LIFE OF FIRE 命の炎〔文章リメイク中〕   作:ゆっくん

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テラフォーマー生態研究所、第4支部。


U-NASAのあるワシントンDCから比較的近いモンタナ州の山中に位置し、周囲を森や湖が囲いその壮大な景色は見る者を魅了する。


研究所自体も2階建てで、小金持ちの所有する家程度の広さはある。実に魅力的な条件が揃っている。


と、言えば聞こえはいいが、要するに山中に厄介払いされたのである。ここまであからさまな扱いを受けている理由は、この研究所独自のテラフォーマーの管理体制にあった。







地球編
第五話 HIVE 巣箱


 

 

 

 

「…………マイナスイオンアレルギーになりそうだ」

 

 

クーガ・リーは車を駐車スペースに停止させ、外に降りた瞬間そう呟く。自分たちの活動拠点とはいえ、何度帰ってきても慣れなかった。自然アレルギーを患ってしまいそうなぐらい四方が自然に囲まれてしまっていたからだ。

 

 

こんな環境をいいと思えるのは、都会の生活にくたびれたビジネスマンぐらいだろう。そんなに人間すらこの環境では1週間程で都会を恋しくなってしまいそうだが。

 

 

 

「むにゃむにゃ……もう食べられないよ」

 

 

後部座席から聞こえてきたベタな寝言で振り返れば、そこには運転疲れで眠ってしまった唯香が転がっていた。長距離運転中に眠そうに目を擦っていたので、運転を代わりにクーガが引き受けてからはスヤスヤと眠ってしまった。

 

 

「……ベッドまで運んでいってやるか」

 

 

しかし、ここでクーガの脳内で問題が発生した。運ぶ方法はお姫さま抱っこで良いのだろうか?自分と唯香は特に恋仲でもないのにそんな運び方をしてよいものだろうか?ならば、抱っこ、いや、おんぶ?いや背中に胸が当たるのはまずい!!

 

 

そんな風にああでもない、こうでもないとクーガが唯香の運び方に関して試行錯誤していた時のことだった。

 

 

「もう限界だぁ!助けてくれ!!」

 

 

研究所の中から絶叫が響いた。クーガと唯香が外出している間研究所の留守を任せた、U-NASAの職員の声だ。顔中に汗を浮かべ、助けを求めてすがるようにこちらに向かって駆けてきた。そして開口一番こう口にする。

 

 

「ア、アンタら正気か!?自殺志願者か!?ここ(・ ・)でどんな生活送ってんだ!!」

 

 

そんなレッテルを貼られる覚えはない、と否定したいところだったが、クーガには1つそんなことを言われる心当たりがあった。よく考えたらこの研究員の反応はごく正常だ。噂をすれば、彼をパニックに陥らせた原因のお出ましだ。

 

 

 

 

 

 

 

「じょうじ」

 

 

通称〝テラフォーマー〟

 

 

憎むべき人類の敵。黒光りした甲皮に身を包み、緑の芝生を踏みつけながらノシノシと歩いてこちらとの距離を順調に詰めてきている。

 

 

「ヒギャアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

留守番を任せた研究員は阿鼻叫喚の悲鳴をあげて私物のスポーツカーに乗り込めば、手渡しする筈の報酬も受け取らずに一目散に走り去ってしまった。

 

 

「……後で銀行にでも振り込んでおいてやるか」

 

 

恐らくもう2度と彼はここに足を運ぼうと思わないだろうから。溜め息を吐いた後にクーガが彼の口座番号をUーNASAに問い合わせようとした時だった、

 

 

「じ……ぎぎぎぎぎぎぎぎ」

 

 

彼をパニックに陥らせた原因その2が研究所のドアからヌッと現れた。彼もまたテラフォーマーだが、通常のテラフォーマーより骨格がやや人間のようにしなやかで、何より毛髪がなかった。

 

 

通称〝スキンヘッドのテラフォーマー〟

 

 

額には『\・/』のマークが刻まれている。

 

 

通常のテラフォーマーを遥かに凌ぐ知性を持つ、テラフォーマーの上位種である。

 

 

通常種と上位種。その2体の敵 がこちらに迫ってきているにも関わらず、クーガは全く動じる様子を見せない。むしろ、困り顔で大きく溜め息を吐き出す余裕すらもあった。

 

 

「……お前ら、あんまり恐がらせてやんなよ」

 

 

「 じ ぎ ぎ ぎ ぎ ! 」

 

 

スキンヘッドタイプのテラフォーマー、通称『ハゲゴキさん』は困り顔のクーガを見て得意気に、そして高らかに笑い飛ばす。そんなハゲゴキさんをのノーマルタイプのテラフォーマー、通称『ゴキちゃん』は呆れたように一瞥すると車に積んである荷物をせっせと研究所の中に運び込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

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「何!?あの研究員が唯香さんの下着を盗もうとしてた!?」

 

 

テラフォーマーとクーガ達の間で意思疏通(コミュニケーション)を行う際に示し合わせたジェスチャーサインを読み取ると、そのような許し難い内容が浮かび上がってきた。

 

 

「じょう」

 

 

「んで、それをハゲゴキさんが懲らしめたと」

 

 

「じぎぎぎぎぎ!!」

 

 

どうだ、やってやったぜと言わんばかりにハゲゴキさんはこちらに向かって親指を立てている。

 

 

「なるほど。そいつは本当にご苦労だったな。二人に後から『U-NASA』で買ってきたお土産を贈呈してしんぜよう」

 

 

「じょーう!!」

 

 

「じぎ!!」

 

 

ゴキちゃんはばんざい、ハゲゴキさんはガッツポーズでそれぞれの喜びを表した。クーガ・リーは溜め息をつく。この『2人』はこんなに純粋なのに、同じ人間である研究員は下着泥棒の未遂とは呆れて物も言えない。

 

 

「むにゃむにゃ……クーガ君はあっちの相手して」

 

 

結局睡眠を妨げない為にお姫さま抱っこした唯香が、よくわからない世界観の寝言を漏らした。どのような夢を見ているのだろうか。

 

 

「私は天界を滅ぼしてくるね」

 

 

「強くて邪悪だな夢の中のアンタ!!」

 

 

「ふえっ!?」

 

 

思わずいつもの調子で入れてしまったクーガのツッコミに唯香はビクンと顔を強張らせた。起こしてしまったかと思ったが、少しすると唯香は再び眠りだした。

 

 

「あー……オレ唯香さん寝かしてくるからちょっと待っててくれるか」

 

 

ハゲゴキさんはすかさず、指で輪を作り、もう片方の指をその中にツッコむというジェスチャーをクーガに向けてしてみせた。ワンテンポ置いて、そのジェスチャーの意味に気付いたクーガの頬は紅潮した。

 

 

「ばっ、ばっきゃろー!!ゆ、唯香さんとオレはそんな関係じゃねぇ!」

半ばその場から逃げ出す形で、唯香を抱えてクーガは2階の階段をそそくさと登っていった。『ハゲゴキさん』と呼ばれる個体は思い出した。あの2人の管理下に置かれるようになった、きっかけを。

 

 

 

 

 

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テラフォーマーの人類との共存。最早不可能だと断言出来てしまう夢物語。大抵の人間は、台所でゴキブリを見つけた時、

 

 

「かわいい!飼ってもいい!?」

 

 

「仕方ないわね!きちんと面倒見るのよ?」

 

 

「わーい!!」

 

 

となるだろうか。いいや、ならない。ぶっ殺すだろう。有無も言わさずぶっ殺すだろう。それが正常である。

 

 

だが、酔狂な重役の一人が〝娯楽〟で研究してみたいと言い出したのだ。〝娯楽〟で何か事故が起きたら洒落にならないからやめておけ。研究員全員が口を揃えてそう言った。

 

 

しかし、人間と暮らす中でしか理解出来ない彼らの側面があるかもしれない、という全く持って意味不明な理屈が押し通されてが決行されることになった。そんな時、

 

 

「どうせなら…例の上位種(・ ・ ・)も投入しませんか?通常のテラフォーマーの他に」

 

 

そんな意見ふと跳び出したた。スキンヘッドのテラフォーマー、通称『T-001』。『バグズ2号』の時、火星から帰還した日本人のうちの一人である『蛭間一郎』と交戦した際、その付着した体液から奇跡的に復元したクローンの一体。

 

 

本来であれば希少価値の塊であり、そんな酔狂な研究の為にくれてやる必要などない。しかし、この異常に知能の高い個体が幾度となく脱走を繰り返す度に出る費用は莫大であり、とてもではないがこれ以上維持しておくメリットが見当たらないという理由で廃棄処分が確定していた。

 

 

この個体は見ていた。同族が殺されるその姿と、死して尚、体を弄ばれるその現場を。そして何より、

 

 

「うえきったねぇ!ゴキブリだ!!」

 

 

「ったく。清掃員のババァ仕事しろよな」

 

 

地球の同族が無惨に蹴散らされるその一瞬を。仲間の仇、そのような理由で憤りを感じた訳ではない。ただ、DNAに刻まれた記憶が理解したのである。

 

 

「この種とは、殺しあう運命なんだ」と。

 

 

決して逃れることなど出来なかった。このまま、人間という種に支配されて生を終えてしまうのだ。だからと言って、人間に媚びへつらう気などない。

 

 

自分よりも下位種でありながら、勤勉なその性格のお陰で自分と同程度の知能を有する友人もそのことを理解している様子だった。

 

 

達観しきってただ死を待つ日々。そんなある日のこと、友人が睡眠を突如妨げてきた。五月蝿い。そう言わんばかりに友人の頭を思いきりペチンと叩いてやったのだが、それでも友人はしつこく自分に起きろと語りかけてきた。

 

 

あまりにもしつこいもんだから、指の指す方を見てやったら、強化ガラス越しに見える外の景色に2人の人影が映った。人間のオスとメスのつがいだ。恐らく、交尾(S E X)というやつをしようとしてるのだろう。前にも一度見たことがある。友人はこんなことの為に自分を起こしただろうか?

 

 

呆れたものだ。そんな感想を抱き再び眠りにつこうとした時、メスの方の小さな掌の中から何かが飛び立ったのが見えた。地球の小さな同族である。それが、人間のメスの掌の中から空に向かって飛び立っていった。イキイキと大空へと飛び立つその姿は、自由そのものをまざまざと感じさせた。

 

 

それにしても、地球の小さな同族は汚いものとして人間の間では扱われていると聞いていたが、珍しいメスだ。一緒にいたオスも、特に同族に対して、汚いという意識を持っていなかったようだ。

 

 

ほんの小さなことかもしれないが、あの2人の人間に興味が湧き出た。あの2人の元でなら管理されてもいいかもしれない。

 

 

そんな自分の意思表示に友人は本気か?と尋ねてきた。まさか、と自分は返した。

 

 

『人間と和解できるかの実験だ』

 

 

「ふえ?クーガ君。あの子たち私達のことじっと見てるよ?」

 

 

「……ハゲたゴキなんて初めて見るな」

 

 

純粋な好奇心がそうさせた。決して人間達に心を許した訳ではない。『人間(あいつら)』と、『テラフォーマー(自 分 達)』の共存などありえないのだから。

 

 

この時、通常のテラフォーマーはスキンヘッドのテラフォーマーが浮かべた底知れぬ笑いに、同族でありながらも身震いし恐怖を覚えた。

 

 

 

 

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───────

 

 

 

「じぎぎぎぎ!!」

 

 

さて、過去にそんなダークな一面を見せたハゲゴキさんはというと、いまやバラエティ番組を見ながら、ソファーで寝転びつつポテイトチップスという人間の食糧をバリボリと貪り食らっていた。

 

 

「じょう」

 

 

モロ人間の文化に取り込まれてるじゃねーか、実験はどうした、とゴキちゃんはツッコミを入れた。そんな自分もクーガの『ツッコミ』とかいうキャラクターに汚染されていることにハッと気付く。

 

 

「……じぎ?」

 

 

わかり合う?それはどうだろうな、と不適にハゲゴキさんが笑った瞬間、

 

 

「キャー!!」

 

 

「ワアアアアアア!!」

 

 

2階からクーガと唯香の悲鳴が鳴り響いた。ゴキちゃんがハゲゴキさんの顔を覗くと、その顔には純粋な悪意が込められていた。

 

まさか2人を殺ったのだろうか?ゴキちゃんの胸を得体の知れない不安が襲った。2人の様子が気になり、素早く階段を駆け上がる。そして、声が響いた唯香の寝室を覗いてみると、そこには壮絶な光景が広がっていた。

 

 

「ああああの唯香さん!ここここれは事故で!何故かその床にトラップが仕掛けてあって唯香さんをベッドに寝かせようとしたらそそそそそその」

 

 

「う、うん!わ、わかってるよ!?けど……その……て、手が」

 

 

「もろ揉んどる!揉んでる!」

 

 

「は、早く胸から手を離してぇ!」

 

 

バタン、とドアを閉じてツカツカと階段を下るゴキちゃん。開口一番、あんなラブコメの出来損ないみたいなイベントを発生させたのはお前か、とハゲゴキさんに問いただした。すると、ハゲゴキさんはドヤ顔でこう返す。

 

 

「じぎぎぎぎ!!」

 

 

【 計 画 通 り 】

 

 

ゴキちゃんは、頭脳の使い道を迷走させた友を思い切りぶん殴って目を覚まさせた。

 

 

 

 

 

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大きなテーブルで食卓を囲う2人と『2人』。基本的に人間用の食事と、テラフォーマーに合わせた食事の2種類が用意されていた。

 

 

しかしハゲゴキさんはテラフォーマーズ用の食事に目もくれず、人間用の食事に器用に箸と茶碗を使いながらガッついていく。

 

 

「ゴキちゃん。お前の友達種族として大丈夫か」

 

 

「じょじょう」

 

 

手遅れだ、とジェスチャーでクーガに伝える。

 

 

「えへへ。そんなこと言いながらゴキちゃんも私の料理食べてくれて嬉しいなぁ」

 

 

ニコニコと、里芋のにっころがしを器用に食べていくゴキちゃんを見て唯香は微笑んだ。それを見て、自分が一番唯香の飯を食べてるんだから何かコメントをくれと密かにクーガは頬を膨らませた。

 

 

テラフォーマー生態研究所、第4支部の生活風景はこのようにして毎日流れている。

 

 

お互いの文化に対して興味を持つ変わった人間と変わったテラフォーマーが、ごく〝普通〟に、ある種〝異常〟にギブアンドテイクで文明の切り売りをしながら暮らしていた。

 

 

テラフォーマー側は、決して心を許した訳ではない。人間側も、テラフォーマーが『感情』ではなく『判断』で行動することが大多数であることも理解していた。2種の生物に共通している思いは1つだけ。

 

 

〝この暮らしは面白い〟

 

 

たったそれだけ。この想いの元に、1つ屋根の下で両者は『共存』していた。

 

 

「ゴキちゃんとハゲゴキさんにお土産タイム!!」

 

 

「じょうじ!!」

 

 

「じぎぎぎぎ!!」

 

 

唯香が掲げた紙袋に2人は大きなリアクションを見せた。ご丁寧にパチパチという拍手までついている。

 

 

「ヒントは2人の大好きな白いもの!!」

 

 

「じぎぎぎぎ!!」

 

 

ハゲゴキさんは必死に、カイコガ!丸々太ったカイコガ ! とジェスチャーしてみせた。

 

 

「ハゲゴキさんはポテイトチップスの方が好きなんじゃねぇのか?」

 

 

「じぎ!!ぎぎぎ!!」

 

翻訳『カイコガは別腹なんじゃいこの乳揉み魔が!』

 

 

「揉ませたのお前だろうが!!」

 

 

「正解は!!」

 

 

唯香が紙袋から取り出したのは、ゴマフアザラシの真っ白な赤ん坊の大きなぬいぐるみであった。

 

 

「……じぎぎぎぎ」

 

 

ハゲゴキさんはカイコガではないと知ると、別に大好きでもねぇよんなもん……とジェスチャーしてわかりやすく落ち込み、

 

 

「じょ……じょじょう」

 

 

ゴキちゃんは初めて見る『ぬいぐるみ』と『ゴマフアザラシ』という組み合わせの物体に感動を覚え、暫くマクラにしたり、サンドバックにしたり楽しんでいた。そんな、クーガと唯香にとっての『日常』を崩す音が、徐々に聞こえてきた。

 

 

連続する機械音、恐らくヘリコプターの音だ。こちらに近付いてくると同時、スピーカー越しであろう大きな声が鳴り響く。

 

 

「おまえたちはにほーいされてる。おとなしくとーこーするのだ。わはははは」

 

 

「ちょっとレナ!ずるいですわよ!あたくしにも喋らせなさい!!」

 

 

この声には聞き覚えがある。自分と顔馴染みの天然お嬢様と、お供の不思議系少女だ。この2人がわざわざ迎えにきたということはつまり、とある事を意味する。

 

 

「……いよいよ、『アースランキング』の発表ってことだね!」

 

 

「もう日常パート終わりかよ?はええな」

 

 

そう悪態をつきつつも、クーガの顔はにやけていた。『有意義な戦闘』の開始の合図だからだ。

 

 

誰かの大切なモノを、守る為の。

 

 

そして。

 

 

 

 

 

─────────地球を、頼んだぞ

 

 

 

 

親友(膝丸燈)』との誓いを果たす為の。

 

125万種以上の『生命の炎』が燃え盛る地球での物語が、今ここに脈を打つ。

 

 

 

 

 

 






皆さんに楽しんでいただける物語を描いていけるように頑張ります。


感想いただけると嬉しいです(^_^)



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