Emilio   作:つな*

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エミーリオは思われる。

復讐の夜に

白羽の大空に

大空の乃父に


Emilioへの友誼

バミューダside

 

腐敗していく体中が激痛と熱さに襲われ頭が狂いそうになる中、僕はただひたすら生にしがみつく様に手を伸ばした。

そしてゆらりと手の平に炎が灯り、瞬く間に自身を包み込むと先ほどまで瀕死の状態であった自身の体が徐々に形を取り戻す。

腐敗によって爛れた皮膚も、腐りきっていた骨も、飛び出た眼球さえもが細胞を再構築していき復元する。

そして動けるようになる頃には、背丈は縮み、筋力が低下し、赤ん坊の姿となっていた。

それはまさしく先ほど、死へのカウントダウンが始まる前の己の呪われた姿であった。

だが己が手に宿すは深淵を覗き見るような暗く黒い炎であり、この腹の中で煮えたぎるほどの憎悪を表すかのようにそれは揺らぐ。

 

「……てやる……殺してやる……チェッカーフェイスをっ、殺してやる!」

 

第八の人柱として、復讐者(ヴェンディチェ)として、復讐の怨嗟をここに。

 

 

 

 

ふと視界に映る天井を見て、意識が明瞭になる。

やけに昔の、…久しぶりにあれ(原点)を見たと思った。

簡易なベッドから起き上がると、サイドテーブルの上に置いている携帯が点滅していて、首を傾げる。

僕の携帯番号を知っているのは片手で数えられる程であり、ここ最近はこの携帯に誰かから掛かるような要件はないと思っていた。

コップに入れた水を口に含むと同時に携帯の画面を覗いた。

 

『エミーリオ』

 

「ぶっ」

 

予想だにしていなかった名前に口の中に含んでいた水を盛大に吹き出してしまい、顔に巻いていた包帯が濡れて肌に張りつく感覚が伝う。

彼からの連絡は今までに一度すらなく、僕からの現状報告でしかこの番号は見かけなかったのだ。

一先ず落ち着いて今の時刻を確認すると既に日を跨いでいた。

直ぐに折り返し掛けようとしたが、彼は今も働いているから出ないだろうことに気付き、直接赴くことにした。

夜の炎で並盛にあるエミーリオの店の前まで移動し、扉を開けた。

 

「いらっしゃい、あ、包帯君」

「久しぶり…ではないね、この前会ったばかりか」

「そうだね、何かあったのか?」

「それは僕の台詞だ、エミーリオ。今朝僕の携帯に電話しただろう…」

「あ、あれか」

 

思い出したような彼の声に、まさか間違って掛けたのかと思いながら彼の手前のカウンター席に座る。

 

「あれは俺のこう…甥っ子みたいな子っていうか…まぁ知り合いがだな、君のこと探してる様だったから連絡してみたたけだよ」

 

一瞬何を言ってるのか分からなかったが、次第に頭がそれらを飲み込む。

 

「は!?き、み…何してるんだ!?」

「え?あ、お前の番号は教えてないから大丈夫大丈夫」

 

そうではない、僕を探しているのはアルコバレーノか僕に恨みを持つマフィア達しかいない。

周囲のマフィア達から忌避されていることも自覚しているから、今のエミーリオの発言がどれほど重い事態であるかを悟る。

 

「いいかい、僕を恨んでいる奴は何人もいるんだ、君と僕が接点があるということを知られる事自体が危険なのだ!」

「ん?おう…でも俺はこう見えて護身術くらいは身に付けてるから大丈夫だぜ」

「そういう問題ではない!君に迷惑が掛かると言っているんだ!」

 

僕のせいで君が傷付くのは嫌だ。

僕のせいで君に迷惑がかかるのは嫌だ。

僕のせいで君まで嫌われるのは嫌だ。

 

君に嫌われるのが怖いのだ。

 

「大丈夫、俺は大丈夫だから。な?そんなことお前が一番知ってんだろ?」

 

ああ、知ってるとも。

君が死ぬほどお人好しで、優しくて、絶対に僕を見捨てないことくらい、知っているとも。

泣いたって喚いたって罵ったって傷付けたって、君は困った顔で笑うことくらい知っているとも。

 

君が傷付くのは嫌だ。

君に嫌われるのは嫌だ。

でも君が耐えながら笑うことの方がもっと嫌だ。

 

彼に被害が行かぬよう今ここで縁を切るのが賢明なのだと分かっているのに

 

「それに、あの子には口止めしとくから、そう怒んなって…」

 

それでも、この縁を切れないのは僕の弱さだ。

ああ、僕にとってエミーリオは弱さだ。

弱さだなんて…そんなもの復讐には不必要じゃないか。

捨てる、べきなのだと…分かっているのだ。

 

「もう…これ以降誰にも口外はしないでくれ…」

「分かった、約束する」

 

けれど心が選んだのは弱さだった。

 

 

重ね重ねで、注意を施すと酒を頼み出す。

意識を切り替えてチェッカーフェイスのことを考え出す。

数十年に1度しか現れない奴が人柱であるアルコバレーノの代替で近いうちにここ並盛で現れるだろう。

代理戦争だなんて、次期人柱を選ぶにはもってこいのゲームではないか。

今回のアルコバレーノには、大変興味深い人物がいるし、チェッカーフェイスの首を取れなくともそいつが仲間に加わればと思いながら、今後のことを思案する。

はやく、早く奴を引きずり出してその喉仏を引き裂いてやりたい。

 

「何だか嬉しそうだな」

「…宿望の機会がやっと訪れたのだ」

「そりゃよかったな」

「まぁね」

 

奴が現れる機会が漸く訪れた。

自身の中に巣食う禍々しい黒い感情に高揚感すら覚える。

アルコールが理性を奪い段々と思考が緩くなり、いつものように目の前にいるエミーリオに言葉を漏らす。

 

「ああ、はやく………元の姿に……あの男を……殺して…もがき苦しませて……」

 

呂律が回っていない自覚がありながらも、それは口から零れだす。

そしてふと思った。

 

自分が元の体に戻ったらその後のエミーリオはどうなるのだろう、と。

 

呪いが解ければ、この不老体質は消え同じように歳を取るだろう。

だが、エミーリオは?

彼はずっと同じだ。

僕が年老いて、死んでいったとしてもエミーリオはずっとそのままあり続ける。

僕だってこの呪いを受けて、周りが死んでいく中僕だけが取り残されたことがあった。

その名状し難い虚無を失望を絶望を孤独を、今でも覚えている。

置いて逝かれることの辛さを僕は十二分に味わった。

呪いが解ければ、今度は僕が彼を置いて逝くことになるのだ。

初めて僕はこの純粋なまでの復讐心に霞が掛かった。

ああ、ダメだ、曇らせてはだめだ。

僕の存在意義を曇らせてはだめだ。

迷うな、僕は復讐者だ。

 

❝大丈夫、俺は大丈夫だから。な?そんなことお前が一番知ってんだろ?❞

 

ああ、笑い話にもなりやしない…

彼の言葉を免罪符に僕は彼を傷付けるのだ

 

一気に酔いが冷め、これ以上ここに居ればいるほど居た堪れなくなり帰ると言って店を出た。

出る直前にエミーリオが水を持ってきて、それを飲み干して容器を返す。

 

「またなー」

「…ああ……」

 

彼の笑顔を最後に、彼は店に戻っていく。

僕はワープゲートを開き、足を入れる。

 

僕は復讐者だ。

一時の迷いで他の者達の願望を、切望を、裏切ることは出来ない。

そう、僕は復讐者だ。

だから、復讐が成され、この呪いから解放されたその時は

 

どうか、どうか僕を…恨んでくれ

 

エミーリオ、君の笑顔ほど残酷なものはないのだから

 

 

 

 

 

 

白蘭side

 

 

それは紛れもない記憶だった。

僕の未来の死に際であり、末路であり、消滅だった。

無と成り果てた僕が未だその自己を保っているのは、単にエミーリオとの言葉があったからだ。

また会えると…信じているからこそ、この孤独感に見舞われる既知の溢れる寂しい世界でその時を待っていた。

でも待ち続ける日々に不安に押し潰されそうな時、あの子が精神世界に訪れた。

 

「白蘭…ここにいたのですね」

「ユニちゃん……?」

 

未来の僕に命を狙われていた少女を見る。

 

「白蘭……あなたに頼みがあるのですが、聞いてくれないでしょうか」

 

その顔はとても未来の彼女とは結び付かないほど穏やかだった。

 

「内容次第だね」

 

そして、ユニちゃんから聞いたことはアルコバレーノの呪いのことだった。

どうやらこれから開かれるであろう呪いを解く為の代理戦争に、僕を彼女の代理人としてそのゲームに参加してほしいらしい。

ハッキリ言って正気の沙汰じゃないと思った。

 

「ユニちゃんは忘れたのかな?僕が君の魂を欲しがって追い詰めたこと…」

「ええ、それを忘れることはありません…ですが、この戦いには白蘭、あなたの力が必要なのです」

「僕の能力を買ってくれてるようで嬉しいけど、僕にメリットがないね」

「なので、お礼と言ってはなんですが…あなたの望みを叶えましょう」

「僕の望み?君がかい?」

 

何を言っているんだこの小娘は。と一蹴しようとしたがユニちゃんの放った言葉に固まった。

 

「エミーリオの居場所を」

 

 

 

ユニちゃんの言葉の衝撃が大きくて、暫く呆然としたままユニちゃんから教えてもらった住所を頭の中で繰り返していた。

直ぐに行かなきゃと思ったが、ふとユニちゃんの言葉で思い止まる。

代理戦争…

既に参加するか否かは僕の中では決まっていて、メンバーを集めなきゃと行動に移った。

並行世界の知識と未来での知識を使って、真6弔花のメンバーを集めて日本へ向かった。

皆を別荘の方に先に行かせると、僕はユニちゃんの言葉を頼りにとある店に足を進めていた。

住宅街の真ん中に佇む一軒の店の前に立ち、扉に引っ掛けられてるCLOSEの文字を見て少し考え込んだ末に、扉を数度ノックする。

どれだけ探したところで見つからなかった探し人がこの扉の先にいると思うと、息を吐きだす唇が震えた。

扉の向こうで足音がして、鍵が開けられる音と共に扉がゆっくりと開いた。

 

「はい、どちらさ……白蘭?」

 

その姿は僕の記憶のそれと何一つ変わらずにそこにあった。

それと同時に、懐かしい感情が込み上げてくる。

原点だ。

この人は僕の原点だ。

どうしてか分からないけれど、漠然と、そして茫漠たる唯一の原点だと思った。

 

「エミー……リオ…」

 

そこからは感情の枷が外れたように泣き出した。

あの頃の様に、自分の感情の抑制が出来ずただ訳の分からない朦朧たる感情の波に流されることしか出来ずにいた。

気付けば店に中に入れられて、顔に少し温かいタオルを押し当てられていた。

するとエミーリオがマシュマロを入れたココアを近寄せたら、別の感情が込み上げてきて涙が溢れ出る。

ああ、これは未来の僕の感情だ。

エミーリオが見つからなくて、ひたすら絶望して、焦って、辛くて、苦しかった僕の感情だ。

 

「白蘭、大丈夫か?」

「エ″ミーリオっ……ぼく…ずっと、ずっと…探してたのにっ…でも、エミー…リオどこにも、いなくてっ…」

「おう…」

「また会おうねって……言った、のにっ……」

「ああ…えっと……すまん。取り合えずこれ飲んで落ち着け」

 

未来の僕の感情に飲まれそうになると、エミーリオが重みのあるマグカップを僕に渡してくる。

エミーリオが持たせたマグカップの中身を確認せずに口に運ぶ。

少し熱めの液体が口内に流れ、甘い香りと味が口の中に広がる。

全部飲み干すと漸く気持ちが幾分か落ち着き、心の中に溜めてたものを吐き出した。

ゆっくりと、未来の僕の溜め込んできた感情を解く様に、そして今の僕が抱えている不安を零した。

 

エミーリオのいない世界はただ、色褪せていて、つまらなくて、気持ち悪かった。

退屈は段々と積み重なっていき、気付いた時には漠然とした不安と恐怖になってた。

一歩引いた場所から見える世界は、僕を隔離する檻の様に思えるようになってからは、ここを抜け出したくて仕方なかった。

だから新たな世界を、この檻から出られる術をとトゥリニテッセに縋った。

きっと、これを集めれば全ての並行世界を統治しうる力を手に入れ、僕は新世界の創造主になれると思っていた。

そしたらこの既知の世界を抜け出せると、本当に思ってたんだ。

だから、僕の原点に、起点に感謝した。

君だよ、エミーリオ。

エミーリオはありとあらゆる世界で唯一の存在だったんだ。

だからきっとエミーリオも僕と同じでヒトの外側に排他された存在なのだと思って、君を僕の創るであろう新世界に連れて行きたかった。

君が今まで見てきたどの幻想的な光景よりも素晴らしく神秘的な世界を見せてあげようと思ったんだ。

でも君はいなかった。

探しても、探しても、どこにもいなかった。

焦りは不安へ、不安は恐怖へ、僕は日に日に胸の内に積もるソレを嫌でも見ないようにしていた。

エミーリオが生きていることだけを信じながらただ時間と労力を費やすことしか出来なかった。

君を見つける前に、退屈で、気持ち悪くて、不安で、恐ろしいこの世界を早く壊さなきゃってただそれだけだった。

まぁそれも全部全部綱吉君に阻まれちゃったけどね。

だけど、未来の僕の行動を反省する気なんてないよ。

今思えばあれは一種の自己防衛のようなものからきた行動だって思ってるからね。

 

「それに、正直楽しかったし」

「お前な……もう人様に迷惑かけるなよ」

「エミーリオがどこにも行かないなら、大丈夫だよ」

「えー……俺ずっと日本いたぜ?」

「そういう問題じゃないよ」

 

もう一人は嫌なんだ

全てのものから線引きされて外側に排他されるのは思ってるより苦しいんだ

ねぇ、君なら分かるでしょ…エミーリオ

この世界は、やっぱり気持ち悪いって。

僕はエミーリオの瞳を覗き見るが、そこには何もなかった。

綱吉君と違って、エミーリオは分からないや…

短く息を吐きだして、意識を変える。

 

「ねぇエミーリオ…」

「ん?」

「マシュマロクッキー…作りたい」

「おお、いいぞ」

 

ここでぐちぐちエミーリオを責めてもしょうがないもんね、うん。

エミーリオと再会出来たことは純粋に嬉しかった。

その後エミーリオとお菓子を作ったりし時間を潰していて、夕方になる頃に、思い出したかのようにエミーリオが僕に聞いてきた。

 

「そういえば何で日本いるんだ?」

「ああ、それね。近々開かれるゲームの舞台が日本なんだ」

「ふーん、ゲームねぇ…ま、楽しめよ」

「うん」

 

色々喋っていると直ぐに時間は過ぎて行って、僕は別荘に帰ろうと店を出る。

 

「また、明日来るね」

「おう」

 

そう言って僕は帰り道を歩きながらエミーリオから貰ったマシュマロクッキーを頬張る。

ねぇエミーリオ……

僕はね、未来の僕がしたことを反省なんかしないし、する気はないよ。

 

だって、またエミーリオがいなくなったら、今度こそ僕はこの世界を壊そうと本気になるだろうから…ね。

 

 

鼻歌を歌いながら僕は別荘へと帰った。

翌日、ユニちゃんが日本に来ると報せがあったから、その前に綱吉君達のチームと同盟を組もうかなと思って綱吉君の家まで押しかけた。

そして同盟の勧誘を告げると、綱吉君の家を離れてエミーリオの店に向かう。

 

「やぁ、ユニちゃん」

「白蘭。その顔だと、ちゃんと会えたようですね」

「うん…君には大きな恩が出来ちゃったや」

「ふふ、やはりあなたをエミーリオに会わせてよかったです」

 

向かう途中に日本に到着したユニちゃんと合流して、エミーリオの店に行くと、彼は僕たちが一緒にいることに目を見開いていたけど直ぐに席を案内し始めた。

二人で注文した料理が来るのを待っていると、カランと入口の扉が開く。

 

「やっぱ作戦会議ときたらこの店だよな!」

「あはは、ここしか思いつかないよね」

「そうッスね、十代目」

「あれ?綱吉君達じゃないか」

「え?びゃ、白蘭!?それとユニも!」

「お久しぶりです、沢田さん」

「お、白蘭!あの時はありがとな!」

「ん?ああ、あれはマグレだよ。絶対失敗すると思ったのに偶然治っちゃった」

「ええええ⁉」

 

驚く綱吉君達は僕たちの席の隣に座り出す。

 

「それで、同盟の話…どーなったの?」

「白蘭、あなた沢田さん達に同盟を持ちかけていたのですか?」

「うん、まぁ勝率は高い方がいいでしょ」

「えええ!ユニに黙って同盟持ち掛けてきてたの!?」

「そんなことよりさ、同盟の話受けるの?受けないの?」

「う、受けるよ。リボーンもその方向で進めてたし…」

「そっか、ならよろしくね」

「え、っと…うん」

 

少しだけ同盟について話していたら、エミーリオが料理を持ってきた。

 

「はい注文の品、そっちのトリオは注文決まった?」

「えっと、まだです」

「そっか、なら決まったら呼んでくれ」

「は、はい」

「ああ、それと…君たちこの間まで敵対してたのに、仲直りでもしたの?」

「仲直りだなんて、エミーリオらしい言葉選びだね。ゲームで同盟組んでるだけさ」

「あ、そうだったんだ。白蘭、お前ちゃんとこの子達に謝ったのか?」

「んー、そのうち謝るかな」

「お前なぁ…」

 

溜め息を吐きながら厨房に戻るエミーリオを見送って僕はフォークを掴むと目の前のユニちゃんが視界に入る。

 

「何笑ってるの?ユニちゃん」

「いえ、あなたがとても嬉しそうで」

「まぁね、それ早く食べないと冷めちゃうよ」

「そうですね」

 

無意識のうちにニヤけてたかなって思って少し恥ずかしくなったけど、気にしても仕方ないからそのまま料理を食べ始める。

食べ終えると別荘の方でγ君が先に行っていると聞いてユニちゃんと一緒に帰ることにした。

多分真6弔花と揉めてそうだなぁ。

別荘に戻れば案の定、揉めていて、ユニちゃんが仲を取り持っていた。

γ君が僕の方にも突っかかってきていたけど、全く相手にしてなかったらもっと怒ってて楽しかった。

翌日、漸く代理戦争一日目となり、いつ戦闘開始になるか分からないので僕はユニちゃんから離れずに側にいた。

すると、夕方頃になると時計が鳴り出して、他のメンバーがユニちゃんの所に駆け付けた。

僕はユニちゃんの護衛をブルーベルに任せると、チームメンバーを連れて他のチームを探しに出た。

さて、相手をするメンバーが視界の端に見えそちらに向かう。

 

「クフフ、初日はあなたですか、白蘭」

「やぁ骸君」

 

『戦闘開始です。制限時間は10分です』

 

その合図と共に僕は白龍を出して骸君に攻撃を仕掛ける。

他のメンバーもそれぞれが戦いだしていたら、いきなり横から別の攻撃が入って来た。

 

「クフフ、どうやらあなた達だけではないということですか」

「消去法でコロネロチームのCEDEF達かな」

「そのようです、ね!」

「おっと」

 

骸君の槍を軽く躱すと、四方から炎を纏うブーメランと銃弾が襲ってくるがそれもなんなく避ける。

ふぅん?乱戦は趣味じゃないけどまぁ楽しそうだね。

それから戦闘が激しくなっていくと、制限時間が残り3分となった頃に、僕の攻撃が壁を吹き飛ばした。

盛大に煙が立ち籠り、それに乗じて煙の中に人影が浮かび上がる。

僕がその影に攻撃する前に、骸君が幻術で作った()()の拳銃で影に撃ち込んでいく。

意識がそちらに向かっている骸君に白龍を放つが、幻術で防がれた。

既に僕らのチームでウォッチを破壊された者が出ている。

ならば少しでもヴェルデチームから敗者を出しておきたいな、と思って炎を多めに溜めようとした時だった。

 

「大丈夫ですか⁉ターメリック!彼を運んでっ」

「分かった!」

 

一般人にでも被弾したかな?

目の前の骸君にもその会話が聞こえたのか、視線がそちらに固定されていた。

その隙に骸君を殺そうかなと足を一歩踏み出そうとした時だった。

骸君の顔が驚愕に染まり、震える唇がゆっくりと動く。

微かな声だった。

だが、その放った言葉が手に溜めていた炎を紛散するには十分だった。

視線を移した先には、既に血痕のみしかなく、直ぐに周りを見渡すと少し先にCEDEFの者が何かを抱えて撤退しているのが視界に入る。

 

「エミー……リオ……?」

 

そこには口から血を溢す僕の大切な、大切な――――――…

 

気を失い項垂れるエミーリオに、黒い何かが内側から溢れ出る感覚に襲われた。

僕が覚えてるのはここまでだった。

 

 

気付けばベッドの上だった。

 

「白蘭様、お目覚めになりましたか!」

「………桔梗…?あれ、僕何で……」

「覚えておられないのですか?六道骸との戦闘時に急にご乱心になられて――――」

 

桔梗の言葉に記憶が蘇り、僕は起き上がる。

 

「エミーリオっ!桔梗!エミーリオは!」

「は、エミーリオとは…巻き込まれた一般の者のことでしょうか?」

「そう!エミーリオはどうなったの⁉」

「申し訳ありません、あの者はCEDEFの者達に連れていかれてしまったので…」

「な、ら……生存確認でも今すぐにっ……」

「分かりました、私が確かめてくるので白蘭様は落ち着かれるまでお休みになられて下さい」

「僕も行く……今すぐにでも…僕の目で確かめたい」

「お待ちください白蘭様。冷静さを見失われている白蘭様では時間外戦闘に発展しユニ様の敗退になりかねません…私が直ぐにでも確認しに参りますので、どうか…どうかお待ちになっていて下さい」

「…………ぁ……で、も…」

「私はこれから確認に行きますので、報告をお待ちください」

 

桔梗はそれだけ言うと、急ぎ足で部屋を出て行った。

誰もいない部屋には静寂だけが存在し、僕は言い知れぬ不安が胸の中に残る。

 

 

 

「あ……ぁぁ……っ」

 

エミーリオ…エミーリオ………

 

「あ"あ"ぁぁぁぁああああああああっ」

 

 

恐怖に震えて叫んだ声を、救える者など誰もいなかった。

 

 

 

 

 

沢田家光side

 

コロネロからアルコバレーノの呪いを解く為の代理戦争を頼まれて快くそれに承諾した。

それから精鋭メンバーを集めた俺は日本へ飛び、久方ぶりのわが家へと帰った。

奈々は俺を見ると嬉しそうに迎え入れるが、息子のツナは驚愕と困惑ばかりで迎え入れるような感情を抱いていなかった。

それはツナの多感な時期に俺が家を空けていた時期が長すぎたこともあるが、俺がボンゴレ門外顧問機関のボスとしてマフィアに属していることも関係しているのだろう。

どうしたものかと頭を掻きながら、奈々にはバジルとコロネロを家に泊めると言い伝える。

その後家に白蘭が訪れた。

 

「白蘭!?」

 

数日前にボンゴレの監視を抜けて逃げ出した白蘭をオレガノが拘束しようと試みるが、俺が手を上げてソレを止め、そのままツナと奴の会話を続けさせる。

 

「白蘭、お前何でここにいるんだよ⁉」

「ユニちゃんの代理だよ、ちょっと恩があってね」

「ユニは生きてるの⁉」

「まぁね、さっき日本に着いたって言ってたからこれから落ち合う予定だよ」

「よ、良かった…」

 

その後、同盟を組もうと誘って来た白蘭にツナは動揺するも直ぐに冷静に対応していた。

ふむ、直ぐに動揺を抑えるとは…成長したな、ツナ

そして夜になり、子供達が寝静まった頃に、コロネロが作戦会議をしたいと言い出し、バジルを起こすのは忍びなかったのでそのまま寝かせて、他の精鋭メンバーを集めた。

ただ寝静まった家のでやるのも申し訳なく、近場で探そうとしたら、コロネロが気になる店があるとそちらに向かうことになった。

そこはかつて俺がツナと奈々を連れて入った店だった。

コロネロ曰くどうやらここの店長はあの嵐のアルコバレーノ、風の師匠だという人物が経営しているらしい。

中へ入ると若い男性が出てきて、丁度空いたらしい席へ案内された。

 

「あいつが風の師匠っていうエミーリオだな、コラ」

「あの男性がか?随分と若く見えるが…」

「いや、風の話だとあれで40は超えてるぞ」

「そんなまさか」

 

えらく若作りな男であると思うと同時に、どこかで見たような既視感を覚えるも、それが何なのか分からず頭の隅に追いやった。

そして、ちょっとばかしの酒を頼むと、先ほどの店主が注文した酒を持ってきていてコロネロが声を掛けた。

 

「おい、おっさん。あんたエミーリオって名前か、コラ!」

「ん?あ、はい」

「風から聞いてるぜ、お前風の師匠だってのは本当か、コラ」

「え」

 

コロネロの言葉に目を見開くその男性は、頬を掻きながら苦笑いをした。

 

「風の過大評価じゃないかな…俺は基礎を教えただけだ」

「ふん、どうだかな」

「君から見て風は強いかい?」

「当たり前だ、中国で最強の武道家の名は伊達じゃないからな、コラ」

「そっか、それなら余程大成したんだろうね…あ、伝票はここに置いておきますね」

 

それだけ言うと男は厨房の方へ戻っていった。

 

「風があいつに代理を頼んだ可能性もあったが、あいつの両手首には時計はなかった…少し警戒しすぎたか、コラ」

「だが相手も警戒されていることは気付いているようには見えなかった、本当にあの風の師なのか?」

「風からも確認は取れてる…だが、未来での態度を考えてみれば一般人の域を超えない程度だとは思っていた……そこまで警戒する必要はねぇな」

「同感だ」

 

コロネロとラルの会話を聞きながら、エミーリオという男を横目で眺める。

一般人…にしちゃ少しマフィアに関わり過ぎな節があるが、今回の代理戦争とは無関係であることは分かったな。

漸く思考を戻し、作戦会議を始める。

 

「明日、代理戦争一日目だが、俺とコロネロはツナの方を当たる」

「ならば私達はヴェルデ、そしてユニチームを…」

「ユニチームは白蘭がいる限り、チームの戦力を分散させるのは逆効果だ」

「であれば―――――…」

 

気付けば一時間ほど経っていて、これ以上は明日に障ると思い、作戦会議はここまでにして、解散する。

翌日、代理戦争一日目となり、俺とコロネロは並盛中の近場で過ごしていた。

常に部下とは通信機で位置を把握し合いながら過ごしていると、放課後になった頃に時計が鳴り出した。

 

『バトル開始一分前です』

 

すぐさま通信機越しに向こう側の部下たちが慌ただしくなり、俺もコロネロとアイコンタクトして並盛中学校へ向かった。

 

『バトル開始です 制限時間は10分』

 

そして俺はツナと対峙した。

強くなったハズの息子は父親である俺に手を上げることに動揺していて、本来の力を出せずにいた。

そんな息子に一発お見舞いして、意識を刈った上で通信機を耳元に当てる。

 

「ツナは抑えた、他はどうなっている?」

『交戦中です、相手はユニチーム、ヴェルデチーム…ですが、両チーム敵対関係のようです』

「三つ巴か、直ぐに向かおう」

『はい…っ!ターメリック!後ろ!』

「どうした」

『――――――っ、―――――!』

 

通信機にノイズが走り、不審に思ってコロネロを呼び、部下の所へ向かう。

すると通信が回復し、俺は耳に手を伸ばす。

 

「オレガノ、状況は」

『一般人を巻き込んでしまいました、現在その者を連れて撤退しています』

「分かった」

「あっちはどうなってやがる、コラ」

「一般人を巻き込んじまったらしい、治療班は既に呼んでいるから大丈夫だとは思うが」

「こんな街中でどんぱちやれば誰かしら巻き込んじまうな…くそ、やりにくいぜ」

 

内心、賛同しながら余め撤退場所として指定した場所へ行くと、既に部下たちが数名いたが肝心の一般人の姿が見えなかった。

 

「お前たち大丈夫か」

「「親方様!」」

「おい、巻き込んだ一般人は………」

「そ、それが我々が目を離している隙にどこかに逃走してしまって…」

「あー…そりゃ探さねぇとな。どんな容姿をしてたんだ?それとそいつの怪我の状態は…」

「一般人は昨夜作戦会議をしていた店の店主です。それと、怪我の状態は……」

 

オレガノの表情が段々と苦々しいものへと変わる。

 

「ちらりと一瞬でしたが、腹部に銃弾が…相当深いそうでした。歩けるレベルではないハズなのは間違いないのですが本人は痛がっているようには見えなかったので、痛覚の麻痺を起こしているかもしれません…どちらにしろ、あの出血量では命に関わるかと」

「分かった、早急に見つけ出さなきゃな……」

 

あの男は、一般人というにはマフィアに関わり過ぎな部分はあれど、今回の騒動は完全にとばっちりだ。

巻き込んで死なせる事態は避けたい。

怪我人を部下に任せたまま、俺はその場を立ち去り、コロネロと共にエミーリオを捜索し始めた。

一度あの男の店に行くが、鍵が閉まっていて中に侵入したが、人の気配はなく無人だった。

 

「ここに戻ってきていないとなると、あの男どこに行きやがったんだ、コラ」

「まずいな、このままだと本当に野垂れ死にさせちまう…」

 

俺達はそのまま、日が暮れるまで並盛中を探したが男の行先はおろか痕跡すら見つけることが出来なかった。

 

 

 

 




白蘭:SAN値ピンチ、だが安心しろ。まだ追い打ちをかける予定である。
骸:SAN値ピンチ、拳銃トラウマ待ったなし
バミューダ:SAN値がゴリゴリ削られていく人、復讐と友情の板挟みである。泣いていい
エミーリオ:(調味料を失ったあまりショックで気を失ったように)項垂れた男
やったね!多方面のSAN値を削れたぜ!(笑顔)


活動報告でも言いますが、ちょっと二週間ほど忙しくなるかもしれないので、次話の投稿は結構遅くなります。
なるほど、これが放置プレイ……?

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