Emilio   作:つな*

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第三者視点


Emilio番外編 4

俺の名前は小林。

24歳、普通の公務員だ。

社会人として働きだしてまだ1年、いつも人間関係に悩む日々だ。

上司はうるさいし、同僚は冷たいし、本当に選ぶ職場間違えたなと思う。

そんな俺のストレス解消はとある店に酒を飲みに行くことだ。

今日もまた疲れた俺は彼の店に足を運ぶ。

 

「いらっしゃーい」

「こんばんわ」

「小林君、今日も疲れてるねー」

「あはは…いつものお願いします」

「はいよ」

 

そういってカウンター席に座り、スーツを椅子の背もたれにかける。

店主であるこの男はエミーリオ。

若いはずなのに、一人で繁盛しているこの店を切り盛りしているらしい…大した男だ。

こいつの飯は上手いし、酒もうまいし、聞き上手だし、何をとっても最高だ。

だから俺は辛くなったり疲れたりしたら彼に会って不満をぶちまけて帰る。

 

「はい、ビール」

「ありがとう」

「今日も上司と何かあったの?」

「そうなんだよ、本当にあいつはいつもいつも部下に――――…」

 

いつものように不満をグチグチと吐き捨てる。

まだビールが一杯目とあって全く酔いの回っていないときにそれは訪れた。

 

 

「エミーリオ!」

 

バンッ、と大きな音を立てて店に入ってきた男がエミーリオの名前を大きく呼びながらカウンター席までズカズカと向かってきた。

 

「おお、白蘭、昨日ぶりだな…どうしたそんな焦った顔して」

「どうしたもこうしたもないよ!店移そうとしてるって本当!?」

「え、誰から…綱吉君だな」

「ねぇ本当なの!?」

 

またしても大きくテーブルを叩く白髪の若い男の言葉に目を丸くする。

なん…だと?

この店を移転しようと考えている…?俺のユートピアを…?

 

「まぁまだ決定ではないけど、多分移すだろうなぁっては…」

「ならイタリア来なよ!君の店を経営するだけの土地は確保してあげるし!イタリア本部にエミーリオの部屋も作ってあげるよ?」

「いやいや、そんなんいらねーって…つか移転先はニュージーランドにする予定だし」

 

これまた俺は驚いた。

移転先がニュージランドとは、まず俺には手の届かぬ本当のユートピアとなってしまう!

それはやめてほしいなぁ。

そう思いながら酒を一口飲みながら、白い髪の毛をした若い男を横目で眺める。

白髪…一見老人に見えたが、俺より若い、よな?

あと外人さんかな?いやでも名前が日本人っぽいなぁ

目の下にタトゥー入れてるし…如何にもはっちゃけてますみたいな服装だしやっぱ外人さんかな。

それにこの男さっきの発言からして、結構地位が上の人?それか御曹司?

土地確保とか、イタリア本部とか…イタリアの方に住んでるっぽいけど。

 

「ニュ、ニュージランド……?」

「おう、取りあえず席座れ、立ったままだと何かと邪魔になるだろ」

 

男は呆然と俺の隣の席に座らされ、数秒後に我に返ったように顔を上げた。

 

「ニュージランドに支部はないよ!エミーリオ!やっぱりイタリア来てよ!百歩譲って支部のある国にして!」

「いやなんでだよ、お前まさかまた店に居座る気じゃなかろうな…この前も結構日本に滞在してたし」

「エミーリオが心配なんだよ…君がまたいなくなったら今度こそ僕死んじゃうから!」

「おい不穏なこと言うなよ」

 

おいおい何だか会話の流れが不穏な方向になってきたぞ。

死ぬって…何か精神疾患でもあるのか?この男。

でもエミーリオはそこまで気にしてないっぽいけど、どうなってるんだ?

いやその前にこの男の正体が気になる。

 

「っていうか何でニュージーランド?イギリスとかあるじゃないか」

「平和そうだなーって思って…ほら、並盛最近物騒じゃん」

「え、物騒だから移るの?ならここ一帯にボディーガードとか付けようか?」

「いやいらねぇよ」

「ならイタリアの僕のいる本部に店移してよ、あそこなら世界一安全な場所だと思うよ」

「いやそれ一般人入れねーだろ、ニュージランドがいいんだよ」

「じゃあ僕はニュージーランドに支部作ればいいの?」

「何でそうなるんだよ、お前酒飲んでんのか?」

「飲んでないよ、それよりも店の話だよ、店の」

「何でお前が真顔になってんだ…」

 

先ほどから二人の間に漂う雰囲気が重いものになっていってるんだけど。

いやエミーリオは全然気にしてないっぽいけど、白い方が段々と真顔になっていってる。

正直言って怖い。

酒瓶を持つ手がめっちゃ震えてるんだけど…

つか気が付けば他の客帰ってるし。

皆不穏な空気に気付いて帰ったってのかよ。

俺怖くて動けねーんだけど。

 

「待って、エミーリオ…整理しよう」

「おう」

「エミーリオはニュージランドに、安全そうだからって理由で移るんだよね?」

「そうだな」

「なら!やっぱり!イタリアの本部でいいじゃないか!」

「イタリアはもう結構行ったし、流石に顔割れてるから却下」

「支部のあるフランス!」

「いやあっちってイタリアの次に危険そうだし」

「じゃ、じゃあヨーロッパ圏内で…」

「それなら……あー、ジブラルタルかなぁ」

「何でそんなマイナーな国行くの!?」

「いやだって、ヨーロッパの先進国ってテロ多いじゃん…」

 

白い男、確か白蘭だったか…が撃沈したんだけど。

どんだけエミーリオをイタリアに連れていきたいんだよ。

 

「あ、小林君、はい追加…いつもお疲れだからこれ俺の驕りね」

「え、あ、ありがとう…」

「大丈夫?もう酔った?」

「い、いや大丈夫…」

 

いきなり俺に声かけないでほしかった、切実に。

白い男が俺の方を一瞬横目でちらりと見た後、あ、人いたんだ…的な目で一蹴しやがった。

結構傷ついた。

俺は追加された酒をまたちびちびと飲み始めた。

すると再び店の扉が勢いよく開けられた。

 

「エミーリオ!」

 

入ってきたのは、包帯を顔に巻いた赤ちゃんだ。

もう一度言おう、赤ちゃんだ。

あれ?赤ちゃんってこんな流暢に喋れたっけ?

俺の混乱を他所に、赤ちゃんはカウンター席まで近寄りテーブルを思いっきりバンバンと叩き出した。

 

「君!また僕に内緒で店の移転を考えていだろ!?」

「バ、バミューダ…落ち着けって」

「何で君はいつもいつも勝手にどこかに行こうとするんだ!」

 

あれ、なんかデジャヴ。

白い男が、横でそうだそうだーとか言ってるけど、お前たちエミーリオの何なの?

 

「僕に、まず、言うべきだ!」

「お、おう」

「それともなんだ、親友の僕が信じられないのか?」

「そうじゃなくてー…」

 

幻聴かな?赤ちゃんがエミーリオの親友?まさかな…

エミーリオも先ほどからげんなりしている様子だが、かなり対応が面倒なのかなぁ。

ハッキリ言ってどっちもエミーリオへの過保護っぷりが激しいような。

エミーリオもさっきからすごく困った顔で笑ってるよ。

 

「まず行先はニュージランドで当たっているな?」

「何この事情聴取感……」

「当たってるな?」

「アッハイ」

「僕でさえ君を探し出すのは骨が折れるんだ、勝手にどこかに行かれたら溜まったもんじゃないね」

「えー…」

 

ストーカーかな?

親友という名のストーカーかな?

君を探し出すってまさか世界規模でそう言ってるのかな?

これ警察案件?エミーリオ大丈夫?

 

「でもさぁバミューダ、お前携帯のGPSで直ぐ俺の場所分かんだろ」

「その携帯を置いて出かけるのはどこの誰だろうね!?」

「アッハイ、スイマセン」

 

GPS!?

行動を随一に監視されてんの!?

本当にエミーリオは大丈夫なのか?

 

「君が水浸しで見つかった時の僕の気持ち分かるかい?」

「あー…あれか…いやあれは訳があってだな」

「言い訳は聞かないよ、もうあんなことさせやしないし、させてたまるものか」

「……そこまで迷惑だったか」

「迷惑ってもんじゃないよ!どれだけ君を探したと思ってるんだ!」

「その節は真にスミマセン」

 

あれ?何だか赤ちゃんの方が声が震えてる。

水浸し?どういうことだろう…

探して…見つかったら水浸し…そして周りの過保護っぷり…

もしかしてエミーリオって精神疾患者?

いやいやならこんな居酒屋営んでいるわけないもんなぁ。

多分どっかでドジって危ない目にでも会って皆を心底心配させたりしたんだろうな。

いやなに俺はプロファイリングしてんだよ!

酒を飲みに来たんだよ、俺は。

まだ残りが並々とある酒瓶から少量をおちょこに入れてはちびちびと飲みながら、隣に耳を傾ける。

もう上司の不満とか、同僚の愚痴どかどうでもいい、今はこいつらの正体が気になってしょうがない。

白い男がさっきからイタリアに来てよとせがんでいるけどエミーリオは気にせず赤ちゃんと話してる。

段々と白い男が不満げなオーラを出していると、エミーリオがそいつの頭をわしゃわしゃと撫でまわしたら、即機嫌治った。

ちょろいなお前。

赤ちゃんのマシンガンばりの言葉にエミーリオも段々と言い返さずに、うんうんと頷いていってる。

あれ絶対返事がだるくなっただけだよな。

うわあ、寛容な心を持って人の話を聞いてくれるエミーリオがあれ程なおざりな態度取るとか、ある意味すげーなこいつら。

と、感心していると店の扉が勢いよく壊れた。

もう一度言う、壊れた。

いやネジが外れたとか、一部が穴空いたとかじゃなくて。

文字通り木っ端微塵に、壊れた。

俺は悲鳴すら上げられず、口を塞いで空気になろうと努力した。

だって、入ってきたやつめっちゃ怖いんだもん。

なにあれ………なにあれ。

顔面に大きな火傷みたいな痕が沢山あるし、眼力半端なくヤバいし、体格も結構ごつい。

外人ってすぐ分かるけど、こいつ絶対マのつく仕事してるやつじゃね?

イケメンも度が過ぎればただの恐怖だよ、おい。

もう涙目になるしかないよ俺は。

 

「何で毎度毎度うちの扉壊して入ってくるんだよお前はー…」

「るせぇ、カス」

「口も悪いし…」

 

しかも常習犯だと?嘘だろ、器物損壊罪だろコレ。

何でエミーリオはそんな軽いの?もっと怖がろうよ。

まるで息子が間違って親父のものを壊したときみたいな反応するなよ。

あとこいつ口悪いな、カスっておま…。

 

「ちょっとザンザス君、なにエミーリオの店壊してるの?」

「そうだよ、これ直すのにどれだけ労力かかるか分かってないのか?貴様は」

「それ直してるの俺だけどな」

「うっせぇカス共、おいエミーリオ、酒」

「あーはいはい、つーかその前に扉直させて」

 

ん?直す?どういうことだ?

あ、予備があるのね。

エミーリオが倉庫みたいな場所から付け替え用の扉を持ってきては木っ端みじんにされた扉の替わりに入り口に嵌める。

手慣れてんなぁ…

結構な頻度で壊されていると見た。

同情する。

怖い男が俺の右側に座った。

待って、左には白い人、右には怖い人…逃げられなくね?

ああああ足が震えてきた。

こんなときこそ酒で紛らわさなければ!

 

「ほら、ザンザス…お前にはウォッカが一番舌に合うだろ」

「フン」

「あ、はい小林君」

「え、ああ…ありがと…う」

「あはは、舌回ってないよ、大丈夫?水持ってくる?」

「いえ、大丈夫デス」

 

今水なんか飲んでみやがれ、その場で漏らすわ。

酒を飲みつつ現実を忘れようとしたら、隣の怖い人がウォッカを一気に飲み干した。

うっそだろおい。

流石外人……あんな度の高い奴をロックで飲めるとか、俺なら直ぐに倒れるね。

 

「おい、カス」

「誰がカスだ、誰が」

 

エミーリオが怖い男にチョップを喰らわせた。

そしてそれを間近で見た俺は一瞬息が止まりそうだった。

怖い男はエミーリオを凄まじい眼力で睨みつけるが、エミーリオは気にしていない。

やべぇよ、こいつやべぇよ…。

 

「てめぇ…店移すって本当か…」

「あれ?お前にも情報いってんの?お前らの情報網どうなってんの?」

「ッチ」

「何で舌打ち?」

 

ブルータス、お前もか。

多分そいつもエミーリオを自分の国に連れていきたいんだろうね…。

ただツンデレっぽそうだし、素直になれないから舌打ち、と。

だから何で俺はプロファイリングなんかしてんだよ!逃げろよ!この場から!

 

「でもこれからもお前んとこに行くのは変わんねーだろ」

「フン」

 

あ、あれ…何か嬉しそうにしてる…?

でも他の奴らが皆揃って舌打ちしてるな。

 

「ねぇエミーリオ、やっぱりイタリアに来てよ」

「粘るなーお前も」

「僕は君がどこに行こうが紛争地帯でなければ反対はしないよ」

「まぁお前に距離とか正直意味ないもんな」

 

それはいつどこでも側にいるからということですかエミーリオ。

距離が意味ないってなに。

こいつら自家用ジェット機でもあんの?そんな馬鹿な。

 

「おいカス、てめぇ今度はどこに移る気だ」

「カスっていうなアホ、ニュージーランドだな」

「あ、桔梗?今度新しく支部作りたいんだけど」

「白蘭ストップ!俺の料理ごときで支部作ろうとするな!」

「だったらイタリアに移転してよ!」

「だから顔割れてるって言ってんだろ!」

 

白い男が部下らしき者に電話をして、ニュージーランドに支部を建設しようとしたところにエミーリオがストップを掛けて、携帯を奪い取って通話を切った。

エミーリオの料理は確かに美味しい。

にしてもお金持ちの考えることって分かんねーわ。

 

「エミーリオ、一体いつ頃に移転するんだい?」

「そうさなー、あと1年くらいかなぁ」

 

マジか。

それはツライな。

俺のユートピアがこんなあっさりと移転してしまうのはかなり辛いな。

思い留まってほしい。

口に出したいが、両サイドが怖くて声が出ない。

さっきから白い人が横でぶつぶつと呟いてる。

一年だと移設は少し間に合わないかな…いや急ピッチでなら、とか言ってるけど俺は聞こえてない聞こえてない。

 

「一年か…ではニュージランドの首都に場所をとっておこうか?」

「え、マジで?」

「バミューダ、少し君黙ってくれるかい?」

「ふん、エミーリオの意思すらも優先出来ない奴の誘導に乗せられてたまるか」

「ふぅん?表でなよ、今度こそ跡形もなく消し去ってあげるよ」

「それはこちらの台詞だ」

「おいやめろお前ら、表だろうが裏だろうがここら付近で喧嘩はするな」

「喧しいぞドカス共、纏めてカッ消してやろうか?」

「お前も乗るな!ザンザス!」

 

エミーリオって意外と苦労性なのかな…

こんな身勝手な奴らの相手してて疲れないのだろうか。

にしてもかなり一触即発な雰囲気だな、お互い嫌いあってるのかな。

 

「ここらで喧嘩してみろ、ゲテモノ料理食わせるからな」

 

エミーリオのその一言で皆一様に静かになった。

一番の変わりようは怖い男だな。

少し顔色が悪くなったような…おいエミーリオ、こんな厳つい男に何食わせたんだ。

相当えぐいの食わせたのか…?

にしてもこれまで会話見て思ったんだけど、こいつらの中のヒエラルキーってエミーリオが最上位なのか。

胃袋か、胃袋掴まれたのか。

俺も分かる。

だってこいつの飯美味いもん。

そんなこと思ってると、和服来た丸メガネのお兄さんが店に入ってきた。

 

「久しぶりですね、エミーリオ」

「ああ、シェリック」

「この姿では川平、と呼んでください」

「あ、そうだったそうだった、久しぶり川平君」

「ええ、最近はどうですか?」

「別に何ともねぇけど?」

 

またエミーリオの知り合いか。

にしても最初の方が本名なのか?

いや、川平は日本名とかそんなもんかな。

かなり温厚そうな人だなぁ。

 

「いやぁ、あなたがニュージーランドに移転を考えているという噂を耳にしまして、何か悩みでもあったのではないかと思ったんですよ」

 

お ま え も か!

何だか前の奴らと同じ匂いがする。

 

「いや別に悩みっていう程でもねぇんだけど」

「それならいいんですけどね、あ、芋焼酎下さい」

「おう」

「悩みがないならイタリアでいいじゃないか!」

「お前まだ諦めねーのかよ、ほらこれ飲んで落ち着け」

 

未だ白い男が諦められずに渋ってる姿はまさにダダこねてる子供だな。

眼鏡の男は皆から睨まれてるけど、すっごい嫌われてるみたいだ。

 

「チェッカーフェイスめ、抜け抜けと僕たちの前によく姿を現わせたな」

「ふん、弱い犬ほどよく吠えますね」

 

すごい険悪な雰囲気だなあ。

エミーリオは気付いてないっぽいけど。

 

「あ、そうだ川平君」

「はい」

「川平君は日本にずっといるつもりなのか?」

「いえ、私は各国に私有地を持っているので…それにあなたが移転するならば、そちらに引っ越すのもやぶさかではありません」

「え」

「驚くことでもないでしょう、既に我ら一族は私とあなただけだ…同じ場所にいた方が何かと対処しやすい」

「そういうもんか?」

「そういうものです」

「ならいいけど」

 

あーなるほど、エミーリオと川平って人は遠い親戚か何かなのか。

んでもってもう血縁が途絶えてる状況で、二人だけってことか。

エミーリオってもしかして結構暗い過去持ってんのかな?

今まで愚痴ばっか聞いてきたけど、今度はエミーリオの愚痴でも聞き出してみようかな。

にしても俺何か部外者過ぎるんだけど、ここにいてもいいのかなぁ。

すごいアウェー感。

うーん、帰りたいのは山々なんだが、両サイドが怖くて立てないんだよね。

特に右側の怖い人!

俺は空気、俺は空気、俺は空気、俺は空気。

 

「あ、そうだ…つまみ作ってたんだった、ちょっと盛り付けて持ってくるから5分くらい待っててくれ」

「急がなくていいよ」

「私は長居しますので気長に待ちますよ」

「僕も手伝おう」

「早くしやがれカス」

「いや手伝いは大丈夫だから座って待っていてくれバミューダ」

 

エミーリオが厨房の方に入っていった瞬間に空気が変わった。

 

「で、本当の目的は何だい?チェッカーフェイス」

 

白い人が眼鏡の人に問いかけた。

しかも真顔でだ。

さっきから俺はおちょこ持ったまま固まってる。

だって怖くて動けないんだもん。

 

「君たちに言うとでも?」

「どうせまたエミーリオを僕たちから離そうと企ててるんだろう」

「さぁな、だがまあエミーリオの意思を優先しているだけで、今でも君たちとの接触には反対だ」

「それは僕らも同じさ」

 

赤ちゃんが眼鏡の人に投げ掛けた後に、白い人が片手をあげる。

 

「君らが協力して私に挑んだところで勝敗など分かり切っているだろう、愚かなことを」

「ここじゃやらないよ、エミーリオがすぐ側にいるからね」

 

こわっ、なにこいつらこわっ。

さっきから冷房の掛かってる店の中なのに頬に温かい…ていうか若干熱い熱風が当たるのは気のせいだと思いたい。

何だろう、すぐそばで何かが燃えてるように感じるくらい熱い。

そして怖い。

一触即発なんだけど、早くエミーリオ帰ってきて。

あとこの人たち一旦警察に連れて行った方がいいよ、それか精神科。

 

「ぎゃあぎゃあとうるせーんだよカス共、カっ消えろ」

 

ガチャ、という音と共に俺の目の前に黒い金属片が見えた。

…!?………!?

銃…?ここ日本だよ?銃刀法違反だよ!?

待って、俺ってこんなとこで死ぬの?嫌だ、逃げたい。

俺はいきなりの出来事に動けなくなって、目をかっぴらいたまま固まっていた。

おちょこが若干傾いて中の酒が数滴零れ落ちる。

死にたくなっ―――――

 

 

「お前銃を人に向けるなって何度言ったら分かるんだ!それもここ日本だぞ!?」

 

 

その声と共に鈍い音が耳に響く。

エミーリオの声だ、って分かった瞬間どっと汗が噴き出て息を吐き出した。

 

「ってぇな!」

「ああ?喧嘩するなら拳でしろ、銃は使うな」

「……カスが」

「つ、か、う、な」

「…ちっ」

 

怖い人は舌打ちして銃を懐に仕舞い込む。

すっげービビった。

エミーリオいなかったら絶対に漏らしてた。

エミーリオと目が合った。

 

「うわ、ごめん小林君…こいつ昔からすっげー短気なんだよ」

「い、いえ……」

「ほんとごめん、すっげー怖かっただろ…いや俺も結構前までは銃とか怖かったから」

 

……今なんと?

前までは?………今は?

 

「ほらおめーら今日はもう先客を優先するから帰れ」

「「「「!」」」」

 

待って、やめて。

これ俺がまっさきに抹殺されるじゃん。

本当にありがた迷惑通り越して、悪意があるのではないだろうかとすら思えてくる。

周りの視線が俺に刺さってる。

 

「え、エミーリオ…俺もう酒回ってるから、そろそろ…」

「マジ?なら水でも…」

「いや本当に…ちょっとアルコール回りすぎて足がもつれてて…」

「あ、肩貸すよ…タクシー呼ぶか?」

「ああ、頼む」

 

何とか喋れた。

このままじゃ俺の豆腐メンタルは粉々になっちまう。

にしてもエミーリオの店は行く時間考えよう、絶対に。

燃えつきた俺はエミーリオの肩を貸してもらって店の外へ出ようとした。

 

「今日は本当に愚痴も聞けなくて悪い」

「いやいいんだ……久々に酒を飲むだけってのもいいしな」

「何か作ってほしいものとかあるか?今度奢るよ」

「………」

 

俺は店の外に出ることで恐怖から解放されたせいもあって、少し、舞い上がってた。

あとやっぱりほんの少しだけお酒が回ってたこともあったかもしれない。

だから少し期待してしまったんだ。

 

 

「あんたの料理……好きなんだ……だからまだいなくならないでくれよ」

「俺の、唯一の逃げ場なんだ……頼むよ、エミーリオ…」

 

部下にミスを押し付ける上司が

他の人の足を引っ張るだけの同僚が

陰口だらけの職場が

 

全部 全部

 

嫌で 息が詰まって 苦しい

 

だから だから

 

もう少しだけ、生きる助けが欲しいんだ

 

 

「だからもう少しだけ……いてくれよ…………」

 

「ちゃんと歩けるようにするから………まだ少しだけ待っててくれよ…」

 

 

「頼む…」

 

家族の反対を押し切って実家を出てからは家族とは疎遠になり、俺は職場で孤立した。

社会はひどく冷たく、生き辛くて、泣いた日だってあった。

労う声も励ます声も何もなくて、死にたくなって

偶然出会った店で、君に救われたんだ。

温かいご飯も、人の声も、ただひたすら俺の心の支えになったんだ。

 

「まだ、辛いんだっ……」

 

 

『大丈夫?』

『わあ、まだ若いのに大変だねぇ…ほらこれ飲んで忘れな』

『小林君はいつだって頑張ってるでしょ、そんな卑屈にならずにさ、吐け吐け』

『お仕事お疲れさん』

 

「頼むよ……」

 

 

それからの記憶は朧気だった。

ちゃんと意識が戻ったのはタクシーが俺のマンションの前に着いた頃だった。

ふらつく足で部屋に帰り、シャツを脱いでシャワーだけ浴びてベッドの上へダイブする。

時計を見れば深夜だった。

あー…明日は午後からの出勤だったか。

ならたっぷり寝るか。

 

 

『分かった、君が自力で生きられるまで…並盛から離れないと約束するよ』

 

 

瞼が重い。

意識が段々と遠くなっていくのが分かる。

 

 

『だから、今日はもう寝な………お休み』

 

 

久しぶりに心地よく眠れた気がしたんだ。

 

 

 

 

 

 




小林君(24):オリキャラ。常識人。社会人一年目で会社で孤立気味の公務員。家族とは疎遠気味で人肌が恋しいこの頃。
白蘭:どうにかしてエミーリオをイタリアに連れていきたい人、最悪ニュージーランドに支部作ろうとしてる。多分入江辺りに低コスト瞬間移動装置を急ピッチで作らせるかもしれない。
バミューダ:別に紛争地帯とか以外であればエミーリオがどこで働こうが黙って見守る。ただ出来れば監視カメラが設置しやすい場所を望んでいる。
ザンザス:デリバリー頼んでるから別にいつでも会えると思ってる為あまり気にしてない。
チェッカーフェイス:人間との共存はやめて、人のいない場所で一緒に隠居したいジジイ。
ニュージーランド:延命に成功
エミーリオ:小林君の言葉に思い留まった。雛鳥を見ている感覚であり、ちゃんと飛びたてるまでは見守ろうと思っている。

花京 様のリクエストです。

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