Emilio   作:つな*

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エミーリオは思われる。

廻り巡る霧に

貝の大空に

復讐の夜に


Emilioへの渇望

六道骸side

 

「あれ?そういえば凪ちゃんはどうしたんだ?骸君」

 

代理戦争が始まる前日に、エミーリオの店に訪れ、去り際に彼から投げかけられた疑問に一瞬詰まってしまう。

 

「あの子は今沢田綱吉達に預けています」

「え?なに、喧嘩?」

「違います」

「まぁあれだ、そんな落ち込むなよ。あの子お前のこと大好きだから絶対帰ってくるだろ」

「フン」

 

今のクローム髑髏は僕の幻術を受け入れられず、内臓を補えないまま死ぬだろう。

だから応急措置としてあの子とは距離を置いたのだ。

あの子自身が確固たる自分を確立し、僕の前に現れるのをただ待っていた。

だからエミーリオの言葉に、当たり前だという様に鼻で笑った。

だが、その言葉と同時に背中に伝う温かな体温に安堵した。

クロームという半身と距離を置いたことで無意識に張りつめていた神経が緩み、口から零れた息は僅かに震えていた。

認めるのは癪だが、やはりエミーリオの体温は心地よい。

アジトに帰る頃には僕の中での不安は全て消えていた。

 

代理戦争初日、僕たちのチームは雷のアルコバレーノであるヴェルデと共に、他のチームと交戦していた。

ヴェルデは、幻術を本物の物質に変えてしまう装置を開発した。

その装置と僕たちの高度な幻術をもってすれば、どんなチームをも蹴落とせると踏んでいた。

ユニチームとコロネロチームの者達と乱戦していた時に、ヴェルデの装置を使い本物の拳銃を作り出し、コロネロチームに向けて数発発砲した。

晴れた煙の先に横たわるCEDEFの者達を想像し、口元に笑みを浮かべていた。

だがその予想は最悪な形で裏切られた。

 

何故……あなたが……そこに―――――…

 

「エミー……リオ」

 

小さく震える声が零れ、空気に飲まれる。

拳銃を握っていた右手の力がすっと抜けていき、心臓が急激に冷めていく感覚に襲われる。

右手から零れ落ちる拳銃に意識すら向けれず、僕はただ口から血を吐くその男を眺めることしか出来なかった。

 

「骸様!」

 

千種の声で我に返ると、既にエミーリオはCEDEFの者に運ばれてその場にはいなかった。

直ぐに、撃たれた場所を幻覚で塞ごうと思い、一歩前に出ようとしたその時だった。

凄まじい炎圧に辺りが飲まれ出し、僕はその場から距離を取る。

炎圧の元は白蘭だったが、どこか様子がおかしかった。

 

「ぁぁ……っ…あ"あ"ぁ"ぁぁぁああああ!」

 

悲痛な叫びだった。

顔を両手で覆い、ただただその体から凄まじい炎の量が溢れ出していく。

彼の部下の何人かが声を掛けているが、全く反応を示さないことからどうやら理性を失っているようだった。

彼の背中からどす黒い炎の羽根が生え、それは未来で起こった決戦の時のものよりも確実に黒く、禍々しく、(おびただ)しかった。

焦点の合わない目で辺り一面を覆いつくそうとする炎に危険を察知し、仲間に離れるよう命じた。

すると炎が電柱に触れた途端、電柱が灰へと変わる。

あれは危険だ、ただ感情に飲まれて暴走している。

 

「千種!引きますよ、あれは危険すぎる」

「分かりました、骸様…」

 

皆が白蘭の放つ炎圧に押し潰されそうになり、顔を歪ませている。

息苦しいのか体が思う様に動かない様子の犬や千種、フランを見て焦り出す。

そして炎が僕たちに迫り来るというところで、いきなり形を潜めた。

炎が消えた跡を目を追うと白蘭が部下に凭れかかる様に気を失っていたのだ。

どうやら炎の抑制が出来ぬまま辺りにまき散らしていたせいで、体力を根こそぎ使い果たしたようだった。

今のうちに潰しておこうかと考えていると、戦闘終了の合図が鳴り響く。

僕は槍を収めて他の者達が動けることを確認すると、アジトへ去っていった。

 

 

「ちょっと、なによ白蘭の奴、化け物じゃない!」

「死ぬかと思ったぴょん」

 

アジトへ着くと皆体力を予想以上に消耗したのか、疲労が伺えた。

かくいう僕も、今回の初戦で予想以上に疲労した。

一番の原因はエミーリオであることはいわずもがな、今になって彼を撃ちぬいた右手が小刻みに震えだす。

私が、この手で………

その日は誰も必要以上に喋ることはなく、僕も喋る余裕はなく足を引き摺りながら自室に籠った。

未だ残る心臓が冷える感覚に、唇が震える。

彼が不老不死であることは知っている…だから死んではいないと分かるが、それでも痛みはあるのだ。

口から吐き出された血と、激痛に歪む顔、そして失望した表情を思い出すたびに地に足が付かない感覚に陥る。

早く切り替えねばと思う反面、彼の安否が気になって仕方なかった。

これでは埒が明かないと思い、彼の精神世界を探して様子を見ようとした。

 

「何だ…これは……」

 

だがそこにあるのは、空白の世界だった。

かつての不安定でありながらも存在していた世界がもぬけの殻と成り果てていた。

今になって不安と焦燥が自身を襲う。

手が汗ばんでいることすらも気にする余裕もなくただ周りを見渡す。

だがかつてのここの住人はどこにもいなかった。

 

「何故………」

 

途方に暮れるだけしか出来ない自身がただただ遣る瀬無かった。

 

「エミーリオっ……」

 

クロームもエミーリオも失ってしまうかもしれないという事実がただひたすら怖かった。

 

 

 

 

沢田綱吉side

 

代理戦争初戦が終わり、リボーンの元で作戦会議が行われた。

俺は父さんにやられたことが思いの外ショックで、全然集中出来なかったけど。

雲雀さんがまさか風チームにつくとは思ってなくて驚きだったけど、もうこのメンバーでのし上がっていかなきゃならないと腹をくくった。

父さんに負けて俺が気を失ってる間にリボーンがボスウォッチを守る為にコロネロチームと同盟を組んでたらしい。

その日は家に帰る気にはなれなくて、山本の家に泊めてもらった。

次の日に学校帰りユニのところへ向かう。

リボーンがユニと連絡をしてたらしく、あっちはあっちで大分危ないらしいって教えられて俺は驚いた。

あの白蘭がいるにも関わらず危ない…それほどヴェルデチームが危険だということが分かった。

そしてユニのいる別荘へ顔を出すと、そこに白蘭の姿はなく首を傾げる。

 

「ユニ、白蘭は?」

「………それなんですが…」

 

ユニから事のあらましを聞いていて、俺は開いた口が塞がらなかった。

 

「エ、エミーリオさん巻き込んじゃったの!?」

「はい、それで傷付いたエミーリオに動揺してしまった白蘭が暴走を起こしてしまって…今、漸く落ち着いて休んでいます」

「暴走って……」

「直ぐに体力が尽きて気を失われたが、あのままいけば町一つが灰と化すところでしたよ」

「びゃ、白蘭は大丈夫なの!?」

「傷もありませんし体力も直ぐに戻るでしょうが、精神的ダメージが大きすぎて現状何とも言えませんね」

「エミーリオさんはどうなったの!?」

「その者の居場所を特定して安否を確認しようとしたが、現在行方不明で安否も分かりません」

「そ、そんな……」

 

ユニと桔梗の言葉にこの場にいる者が沈黙する。

流石の山本もこれはショックだったのか顔色が悪い。

ここでエミーリオさんが不老不死だったのを思い出した。

でもあれはエミーリオさんとの秘密だから皆に教えるわけにもいかなくて、もどかしかった。

 

「で、でも何となく生きてる気がするんだ」

「俺もそう思うぜ」

「リボーンおじ様…」

「おめーらも、あいつが直ぐにくたばるような男だとは思ってねーだろ…なんせあいつは強ぇーからな」

 

リボーンの言葉で皆が安心したように頷く。

 

「それよりも白蘭をどうにか持ち直さないと…どうしよう…」

「…おいツナ、お前が白蘭を元気づけてやれ」

「え?」

 

どうやって、という前にリボーンに引きずられて白蘭が籠ってる部屋に無理やり投げ飛ばされた。

 

「時間がねぇ、白蘭にはあれのことを話せ」

 

小さくそう呟くと部屋の扉を閉められた。

俺は唖然として、扉を見つめていると、後ろから何かが動く音がして振り返る。

 

「誰…」

「お、俺だよ…白蘭……えっと、大丈夫?」

「綱吉君か…これが大丈夫に見えるかい?」

「ご、ごめん…」

 

未来で戦った時に、白蘭にとってエミーリオさんがどれだけ大切なのかは既に知っていたから余程ショックだったんだろうなって予想はしてたけど、目の前にいる白蘭は布団に包まり今にも死にそうな顔をしてて見てるこっちも辛くなった。

このままじゃ絶対に今日の二戦目は無理だと分かって、リボーンに言われたようにエミーリオさんの秘密を教えようと思った。

 

「白蘭…落ち着いて聞いて欲しい」

「…なに…」

「エミーリオさんのことについてなんだけど……絶対に誰にも教えないって約束してくれないか?」

「エミーリオの…?」

 

白蘭のか細い声にまるで親を失った子供を見ているようだった。

 

「俺が知ったのは本当に最近なんだけど――――…」

 

それからエミーリオさんの不老不死の体質を白蘭に喋っていると、白蘭は静かに無表情で俺の話を聞いていて、なんだかとても怖かった。

話し終えると、白蘭は布団に顔を押し付けて声を出さずに泣き始めた。

涙は見えなかったけど、泣いてるって…そう思った。

 

「多分エミーリオさん…驚いて隠れてるだけだと思うんだ…だから時間が経てば絶対に会えるよ」

 

確証のない精一杯の言葉だった。

でも俺の直感が、絶対に近いうちにエミーリオさんと会えるって訴えているんだ。

だから、元気を出してほしかった。

 

「今は君の言葉を信じるよ…」

「本当!?良かったっ…」

「綱吉君は嘘が下手だからね…それにユニちゃんや皆に心配掛けすぎちゃったから…」

「お、俺そんな嘘つくの下手なのかな…はは…それより皆リビングの方にいるから元気出たら顔出してよ」

「そうするよ」

 

漸く明るい声が聞けて、心底ほっとしたんだ。

白蘭の部屋を出て、皆のいるリビングに戻ると獄寺君や山本が声を掛けてきた。

 

「お、ツナ!白蘭大丈夫だったか?」

「じゅ、十代目!ご無事でしたか!」

「う、うん…一応持ち直したっぽいから、数時間後には顔出すと思う」

「ありがとうございます沢田さん…」

「お礼言われるほどのことしてないよ!それに…俺も白蘭があんなショック受けてるの見てると辛かったし…」

 

1時間後に漸く白蘭がいつものように笑みを浮かべて顔を出した。

それからヴェルデチームへの対策案を練り始めた。

幻術を本物にしてしまう装置があるって聞いて苦戦しそうだなって思ったけど、こっちも白蘭が正一君を呼んできてくれた。

夜になると、戦闘時間開始前の合図が鳴った。

二戦目は30分だった。

奇襲をかけてきたヴェルデチームの骸たちとぶつかる。

桔梗から聞いた話だと、エミーリオさん撃ったのって骸なんだよな…

白蘭が骸を殺す勢いで攻撃仕掛けていってるのって確実にそれのせいだよね。

数分ほどするといきなり予想だにしてなかった方向から攻撃があって、白蘭や骸たちが負傷した。

一体誰だと思っていると、攻撃源はコロネロチームだった。

俺は父さんに攻撃を止めるように言ったが、聞き入れてもらえなくて同盟を破棄して、父さんと応戦する。

最初は一方的に押されていると、途中で知らない人に助けられた。

その後にまた父さんと戦ったけど時間が来てお互い退くことになった。

直ぐに別荘に戻ると、先ほど俺を庇ってくれた白蘭の腕から夥しい血が流れていて、ボスウォッチも壊されていた。

ユニチームが脱落してしまったことにショックを隠せなかった。

だけどそれだけじゃ終わらなかった。

クロームの体調不良に加えて、復讐者の参入と奇襲が同時にきて、色んなチームが大ダメージを喰らった。

既にチーム戦なんて言ってる場合じゃなくなってて、これからどうなるんだろうって不安だらけだった。

3日目になった直後の00:00に戦闘開始一分前の合図が鳴り響いた。

 

「そんな!!もう戦闘開始!?」

「たしかに理屈としては日が変わったけど、夜中の12時ってなあ…」

「チェッカーフェイスのクソオヤジ!休ませねえつもりかよ!」

 

そう不満を言いつつも、直ぐに外にでて広い場所に向かう。

そこで骸と鉢合わせして、交戦になるかと思ったら新勢力である復讐者も現れて、骸と共闘することになった。

復讐者は一体だけでも強くてそれが三体となると勝敗が全く分からなくなってしまった。

何よりも復讐者の首に掛けられている石化したようなおしゃぶりが気になった。

そこにクロームが現れて、突き放すような骸の言葉も全てクロームの為だったのだと知った。

クロームは骸の為に戦うという意思を宿し、自分の内臓を自力で補い戦力として前線に立ちあがったお陰でなんとか復讐者にダメージを喰らわせることが出来た。

復讐者を倒すと、ボスウォッチを持ってる復讐者と透明のおしゃぶりを持つアルコバレーノ、バミューダがリボーンを勧誘し出した。

それを断ったリボーンがバミューダの謎の力で黒い空間に吸い込まれて行き、俺もそれを追って一緒に吸い込まれていった。

そこで知ってしまった事実にショックを隠せなかった。

今回の代理戦争は、アルコバレーノの呪いを解く為じゃなくて、次期アルコバレーノを決める為だったなんて…

しかも、おしゃぶりを外されればリボーンは死ぬ。

そして復讐者はおしゃぶりを外されても死から逃れたアルコバレーノの末路。

色んなことが一気に溢れ出して何を言っていいか分からなかったけれど、それでもバミューダに優勝させるわけにはいかないと思った。

別の方法を探さなきゃって思ったんだ。

だから共闘の話を蹴ってイェーガーという復讐者と対峙したが、相手が強すぎて手も足も出なかった。

負けると思っていると、バミューダが考える猶予を与えて、次の戦闘時にもう一度聞くと言って退いていった。

 

「僕の誘いを受けようが断ろうが どちらにせよ君の行く末は地獄だ」

 

その言葉が頭から離れることはなかった。

思考回路がめちゃくちゃになっていた時に、リボーンの言葉で一度家に帰ると怪我を負った父さんがいて無性に不安になった。

このままだと本当にバミューダに負けちゃう…

そんな時に、ランボの言葉でアルコバレーノの呪いが解けるかもしれないと思った。

だから直ぐに九代目に電話をして、何とか解決出来そうなタルボとかいうお爺さんに協力してもらおうと思っていたら日本にいることが分かってすぐさま会いに行くことにした。

 

「バミューダか…奴もしぶといのう」

「知ってるんですか!?」

「ふぉっほっほっ、わしも伊達にⅠ世の時代から彫金師をしとらんぞ」

 

俺は自分の考えをタルボのおじいさんに教えると、おじいさんは考え込み何とか作ってみようと言ってくれた。

 

「バミューダチームに勝ってみせい、お前にしか出来ぬ事じゃ」

「はい!」

 

俺は家に帰る途中リボーンと会って、話をした。

リボーンは諦めてるような口調だったけど、そんなもの許すもんか。

絶対に俺が助けてやる。

 

「オレ…お前を絶対に死なせないから」

 

俺の決死の言葉を前に寝てるコイツに脱力して、その場を離れた。

そして昨夜バミューダ除く全てのチームに同盟を提案していて、今日これからその説明がある。

家に帰ろうとした直前に思い返した。

 

「エミーリオさん…」

 

あの人は今どこにいるんだろう。

探したいのは山々だけど、今はそんなことしてる余裕ないし…

そういえばエミーリオさん関係で白蘭と骸の仲がすこぶる悪いんだった。

これ同盟どころじゃないよ、あいつら絶対に顔合わせた時点で殺し合いしそうだもん。

俺はどうやって二人に納得してもらおうか悩みながら、帰り道の曲がり角を曲がっていると視界の端にあった悩みの種である人物の経営している店が入った。

しかも扉にはオープンの看板が掛けられていて、自分の目を疑った。

二、三度目を擦ってもオープンの文字はそのままで、俺は慌てて店の扉を開こうとしたと同時に勢いよく扉が内側から開き、顔面に直撃した。

 

「あれ?綱吉君…大丈夫?」

「いったぁ……じゃない!エミーリオさん!?無事だったんですか!?」

「ん?無事って?」

「あの、この前拳銃で撃たれたって聞いて…皆探したけどいなかったんで心配してたんですよ!」

「え、何で知ってんのソレ…ていうか君俺が不老不死なの知ってるでしょ」

「知ってますけど!心配するじゃないですか!」

「ああ、まあこの通り平気だよ」

「ならよかった!今から白蘭に会ってもらっていいですか!?すごく心配してたんですよ!」

「白蘭に?いいけど、みせ――――」

 

エミーリオさんの次の言葉を聞かずに、俺は自分の家までエミーリオさんを引っ張っていった。

これで多分白蘭は何とかなるかもしれない!

そこには既に何人か集まっていて、リビングに行けば白蘭と骸が武器を片手に睨み合っていた。

 

「む、骸!白蘭!ここで戦うのはやめてくれよ!」

「黙っててくれないかい、綱吉君…僕今彼を殺さないと怒りが収まらないんだ」

「エ、エミーリオさんの前だよ!」

 

俺の言葉に剣呑としていた両者の雰囲気が紛散する。

白蘭はいわずもがな、骸もザンザスも…ていうかほぼ全員が目を見開いてエミーリオさんに視線を向けていた。

 

「エミー…リオ?」

「おう、なんだか心配かけて悪いな…もう怪我治ったから気にすんな」

 

異様な雰囲気の中、本当にいつも通りのエミーリオさんに俺は乾いた笑みしか浮かべられなかった。

エミーリオさんの前で骸が居心地悪そうにしていたのが少し意外だったけど、もう時間も押してるし強引に話し合いを始めた。

代理戦争の詳細を知らないエミーリオさんからすれば迷惑だっただろうけど、あの人いなかったらここは戦場と化していそうなので、ずっといてもらった。

少し一悶着あったけれどなんとか明日の最終戦に向けての配置やメンバーが決まると、その場は解散になった。

解散になったと同時に、白蘭がエミーリオさんを質問攻めしている声を聞きながらこの場を離れる人たちを見送る。

ただ骸までエミーリオさんのこと気に掛けてたのは驚きだったけど。

本当にエミーリオさんってどこまでも顔広いし、皆からの好感度高いなぁ。

その後リボーンと再び話し合い、今回の代理戦争を破棄すると言い出したリボーンに怒った。

仲間の為に死ぬ気になれない奴は10代目失格だ!絶対にお前を助けてやる!

俺の意思を言い洩らさぬように全てリボーンへ叫んだ。

リボーンはゆっくりと口を開いた。

 

「いつ死んでも悔いはねえつもりだったが…もうちっとお前の成長を見てえって欲がでてきちまった。だから生かしてくれ、ツナ」

 

泣きそうになるのを歯を食いしばって耐えて、リボーンを見つめた。

 

「もっと…生きてぇ」

 

 

この時俺は絶対にバミューダに勝つと誓った。

 

 

 

 

 

バミューダside

 

 

「すまない、バミューダ……あの男があの場にいるとは思わなかった」

 

それはあまりに急で、あまりに残酷だった。

 

 

代理戦争二日目に、僕はスカルチームからウォッチを奪い取って参入すると同時にウォッチを付けていない者達に他のチームへの奇襲を命じた。

だが帰って来たうちの一人が沈痛な声でそう言った。

 

「沢田家光の元にバミューダの友人がいた、誤って攻撃をした………罰は覚悟している…」

 

視界が暗くなりそうだった。

光が、僕の光が……崩れ去った音がした。

いくらエミーリオでも復讐者(ヴィンディチェ)の攻撃を喰らって無事であるはずがない、最悪死んでいるかもしれない。

僕は他の者の言葉に聞く耳を持たずに、直ぐにエミーリオの店に向かった。

店は閉まっていて、中には誰もいなかった。

そして携帯は彼の寝室のサイドテーブルの上にポツンと置かれていて、ゴミ箱の中には大量の血が付いた服が入っていた。

漠然とした恐怖がこの身を支配する。

僕はエミーリオが行きそうな場所や、よくいる場所を手あたり次第探したがエミーリオを見つけることは出来なかった。

 

「エミーリオ………す、まない………こんな…こんなことになるなんて……」

 

誰もいない彼の店の中でポツンと呟いた震えた声は誰にも聞かれずに消えた。

 

まだ日付の変わらぬ時刻に

 

エミーリオは僕の前から消えてしまった

 

 

復讐者の元に戻って来た僕を皆が一様に様子を伺っていた。

中でもエミーリオを傷つけた者は頭を垂れて今にも殺してくれと言っているようで、僕はその場に居る者に告げた。

 

「復讐を………チェッカーフェイスへの復讐を……僕たちの復讐を果たそう……」

 

そうだ、復讐に友情など要らないではないか。

友情もあの笑顔もあの暖かさも、全て失った今なら分かる。

僕の居場所は、ほの暗い復讐の炎に照らされたこの冷たい場所だけなのだと。

分かっていたじゃないかじゃないか。

だから、この引き裂かれたような胸の痛みに封をして、もう二度と光の当たらぬ所に仕舞うべきなのだ。

 

体を焦がすは復讐の炎であり、心は全て復讐の怨嗟へと。

 

分かっていたじゃないか。

 

僕は死人だと。

 

分かっていたじゃないか。

 

 

 

僕は復讐者(ヴィンディチェ)だと――――――

 

 

 

 

代理戦争三日目に沢田綱吉を襲うが、リボーン君の言葉に鼓舞された彼らは復讐者たちに勝利を収めた。

リボーン君には以前から興味があり、この機に勧誘するも断られ、アルコバレーノの真実を教えるためにワープホールに吸い込んだ。

一緒に付いてきてしまった沢田綱吉は計算外だったが、こちらにはイェーガー君がいるのであまり気にしてはいなかった。

そしてリボーン君にアルコバレーノの呪いの真実を、代理戦争の本当の意味を、復讐者の正体を、全てを余すことなく語った。

だから共にチェッカーフェイスに復讐してやろうと共闘を持ちかけたが沢田綱吉が批判し、リボーン君もそれに賛同し出した。

それからイェーガー君と沢田綱吉が対峙するがイェーガー君が圧倒的過ぎてこのままでは沢田綱吉が死んでしまいリボーン君が手に入らなくなると危惧し、イェーガー君を一旦退かせる。

そして今度の代理戦争時までもう一度考える猶予を与えて僕たちは彼らの前から姿を消した。

代理戦争四日目、この日が恐らく最終決戦となるだろうことは誰もが気付いていた。

午後3時直前になると試合開始1分前の合図が鳴り、僕たちは彼らの出す炎を辿ってバラバラにワープする。

ワープした先には人形の囮がいて、僕たちは一つずつ潰していると、僕たちの前にあちらの精鋭が現れた。

ザンザス、ディーノ、骸、白蘭、スクアーロと彼らの中では凄腕を集めたようだけど、イェーガー君の前では雑魚同然だ。

そこからイェーガー君の蹂躙が始まった。

腕を切り落とし、心臓を貫き、足を切り裂き、命を次々と葬っていく蹂躙劇を僕はただ眺めていた。

これはチェッカーフェイスへの嫌がらせにもなっている。

折角の次期アルコバレーノ候補が全員死ねば、あいつの二度手間になるに違いないと。

包帯の内側で密かに笑みを作る。

だが、沢田綱吉と雲雀恭弥、六道骸の共闘でイェーガー君が敗北する。

ボスウォッチを壊されておらず、まだ彼は若干息をしていて、これ以上ダメージを与えないようにと僕はプレゼントを使い、本当の姿に戻った。

3分しかないからな、早くこいつら全員殺さなければ。

僕は本気で沢田綱吉を殺しにかかった。

沢田綱吉が第8属性の炎を宿した時は彼の成長に驚かされたが、それよりもイラつきが勝りこの手で葬り去ろうと最終奥義で沢田綱吉を殺そうとした。

 

「夜の炎のワープホールを連続で通過し推進力を無限に加算することによって光速となる‼終わりだ、沢田綱吉‼」

 

光速の拳を奴の顔面に叩きこもうとした刹那

 

互いの間に何かが割り込んできて、僕の拳が受け止められた。

 

「なっ!?」

 

加速し続け、蓄積されたエネルギーが行き場を失い辺り一帯に紛散し、暴風が荒れ狂う。

そして温かい何かが僕の拳を包み込んだような感覚が伝う。

 

この温かさを僕は知っている。

僕が捨てたはずの、切り捨てたはずの、失ったはずの…大切な、大切な―――――…

 

 

「バミューダ…」

 

 

友の体温だ。

 

 

「……エミー…リオ………」

 

エミーリオは沢田綱吉を一旦引かせて、僕と向き合った。

 

「あー……っと…今回の代理戦争だっけ……の内容は知ってる…バミューダがずっと復讐を望んでたことだって知ってる……」

「えっと…いきなり邪魔してごめん……だけどさ、俺…お前にも綱吉君にも…誰にも傷付いて欲しくないしさ……」

「他の方法はないのか?……いや違う、俺の言いたいことはそうじゃなくて……」

 

僕はただ彼の言葉を待っていた。

何も言わず、ただ待っていた。

 

 

「何度だって謝る……いくらでも謝るから…………諦めて、ほしい…」

 

 

やり場のないこの感情をエミーリオの心臓へ向けてぶつけた。

 

その言葉だった。

僕が求めてやまなかったのはその言葉だった。

涙で視界がボヤケていく。

 

 

一緒に生きて欲しいと

 

独りは嫌なのだと

 

置いて逝かないでくれと

 

 

誰の言葉でもなく、君の言葉が聞きたかったのだ

 

縋って欲しかった

我慢せずに怒鳴って欲しかった

泣いて欲しかった

 

不安だったのだ

親友だと思っているのは僕だけではないのかと

僕の勝手な思い込みではないのかと

ただ上辺だけの友情を百年余りも続けているのではないかと

 

だから聞きたかったのだ

 

君の本心を

 

心からの願いを

 

 

「ごめん……バミューダ……ごめんな…」

 

 

気付けば涙が零れ出す。

 

「愚か者め……どうしてもっと早く言わなかったのだ」

 

喉から出た言葉は震えていて、僕はゆっくりと顔を上げてエミーリオを見据える。

 

 

 

 

「君が望むのなら復讐などとうの昔にやめていたというのに……」

 

 

 

僕は泣いていたし、エミーリオも泣いていた。

ああ、どうして僕たちはここまで黙っていたんだろう…

君の一言さえあれば、僕の一言さえあれば…違う未来があったハズだ。

 

 

 

(おもむろ)に左腕に嵌めていた時計を破壊する。

 

 

 

額をエミーリオの心臓にあてて、友の拍動を聞きながら僕は目を閉じた。

 

 

 

そして復讐者(ヴィンディチェ)は消えた。

 

 

 




友情():泣けるね。
エミーリオ:取り合えずバミューダに殴られた心臓が痛いらしい。内心バミューダの顔が予想以上に怖くてビビってた。
バミューダ:擦れ違ってます。多分一生気付かない方が彼の幸せである。呪いは諦めてくれ→死なないでくれ。と解釈している為に起こった大事故。
白蘭:エミーリオの不老不死を知って少し優越感に浸ってたけど、直ぐにチェッカーフェイスによってバラされた。許さんチェッカーフェイス。エミーリオがいないと骸絶対殺すマンになってた。
イェーガー:多分今話の被害者。復讐の為に頑張ってたらバミューダがアッサリと復讐諦めたせいで行き場のない感情に襲われる。彼を救えるものはいるのだろうか。


分かりずらそうなので時間軸+α解説↓

バミューダがエミーリオの店に安否確認の為に不法侵入していた
→エミーリオは沢田家を出ていたとこ

ゴミ箱に捨てられた血の付いた服
→一日目に骸に撃たれてシミになってしまったので捨てた服

バミューダがエミーリオの行きそうな場所を探していた
→エミーリオは厄介事に巻き込まれないようにいつも通らない道を通って、遠回りで帰宅

バミューダがエミーリオを見つけられなくて友情を切り捨てる時
→エミーリオ帰宅

わぉ、すっごい擦れ違ってる(笑)



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