筆頭のカリピスト ~変革の物語~   作:三方真白

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第5話 理解なんてあるわけない

 

 記憶を失った私が5人目の筆頭ハンターにスカウトされ、ニャァべえ命名『筆頭リコーダー』として生きる事となったわけだが…。

 他の4人の筆頭ハンター達と別行動を取らざるを得なくなった。普通こういう時は新人にベテランが付くものではないのか。

 何の為の仲間扱いだったのだろうと、文句の一つも言ってやりたくなる。 記憶を失った私と行動を共にする、とは何だったのだ?

 別れ際に4人揃って私と目を合わさなかった事を今度言ってやろうと思っている。

 

 結局、私はニャァべえとやらの言葉にまんまと乗せられたとしか思えない。

 もちろん、一人で生きる為の力を得た事は感謝している。

 だが、本当に記憶をなくした人間が力だけ与えられて、「後は頑張れ」と言われ納得できるだろうか?

 

 ま、愚痴ってもしょうがない。

 共に行動できない一番の理由は、この格好の私は目立ち過ぎるという事だ。良くも悪くも。

 ピンクの狩猟笛に、直肌ベストと申し訳程度のフンドシ。そして顔全体を覆う、夜の舞踏会の如き仮面のハンター。おまけに肌色多め。

 

 あの4人の中私がいたら浮く!絶対に!!

 

 そういうわけで一応、別行動に関しては頭の中では納得済みなのだ。

 気持ちの処理の葛藤があるだけで。

 

 私の筆頭ハンターとしての任務は、他のハンター達の中で一人のハンターとして狩りをし、とあるモンスターの情報を集める事。

 

 

 黒蝕竜ゴア・マガラ

 

 

 私を襲ったあの黒い竜の事だそうだ。まだ存在が公にはされていない未知の竜。

 ヤツが目撃された辺りでは、モンスターの行動が激しく活性化され、一種の暴走にまで陥ると教えられた。

 

 この世界の歴史において黒い竜とは大きな災厄の象徴だ。

 ランサーさんの話では、ハンターが一人もいなかった国家が一夜にして地図から消えさる事も過去にはあったそうだ。

 だからこそ正体と生態を突き止め、場合によっては討伐しなくてはならない。

 

 今その任務を帯びているのが私たち筆頭ハンターだ。

 一応、ヤツを直接目撃し生還をしたらしい私なのだが、記憶というものが一切残っていない。

 せっかく、経験と仕事が合致しそうだったのだが悲しい結果となっている。

 

 そして私にはもう二つの任務が与えられた。

 一つは、ギルド内の不穏分子(密猟者など)を探る事。

 もう一つの任務は筆頭ハンターに相応しい素質を持ったハンターを探し出す事。

 

 古龍という存在が相手だと4人でも5人でも厳しいらしい。

 そもそも国を滅ぼすような相手に、4人で挑もうというのがどうかしているのだ。

 

 要は誘導・迎撃・支援などを行える精鋭を増やせという事だが、私はその見極め役を任された。

 非常に重要である。気合いを入れて沢山のハンターの見極めをしなくては…。

 

 しかし、しかしである──。

 

 ハンターになったばかりの新人に任せる内容じゃないと思う。

 

 更に。

 

 かれこれ1週間、ハンターに限らず情報を持っていそうな商人達が集うタンジアの港に逗留しているのだが、誰とも会話していない。

 というか目も合わせて貰えない。

 由々しき事態だ。

 

 

 何 故 だ !

 

 

 とは言うまい。この格好である。お近付きになりたくないのが皆の本音であろう。

 

「タンジアの酒場には頭のおかしいカリピストがいる」

 

 と噂になっているくらいだ。

 何故知っているかって? 親切なタンジアの看板娘が教えてくれたからだ。

 

 出禁にならないだけありがたい。

 そんな今も仕事を回してもらえているし、ソロで依頼をこなし続けているからこそ、看板娘ちゃんからは一定の信頼を得ているのだ…。

 

 

 フッ…。

 

『真の孤独を知る者は

   全ての上に立つ強者と、変態である。』

 

 

 とは誰の名言だったかな…。

 

 まったく、何かに目覚めそうだ──。

 


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