Emilio   作:つな*

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エミーリオは思われる。

鎮まりの雨に

大空の親子に

廻り巡る霧に



Emilioへの欽慕

山本side

 

子供の頃、親父が連れて行ってくれた居酒屋でエミーリオと出会った。

子供の俺にカルピスを出してプリンも出してくれたからその時からとってもいい人だと思った。

その時、エミーリオは俺に野球ボールをくれた。

それは丁度世界でも有名だった選手のサインが入ったボールだった。

俺は興奮してエミーリオに抱き着いたりお礼を言ったりしてはボールを眺めていた。

それからそのボールはずっと机の上に飾っている。

俺が小学中学年になっても、エミーリオの店には顔を出していた。

いつも笑顔で俺もつられて笑顔になるのがとても好きだった。

宿題をエミーリオの店でやってても怒りもせずに、逆に宿題の内容を覗き見ていた。

 

「なぁ…この昆虫の腹ってどこなんだ?」

「え?知らんよ、俺学ねぇもん」

「がく?」

「学校いったことないって意味、だから理科とか知らん…まぁその昆虫って塩振って揚げたら美味しかったぞ」

「え!?エミーリオ学校行ったことないのか!?」

「おう、学校楽しいか?」

「ああ、友達がたくさんいるのな!」

「そりゃよかったな」

 

エミーリオは学校行ったことがないことに驚いた。

じゃあ給食も食べたことないんだろうな。

エミーリオのご飯食べたら給食じゃちょっと物足りなくなったぜと言ったら笑顔でありがとうと言ってた。

俺が小学校高学年の頃、エミーリオが突然消えた。

店ごとそこに最初から無かったかのように。

俺はとても悲しかった。

悲しくてずっと部屋で泣いてた。

父さんが心配して部屋に来てくれたけど、悲しいのは治らなかった。

どうしてエミーリオはいなくなったんだ?と聞いてもわからないと言われるだけだった。

警察はエミーリオを探してはくれなかった。

頻繁にエミーリオの店のあった場所に行っていた。

でもそれで何かが変わるわけでもなく、結局俺は家に帰るだけだった。

それから数年経ち、俺は中学生になった頃だった。

エミーリオの店が建っていた。

ドアにはオープンの看板が掛けられていて、俺は無意識に扉へ手を伸ばしていた。

夢なのかとすら思ってた。

だってこの前まで何もなかったのに。

扉が開くと、カランコロンと音が鳴り響き、店の中に入る。

店の中はあまり変わらなくて、本当にこれは夢なのかと思った。

すると足音が聞こえた。

 

「いらっしゃーい……ん?ああ、武か…顔馴染みが連チャンで来たかー」

「……え」

「ん?久しぶり、大きくなったなぁ武。もう中学生かぁ、あーすげぇ身長伸びたなお前」

「エミー…リオ…?」

「お?おお…久しぶり過ぎて俺の顔覚えてない?ほら、3年前の―――」

「エミーリオ!」

 

俺は何を言っていいか分からなくなり、形振り構わず大きな声を出した。

 

「何でっ、どこに……どうしていきなり消えたんだよっ!」

「え?あ、ああ……何かすまん…急な都合で、えーと…」

「悲しかったんだぞ」

「ぁ…ああ」

「今度はちゃんと教えてくれ…」

 

数年ぶりに見たエミーリオの顔は全く変わってなくて、本当に3年も離れてたのかと思うほどだった。

記憶と全く同じのエミーリオを見て、夢じゃないのかと不安になり頬をつねる。

 

「痛い…」

「何してんのお前…」

「エミーリオがいるから、夢かと思って」

「あー、なんだ、何か凄く心配してくれてたみたいで申し訳ない」

「無事でよかったのな」

「ああ…何か食うか?」

 

それから俺はまたエミーリオの店に頻繁に来た。

中学一年生に上がった時に俺は部活に精を出していた。

部活帰りというのもあってお腹が空きまくるのでよくエミーリオの店でちょっとだけ食べて帰るようにしていた。

部活終わりの自主練で帰宅時間がいつも遅くなっていて、エミーリオにはどうしてだと聞かれたことがある。

 

「お前最近帰り遅いけど何やってんだ?」

「え、部活だけど…」

「いや野球部って大体7時半ごろには終わるだろ」

「ああ、その後自主練してんだ、だからいつも遅くなってんだ」

「あー…なるほど、お前が不良児になったんじゃないかと思ってた…よかったぁ」

「ハハハ、なんだそれ」

「でもあれだ、こんな毎日やってっと体ぶっ壊すぞ。子供の頃はまだ成長途中だから過剰なトレーニングは多大な負荷にしかならないからな。無理した分だけ体に出るから自主練もほどほどにな」

「分かったのな」

「伸び悩み中みたいだけど、青春時代なんてあと4年はあるんだし焦んじゃねぇぞ」

 

そう言って俺の頭を撫でててくれたエミーリオの言葉を俺はどうしてちゃんと聞かなかったんだろう、と後に死ぬほど後悔した。

数日後、俺は自身の包帯の巻かれている折れた腕を眺めた。

医者が言うには過度な自主練で腕にかかる負荷が許容量を超えてしまったらしい。

それからぐるぐるとエミーリオの言葉が頭を巡っている。

どうしてあの時の忠告を聞かなかったんだろうと後悔しても後の祭りだった。

これじゃ野球も出来ないし、近いうちにある試合も出れない。

目の前が暗くなる気がした。

俺から野球を取ったら一体何が残るんだ?

重い足取りで登校すると、誰もが驚いた表情をしていた。

そして、沢田がとくに俺を心配してきていたけど今の俺にはそれに応える余裕はなかった。

何よりも最近になって活躍を果たしている沢田を見ていると嫉妬してしまうから見たくなかった。

授業中ずっと折れた腕でどうしようかと考えていた。

勉強も運動も出来ない。

どうしよう、どうしよう、どうしよう

もう俺には残ってるものなんてないじゃんかよ…

俺は屋上へ行きフェンスを乗り越えた。

結局、俺は死ねなかった。

沢田に救われたんだ。

屋上から落ちた時、純粋に怖かった。

とても怖かったのを覚えてる。

その後ツナと一緒に帰り道を歩くことになって、途中でエミーリオの店が視界に入る。

エミーリオの忠告を無視してこんなことになってしまったから、エミーリオにも謝りたかった。

それをツナに伝えると喜んで一緒についてきてくれた。

どうやらツナもこの店には一度だけ訪れたことがあるらしい。

店に入るとエミーリオと目が合い、エミーリオは俺の腕を見て目を丸くしていた。

 

「え、腕どうしたの」

「自主練のし過ぎで折れちまった…」

「あー…まぁあんま気負うなよ、挫折も経験してりゃ次に活かせるだろ」

「あのさ、エミーリオ」

「ん?」

「えっと…忠告無視してごめん……」

「あ?あー……うん、ま、これで反省してるならいいんじゃねぇの?」

 

エミーリオは困った顔をして席に誘導してくれた。

するとエミーリオが今日は奢ってやると言って来たので、パスタを頼んだ。

 

「あの人エミーリオって言うんだね」

「ああ、俺が子供の頃から知ってる人なんだ…近所の兄さんみたいな感じなのな」

「へぇ、優しい人そうだね」

「そうなのな、俺はエミーリオが怒ったところなんて見たことないし」

「そうなんだ」

「にしてもツナ、今日は本当にありがとな」

「え?いや別に…」

「ツナがいなきゃ俺は死んでた」

「山本…」

「俺屋上から落ちた時思ったんだ…怖ぇって。だからツナが助けてくれて本当に感謝してるぜ」

「うん…でも山本が怪我増やさなくて本当によかったよ…」

 

エミーリオがパスタ片手に俺達のテーブルに来た。

パスタを徐にテーブルに置くと、俺の頭に強い衝撃が襲う。

 

「え…」

「え、エミーリオさん!?」

 

ツナの焦った声が耳に入り、俺は漸くエミーリオに殴られたことが分かった。

 

「もう二度と自殺なんて馬鹿な真似すんじゃねぇぞ」

「エミーリオ…」

「まだお前には時間があるんだ、躓く時間があるなら前見て考えて死ぬ気で生きろ」

 

エミーリオは静かに、だけど怒気を隠さず俺にそう言った。

俺はエミーリオが怒っているのを見たのはこれが初めてだった。

頭の痛みと心の苦しさから、涙が出てくるけどどうしようもなくて、ただこの痛みが嬉しかった。

エミーリオからタオルを渡されて、泣き止もうと目に押し当てていたが、今までの悩んでた分のストレスが一気に押し寄せてきて涙が溢れ出す。

苦しくて、何考えていいか分かんなかった。

腕も心も痛くて、立っていることさえ億劫だった。

もう何していいか分かんないし、何も出来ないしで本当に死にたかった。

でも屋上から落ちた時、怖かった。

死にたくないって心の底から思った。

苦しくて、辛くて、痛くて、怖かった。

 

「頑張ったな」

 

ふいに頭に手が置かれ、ゆっくりと撫でられた。

それにもっと涙が溢れ出してどうしたらいいか分からなかった。

ツナの言葉で思い止まって、エミーリオの言葉で救われた。

 

「ご…めんなさっ……」

「おうおう、ちゃんとそれ食って元気出せよ」

 

エミーリオは厨房に戻っていって、目の前にいたツナは泣いてる俺におろおろしてるのが分かって何だか笑えてきた。

その後泣き止んだ俺はツナと一緒にパスタを頬張った。

今までで食べてきたものの中で一番美味しかったと思った。

帰り道をツナと一緒に帰っていたら分かれ道でツナが俺に呟いた。

 

「俺達の会話聞かれてたね」

「そうだな」

「山本が羨ましいよ」

「ん?」

「だってあんなに思ってくれる人がすぐそばにいるじゃなか」

「ハハ、まぁそうだな」

「じゃあ俺はここで」

「ああ、またなー!」

 

ツナと別れて、家まで歩く。

 

❝頑張ったな❞

 

やっと息が吸えたような気がした。

 

 

 

 

ユニside

 

「お嬢さん、どうしたんだい?」

 

お母さんとはぐれて街の中で途方に暮れていた私に一人の男の人が声を掛けてくれた。

知らない人には気を点けなさいとお母さんに言われていたけど、目の前の人には何故か何も思わなかった。

何故かこの人は大丈夫だと思ってしまった。

 

「お母さんとはぐれたんです」

「あー、おっけー、どこではぐれたの?」

「あっちです」

「んじゃそっち行こうか、君の名前は?」

「ユニです」

「え?ごめんもっかい」

「ユニ」

「あ、うん。俺はエミーリオ」

 

それからエミーリオとはぐれた場所に行き、お母さんが来るまで待っていようねと言われて、その場で待っていた。

ただ待つだけは暇で、エミーリオはソフトクリームを買って来てくれた。

私にはミルク味をくれて、とても美味しかった。

何だろう、エミーリオの隣は暖かいなぁ。

一時間くらいすると、お母さんが来た。

 

「ユニ!」

「お母さん!」

 

お母さんが見えて私は駆け付けて、お母さんに抱き着いた。

 

「ああ、もう今度から勝手にどっか行っちゃダメよ」

「ごめんなさい」

「娘がお世話になりました」

「いいえ、よかったなー見つかって」

「はい!」

 

エミーリオとそのまま別れようとすると、お母さんが引き留めた。

一緒にご飯食べに行くみたい。

近くの店で一緒に昼ご飯を食べて、そのあとはちゃんとお別れをした。

お別れする際、何故か胸の奥が痛くなってエミーリオに抱き着いた。

すると胸の痛みが消えていって、どこかホッとした。

どうしてエミーリオの隣はこんなに落ち着くんだろう。

分からなかったけど、私はエミーリオと別れた後お母さんに聞いてみた。

 

「お母さん」

「ん?なに?」

「エミーリオと別れる時、とっても胸が痛かったの」

「あらユニも?」

「お母さんも痛かったの?」

「痛かったというより、寂しかったわ」

「どうして?」

「分からないわ、ただエミーリオには不思議な力があるのかもしれないわね」

「私たちみたいに?」

「そうね……」

 

それ以上お母さんはその話をしなかった。

そして直ぐにお母さんが亡くなってしまった。

悲しみに暮れた日々を送っていた。

γも悲しいはずなのに私をずっと励ましてくれてる。

頑張らなきゃ、前に、進まなきゃ…

涙を拭いてお母さんの死を克服した頃だった。

 

予知夢とは違う、何かを見た。

崖の様な場所で、景色を眺める一組の男女。

何かを話しているけど、声は聞こえなくてただ二人が会話をしている場面だった。

すると場面が変わり、女性に男性が花の形をした石の塊を渡している場面だった。

男性の口が開いたり閉じたりするのを呆然と眺めていたら、そこで夢は途切れた。

あれは一体……

男性の顔はぼやけて見えなかった。

あれは予知夢ではない、と何故か確信出来た。

声も顔も会話も何も分からなかったけど、彼の隣はとても、とても暖かかった。

それだけは何故か感じることが出来た。

 

10年という長い月日が経った頃に、白蘭という男が私に同盟の話を持ち掛けた。

私は彼の人の好さを信じ、同盟を飲んだ。

だけどそれが間違いだと気付くのは直ぐだった。

予知夢で彼がよからぬことを企んでいるのが分かり、逃げ出そうと試みたがその頃には既にミルフィオーレの勢力は大きくなり過ぎていた。

だから私は遠くの世界に魂だけでもと避難した。

それからはただ心細かった。

あの世界は今頃どうなっているのだろう…

心配ではあったけど、私には確かめる方法もなく、ただ時を待っていた。

すると再びあの夢を見た。

崖の上に座り込む男との会話、そして石の塊を渡す場面。

だけど以前とは一つだけ違うことがあった。

男の顔がハッキリと見えたのだ。

そして私はその男の顔には見覚えがあった。

でもどうして彼なのか私にはわからなかった。

 

「どうして……あなたが夢に出てくるのですか………エミーリオ」

 

分からないことだらけだったけど、その夢を見た日から心細さは無くなった。

 

 

 

 

六道骸side

 

並盛を偶然歩いていた時に、気まぐれで入った店だった。

人の好さそうな店主を横目にメニュー表を覗き見る。

ほう、これはなかなか…

メニューに張られている写真に惹かれ、チョコパフェを頼む。

 

「はい、チョコレートパフェ」

「クフフ、ありがとうございます」

「っ……どういたしまして」

 

何故か店主が顔を勢いよく逸らしたけど気にせずに、チョコパフェを平らげた。

ふむ、なかなか美味でしたね。

またここに来ますか。

店主にもそう伝え、数日後に再び訪れた。

 

「いらっしゃーい」

「クフフ」

「ああ、ナッ………この前のチョコパフェの子か」

 

最初に言いかけた言葉が気になりますが、聞かなかったことにしておきましょう。

今日は前に気になっていたチョコレートケーキを注文した。

値段が学生向けであるにも関わらず、味がこの上なく上品だ。

クフフ、これは中毒性のある味ですね。

 

「っふ…」

 

視界の端で店主が笑いを堪えているのが見え、眉を顰める。

 

「何故、笑っているのですか?」

「え?ああ、すまんすまん、君があまりにも美味しそうに食べるから嬉しくてな」

「クフフ、確かにあなたの料理の腕は称賛に値します」

「嬉しいこといってくれるねぇ、君中学生か?」

「ええ、黒曜中ですよ」

「おいおい、隣町からわざわざ来てくれたのかぁ、学校は楽しいか?」

「あんな低レベルな教育受ける気にはなれません」

「アハハ、さぼりか」

 

彼の手が徐に伸びて、僕の頭に乗った。

あまりにも自然な動作で一瞬反応が遅れてしまう。

直ぐに振り払い眉を顰める。

 

「何ですかその手は」

「あ、すまん、つい癖で…友人に君に似てるやつがいてな、アッハッハ」

「二度はありませんよ」

 

あなたのチョコレートケーキの味に免じて今回は許してあげますよ。

まだ食べていないデザートがあったので、また来ると言い店を出た。

その夜、僕は寝る直前にふとあの店主を思い出した。

そして気まぐれで彼の精神世界を探して潜り込もうとした。

本当に気まぐれであり偶然だった。

 

彼の世界を見た時の僕は恐らく間抜けな顔をしていたでしょう。

何せ彼の世界は確固たる基盤がなかったのだから。

森の中だと思った瞬間に海の中、氷の上、土の上と次々と変化していく。

若干、変わりゆく景色に酔いつつも、精神世界の主を探した。

こんな精神世界は初めてだ…

彼には軸というものがないのだろうか。

荒れ果てた荒野、白い砂漠、透明な海、死体が転がる街

次々と変わっていくこと数十分、漸く景色がぐらつきながらも一つの場所で固定される。

どうやらどこかの店の中のようだ。

扉を開くと、カウンターの奥に彼がいた。

ふと彼が視線をあげ、僕と目が合うと驚いた表情をする。

 

「あれ?ナッポーじゃん。何でここに?」

「は…?」

 

一瞬彼の言葉が分からなかったが、理解した途端殺意が沸く。

僕が何かを口走ろうとする前に彼が言い放つ。

 

「でもお前死んでんだろ…なに幽霊?…つか何で俺イタリアの時の店にいるんだ?」

 

周りをキョロキョロと見てる彼に僕は、人違いをしているのだと分かった。

そういえば私に似ている友人がいると言っていましたね。

 

「まぁいいや、お前俺がイタリア出た後どうしたんだよー」

「…………どうしたというのは?」

 

少し遊んでやろうと、彼に会話を合わせることにした。

 

「どうしたって、あれだよ、自警団だよ」

 

どうやら彼の友人は自警団にいたようだ。

 

「俺がイタリア出た後気になってたんだよね…お前手紙には自警団のことあんま書いてなかったし。ジョットも日本に行っちゃったし、Gとお前だけ自警団に残ってたじゃん。んでもって風の噂でイタリアででっけーマフィアの組織あるって聞いたんだけど、自警団潰れたの?」

 

イタリアに自警団なんて存在ありましたっけ…いやマフィアがのさばっている時点で自警団などあるわけがない。

 

「潰れましたよ…とうの昔に」

「あらら………あー…まぁちょっとだけそうなのかなぁとは思ってたけど…そっかぁ…」

 

曖昧な笑みを浮かべる彼に何故か僕の方が悲しくなるような錯覚を覚えた。

 

「でもお前頑張ってたもんなぁ…」

「エレナが亡くなっても、ずっと頑張ってたもんなぁ」

 

彼の声が遠く離れていくような感覚に陥て、彼が反応のない僕を訝しむ。

 

「おーいナッポー!」

「誰がナッポーですか!」

「いって!」

 

彼の言葉で我に返ると同時に無意識に手が出た。

 

「手が出るのは相変わらずかよお前……幽霊のくせに」

「うるさいですよ」

 

どうやら彼の友人も殴っていたらしい。

なるほど、私に似ているようなのは認めましょう。

 

「なぁ…あの後のお前を知らない俺が言えることじゃないけどさ……」

「お前よく頑張ったなぁ」

「俺の夢になんか出てこないで早く成仏しろよ…でも久々に会えて楽しかった」

 

「………では…もう行きます」

「ああ、お疲れさん」

 

その言葉と同時に僕は精身体を実体に戻す。

そして目を開けて、まだ日が上がっていない窓の外を眺めた。

 

「何故………楽しかったと言いながらそんな顔をしてるんですか…」

 

僕が干渉されるほどの感情とは何だというのか。

そしてあの不安定な世界は何だというのか。

彼は異常だ。

正常を偽った異常者だ。

それからも度々彼の夢に潜り込んでは会話をしていた。

僕は友人の記憶を持ち合わせていないので彼の話を一方的に聞いていただけだが。

正直こう言ってはなんですが、友人の顔と他人の顔くらい見分けられないのだろうか。

相当私とその友人は似ているのだろう。

彼は色んな国へ行き、色んな景色を見ては店を開いていたようだ。

見た目は20代前半に見えるが、もしかしたら30代かもしれませんね。

 

「なぁナッポー」

「ナッポーではありません」

「この前お前に似た中学生見たんだ」

 

その言葉に僅かに反応する。

 

「名前は知らないけどお前にそっくりでさぁ」

「ほう?」

「その子クフフって言ってたけど、お前確かヌフフじゃなかったっけ?」

 

似てるよな、と彼は言う。

なるほど確かに口癖と外見が似ているようだ。

ならば彼が見間違っても無理はない。

 

「あーあー、昔のこと思い出したら何かセンチメンタルになってきた」

「あなたがセンチメンタル?」

「おい笑うなよー、俺は今を生きるタイプだから過去は振り返らない派だったんだよ」

「懐かしむくらいならばいいのでは?」

「あ?だってんなの悲しいだけだろ…」

 

瞬間世界が揺れた。

 

「!?」

 

急な精神世界の歪みに、空間に亀裂が入り出す。

辺りを見渡したと同時に急に胸が締め付けられるような痛みが走る。

次に愛惜に似た感情が僕を襲う。

まずい―――…!これ以上いれば彼の感情に飲み込まれる!

 

「どうせ皆、最後は――――――――――…」

 

世界の変化に気付いていない彼は何かを呟こうとしていたが、僕は耐えきれず精神をその場から切り離し、実体に戻る。

地面に叩きつけられた感覚と共に、瞼を開けた。

 

「っは……」

 

そこはソファの上だった。

ようやく痛みから解放され、深く息を吐く。

何だ今のは…!

この僕が怯んだだと!?馬鹿な!

そんなハズはない…そんなハズは………

だが僕は認めてしまった。

世界が崩壊し始めたような景色を前に純粋な恐怖を感じたことを。

あれは、何だ…。

抗いようのない自然現象の襲われたような感覚だった。

 

「クフフ、一体あなたは何者なんですか………」

 

一度根付いた恐怖は収まることを知らず、僕はそれから彼の夢に潜り込むことはなくなった。

だが彼に興味はあったので、彼の店に訪れるようになった。

 

「いらっしゃーい、ってチョコの子か」

「何です?その名前は…僕には六道骸という名前があります」

「むくろ?骸君ね、俺はエミーリオ、今日は何頼むんだい?」

「チョコレートムースを所望します」

「了解」

 

平然と過ごしている彼がとても滑稽だった。

彼の内包する異常な世界にとても興味を惹かれた。

それ以上に、僕を通して友人を見ていることが許容出来なかった。

 

僕を見て下さいエミーリオ。

あなたのその世界を僕ならば必ず理解してみせる。

 

 

あなたを見ていると何故だかとても…遣る瀬無いのです。

 

 

 

 




二代目ナッポー:エミーリオをロックオン
山本:こぶは出来てなかった、良かったね
エミーリオ:400年ほど前に食糧不足の際、虫に塩振って揚げて食した男
ユニ:白蘭の二股ストーカーの被害者
初代ナッポー:多分どこかでくしゃみしてる

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