──アニキが逝った。
狩猟団『森の妖精』をまとめる地位に立つ男の中の漢。
ランス使いのアニキが…。
にわかには信じられない話だった。私を猟団に入れる為のドッキリ企画かと考えたくらいだ。
思わず、間違い無いんですか? と尋ねてしまった。
聞いたところ、どうやら仲間のハンターを庇って、マ王と異名を持つ片角のディアブロスの突進を尻で受け止めた事が原因らしい。
なるほど、なんともアニキらしいと思う。
私がその情報を得たのは、猟団『森の妖精』の一人からだった。
最近お声がかからないな、と思ってた所に港の酒場でたまたま出くわしたのだ。
……。
…そうか。
ハンターである限り、いつかは誰かがこういう目に合う。少なくとも理解していたはずだが、いざ直面して見ると感慨深くなってしまう。
きっと『ある程度の力』と言うヤツが足りなかったのだ。
それでもギリギリの所を楽しむ人だったとは思う。砂漠でクーラードリンク無し、雪山でホットドリンク無し、常に『漢布』と呼ばれるフンドシと愛用のランスのみでモンスターを狩り続ける漢だった。
…恰好は私もあまり人の事は言えないか。
沢山の事を教わった。
今のハンター生活や交友関係ががあるのは主にアニキのおかげだ。
「人は一人では生きていけない。だから男と女で支え合って生きていくんだ。で、その『間』に生まれた子ってのが『人間』ってヤツだ。
俺たちハンターが、特にハミ出しもんの俺らは自身のエゴと同じくらい守らなくちゃいけないもんだ。
ま、俺らは子作りはしないけどな! アッハッハッハッハッハ」
また馬鹿話聞かせて下さいよ。ギリギリの狩り行きましょうよ。飲み明かしましょうよ。哲学させて下さいよ。
くだらない事で笑わせて下さいよ、アニキ…。
その日はそんな思いに耽りながら夜を越えた。
生きる目的と本来の任務に為にも、落ち込んでいる時間もそこそこにしなければならない。
生きていくためには必要なのだから。
しばらくたったある日、私はまた狩りに出ていた。
今日一緒なのは女性3人ハンターという非常に珍しい組み合わせだ。
女性と言ったが年齢は15歳前かもしれない。
お子様の接待ハント待った無し。
彼女らの価値観では、声をかけてくる男はゴミクズだとか、声をかけてこない男は欠陥品だとか、散々な言われようである。
要は男性というものに夢を見ているお子様ハンターだった。
こんな子らがハンターとして駆け出す時代なのかと、未来を嘆かずにはいられない。
ハンター以前に人間として、という部分も大きいが。
何故私がこのパーティーに呼ばれたか。
男としてどちらにも該当しなかったかららしい。
女としての自らのプライドが傷つく事は無く、行動を共にしても体裁の保てる相手として。
異性に興味ないガチの人(デマだが)で、このタンジアではカリピストとしてそこそこ有名になりつつある私が適任と言うわけだ。
ちなみに独り歩きしている噂には多少目を瞑っている。
自分の身を守る為にも、今では良好に築けている人間関係を崩さない為にも。
性格はちょっと問題ありそうに思えてしまうがこれが普通だろう。
普通とは何か、という哲学な話になるが、
老いも若きも
男も女も
酸いも甘いも
秩序も混沌も
変態も普通も
全ては人間の営みの一つであるからして、総じて『普通』と一括りにできなくて何とする?
要は世界には色んな人がいて、その人の数だけ普通があるという事だ。
何にせよ狩りは恙無く終わった。
彼女たちの立ち回りやコンビネーションは良く、
正面を陣取ってスタンさせるハンマー
罠などで足止めを行う片手剣
全体を見渡し援護射撃を行う弓
本当に私が必要だったのか?と疑問も浮かぶほど順調だった。
と言っても相手はドスジャギィなら当然と言えば当然か。
タンジア港へ帰還して解散となったのだが、そこにはどこかで見た覚えのあるゲリョスソウル頭が通った…。
え?
えぇ!?
あれは………、
アニキ!!!?
「よぉ、久しぶりだな。元気してたか? 悪かったなしばらく声かけられなくてよ」
考える。
よ~く、考える。
もう一度よ~く、考える。
そして一つの結論に至った。
あの時、誰も「死んだ」とは言っていない。
「逝った」と。
あの、ひょっとして…。
「仲間から聞いてるだろ? いや~、参ったぜ! 根性なかったらアウトだったな。
たまたまその日はクーラードリンク飲んでてよ。大事にはならなかったんだがパーティ組んでた仲間が右へ左への大騒ぎでよぉ。
音爆もケツに響くから止めろとか変な指示が飛ぶし、散々だったぜ! ま、貴重な経験だったな」
ソウイウコトデスカ!?
どうやらアニキはその経験が『初』だったらしい。
腰から下にグルグルと巻かれた包帯が生々しかったのを、私は一生忘れることは無いだろう。
何か一気に疲れた…。
「ん? どうした? 仮面の上からでも分かる様な微妙なカオしやがって」
アニキって──。