顔から、またまじめな顔に戻してから答える。

 

「まずは、なんで水が流れるイメージが必要なのか、から説明していくわね。この世界には見えない循環がたくさん潜んでいるの。たとえば、今見ている小川。この川の水はそこに確かに存在するわよね?」

 

「ああ、当たり前だ。無かったら意味わかんないだろ?」

 

「ええ、でも本当にあなたが見ているのは“川”という物かしら。」

 

「どういうことだ?」

 

「川は絶えず流れ、また流れてくる。一寸後にはあなたが見ている川はさっきまでの川じゃない。でもあなたはこの川を確かに川として認識している。それはなぜか。もう分かるわね?」

 

「見ているようで、見ていない。見ないようでいて見ている、を無意識にできているからか?」

 

「その通り。人は川を見ているときには、誰しもがそんな境地に入れる。だから、その川を見ている感覚を取り込み、あらゆる物に適用させることができれば修得完了、という事よ。」

 

「なるほど・・・。だから川に来て修行か。」

 

「ええ、そうなの。だから、今からあなたがまずやるべき事は川を眺め、川の流れの感覚を覚えること。」

 

「わかった。だから、水になれ、なんていう意味不明な言葉が出てくるわけだ。」

 

「そういうこと。だから、今日は日が暮れるまで水になりきりなさい。そしたら、何かが見えてくるわ。」

 

「ああ。わかった、やってみる。」

 

こうして俺の水になりきる、という難解な修行の幕が上がった。

 

 

 

かれこれ、三時間ほど川を眺めているが、いっこうに手がかりらしき物はつかめていない。

焦りや、迷いなどと言ったネガティブな考えがどうしても頭に沸いてきてしまう。

それでは、ダメだと分かっているが、それを考えないように考えないようにすればするほど余計意識されてしまうという皮肉な状態である。

すると、ステラはそんな俺を見かねてか、単純に腹が減ったのか弁当をフリフリしながら近寄ってくる。

 

「おーい、晋介。弁当食べようよ。」

 

「ああ、そうだな。食べよう。」

 

近寄ってきた彼女から弁当を受け取って二人そろって川縁に腰を下ろす。

彼女は口でパカッとかいいながらいかにも楽しげに弁当を開ける。

 

「晋介、この弁当おいしそうだろ?私と師匠で作ったんだよ。はやく食べてみてくれ。」

 

促されるままに俺は弁当を開け、入っている卵焼きに箸を付ける。

 

「お、この卵焼きめっちゃうめーな。」

 

「そう?ありがと。その卵焼きは私が作ったんだよ?」

 

「まじで?お前やっぱり料理めちゃくちゃうまいのな。尊敬するよ。」

 

ステラはえへへ、とだらしない顔で喜んでいる。

銀髪美少女のこんなだらしない顔初めて見た・・・かわいいから許す!

そんなことを考えながら、あまりのうまさに声も出ず黙々と食べ進めていく。

ステラはしばらくの間そのだらしない顔を両手で押さえ、身もだえていたが、落ち着いてきたのかひとつ咳払いをする。

 

「こほん。褒めてくれてありがと。」

 

「いえいえ。こっちこそ作ってくれてありがとうな。」

 

「ふふ、それだけおいしく食べてくれたら作りがいがあるわ。また明日も作ってあげるから楽しみにしていなさい。」

 

「おう、楽しみにしとくわ。」

 

「ええ。」

 

うれしそうにはにかむ彼女は本当にすてきな女の子に見える。

そのすてきな女の子は更に俺の方におしりを寄せ、肩と肩が触れるほどの至近距離にまで近づいてくる。

俺が少し驚いてそっちに目を向けると、ニヤッと笑みを浮かべるステラ。

 

「でも、お弁当を作ってあげたんだから対価がほしいわね。」

 

少し、いやかなり嫌な予感がする。

 

「何がほしいんだよ・・・?」

 

ステラは手を俺の内太ももに触れさせながら身を俺に寄せてくる。

 

「な・・・!ステラ、お前。」

 

「なーにー?」

 

首をコテンとかわいくかしげる銀髪美女。

くっそー、めっちゃ可愛くてなんもいえねー!

俺がキョドッているのを良いことにどんどんと体を密着させていくステラ。

内太ももに触れていた手は今は腰に回され、座りながら抱っこをしているような状態になっている。

ギューと抱きしめてくるステラは上目遣いに俺を見つめながら

 

「晋助も抱きしめて。」と言ってくる。

 

俺は声も出せないままにステラの華奢な腰回りに手を回す。

ギュッと抱きしめてあげるとステラの口から「あ」という妙に艶っぽい声が俺の鼓膜を震わせる。

しかも彼女のほのかな体温と女の子らしい柔らかでしなやかな感触が密着している部分全てから伝わってきて俺の心臓はもうバクバクだ。

心臓の音がステラに伝わってるんじゃないか?と思って彼女を見ると微笑みながら俺の胸に耳を当てている。

やば、聞かれてる?と思った時、ステラは口を開いた。

 

「晋助の心臓ちゃんと動いてるね?当たり前だけど。」

 

「ああ、当たり前だ。」

 

「でもね、そんな当たり前のことが私には途轍もない安心感をくれるんだよ。こうやってひっついていると私は一人じゃないって感じられる。だから、しばらくこのままでいてくれないかな?」

 

「ああいいぞ。」

 

情けないが、そう答えるだけで精一杯な俺。

しかし、彼女のいかにも安心しきった表情を見ていると、緊張しているのがバカらしくなってしまう。

俺も彼女に倣い目を閉じ体の力を抜いてみる。

トクントクンと一定のリズムを刻む彼女の心音が俺に伝わる。

本当だ・・・とても安心する。

所詮、心臓の音なんて筋肉が動いて血液が流れているだけなのに・・・。

するとさっきまでの修行の成果なのかどこかひっかかりを覚える。

あれ?流れているのか・・・血液も・・・。

すべての物を流れの内にとらえる、ステラはさっきそう言っていた。

今ならなんかできそうだ・・・。

目は閉じたままに目の前にある川の流れをイメージする。

そして、そのイメージをステラの体を貫く目には見えない流れと重ね合わせるようにしてみる。

あー、なんか分かるぞ。

 

彼女を貫く幾つもの流れ、俺を貫く流れ、目の前にある小川の流れ。

それぞれは全く別の物で一見なんの関係もないように見えるが、そうじゃないんだな・・・。

すべてがつながっていて、流れている。

何もかもがこの世界の大きな流れに取り込まれていながら独立している。

相反する概念でさえその二つをつなぎ合わせる何かしらの流れが存在している。

 

これは戦闘に於いても同じなのかもしれない。

自分と敵。

この二つは、いわば殺し殺される相反する存在であり理解のしようも無い第三者同士。

そんな風に思っていた。

でもそうじゃない。

敵とでさえもこの“世界”という大きな流れによってつながれているもの同士なのだ。

 

この認識は俺にとってはまさに晴天の霹靂であった。

そして同時に、すべてを“悟る”ための天啓となったのだ。

 

この天啓にも似た認識を得たとたんに、ステラがかつて言っていた言葉の意味がスルスルとほどけていく。

 

彼女は精霊術士に必要な物は“愛”だと言った。

彼女は霊力とは“悟る”力だとも言った。

 

今、その二つの言葉が真の意味を持って俺に迫ってくる。

 

なぜ、“愛”が精霊術士に必要なのか。

それは“愛”が「森羅万象すべての物がこの世界の大きな流れの住人であると認める事」だからだ。

 

なぜ霊力が“悟る”力なのか。

それはこの認識をまさに悟ることが超感覚の極意だからだ。

 

これほどのひらめきが今このステラに抱きしめられているという奇妙なシチュエーションの中で起こるなどとは思いも寄らなかった。

まさか、彼女も俺がそんなことを悟ったなんて分かりようもないだろう。

 

少し目を開けるとそこには見たこともない色彩の景色が広がっていた。

 

圧倒的にカラフルに見えるのだ、すべての物が。

そして、何もかもが俺にとって愛しい存在として迫ってくる。

空気でさえも俺に語りかけてきているように思えるほどだ。

 

「これが本当の超感覚・・・。」

 

俺はあまりに感嘆していたためそんな言葉がぽろりとこぼれる。

しばし、その絶景に目を奪われていた。

 

どれほど見とれていたのだろうか。

 

弁当を食べていたときよりも木々の影が長く伸びている。

 

あれ、すこし日が傾きだしてないか?

まずいな、この超感覚、すごすぎて時間を忘れていた。

そしてそれよりもすごいのは腕の中で眠るステラだ。

かれこれ何時間寝てんだ、こいつ・・・。

俺はからかいついでに彼女の柔らかなほっぺをツンツンつつく。

 

「おーい、ステラ。いつまで寝てるんだ?」

 

「んー?もう少し・・・。」

 

そんなことを言いながらモゾモゾと俺の肩に頭を乗せてくる。

首筋に彼女の柔らかな髪の毛が触れたこそばゆい。

俺は彼女を起こすため脇腹にコチョコチョを敢行した。

 

「コチョコチョコチョー」

 

「ウヒャヒャヒャ。ちょっ・・・やめて!くすぐったいよ。」

 

「なら起きることだな。」

 

「分かった起きる起きるから。」

 

観念したのかステラはゆっくりと立ち上がる。

少しプクッと頬を膨らませて腰に手を当てるステラ。

 

「晋介、ヒドい!コチョコチョは反則でしょ?」

 

「なーにが反則だ。人の腕の中で何時間寝てるんだよ。もう帰ろうぜ、いい加減。」

 

「あら?まだ、あなた超感覚できてないでしょ?」

 

「いや、もうさっきできるようになった。だから、教えてくれてありがとうな。ステラ。」

 

「はあ?できるようになったですって?私でさえも三日掛かったのよ?」

 

「ああ、だから俺の方がお前よりももっと天才だったらしい。」

 

「うそ!そんなのあり得ないわ!」

 

「実際できてんだからしょうが無いだろうが?」

 

「ほお?なら見せてもらおうかしら?本当にあなたが今超感覚が使えているのだとしたら私の攻撃を見破るなんてたやすい事よね?」

 

「え・・・。ちょっとだけ自信ない。」

 

「ちょっと?なめてくれるわね。いいわ、三本勝負にしましょう。どちらかの攻撃が三回当たればそっちの勝ち。これでどう?」

 

「ああ、良いぜ。やろうか。」

 

ステラは弁当の時の優しげな雰囲気から一転、冷たいサディスティックな態度だ。

うーん、これを一日でマスターしちゃうのってそんなにすごいことなのか?

内心で首をかしげる俺だったがおとなしくステラと対峙する。

 

向こうは腰を落とし右足を一歩引いたいかにも戦闘準備万全なスタイルである。

 

初めてだな・・・ステラがあんなにバリバリのやる気を見せるのは・・・。

 

それだけ本気でくる、ということだろうと解釈し、俺も腰を落とし右足を少し引く。

警戒心はマックス。

この場全体に緊張感が走る。

カサッという音を立てて一枚の葉が俺たちの間に落ちた、と思ったときだった。

 

ステラが一瞬で俺の懐に入り込んでいる。

しかし、俺には前回と比べものにならないほど彼女の動きが見えている。

彼女は右手での突きをたたき込もうとしているようだ。

なので俺は半歩だけ右に体をずらし、回し蹴りの要領で彼女の右手による突きを相殺する。

二人とも反動で数歩後退し、勢いを殺しながら体勢を整える。

彼女はすこし驚いた様子でこちらを見ている。

 

「今のが見えたのか。ほんとうに入れているみたいだな。」

 

「ああ、丸見えだ。もう俺はお前を超えちまってるかもな?」

 

俺はニヤッと嫌な笑みを浮かべながら彼女を挑発する。

すると、彼女はあからさまにむっとしながら言い返してくる。

 

「図に乗るな!今のはほんの小手調べだ。今からが本気の戦いだ。覚悟しなさい。」

 

「左様ですか。ま、ホントかどうかはこれで調べてやる!」

 

そう叫んで俺は魔装を施し、先ほどとは比べものにならないスピードで彼女に迫る。

彼女の目は俺をしっかりととらえているので、牽制がわりに左でジャブを二発撃つ。

そのどちらも彼女は首の動きだけで躱し、お返しとばかりに左ストレートを俺の顔面に向かって放つ。

俺は慌てて首だけで躱すが、彼女の攻撃はまだ終わっていない。

左手を引き戻す力を利用して右アッパーを俺のみぞおち向かって放つ。

俺はもろにそれを喰らい体が浮き上がる。

 

「一本。」

 

彼女が俺にだけ聞こえる声でつぶやく。

そしてまだ終わらない、彼女は左脚による強烈な蹴りを俺の左側頭部にお見舞いする。

俺は川のある方へとぶっ飛ばされる。

 

「二本。」

 

またもつぶやく彼女。

俺は空中でどうにか体勢を立て直そうとするがそれよりも早くステラは俺よりも上に跳躍している。

 

「終わりよ!」

 

そう裂帛しながら彼女は右足でかかと落としを俺の腹にたたき込む。

彼女の口元には勝利を確信した笑みが浮かんでいる。

 

――俺はただでは負けねーぞ。

 

グッと歯を食いしばり腹にめり込みつつある彼女の脚をあらん限りの力でつかみ引き込む。

彼女は驚愕の表情を浮かべている。

俺は彼女を抱きしめながら落下していく。

 

「一緒に落ちようぜ?」

 

バッシャーン!という豪快な音と水しぶきとが上がる。

 

「っぷは!冷たく気持ちいー!」

 

「晋介、これはどういうことよ?」

 

ステラは最後の俺の道連れが気にくわなかったらしい。

少しむくれながら俺を詰問する。

 

「いやー、あのままやられんのはなんかしゃくだったからさ。いっそのこと道連れにしてまえー、みたいな感じ。」

 

たはは、と俺が情けなく笑うと、彼女は眉間を押さえながらため息をつく。

 

「はあ、あなたねえ。最後私の脚つかめたなら放り投げるなり何なりすることもできたでしょう?そうすればあなたの一本だったのに・・・。」

 

「え、そうなの?」

 

「ええ、立派なカウンターだし戦術としても悪くはないからね。」

 

「うそ・・・。まあ、でもあのときはなんかステラと一緒に川に飛び込みたい気分だったんだよ。だから、結果は同じさ、どっちにしても。」

 

そう言って不器用ながらもウィンクをステラにかましてみる。

 

「うげえ、晋介のウィンク気持ち悪いわね?」

 

「ええ!気持ち悪いってヒドいな!」

 

「まあ、どうでも良いけど今回は私の勝ちってことで。」

 

フフンとどや顔をしながら胸を張るステラ。

俺はあることに気づき彼女から目をそらす。

 

「あら?なに目をそらしているのかしら?私に負けてそんなに悔しいの?」

 

とうれしそうに俺の方へとだんだん近づいてくるステラ。

やばい、近づいてきちゃったよ。

これは言ってあげないとダメだよな・・・?

俺は意を決して口を開く。

 

 

「ステラ」

 

「なに?晋介。言い訳かしら、聞いてあげなくもない・・・。」

「透けてるぞ・・・服。」

 

「・・・・・・・・。」

 

耳が痛いほどの沈黙。

 

心なしか水温が下がった気がする。

 

顔を下に向けていたステラだったがジリッとにじり寄ってくる。

顔が見えなくて不気味に感じた俺が一歩下がる前に彼女はバッと顔を上げ

 

「早く言いなさいよ!バカー!」

「ぐへー!」

 

俺は彼女の渾身のグーパンチを食らいぶっ飛ばされたのだった・・・。

 

 

 

 

 

その後俺たち二人は川から上がりビッショビショのまま帰宅している。

俺はステラにシャツを貸しているので上半身半裸であるが露出癖があるわけでは無いので普通に恥ずかしい。

対して彼女は俺の少し大きめのシャツをワンピースの上からかぶり、奇妙なファッションであるが、美少女だからかどんな服を着ようともある程度似合ってしまうから不思議だ。

トコトコ歩いていると俺にふと疑問がわいた。

 

「なあ、ステラ。今更なんだけど、お前って人間?」

 

「なによ、急に。」

 

「いや、ちょっと気になって。お前めちゃくちゃ強いからホントに人間なのかなーって思ってさ。」

 

そうなのだ。

魔装も何もしていないのにあんな高速移動ができるし、何よりも幼女から美少女に変化する体質なんて聞いたこともない。

俺は彼女の方を向き、姿を改めて確認するが、何度見ても見た目はただの銀髪美少女なのだ。

魔女ではないと言うことは分かっているのだが果たして人間がこれほど美しいことがあるのだろうか。

人間でないとすれば何だろう。そう思っての質問だ。

彼女は少し思案顔になったと思ったら突然何でも無いような調子でぽろりと言った。

 

「私ハーフエルフなの。」

 

「え?はーふえるふ?」

 

「そう。ハーフエルフ。」

 

「って事はエルフと人間のハーフって事?」

 

「ええ。母はエイラよ。父はただの人間。」

 

「ん?ということはまさか・・・。」

 

「そう、エイラはエルフなのよ。」

 

「・・・なんだってぇぇぇええええ!!!!!」

 

俺の絶叫が森全体に響き渡ったのだった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうでしたかね?長すぎたでしょうか?

途中ややこしいことを言いましたが気にせず読んでいってください。

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