筆頭のカリピスト ~変革の物語~   作:三方真白

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~最終話~

 狩 ら な い か

 

「キャアアア~!」

 

 そう一声かけただけなのだが、また逃げられてしまった。

 一体何がいけないというのだろう。ニャァべえどう思う?

 

「もっと普通に行けば良いんだニャ。プレッシャーを相手にあたえすぎなんだニャ」

 

 そんなつもりは無いんだが…。

 

「初対面の人に顔を近づけ過ぎて話すのもダメだニャ」

 

 いや、相手の顔を見て話すのはコミュンケーションの基本だろ?

 

「近づけないようにするニャ。ただでさえお近付きになりたくない格好をしているのだからニャ。性的にアプローチをかけ過ぎだニャ」

 

 そうしたのはニャァべえだろ?

 

「適正に合わせて錬成するのが、レンキン装備玉ニャ。むしろそうしたのは自身の適正ニャ」

 

 ふむ。当初は困惑したが、やはり今では様になっているか?

 美尻をアニキ達に褒められたせいか、そこは結構自信が付いている。

 

「馴れてノリノリポジティブになった分タチが悪くなったニャ」

 

 これも存外、悪くないぞ。

 

「上手くないニャ…。それはそうとあの壊れた笛はどうしたのニャ?」

 

 加工屋に持って行ったさ。

 あの笛な、人間の骨で作られていたんだそうだ。

 笑っちゃうだろ。誰の骨だよってな。

 そんな物騒なもの持ち歩いていた私は誰なんだ?って話だ…。

 死んでしまった最愛の人の、かもしれないけどな。

 

 ま。今となっては出どころなんて調べる気にもならない。夢の記憶と一緒に溶かして、"あした"に当てるさ。

 明日か未来か、まだ生きている限り、筆頭ハンターとしての道が続いて行く限りは。

 

「それまではニャァがオトモかニャ…」

 

 そういう事だ。

 

「悪目立ちは勘弁して欲しいニャ」

 

 それはあきらめろ。

 どちらにしても素材が足りない。人間の骨を集めるわけにはいかないし、集めたとしても強度が明らかに劣る。

 

「むしろそんなもの集めたら捕まるニャ」

 

 だから、それなりのモンスターを狩って素材を手にいれないといけない。加工はそれからだ。

 そうだな…例えばあの黒い竜なんかが良いんじゃないか?

 

「ゴア・マガラ…。リーダー達を追うのかニャ?」

 

 そういうことになるかな。

 で、リーダー達は今どこに?

 

「バルバレ…世界中の情報が集まる巨大キャラバンだニャ」

 

 じゃ、私たちもそこへ向かおう。新人研修は終りでいいか?

 

「異存ないニャ」

 

 ありがとう。

 それじゃ、みんなに挨拶して行かないとな。

 

「随分と、急だな……」

 

 えぇ、急に決めましたから。

 

「そうか…。だが、それが村付きじゃないハンターの自由な特権だ。世界を見て、夢を見て、新しいモンスターに出会って、新しい仲間に出会って来い。

そんで、落ち着きたくなったらいつでも戻って来い。猟団全員歓迎するからよ」

 

 ありがとうございます、アニキ。

 その後は猟団のみんなから手厚い、イヤ胸板厚い抱擁を何度も貰って、場を後にした。

 涙や鼻水、汗を垂らしながらの簡易壮行会みたいな雰囲気だった。

 団員でも無い私に……、ありがとう。

 

「お別れは済んだかニャ?」

 

 あとは、早々に結婚して引退したカップルの所行って、

 女性装備を特注する男ハンターの所行って、当たらない溜め斬りばっかりする大剣使いの所行って、モンスターの前に立つとフンドシ一丁になる太刀使いの所行って、私をそっちの人と思って誘って来た人の所行って、突進しかしないランサーの所行って、隊列をやたら気にするガンサーの所行って、スタミナが全くない双剣使いの所行って、爆弾しか使わない片手剣ハンターの所行って、本気で私に恋していたらしい男のハンターの所行って、仲間もろとも粉砕しようとするハンマー使いの所行って、やたらアイドルっぽく振る舞うギャルハンターの所行って、変形する事すら知らなかったスラアク使いの所行って、やたら散弾ばら撒くライト使いの所行って、後ろからもっこりを当てながら付いてくるハンターの所行って、固定砲台ばりに動かないヘビィ使いの所行って、弓で殴りに行くという武器の選択間違えたハンターの所行って、新しく猟団立ちあげた3人娘の所行って、お世話になったギルドナイトの所行って……あとは………

 

「もういいニャ、もう言わなくて良いニャ…。まったく問題児ばかりじゃないかニャ」

 

 そうでもないさ、彼らを生かすも殺すも笛の支援や狩りの方法次第だったりする。

 もちろん初めてでそれに対応するのは、私だって大変だったがね。

 全て挨拶周りを終えた時には日が沈みかけていた。

 

「苦労する律儀人だニャ。いつかハゲるニャ」

 

  失礼な。

 みんな、こんな見かけの私の事を誘ってくれた大切な狩りの仲間達だぞ。

 

「それって顧客って言わないかニャ? 旋律欲しさのニャ…」

 

 仲間だ。例え今は引退していても、狩りに行った瞬間は同じハンターだもの。

 

「そんなものかニャ…」

 

 そんなもんさ。

 なぁ、向こうでリーダー達と一緒に狩りに行けるかな?

 

「5人目だからニャ……当面はわからないニャ。もしかしたらペア……3人でとかなら可能かもニャ」 

 

 そうか。今度は私が助ける番だ。

 楽しみだな。

 

 あ。なぁ、この壊れた笛を使って、世界で初めての狩猟笛できたら、名前って付けさせてもらえるのだろうか?

 

「分からないけど…、例えばニャ?」

 

 う~~む。

 THE レクイエム なんてどうだろうか?

 

「THEってなんニャ・・・」

 

 THE は THE だよ。格好良いだろ?

 

「ワケが分からないニャ。加工屋に交渉してニャ」

 

 ふむ、楽しみだな。

 タンジアの港に出港を告げる銅鑼が鳴り響く。

 今日最後の便が出る時間だ。あまりに急だったので無理を言ってしまったが乗せてもらえる事になった。

 この借りは何で返そうか。甲板掃除かな。

 

 私一人の力は弱いけれど、誰かがいれば頼ってみる。

 誰かが頼ってくれるなら力を貸す。

 

 時には寄り掛かり、時には寄り掛かってもらう。

 こうやって支え合って生きているんだ。

 

 力に強い弱いも無い。ほんのちょっとで良いんだ。

 それがあれば、生きていける。

 アイツが何を思い悩んだかは知らないが、今の私はちょっとしたコツを知っている。

 だから大丈夫。

 

「かなり遠いから覚悟するニャ」

 

 大丈夫だ、問題ない。

 死出の旅路じゃないんだ。今を生きている私たちが歩み出す未来だ。先が見えなくてもきっと明るいさ。

 いつか必ず死ぬとしても、その『必ず』まで取っておくよ。

 だから今は大丈夫だ。

 

 さぁ行こう。

 

 リーダーをはじめ仲間の筆頭ハンター達や、

 

 まだ出会った事のない新しい仲間のハンター達が待つ

     

 

 

 "バルバレ"へ──。

 

 

<fin>




  ~最終話~

 私の、最高の仲間達

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