私は
少し前にとある男性と結婚した。
子供も出来たしそれなりに幸せの生活を送っている。
夫との出会いはそう、私が旅行でイタリアを訪れていた時だった。
道端で肩をぶつけてしまい、私は持っていた焼き立てのパンを落としてしまったのだ。
長い行列の出来る店のパンで、3時間も待ち続けた苦労が、と私は絶望を隠せなかった。
「パ、パンが…」
「ごめんね、僕のせいで」
「い、いえ…あ、日本語…」
「君日本人だろう?僕これでも日本語は得意なんだ」
「は、はぁ…」
「僕のせいでソレ落としちゃったし、お詫びとして何か奢らせてよ」
「いえ、たかがパンでそこまで」
「それあそこの行列の出来るパン屋のだろう?結構並んで買ったんじゃない?」
「は、はい……」
「うん、だから僕がどこかでご馳走するよ」
「でも」
「あ、あの店とかはどうだい?女の子が好きそうなデザートが沢山あると思うよ」
「わ、分かりました」
少しどころじゃなく結構ショックだった私は男性の言葉に甘えて、彼の提案に頷いてしまった。
一緒に歩いていてやっぱり可笑しい気がすると首を傾げるが、イタリアの男性だから女性への態度も積極的なのかと思うことで自己完結していた。
そこは如何にもデザートを売ってるようなおしゃれなお店で、中の内装も全てが女性向けだった。
店員が私達を見て微笑ましいような顔しているが、決して恋人とかそんなんじゃないと心の中で弁解した。
だって私イタリア語喋れないし…
私と男性はそのまま奥の席に案内されてはメニュー表を眺めていた。
私は値段を見て目を丸くする。
0が一桁多い…なにこれ、私場違いだよ、っていうかこの値段を彼が払うの?
「あ、あの…やっぱり私も自分の分は自分で…」
「いいよいいよ、ここって明らかに女性向けだろう?僕一人だと入り辛くてさ、君はパンの腹いせで沢山食べればいいよ」
「た、確かに」
「やっぱりパンのこと根に持ってるじゃないか、君面白いね」
「え!いや今のはえっと、その……実は結構根に持ってました、ごめんなさい」
「別にいいよ」
私は顔から火が噴き出そうだった。
お店のデザートは値段相応に美味しかった。
少しカロリーが気になるけど、日本帰って運動すればいいよね、うん。
先ほどから男性が
「あの、何かご予定でもありました?なら直ぐに食べますが…」
「いや別に何でもないよ、ただの確認だから」
何の、とは聞ける程近しくもなかったので私はそのまま目の前のタルトを頬張っていた。
お互いデザートを食べ終えると腹も満たされ、先ほどの絶望感とは裏腹に満足感で満ち溢れていた。
言葉通り男性が会計を済ませてくれて、私は店を出て頭を下げる。
「ありがとうございます」
「いーよいーよ、それより今度からは道端は気を付けてね、ここは人混み凄いから」
「はい、ありがとうございました…」
そのまま男性と別れようとした時に、私はふと思い出したように彼に声を掛けて引き留めた。
「あ、あの!」
「ん?」
「お、お名前を…聞いてもいいですか?」
「ああ、そういえば言ってなかったね、僕は白蘭」
「びゃくらん………私、佐藤雪江です…本当にありがとうございました」
「日本人は礼儀正しいって本当みたいだ、またね雪ちゃん」
語尾に音が弾むような口調で彼は人混みの中に消えていった。
私は少し舞い上がったテンションのまま宿泊先のホテルへと帰っていった。
それからイタリアで彼と会うことなく、日本へ帰ったら家族にこの話を聞かせようと思った。
日本へ帰国後、私はキャリアウーマンとして再び職場で働きだした。
「そういえばこの前並盛の方ですっごい美味しいお店見つけたんだぁ」
「どんなお店」
「基本どの料理もあるよ、ファミレスみたいな…店員さん一人しか見当たらなかったけどよくあれで回せるなぁって思ったよ」
「へぇ、今度行ってみようかしら」
「場所は確か―――――」
友人の勧めで私はそのお店に訪れた。
扉を開くと、そこには既視感を覚える背中が見えた。
「ねぇエミーリオ、今度イタリアに来るのはいつだい?」
「さぁ…いつだろうな、ユニが学校休みになった時にまた行こうかな」
「エミーリオはいつだってユニちゃんのこと優先で考えるよね」
「大の大人が頬膨らませても可愛くねーぞおい」
「いいんだよ、それなりに僕の顔は需要あるから」
「自分で言っちゃったよコイツ…」
店員と思わしき人と談笑している白い髪の男はこの前私がイタリアで出会った…
男の名前を思い出していると、男と目が合う。
「あ、雪ちゃんじゃないか」
「びゃ、白蘭さん!?」
「やぁ、偶然だね」
彼はあの日と同じ笑顔で私の名前を呼んでくれた。
私は数か月前の、それも道端で出会っただけの私の名前を憶えててくれていたという事実に嬉しさが込み上げてきた。
彼の隣に座り、つい最近まで会っていたかのような彼の口調に笑った。
「にしても何で日本に?」
「ここ僕の行きつけのお店なんだ」
「そうなんですか?ならここのオススメとか教えてくださいよ」
「いいよ」
快く私にメニュー表を片手に教えてくれる彼にとても好感を持てたのだ。
そして友人の言った通りこの店の料理は美味しかった。
「美味しいわ、とっても美味しい」
「エミーリオの料理は何でも美味しいよ」
「うん、ほんとそうだわ!エミーリオさんって凄いのね」
いつしか敬語も忘れて興奮している私と、何故か機嫌のいい白蘭さんを、エミーリオさんは微笑みながら見ていた。
その視線に気付いて私は恥ずかしくなる。
「白蘭にも
「あ、あの!エミーリオさん、別に私と彼はそういう関係じゃ――――」
「じゃ、付き合っちゃおうか?」
「は?」
「エミーリオにもそう見えてるみたいだし、案外お似合いかもね、僕ら」
はい?
いきなりの白蘭さんの言葉に固まっていると、白蘭さんがゆっくりと私の両手を包み込んできた。
「僕と付き合ってくれないかい?雪ちゃん」
「え」
笑顔で言い放つ彼に、私の思考はついにフリーズしてしまった。
ハッと我に返った私は顔中が熱くなるのを感じて、つい目線を逸らす。
「クスクス、日本人って恥ずかしいと直ぐ目を逸らすよね」
「え、えっと」
「そんなところも可愛いよ、雪ちゃん」
「
何だか店中の視線が私達に向けられてる気がする。
それもそうか、いきなり他の客が告白し出してるもんね、私だって注目するわ。
こんな大勢の前で断りにくい…
いや断ろうとも思わないけど、あれ?私結構白蘭さん好きなの?
優しいし、明るい性格だし……断る理由…なくね?
「え、えっと……」
「うん」
何かもう何言っていいか分かんない、マジで。
私もあなたのことが好きです、とたったそれだけ言って結ばれてハイおしまいで、恋人になった後はどうすれば、ええと、ええと――――
頭の中がグルグルとしてきて、私は涙目で、取り合えず何かを言わなきゃと思って口を開いた。
「結婚してください!」
「「え」」
あれ?何でそんなに驚いてるんだろう…
目の前の白蘭は目を丸くしてるし、隣のエミーリオさんも驚いている。
一瞬自分が何言ったのか全く分かんなかったけど、段々と自分の発言を思い出して青ざめる。
「ち、ちがっ、ストップ!今の無し!待って!」
「アハハハハハッ」
「ぇ…」
私がさっきの発言を撤回しようとしたら白蘭さんがいきなり笑い出した。
「じゃ、結婚しちゃおっか♪」
「へ?」
物凄い笑顔で私の手を握りしめてそう言い放った彼に私は今度こそ何も言えなかった。
隣のエミーリオさんも驚いて手で口を覆ってる。
おい、お前ニヤけてんの見えんぞ。
白蘭は私の手を引き、店の玄関へ向かう。
「あ、エミーリオ、今度一緒に払うから」
「いいよいいよ、今日は俺の奢りだ」
「ありがとう」
私の手を軽く引っ張りながら彼は携帯を手に誰かと通話しながら道を歩いていた。
一体どこに行くのかも、何をするのかも今の私には何にも考えられなくて…
ただ橋の上から見える夕焼けがとっても、とっても綺麗だった
だからきっと顔が赤いのは、夕陽のせいだ。
『じゃ、結婚しちゃおっか♪』
私は彼の言葉を思い出しては、繋いでいないもう片方の手を額に押し当てる。
きっと彼の語尾に音符が付いたのは気のせいじゃない。
こうして私たちは出会って二回目の会遇で結婚した。
と、ここまでが私の夫白蘭との馴れ初めである。
その後、何故かビルの屋上に連れていかれて頭の中疑問符だった私だが、直ぐにその理由が分かった。
ヘリだ、ヘリコプターだ。
プロペラの音を立てて、私達の前で降り立ったのは一機のヘリ。
私は口が塞がらないまま白蘭さんに手を引かれてヘリに乗り込んだ。
「白蘭様、行先はイタリアでよろしいですか」
「うん、本部に向かって」
「了解しました」
操縦席の人と白蘭さんが会話をしている横で、漸く我に返った私は焦って白蘭さんに話しかける。
「待って白蘭さん本気!?」
「ああ、勿論本気さ、何か不満かい?」
「不満っていうか疑問だよ!あなた何の仕事してるの!?っていうかこれヘリだよね!?何で!?」
「何をそんなに驚いてるか知らないけど、このヘリは僕のものだよ」
「はぁ!?」
さも当たり前のように言い放つ彼に私は頭がパンクしそうな勢いだった。
「ま、待って…もしかしてあなた相当金持ちなの?」
「まぁ国一個は軽く買えちゃうかな」
「…嘘だ」
「本当だよ」
え、え、え、待って、いや、その前に私本当にこの人と結婚するの!?
思考回路が忙しなくあちこち行き来する私の頬をつんつん突いてくる白蘭さんと共に、私はイタリアへ向かったのだった。
イタリアに着いてからもこれまた衝撃の連続だった。
「おかえりなさいませ、白蘭様」
「ただいま~」
「白蘭様、その後ろの方はどなたでしょうか…」
「ああ、僕のお嫁さん」
「は?」
「さっき婚約したんだ、この後ちょっと役所行って、あ、指輪も買わなきゃね」
「白蘭さん!その人固まってる!凄い困惑してるから待ったげて!」
「え?あ、本当だ」
私だって今さっきまで、っていうか今も困惑してるんだから周りの人間なんて困惑して当たり前でしょ。
普通に優しい人だと思ってたけど、コイツかなりの変人だ!
夫になるであろう人の変人疑惑に次ぎ、白蘭さんはかなりの身勝手さを発揮した。
緑の髪色をしたロン毛、桔梗さんだっけ…桔梗さんが我に返って準備を始めた。
お前順応力たけぇなオイ!
あれよあれよで、翌日に役所に婚姻届けを提出しに行った。
何で国際結婚がこんな簡単に出来ちゃうわけ?おかしいよ!
何か大きな力が加わってる気がするけど、怖くて聞けない。
家族には何も言わずに結婚までスピーディーに終わってしまった私は、結婚2日目で家族を思い出して国際電話で連絡した。
いきなり行方不明になった私を心配していた母に、結婚しましたといえば頭を疑われた。
失礼な母だが、私も聞かされた側ならそう思う。
どこの人?と聞かれて、私はイタリアと答えた後で、あれ?白蘭ってどこ出身だっけと思った。
多分イタリアで育ったと思うけど、名前漢字だよなぁー。
そんな考えを他所に、電話の向こうでは固まっている母を見つけた父が大騒ぎをしていた。
直ぐ両親には国際結婚であることを伝えると、今すぐに夫になった男と会わせろと言って来た。
あまりの剣幕に了承したはいいけど、白蘭さん頷いてくれるかなー。
「え、雪ちゃんの両親?あ、忘れてた」
「忘れてたってあなたね…」
「んじゃ今からでも行こっか」
「ストップ、ここ最近疲れっぱなしだから最低あと一日は寝かせて」
「分かったよ、じゃあ僕は君のウェディングドレス見てくるね」
「それ私も一緒に行かなきゃいけないやつじゃん!っていうかもう披露宴考えてんの!?早いよ!」
「え、でも一週間後には挙式だよ」
「はぁ!?」
「いきなりだから来れる人は限られると思うけど、まぁざっと200人は」
「うっそでしょ!?」
「エミーリオにももう報告したから今更却下は無しだよ」
「え、何でエミーリオさん?」
「エミーリオに披露宴の食事頼んだんだ」
「だめだ手に負えない」
「アハハ、もう諦めた方が早いよ雪ちゃん」
そう言って笑った白蘭さんに言い返す余裕もなくて、私と彼は翌日日本へ帰った。
日本に帰ったついでに仕事をやめてきた。
多分ここ一年は忙しそうなんで直ぐの復帰が難しそうという理由で辞めた。
その後白蘭さんと二人で私の実家へ赴いた。
両親は至って普通の対応だった。
いうなればいきなりの結婚報告ごめんねーという白蘭の軽い言葉だけ。
父は白蘭さんに対して、ちゃんとした青年で良かったと言っていたが、あなたの眼は節穴ですか?
ちゃんとした青年はいきなり女性をイタリアに拉致まがいのことはしないし、熟考を重ねて結婚します。
母に至っては、玉の輿ね!って思いっきり笑ってた。
コイツらめ……
こうして親公認の中になって一週間後、結婚式を挙げた。
「白蘭お前いきなりすぎるだろ!」
「十代目、こいつがちゃんと前もって連絡したことなんてありませんよ、今回は一週間前に報告してきただけマシです」
「そうだけど!本当にそうだけど!」
「にしても白蘭のお嫁さんって日本人なんだな」
「雪ちゃんっていうんだ、可愛いでしょ」
「さ、佐藤雪江です…夫がご迷惑をかけて申し訳ございません」
「ふ、普通だ……白蘭お前一体一般人に何したんだよ」
「酷い言い様だな綱吉君、プロポーズは彼女からだよ?」
「え!?」
「ちが、違わないけど、ちょっと黙っててよもう!」
私は恥ずかしさから顔を隠す。
目の前にいるのは、同盟ファミリー?の人達らしい…仲のいい企業さんのことかな?
右から、綱吉君、獄寺君、山本君、らしい、めっちゃ若い。
何だか沢田さんは一番普通そうで、私を見て心底同情している目を向けてきた。
私もこの夫に振り回されまくったから、その目は痛い程胸に沁みる。
「白蘭、結婚おめでとう」
「エミーリオ!」
「裏方だからまた直ぐに戻るけどな」
「いいよ別に、ねぇ僕の新郎姿は似合ってるかい?」
「ああ、あんな小さかったお前がこんな立派に見えるなんてな」
「あはは、嬉しいなぁ」
どうやら白蘭はエミーリオさんが大好きらしい。
エミーリオさんを相手しているといつもの5割増しで笑顔だし、周りに花が散ってる気がする。
おい新婦を見ろ、このマシュマロ中毒者。
この人マシュマロ食べ過ぎて髪の色はおろか中までマシュマロになっちゃってるんじゃないの?
いやここ数日、白蘭が開けたマシュマロの袋の数を見て眩暈を起こしそうになった、ガチで。
白蘭に両親はいない。
ずっと前に亡くなったらしいけど、本人はそれほど気にしていないらしい。
人としてどうかと思うが、両親の代わりに家族愛を全てエミーリオさんに向けてるような気がする。
本人曰く、エミーリオには大切な恩があって、命救われて、彼がいなかったら今の僕はいない、彼が僕の全てだよと豪語していた。
いやだから新婦を見ろこのマシュマロ野郎。
百歩譲ってあなたの脳内の9割をエミーリオさんで埋め尽くされていても許そう、残りの1割はこっち向けろ。
何だろう、あれだ、格が違い過ぎるというやつだろうか。
エミーリオさんは白蘭にとって神様みたいなものなのかな、それなら仕方ないけど。
これはもう諦めた方がいいのかもしれない。
普通の女にゾッコンだったらコイツの頬を往復ビンタして日本へとんぼ返りするだろうけど、相手はエミーリオさんだ。
あの人すっごく良い人だもん。
人の幸せを心から祝ってくれる彼に不満なんてあるわけないし、白蘭の親だと思えば白蘭がただのファザコンに見えるからギリ許せる。
とまぁすっごい剛速球の如く挙げられた私の結婚式だったが、驚きはこんなもので終わらなかった。
「妊娠3週間です」
結婚式を挙げた一か月後、子を身籠った。
待って、夫婦ライフエンジョイすら出来ないのか私は。
いや子供出来たのは嬉しいんだけど!嬉しいんだけど!
もう少し後が良かったなぁ…
そんな私の隣では、白蘭がすんげーニコニコしてた。
「どんな子が産まれてくるんだろうね、男の子かな、女の子かな」
「うーん…女の子がいいなぁ」
「へぇ」
あ、今すごい夫婦っぽい会話してる、って思った。
ここ一か月この人といて分かったことがある。
こいつの中では一にエミーリオ、二に家族、三に部下の優先順位があるらしい。
エミーリオさんに至ってはもうツッコむ気にもなれないからいいとして、普通に私が二番目ということが嬉しかった。
ここまでエミーリオさんに入れ込んでるとこ見て、白蘭にとって昔かけがえのない大切なことがあったんだなって思う。
だからまぁ、エミーリオさんなら認められるかな…あの人の料理すんごく美味いし。
あといきなり主婦になった私の料理の腕が微妙だったのでエミーリオさんに付きっ切りで教えてもらっている。
この人イタリアと日本行き来してるらしいけど、店の方は大丈夫なのだろうか。
確か片道で13時間以上かかると思うんだけどなー…
そんな疑問も、そういえばこいつ自家用のヘリあるんだから自家用ジェットもあるかと自己完結した。
それでも数時間かけてまで毎日来てくれるエミーリオさんに頭が上がらないが、彼の料理は大好きなのでいつも喜んで歓迎している。
「女の子ならエミーリアかなぁ…男の子なら…」
前言撤回、エミーリオさんはもう少し白蘭と距離を置くべきかもしれない。
夫の為ではなく、あくまでエミーリオさんの為に。
「じゃあエミーリオさんに名付け親になってもらうのはどうかしら」
「それいいね、そうしよう!」
はしゃいでいる夫を見て、遠い目をしている自覚がある。
そしてこの頃それは頻繁に起こっていて、既に私は夫の奇行について悟りきっていた。
数日後、夫のPCにエミーリオさんの店の半径10㎞範囲の地図が映っている画面を見て首を傾げた。
エミーリオさんの店の真ん中に赤い点滅があり、これが何を指すのかすらも一瞬で悟り、私は絶句した。
そのまた数日後、夫の携帯をこっそりと覗いてみると、全く同じ画面が映っていて私は頭を抱えた。
そのまた数日後、夫がよく耳に付けているイヤホンをコッソリ耳に当てて、私は絶望した。
私の夫はストーカーだった。
それも重度の。
ネットの検索履歴も、「夫 ストーカー どうする」で埋まっている毎日。
だがしかし、これで終わることなかれ。
子供が生まれて数か月後、夫が血まみれで帰ってきたことがあり、私は物凄い慌てて彼をリビングまで連れていって座らせた。
お腹の部分に弾痕だと分かるほどの穴があった。
いっててーじゃないよ!医者!
夫の専属の部下である、桔梗さんに連絡すると夫の部下の一人である、人形を持ったメンヘラ男デイジーさんが部屋の中に入って来た。
私が固まっているとデイジーさんが夫の腹部に何か炎みたいなの押し当て始めた。
目の前の光景が信じ切れず、思考が停止している私を他所に、夫はピンピンしながらベビーベッドの上にいる我が子を抱き上げて笑っていた。
我に返った私は夫に問いただしたところ、私の夫がマフィアであることが発覚。
気の遠くなるであろう単語がずらずらと並び出して、私は夫にビンタ食らわして赤ちゃん抱き上げて日本に逃亡。
マフィアの旦那とかふざけんなよオイ!
怖いというよりも、悲しかった。
結婚して子供まで出来ておいて、肝心な職業、それも家族まで危険に晒す様なことを秘密にしていたことが悲しかったのだ。
いやあの男なら秘密にしていたというよりも、教えるの忘れてたって感じだと思うが。
それでも許せん!と思った私はエミーリオさんの店に訪れては酒をがぶ飲みして愚痴と不満を泣きながら吐き出した。
エミーリオさんはテクニシャンだ。
聞き上手、料理上手、慰め上手…もうエミーリオさんと結婚しようかな。
いややっぱ嫌だ、この人と一緒にいればもれなくあのマシュマロ野郎がついてくるじゃん、ストーカーとして。
子供が出来てから全然飲んでなかった私が、いきなりぐびぐび飲んだら即効潰れるよねって話で。
起きたらイタリアの家に逆戻りしてた。
マシュマロ野郎が迎えに来たのかな?いや部下に迎えに行かせたんだろうなと思いながら起き上がると、部屋の扉が開いて白蘭が入って来た。
起きた私を見て驚いたまま固まったかと思えば、いきなり謝って来た。
どうやらエミーリオさんにこってり絞られたようだ、ざまぁ。
今度からはちゃんと大切なことは随一に報告しますという約束をして、私は安らかに二度寝した。
あの後で分かったことなんだが、どうやら今のマフィアは炎使ってイリュージョンな戦闘をするらしい。
私の両親との顔合わせも幻術とやらで誤魔化していたらしい。
取り合えずどんな姿にしたのか聞いたら、七三分けの黒髪スーツのガリ勉野郎をイメージして見せてたらしい。
父さんの眼がおかしくなくて良かった、じゃねぇよ、こやつめ…
とまぁ色々大波乱があったけれど、娘のカトリーナが3歳になった今も私は幸せに暮らしています。
「カトリーナ、これはだーれ?」
「……パパー?」
「正解、じゃあこれはー?」
「………マ、ママー」
「正解、じゃあこれは?」
「エミーリオ!」
「正解だよ!エミーリオだけ即答するなんてやっぱり僕の子だ!」
刷り込みやめろ。
私は佐藤雪江。
マフィアで糖尿病予備軍で重度のストーカーで変人な夫を持っている私ですが、子供も授かれて幸せな毎日です。
「白蘭」
「ん?どうしたの雪ちゃん」
「今日は、もう仕事ないの?」
「うん、今日は家族デーだからね」
「じゃあカトリーナ連れてエミーリオさんの店にいこっか、それともこっちに呼ぶ?」
「こっちに呼ぼう、あっちじゃバミューダが邪魔をするかもしれないしね」
「それはあなたがバミューダさんとエミーリオさんの時間を邪魔するからでしょー」
「パパー、エミーリオー?」
「ああ、エミーリオ呼ぶんだってさ」
「エミーリオだいちゅきー」
「何言ってるの?僕の方が大好きに決まってるじゃないか」
「子供と張り合わないでよ大人げない、ほら部屋片づけて」
「はーい、一緒に片付けようかカトリーナ」
私は携帯を持ってベランダに出ようとすると、娘が私の足を掴んできた。
「どうしたのカトリーナ」
「ママ、エミーリオちゅきー?」
少し変わった家庭で、少し変わった環境ではあるものの
「ええ、ママもエミーリオは大好きよ」
私は今のこの生活が気に入っているし
夫を愛していることに変わりはないし
「パパはー?」
夫が私を愛していることに変わりはない
「パパはもっと大好きよ」
今のこの瞬間がとっても幸せでとっても愛しいのだ
雪江:家族LOVE、エミーリオさんは家族の次に好き、糖尿予備軍の夫のストーカー行為に諦めを覚える。娘にエミーリオさんLOVEを刷り込むのはやめろ。
白蘭:エミーリオの言葉がきっかけで雪江と付き合おうと思ってたら予想以上に彼女が面白くて結婚した、家族とエミーリオが大好き、安定のセコムという名のストーカー、マフィアということを教え忘れていたことをエミーリオに本気めで叱られたことが結構ダメージ受けた模様、なお今後家族にも気を遣うということを覚える、カトリーナ刷り込み中。
エミーリオ:雪江の愚痴が割と本気で同情する内容だったので結構本気で白蘭を叱った、雪江の料理の師匠。
カトリーナ3歳:エミーリオLOVE、手遅れ、白蘭の思想を色濃く受け継いだであろう次期二代目セコム。
ってなわけで、一般人の女性視点です。
辛口スルメ 様のリクエストの一般人女性視点。
あと、白蘭の嫁という設定はエミーリオ35話での通行人Fさんのコメントで閃いた設定です。
_人人人人人人人人人人人人人人人人人人人_
>子孫レベルでセコムする為に結婚しようぜ<
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