Emilio   作:つな*

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エミーリオは笑う。


Emilio~エピローグ~

そこはイタリアに在するボンゴレ本部。

晴天の中、マフィアの根城にも関わらずそこには不釣り合いなサッカーボールが転がっている。

男の子が必死にサッカーボールを蹴る姿は一般家庭で見るソレであり、決してマフィアの根城で見るようなものではない。

男の子が蹴り飛ばしたサッカーボールが高く飛び、一人の男性の足元にバウンドする。

 

「パパン、それ取ってよ」

「お前なぁ…宿題は終わらせたのか?」

「でもパパンも子供の頃は宿題しなかったんでしょ?リボーンさんが言ってたー!」

「あいつっ!」

 

転がるサッカーボールを受け止めた男性は、ボンゴレマフィアの頂点に君臨するボス、沢田綱吉である。

 

「そんなことよりこれから食事に行くから、お前も着替えてこい」

「食事?どこで?」

「お前が好きな所だぞ」

「エミーリオ兄さんの店⁉」

 

男の子は顔を輝かせ、若干泥のついている手を服で拭い家の中へ走っていった。

母親らしき女性の声と先ほどの男の子が会話しながらドタバタと騒がしい音がする。

沢田綱吉は苦笑して自らも家の中に入ろうと足を進める。

 

 

 

 

「いらっしゃい、あ、綱吉君」

「エミーリオさん、お久しぶりです」

「エミーリオ兄さん!俺お子様ステーキ食べたい!」

「あ、おいコラちゃんと挨拶しろって」

「注文が早いなーお前…そんなに気に入ってもらって嬉しいけど」

「エミーリオ兄さんのご飯は世界一だよ!」

「ありがとう、じゃあ作るから空いてる席にでも座っていてくれ」

 

沢田綱吉が妻子を連れてやってきたのは、こじんまりとした小奇麗で雰囲気のある店だった。

老若男女誰からも愛されるその店は、沢田綱吉の一等気に入っている店でもある。

ボンゴレに属しているのなら誰もがここを知っているだろう。

また誰もがここでは争いをしてはならないという暗黙の了解があるのを知っているだろう。

それがマフィア間の敵対ファミリーとこの店で鉢合わせしても、だ。

何故かと言われれば直ぐに理解することとなるだろうが。

この店を好んで訪れる者たちが揃いも揃ってマフィア界でこれ以上とない程、名を馳せているからである。

ボンゴレファミリーボスである沢田綱吉を筆頭して、ボンゴレ独立暗殺部隊ボスであるザンザス、ミルフィオーレファミリーボスである白蘭、ジッリョネロファミリーボスであるユニ、キャッバローネファミリーボスであるディーノなど、マフィアの強豪達がこの店を頻繁に訪れるのである。

いつだったか…数年前に、その事実を知ったボンゴレの敵対勢力がその店の店主を人質にしてボンゴレ側に不利な要求をしたことがあった。

しかし、ボンゴレボスの守護者たちがその場に向かい、到着したころには敵対していた勢力の下っ端含めボスもろ共、至る所から血を流し店の外に叩き出されていた。

店の店主であるエミーリオに聞いても首を傾げるだけで、捕縛された者たちを尋問しようにも怯えきって頭を抱えて震えるだけで何も言葉を発することはなかった。

だが一度だけ、度を越えた恐怖により衰弱していった彼らが死に際に小さく呟いたのだ。

 

『黒い……黒い炎が……』

 

それだけで守護者たちは皆全てを悟ったという。

一体何が彼らを怯えさせ、何があの聖域を守っているだろうか。

誰もが口を閉ざし、真実は分からぬまま闇に葬られることとなった。

 

そういう経緯からも、この店で度の過ぎた暴力沙汰は己の命を脅かすものであるとマフィア界では広まっている。

そして今日も一般客も頻繁に訪れるその店は、裏でも表でも噂となって知名度が広まりつつある。

 

 

「エミーリオさん…そういえば白蘭こっちに来ませんでした?」

「白蘭なら昨日来てたよ、ここでマシュマロだけ食べて帰っていったけど」

「ああやっぱり…」

「何かあったのかい?」

「最近ここに入り浸って会議に来てくれないんですよ」

「あー…なるほど、俺から少し注意しておくよ」

「本当にすみません、そうしてくれると助かります」

「俺はあいつの保護者じゃないんだけどな」

「白蘭はエミーリオさんの話しかちゃんと聞かないですから」

「いつまで経っても子供だねー」

「エミーリオさんからしたら誰もがいつまでも子供でしょう…」

「まぁね」

 

エミーリオは笑いながら、彼らの座るテーブルに料理を並べていく。

そして厨房に戻っては、他のお客の料理を作る。

料理を全て食べ終わり、妻子共に車で待たせ、沢田綱吉はエミーリオに挨拶をする。

 

「今日もおいしかったです、また来ますね」

「はいよ、待ってるぜ」

「ではまた」

 

この会話も何十回、何百回目だろうか。

エミーリオの店は衰えることを知らない。

同じ場所に長く留まらないことも一つの要因ではあるだろうが、それ以前に店主であるエミーリオの腕前が素晴らしいの一言では片づけられないほど色々超越しているのだ。

その若さで身に着けた熟練の動きは、まるで何百年もの年月をかけたような錯覚すら覚えるほどである。

実際何百年もの年月をかけたのだ。

 

エミーリオの店は衰えることを知らない。

否、エミーリオ自身、衰えることを知らない。

終わりを知らないのだ。

その言葉の本当の意味を知っている者は世界に何人いるのだろうか。

 

 

エミーリオは終わりを知らない。

 

 

 

それはいつまで続き、いつ朽ち果てるのだろうか。

誰も知らない…本人でさえも知らない。

 

人類が死に絶えるその時か

 

草木が枯れ果てるその時か

 

地面が渇き果てるその時か

 

海が干上がり切るその時か

 

 

星が滅び逝くその時か

 

 

 

誰も知ることはなく、誰も理解することはない。

 

 

 

「いらっしゃい」

 

 

そして今日もエミーリオは笑う。

 

 

 

 

 

fin.




黒い炎:セコムその1、誰とは言わない。
エミーリオの店:聖域。暴力沙汰即ち死。

ご愛読ありがとうございました!

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ここから作者の後書き↓

ご愛読ありがとうございます。
最後にシリアス持ってきましたが、まぁ番外編とかがシリアルなのでいいかなーと。
きっちり締められて良かったです。
衝動的に書き始めた小説だったのでエタらなくてよかった…切実に。
まだ文章力が下の上くらいなので、これからも上達出来るよう精進しますね。

コメント、誤字脱字指摘、リクエストしてくれた方々には本当に感謝しています。
感想があったのはモチベーション維持に繋がっていたので本当に凄く助かりました。
まだリクエスト、番外、IFルートを書く予定ですので、それまでお付き合いください。

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