Emilio   作:つな*

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エミーリオは思われる、

貝の大空に

虹の大空に

海の大空に



Emilioへの愛惜

沢田綱吉side

 

「一晩祠の中で寝てて、起きて扉を開いたら君たちがいたんだ…アッハッハ」

「やっぱエミーリオは面白いのな!」

「いや笑って済む話じゃないよ山本!」

 

俺は心の底から山本に突っ込んだ。

事故でエミーリオさんが一緒に未来に飛ばされてしまい、俺は一般人を巻き込んだことに頭を抱える。

しかも白蘭との闘いが迫ってるって時にぃぃぃぃ!

俺は、エミーリオさんがスパナ以外この場にいる者全員と面識があることに驚きを隠せなかった。

少し前も、ザンザスと鉢合わせしたところをエミーリオさんが仲裁に入って事なきを得たことを思い出し、ザンザスともそれなりに面識があったことを思い出した。

エミーリオさんにはここが未来であることをザックリ説明した。

本当は笑って相手にしないだろうと思っていたけど、真剣に聞いてくれたことが予想外だった。

だからだろう、リボーンがエミーリオさんの態度に疑問を持ち、問い詰めてた。

 

「おいおめぇ」

「あ、また会ったね、君」

「単刀直入に聞くぞ、何で疑う素振りすらねぇんだ」

 

そういったリボーンは銃口をエミーリオさんの頭に押し付けて、高圧的に問いただしているのに対して、エミーリオさんは全くそれを意に返さない様子で答えた。

 

「綱吉君は分からないけど、少なくとも武や隼人がこんな嘘つくとは思えないし、恭弥がそんなごっこに付き合うとは到底信じがたいからなぁ…あ、あと人に銃口を向けるのはやめようね」

 

確かにそうだ、と思っているとリボーンも納得したようで銃を仕舞う。

にしてもこの人リボーンの殺気にものともしないなんてどういう神経してんだ。

エミーリオさんには一先ず、マフィアのことを伏せて状況を把握して貰い、非戦闘員として京子ちゃん達の側にいて欲しいと頼むと快く承諾してくれて俺はホっとした。

それからは皆解散となって、敵の出現に備えて休むことになった。

俺は正一君の元に行き、今回の継承のことを話しに行き、それが終わると自分の部屋で休んでいた。

数時間すると、ユニ達がご飯を作ってくれていて美味しかった。

どうやらエミーリオさんに味付けを教わったらしい、なるほど。

 

「あれ?エミーリオさんは?」

「先に食べてたから今は部屋に戻っていると思いますよ」

 

ユニの言葉に納得して、そのまま食べているとふと思い出したようにユニに話しかけた。

 

「そういえばユニって、どこでエミーリオさんに出会ったの?」

「ああ、それは10年ほど前にまだ私が小さい頃、イタリアの街で母とはぐれてしまった時に、声を掛けてくれたんです」

「え?イタリアで?」

「はい、彼と一緒に広間の方でアイスを食べながら母を待っていたのを今でも覚えています、とても優しかったのが印象的だったので…」

「確かにエミーリオさんらしいね」

「そういえば皆さんもエミーリオを知っているようでしたが…」

「それは、エミーリオさんの営業してる店が並盛では有名だからだよ、エミーリオさんの料理は美味しいし」

「俺は子供の頃から話し相手になってくれる奴だったしな。近所の兄ちゃんみたいだよな」

 

山本と俺の言葉に京子ちゃんとハルも入ってきて、エミーリオさんの話が続いた。

食事を食べ終わった俺達は部屋に戻ろうとした時に、ジャンニーニから作戦室へ収集を受けた。

そちらへ行くと、白蘭の転送システムが戻って来たとスパナがいうと、モニター画面がいきなり赤く染まる。

 

「な、今度は何!?」

「これは……敵が侵入してきました!」

 

ジャンニーニの言葉に驚いたけど、直ぐにユニの元に行く為にアジトを駆け出した。

ユニを見つける前にスクアーロとエミーリオさんが視界に入り、無事を確認して安堵した瞬間、彼らの背後の方の壁が壊れた。

そこには真6弔花の一人であるザクロという男が現れた。

だけどスクアーロが一人で戦うと言い出し、その他はアジトを出た。

爆発の絶えないアジトを見ながら、ハルの提案した川平不動産に避難すると、そこには白髪の丸眼鏡をしてラーメンを啜っている男性が出てきた。

 

「早く入んなさい、追われてるんでしょ?」

「な、何でそんなことを…」

「ほらほら、真6弔花はおじさんが何とかするから、ささ早く」

「「「「「!?」」」」」

「あれ?川平君じゃないか」

 

何でこの人が真6弔花のことをっ、と思って聞こうとする前にエミーリオさんの声がそれを遮った。

 

「おやエミーリオさん、あなたもここにいたんですね」

「んー、何か面倒なことに巻き込まれちゃってね、ま、匿ってよ」

「いいですよ、さぁこちらへ」

「お邪魔しまーす」

 

陽気な彼の態度に我に返り、引き留めようとするも川平という男に中に引き込まれた。

 

「エ、エミーリオさん!この人知ってるんですか⁉」

「ん?ああ、こいつ俺の店の常連」

「ええええ⁉」

「少し静かにしてもらえません?ザクロが追ってきます」

 

怪しいが、時間もなかったので取り合えず男のことを信じて物陰に隠れていた。

ザクロにかなり怪しまれたが、男が何かをしたお陰でバレずに済んだ上、ディーノさんからの連絡で雲雀さんがデイジーを倒したことを知り、漸く肩の力を抜く。

 

「ありがとねー川平君、助かったよ」

「いえいえ、じゃあ僕はこれから旅に出ますので後は好きに使ってくれていいですよ」

「え、もう店には来ないの?」

「エミーリオさん!今そんなこと聞いてる場合じゃなくてっ」

 

俺が言い終える前にその男は出ていき、その後山本やビアンキ、スパナにジャンニーニはアジトに戻ると言って二手に分かれた。

俺達もこれからのことを話さないといけないと言うときに、真6弔花のトリカブトがランボに化けて既に侵入してユニを奪われてしまった。

 

「ユニ!」

 

トリカブトが入口に突っ切っていき、京子ちゃんのお兄さんと獄寺君、バジル君の守備を突破してしまい、上空に逃げようとした時だった。

 

「おい、この仮面野郎」

 

低い冷静な声と共にトリカブトが盛大に吹き飛ばされた。

俺は一瞬何があったのか分からなかったが、直ぐにエミーリオさんがトリカブトを殴り飛ばしたと気付いた。

そしてエミーリオさんの腕の中にはユニもいて、俺はあの一瞬でそれをしたエミーリオさんに驚いた。

 

「誰ですか?彼は…白蘭様の情報にはありませんでしたが」

「ああ?何か知らんが女の子を奪いに来る奴等に名乗る名なんぞねーよ」

「ハハン、どのみちあなた諸共葬り去るだけですが、やりなさいトリカブト」

 

桔梗の一言でトリカブトがエミーリオに向かっていくが途中で思わぬ方向からの攻撃がトリカブトを襲った。

 

「姫!」

「γ!……野猿に太猿!」

 

γに野猿、太猿もやってきて加勢してきたが、既にこの三人も戦闘データは白蘭経由で真6弔花に伝わっていて、直ぐに不利に追い込まれた。

そこに俺は乱入し、トリカブトと対峙しようとすると、トリカブトが修羅開匣をした。

強力な幻覚に苦戦していると、ふとトリカブトの様子が可笑しくなった。

 

「どういうことだこれはっ!」

 

急に幻覚が不安定になり、そこを突こうと攻撃するが気付かれて回避され、幻覚をもう一度張り直された。

くそっ、どうすれば…

 

「ボス!大空の子の右側!」

「!」

 

クロームの言葉に従いユニの方まで一気に近づき、右側を攻撃すると何もなかった空間で拳が何かにぶつかった感覚と共にトリカブトが現れた。

だが直ぐにトリカブトが消えると、再びクロームから指示が飛ぶ。

 

「下!ずっと下!」

 

数度の攻撃がトリカブトに入ると、トリカブトの幻術は消え、獄寺君達が漸く苦痛から解放された。

トリカブトが不利と悟った桔梗のサポートをリボーンやバジル君が妨げ始める。

そして俺は幻覚の解けたトリカブト目掛けてXバーナーを浴びせ、トリカブトを退治した。

こちらが不利と悟ったのか桔梗とブルーベルはトリカブトを抱えて去って行ってしまった。

超死ぬ気モードが解けた俺は仲間の無事を確認し出す。

数名の重軽傷者を出したが死者は出ず、最悪の事態は免れた。

その後、森の方に逃げることになり、森の中を歩いている時にエミーリオさんが獄寺君と会話をしているのが聞こえた。

体を強く打ち付けたことで歩くのが辛そうな獄寺君をエミーリオさんが説得して背負っているが、獄寺君はそれが恥ずかしいらしく顔を隠しながらエミーリオさんに死ぬ気の炎のことを教えていた。

確かに先ほどの戦いを忘れて下さいとは言えないので自分たちがマフィア間の戦いをしていることを教えることになった。

 

「死ぬ気の炎ってのは人間の生体エネルギーが圧縮して視認できたもののことで――…」

「ああ、なるほど、あれって誰でも出来んの?」

「誰でもっつーか…覚悟なりなんなり必要だが、それなりに訓練を受ければ出せるもんだ、因みに現代のマフィア間の戦いではこの炎を使って戦うのが基本になってんだよ」

「ん?マフィア……?」

「ああ、俺達の所属してるのはボンゴレファミリーってマフィアで、伝統・格式・規模・勢力すべてにおいて別格といわれるイタリアの最大手マフィアグループだ」

「はい?イタリアンマフィア!?…待て、俺❝達❞ってどういうことだ」

「野球バカも芝生頭も、雲雀の野郎もアホ牛もクロームも同じファミリーの所属で、10代目はそのボスだ」

「……ファミリー…」

「この場にいる奴等はそこの笹川とバカ女除いたら他のファミリーの奴等か、殺し屋だ」

「殺し屋……」

 

多分両手が塞がっていなかったら頭を抱えているであろうことは予想に難しくない顔をしていたエミーリオさんに申し訳ない気持ちになった。

そういえばエミーリオさんは山本が子供の頃から世話を焼いていたのを思い出すと更に気まずくなった。

 

「すみません、山本をこちら側に連れてきたのは俺なんです…この戦いが終われば殴ってもいいので今は我慢してください!」

「じゅ、10代目!あいつはあいつの意思で守護者になったんです!」

「…」

「エミーリオ!10代目は悪かねぇ!それにマフィアっつっても略奪や殺しを率先してるマフィアグループじゃねぇんだ!」

「……隼人、少し黙れ」

「っ!」

「綱吉君、俺は別にマフィアやめろなんて言うつもりはないよ」

「え?」

 

俺は一瞬何を言われたのか分からなかった。

 

「誰かを殺すにも、誰かを守るにも、全ては君の判断であり君の人生だ…俺が関与するところではない」

「エ、エミーリオさ…」

「だけど、その選択に後悔するなよ」

「え…」

「お前の判断を信じて従った奴等がいるんなら、その判断に後悔して立ち止まんじゃねぇぞ」

 

「自分の決めた道くらい、胸張って進めよ」

 

俺はその言葉が途轍もなく重く感じた。

背中には沢山の人達の希望と信頼が乗っていて、それを涙目で受け止めていた俺に掛けられたその言葉に、いつもなら嘆いてただろう、悲観していただろう、荷が重いと肩を縮めていただろう。

でも、でもエミーリオさんの言葉は、リボーンのように叱責の言葉でもなく守護者達の励ましの言葉でもなかった。

でも、どの言葉よりも俺の心に突き刺さる言葉だった。

 

「は…い……」

 

掠れた声だったけど、エミーリオさんは何も言わずに再び歩き出した。

ああ、皆がエミーリオさんを好きな理由がなんとなく分かった。

優しいけど、厳しくて、心配してくれるけど、叱ることもあって、時には安心させてくれる言葉を持っていて、誰よりも筋を通してる人なんだ。

沢山の信頼と希望と命が掛かってる肩の苦しさを、本当の意味で受け入れられたような気がした。

 

 

その後、エミーリオさんは森の食材でスープを作ってくれたりと、凄く助かり頭が上がらない思いだった。

そんな時に正一君の一言で周りの空気が固まる。

 

「エミーリオさん…あなたは白蘭さんと面識があると言っていたが、まだ詳しい記憶は思い出せないですか?」

「ん?白蘭の?」

「「「「「なっ!?」」」」

 

その場に居た者は談笑や雑談を止め、エミーリオさんの方に視線を固定していて、俺もエミーリオさんの方を凝視していた。

 

「記憶っつったって、10年くらい前のことだからなぁ…まだあいつがこんくらいちっこい時に一か月ぐらいあいつの家で過ごしたことしか覚えてねーよ」

「白蘭さんはマシュマロが好物だけど、それは知っていますか?」

「ああ、だって俺がマシュマロクッキー作ってあげたのがキッカケですんごい気に入りだしたからな…当時は糖尿病にならないかヒヤヒヤしてた」

「待てエミーリオ!あんた白蘭と知り合いなのか!?」

「知り合いっていうか……んー昔少しだけ一緒にいただけで、あっちは俺の顔すら覚えてないと思うぜ」

「どこで出会ったんですか?」

「イタリアだぜ、まぁ普通の裕福な一般家庭で育った無邪気な子供って感じだったけど、人間20年も経つと変わるもんだよな」

「いや変わり過ぎでしょ!」

「白蘭にも子供みたいな時期あったのか…」

 

獄寺君と俺はエミーリオさんの言葉に反応するが、その後ユニが白蘭の力について話し始め、それを他所にエミーリオさんはそのまま少し離れた場所で木に凭れ眠り始めた。

その後暴れる匣兵器を仕舞って漸く一息ついたところでユニが何か思い詰めたような顔で口を開いた。

 

「白蘭は……何かを探している様子でした」

「探す?それはトゥリニセッテじゃないの?」

「違います、それとは別に…彼は頻繁に力を行使して何かを必死に探していた様に見えたんです」

「ええ?並行世界の知識を使っても見つからないものなの!?」

「恐らく……凄く焦っている様子でしたので」

「でも白蘭が必死になってまで探してるものって一体…」

 

正一君なら何か知っているんじゃないかと思ってそちらを見てみると、傷の具合が悪いのか眠ってしまっていて起こすのは忍びなかった。

そして夜明け間近になり、寝ていた人たちを起こし真6弔花を迎撃する為に配置に付き始めた。

そして夜明けと同時に真6弔花との戦闘が始まり、離れた場所にいる俺達でもその過激さが伝わって来た。

獄寺君のところは不利な状況だったが、ザンザス率いるヴァリアーが援護に入り形勢を持ち直した。

そして京子ちゃんのお兄さんとランボ、バジル君が戦っているところは桔梗の攻撃に苦戦しているようだったが、こちらも骸と雲雀さんたちの加勢でどうにか乗り切った。

そこからは集まった戦力同士で戦闘を始め、爆発が目に見えて激しくなった。

京子ちゃんやハルが心配そうに森の方を眺めていると京子ちゃんのお兄さんから通信が入った。

 

「ゴースト!?…炎を吸い取る!?」

『そーだ!奴にはリングも炎も匣兵器も通用しない!危険すぎる相手だ!一刻も早くユニを連れて逃げろ!』

 

皆が死んじゃう――――!

 

「沢田さん、行ってください」

「ユニ…!」

「私にはリボーンおじさまやエミーリオがついています」

「………行ってくる」

 

俺は死ぬ気丸を飲み込み、超死ぬ気モードになると仲間の元に向かった。

 

 

 

 

 

ユニside

 

「行ってくる」

 

そう言い残して、沢田さんは仲間の元に飛んで行った。

沢田さん、ファミリーの皆を助けて――――…

 

「ツナ君なら大丈夫だよ…私は信じてる」

「ハルもそう思います!ツナさんはすっごく強いですから!」

 

京子さんやハルさんの言葉に私もそう祈るしか出来ず彼の背中を見送った。

戦闘が激しくなるにつれ木々が揺れていき、私は皆の無事を案じていた。

 

「ん……」

 

ドサリ、と何かが倒れる音を聞き、振り向くとエミーリオが地面に横たわっていた。

 

「エミーリオ!」

「エミーリオさん!?」

 

近寄って声を掛けるも起きる気配はなく、死んだように目を閉じていた。

私はエミーリオの肩を触ろうとした瞬間、胸元のおしゃぶりを覆っていたガラスの膜が割れ、中のおしゃぶりが輝き始めた。

 

「ユニちゃんどうしたの⁉」

「この音は何!?」

「おしゃぶりが鳴ってる!」

「わ、私にも分かりません…あ、大空のおしゃぶりが沢田さんと白蘭の大空のリングに共鳴してる…?」

「トゥリニセッテの大空同士が呼応してんのか?」

 

すると、オレンジ色の膜のようなものが私をエミーリオごと包み込み、浮かび上がる。

 

「体が勝手に!」

「ユニちゃん!」

「ユニ!」

「リボーンおじさま!」

 

リボーンおじさまが飛んで膜に触ろうとするも弾かれて、そのまま皆と離れていく。

 

「結界だ!大空の炎が強力な結界を作っている!」

 

私は足元に横たわるエミーリオを必死に揺する。

 

「エミーリオ!起きて、お願い!」

 

だが起きる素振りはなく、焦りが募るばかりだった。

 

「エミーリ…」

 

いきなりだった。

急に意識が引っ張られるような感覚に襲われた。

 

 

 

私は崖の上に座っていて、そこから見える景色を呆然と眺めていた。

目の前には虹が掛かっていて、とても綺麗で目から涙が零れた。

ああ、この体は私じゃない…。

あの夢の中の女性だ、と不思議と分かってしまった。

私は彼女の視点から見ているのだと気付く。

 

『ああ、ここにいたのか』

 

背後から声を掛けられ、彼女は振り向いた。

そこには顔のボヤけて見える人型が立っていた。

 

『あの色のついたものが気になるのか?あれは虹だよ』

『に…じ……』

『ああ、虹だ……さぁ行こう、他の者達も君を探していた』

『あなた以外にも……いるの?』

『君で14人目だ。そういえばまだ君の名前を教えてなかったね』

『なまえ…?』

『君の名前は―――――――――』

 

 

 

 

そこで途切れ、私は我に返る。

 

「今のは……」

 

まるで白昼夢のような出来事に一瞬思考が止まるが、今の状況を思い出すと周りを見回す。

視界の端に同じ結界が見え、白蘭と沢田さんがいるのだと分かり、更に焦り出す。

 

「エ、エミーリオ…お願い…起きて……」

 

私の声も届かず死んだように眠るエミーリオに怖くなって片膝をつくような姿勢でエミーリオの頭を抱え込む。

すると結界の外から声が聞こえてきた。

 

「見ろ!向こうから同じ炎の玉が!」

「炎の玉の中にいんのってっ」

「ユニ!?それに…」

「僕と綱吉君に呼ばれて―――――…」

 

私を覆う結界はそのまま目前の二つに重なっていき、結界は巨大なドーム状になった。

私はエミーリオを庇う様に抱き寄せ、白蘭の様子を覗う。

だが白蘭は目を見開き、こちらに視線を固定したまま固まっていた。

その白蘭の異常な様子に結界の外にいる者達も何事かと騒ぐ。

 

「……ハハッ」

「?」

「ハ、ハハハハハッ…ハハハハハハハハ!」

 

急に狂ったように笑いだす白蘭に周りは困惑する。

 

「やっぱり僕は運がいい!なんせ最高のおもちゃと宝物があっちから来てくれたんだ!」

「え?」

 

おもちゃ、と宝物?

 

「ぐあっ」

 

白蘭が沢田さんの首を絞め付け、沢田さんが苦し気なうめき声を出す。

 

「やめて!」

「んー?今更やめてなんて、どの口が言ってるのかな?」

 

白蘭の次々吐き出す言葉が私の胸に刺さり、無意識にエミーリオを抱えていた腕に力が入る。

一際大きく骨の折れる音がなり、沢田さんが倒れ私は体が冷めるような感覚に襲われた。

 

「この頑丈な結界の中にはもう誰も来やしないよ、これで君は僕のもの…泣いても叫んでも無駄だよ」

「…!」

「でもそうだなぁ…僕の宝物、一緒に連れてきたお礼に痛くないように使ってあげるよ♪」

 

その言葉で白蘭の目線がエミーリオだと気付き、私は一歩引き下がる。

 

「何故…エミーリオを…」

「彼がいなきゃ僕はとっくの昔に退屈に殺されてたからね、彼は僕の恩人だよ」

「おん…じん……」

「そ、僕にとってこの既知の世界でただ唯一の存在なんだ。まぁ、君には分からないだろうけどね」

 

白蘭が私に近付こうとすると、リボーンおじさまが沢田さんに向かい声を掛けた。

それに白蘭が笑い飛ばすも最後によろけながら沢田さんが立ち上がり、再び白蘭と向かい合う。

だが既にボロボロの沢田さんに動ける力はなく、覚悟と意思のみで再びリングに炎を灯した時だった。

 

「ハハハ!いい気分のところ悪いけど、何の解決もしてないよ綱吉君!結局僕と君の力の差は君が倒された時から何も変わってない!」

『どうだろうな』

「「!?」」

 

その声はボンゴレリングに宿る初代ボンゴレの思念体だった。

そしてボンゴレリングの枷が外されたことにより、炎の出力が今までにない程跳ね上がり白蘭を圧倒していった。

私は今こそと思い、両膝をつきエミーリオの頭を膝の上に乗せると、自身の炎をおしゃぶりに込め始める。

段々と体から力が抜けていくのが分かり、死に近づいていく感覚が分かった。

ああ、怖い――――…死ぬのが、怖い…

目から涙が溢れ、両手で自身の体を抱きしめる。

そんな時、パリンと何かが割れる音がし、顔を上げるとγがボロボロで結界の中に入って来た。

 

「よぉ姫」

「γ」

 

どうして…

 

「あんたを一人にはさせない」

「!」

「いつかの返事…まだだったよな」

 

γが耳打ちしてくれた言葉に涙が溢れ出した。

 

❝ユニ、嬉しい時こそ心から笑いなさい❞

 

お母さん――――…

 

もう死ぬのは怖くない、だってγがいるから…

自身の体から力が完全に抜け、実体が消えていくのが分かった。

静かに目を瞑ると、段々と意識が薄れていく。

 

 

そこは崖だった。

ああ、またあの夢なのだろうかと私はただ茫然と彼女の視点でそれを眺めていた。

彼女の手にもう一人の手が重なる。

 

『君の名前はーーーだ』

『---?』

『ああ、歓迎するよーーー……14人目の俺の家族』

『あなたの名前は?』

『俺?俺はーーーーー』

『-----…』

 

そして彼女の腕が目の前の男に伸ばされ、視界がボヤケて行く。

泣いてるんだ……

嬉しくて、彼女は泣いてるんだ

 

彼女の泣き声が木霊した。

薄れていく私の意識の中で聞こえたそれは、紛れもない産声だった。

 

 

 

 

 

 

白蘭side

 

ユニが消え、服のみが地面に落ちた。

エミーリオの顔の横にはおしゃぶりが転がっていく。

ああ、ユニが!僕のおもちゃがっ

 

「ねぇ、ちょっと…なにしてくれてんのさ?やっと見つけた最後のピースが死んじゃったよ…」

 

どうしよう、どうしよう…

 

「これじゃあ、エミーリオに見せられないじゃないか………全部全部全部全部おじゃんじゃないか………」

 

折角エミーリオに会えたのに

 

「この意味が…分かってるのか‼」

 

僕はこの途方もない怒りと絶望を目の前の沢田綱吉にぶつけようとした。

だが沢田綱吉から発せられた炎圧に踏み込もうとした足を止める。

 

「誰がユニを殺したと思ってるんだ…お前がこんな世界にしたからユニは死んだんだ!俺はお前を許さない!白蘭‼」

「んー?許さない?」

 

そんなの僕が言いたいくらいだよ…

僕は右手にありったけの炎を溜め込む。

 

「まったく無意味なことしてくれた‼あのおしゃぶり付きの人形は僕の夢を叶えるための最高のオモチャだったのに‼」

「それ以上ユニを侮辱するな!白蘭お前だけは‼」

 

そして僕たちは同時に最大出力の一撃を放った。

 

「らあああああ!」

「うおおおおお!」

 

炎の塊が衝突し、反動が僕を襲い、足に力を入れる。

均衡するも、視界の端に一瞬だけ横たわる彼が入り意識がズレた。

再び集中する間もなく、炎は僕を包み込んだ。

 

「あああああああああああああ!」

 

 

 

❝白蘭❞

 

別に人間が嫌いなわけじゃない…

人と接して胸がくすぐったくなったり、ジーンと熱くなったりも出来るんだ…

でも……なんかこの世の中はしっくりこないんだ……

ただ唯一エミーリオを除いて

エミーリオといるのは新鮮で楽しくて、僕が人間であることに違和感がなくなるんだ

だから、彼の側があまりにも心地よかった

君がいなくなって直ぐは大丈夫だったのに、段々と時間が過ぎていくごとに違和感に押し潰されそうになったんだ

そんな時いつも君の言葉を思い出しては、違和感を覆い隠そうとした

だから並行世界の存在を知ると、ああ…やっぱり、って他の人間と明確な一線が引かれたんだ

 

ねぇ、並行世界のどこにも君がいなかった時の僕の気持ちわかる?

世界にひとりぼっちになったように凄く苦しかったんだ

もう一人は嫌だよ、エミーリオ……

 

 

一瞬だけ、横たわるエミーリオの瞳が見えたような気がして涙が溢れた。

 

 

❝また…また会おうね!❞

❝会えたらな❞

 

 

ねぇエミーリオ…次があったら―――――――…

 

 

 

僕の意識はそこで途切れた。

 

 




エミーリオ:空気。おいそこ替われ。
γ:結界の外で密かに膝枕されてるエミーリオに対してギリイってなってた。
ツナ:エミーリオの面識の広さに驚きを隠せない。
トリカブト:エミーリオの拳を喰らって、若干カブトに罅が入りこの上なく焦っていた。
白蘭:エミーリオ>ユニ>>>その他。ユニも大事だけど所詮はオモチャ認識、エミーリオのみ唯一同じ世界の人認定してる。
ジョット:枷を外しに来たら予想外の人物がいて驚いた人。なお持ち前の冷静さでなんとか枷を外して退場。多分エミーリオに意識があったら顔に出るほど驚きまくってたハズ。
初代守護者:一部を除く皆が結界の中にいたエミーリオに遠すぎて気付いていなかった。
一部:おや?Dの様子が…

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