LIFE OF FIRE 命の炎〔文章リメイク中〕 作:ゆっくん
絆とは断つことが出来ない深い繋がり。
例え、地球と火星程に離れていても
例え、お互いを感じられなくとも
例え、どれだけの歳月が経とうとも
想うことを止めぬ限り、
人であり続ける限り、
友と友を『意思』が結び続ける。
「も、もしもーし。クーガくーん?」
燈は、メンタルお通夜状態のクーガにひとつまみのポテトを差し出した。しかし、クーガは全く反応を見せない。
「このポテトうめぇぞ!いつまでもしょげてないで一緒に食って元気出そうぜ!!」
ニカッと、スマイルを浮かべた上に親指を立ててサムズアップを決めてくる燈。そんな彼を見てクーガはフッと笑うと、燈に向かって手を伸ばした。そしてポテトを受け取ろうとした瞬間、
「誰のせいだと思ってやがんだオンドリャアァァ!」
爆発した。ポテトの代わりに燈の襟首を掴み、これでもかと激しく揺さぶった。クーガが怒り狂うのも当然だ。唯香に大人数の前で告白するという公開処刑を、ある意味、燈からのキラーパスによって達成してしまったのだから。
そんなクーガと燈がいるのは、その公開処刑を行った現場である食堂だった。現在、クーガと燈は小町艦長や唯香達と共に山盛りのフライドポテトを囲っていた。図らずも並ぶ形となったクーガと唯香を、食堂中の人間がニヤニヤとした表情で見つめていた。
当人達からしてみれば地獄である。ギャーギャーと、燈と先程の件で口喧嘩をするクーガを見て、唯香は先ほど自分が食堂に向かっていた時のことをふと思い返した。
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「な、何かスッゲー調子悪そうですけど……大丈夫ッスか?」
「ふえっ!?ジョ、ジョセフさん!!」
食堂に向かう途中、心が晴れず、表情が優れない唯香に声をかけたのは『幹部』の1人でもあるジョセフ・G・ニュートンだった。
「どうしました?やっぱりバストが豊満だから肩がこっちゃう、なんて?」
「セッ!セクハラですよ!」
ぷんすかぷんすかと頬を膨らませ、小さな体で精一杯怒りを表現する唯香。そのキュートな様子に危うくいつもの調子でちょっかいを出しそうになったが、こらえて本題を切り出した。
「フフ、冗談です。ところで」
「は、はい?」
「アナタは今恋の病を患っている。違いますか?」
「ふえっ!?」
「しかも相手はあのクーガ・リー君、だったり?」
「な……なんでわかっ……じゃなくて!私はこ、ここ、恋なんてしてません!!彼は5つも年下ですよ!?」
非常にわかりやすいリアクションだ。彼女の顔赤らんだ顔からは、今にも湯気が出てきてもおかしくない。ヤカンを乗せたらいい塩梅にジャパニーズグリーンティーを飲むためのお湯が沸きそうだ。
「そしてクーガ君がアナタに想いを寄せてることがわかってたりします?」
「ヒアア!!」
最早唯香は、ゆでタコの隣にちょこんと座らせておいたら見分けがつかない程に真っ赤になっていた。屈んで顔を必死に両手で隠しているものの、体中が真っ赤に染まって最早顔を隠す意味すらなかった。
そんな唯香にジョセフは片膝をついて目線の高さを合わせた。そして、静かに口を開く。
「……だからこそ、彼の想いに応えない。違いますか?」
その言葉を聞いた途端、唯香は自らの体の火照りが急激に冷めていくのを感じた。少しして全身の赤みが引き、顔から手を退けた時に現れた彼女の瞳の中には、憂いだけが浮かんでいる。
「凄いですねジョセフさん。『MO手術』を受けると人の心までわかっちゃうんですか?」
「まさか。男の勘ですよ。男のね」
自分のことではあまり働きませんがね、とジョセフは付け足して言葉を続ける。
「『地球組』の活動は原則として『
当然、クーガ君と活動してるアナタにも危険は及ぶ。そしてアナタは自分に危険が及んだ際にクーガ君にも危険が及ぶことを恐れている。例えばアナタが人質に取られた時とか、ね?」
「……当たってます。もし私とクーガ君がその……親密な関係だったら。決断をしなければならない時に判断が鈍ります。私は……私よりも、任務の遂行と。クーガ君の自分自身の命を優先して欲しいです」
そうでなければいけない。地球で生じる可能性のある『MO手術』の不正使用と、実験用テラフォーマー暴走の際の処理。
そんな重大な任務が任されているクーガに、自分のせいで命の危険や任務の失敗を味わう羽目にあって欲しくない。そのような想いが故の距離を置いた関係だった。
「んー………あまり感心できませんね」
ジョセフは唯香の考えをバッサリと切り捨てる。
「ふえっ!?な、なんでですか?」
「アナタの役割は何ですか?」
「え…えぇと…『地球組』メンバーの監視及び…そのサポートとカウンセリングです」
「心の距離を置いた相手の心は曇るばかりです」
ぐうの音も出ない。心の距離を狭めることを許し、中身を覗くことを患者が許すのがカウンセリングである。診察側が距離を置いては相手の心がわかるはずもない。
「それに……男の子は女の子にいい所を見せたい時に力を発揮できるものなんですよ?」
「で、でもそんなの……小学生のリレーの時の理論じゃないですか!」
「男っていうのは永遠に少年なんすよ。ノースリーブで鼻垂らして好きな女の子の目の前で全力疾走してしまうものなんです」
そういうものなのだろうかと唯香が疑問を感じた時、ジョセフは核心に迫った。
「何よりも、いつ彼が死んでしまうか恐い。もしくは、自分が死んでしまうか。その前に、せめて思いの丈を伝えたい」
愛している。と。
「そのジレンマに貴女は苦しんでる、でしょ?」
「その通り、です」
『地球組』の任務は、火星での任務を行う『アネックス1号搭乗員』と違い、確実な脅威はないかもしれない。しかし、不確定的に、頻繁に危険が起こる確率は高い。相手が人間である分、その危険性は濁りを増して不透明なものとなる。
そんな危険が明日にもあるかもしれないにも関わらず、想いを伝えられない葛藤が唯香の体調を顕著に悪い方向に向かわせていった。病は気からとは、よく言ったものである。
「少しずつでもおれは歩み寄るべきだと思いますよ。彼の為にも、貴女の為にも」
そう言うと、ジョセフは踵を返して颯爽と去っていった。ジョセフも、女の涙に弱いとかいうベタな理由で唯香にアドバイスをした訳ではない。『地球組』の任務は、少なくとも機密を保持という各国共通の想いがあるからだ。
「……ジョセフさん、ありがとうございます」
唯香は、ペコペコと自分に心の底から感謝しているかのように頭を自分の姿が見えなくなるまで下げていた。この時の場面を遠目でミッシェルに見られ、ジョセフが唯香にちょっかいをかけていたという誤解を生んだのであった。
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『少しずつでもおれは歩み寄るべきだと思いますよ。彼の為にも、貴女の為にも』
ジョセフのそんな
「クーガお前オレのポテトが食えないってのか!!」
「どこにキレてんだテメェは!そもそもそいつはオレの唯香さんに対する奢りだ!!」
「あ、あるぃがとぉうございむぁす!!」
「どこの歌舞伎役者だお前」
2人の会話を聞いて、マルコスとアレックスはしょうもなすぎて吹き出しそうになっている。シーラも、笑っている場合じゃないでしょ。喧嘩を止めなさいよと言いたいところだが、彼女自身もヤバかった。
『こんなもので笑ったら負けな気がする』
そんな想いが、メキシコ3人組の笑いを抑えていた。会話中ポロッと聞くから面白いのであって、芸人がいざコメディショーとして披露したらシラケてしまうクオリティだろう。後から、「あんなので爆笑してしまった」と後悔するタイプの笑いだ。よく見ると、隣にいる小町艦長も下を向いてプルプルと震えている。
シーラ、アレックス、マルコス、小吉の4人が『笑ってはいけないU-NASA24時』に挑戦している間、イザベラ、エヴァの2人はというと
「班長、強力なライバル出現っすね。でもアタシは班長のそのミステリアスなムードに魅力があると思います。お兄ちゃんポジションであることを活かして包容力で攻めていきましょう」
「わ、私に出来ることがあるなら…なんでも…」
「……お前たちは本当に何か勘違いしてる」
アドルフとクーガの同性愛者疑惑を、まだ色濃く疑っているのか、熱烈な応援メッセージをアドルフへと投げていた。アドルフはげんなりした様子でそれを否定しているが、当分続きそうだ。
「ああそうか。お前がフライドポテト食わねえならオレ1人で平らげてやるよ!」
「いやせめてみんなで食え。協調性0か」
相変わらず燈とクーガは、しょうもない争いを繰り広げていた。
「そんなこと言うなら5本いっぺんに食っちゃうからな!」
「イチイチ報告しなくていい」
「そういやクーガ。こんな大人数で食うことっていつもあるのか?」
「いや?いっつもこんな大人数で食うことはねぇな」
その言葉に、膝丸燈、マーズランキング第6位はピクリと反応した。『
「へー……ってことはいっつも唯香さんと二人で飯食ってるのか」
「ふえっ!?」
「見逃さねぇなテメェはよ!!」
逆説的にそうなる。男子という生き物は、普段サボらせてる頭をこのようなしょうもない場面でフルに働かせる生き物なのである。
「で?どうなんだクーガ?」
「いや…食べてるよ。唯香さんの…ご、ご飯」
「「「「 ひゅ~ 」」」」
「ハモるな!!冷やかしアンサンブルさせんな!!」
冷やかしてきたのは、燈は勿論、マルコス、アレックス。そして明らかに年的に浮いてるワルノリ状態の小吉だった。
「なんでアンタまで加わってんだよ!いい加減少年の心置いて来い!!」
「いや~前に食ったことあるけど確かに唯香ちゃんのご飯は美味しいよな~」
「あ、ありがとうございます」
唯香がぺこりと頭を下げた刹那、躊躇いもなくワルノリ状態の小町小吉(40)は次の一手に出た。
「唯香ちゃんどう?こんなダンディなおじさん?」
「ふえっ!?」
いきなり唯香の両手を握り、持ち前の真顔ボケをかました。何故かシーラが鬼のような形相を一瞬浮かべたが、気のせいだろうか。
「どう?オレの食いっぷり半端じゃないよ?大陸ごとたいらげちゃうよ?」
「どこのベヒモスだアンタ!唯香さんのご飯の味を一番知ってるのはオレだから!他の奴に味を語らせてたまるかってーの……って、あ」
ノロケを漏らして再びうっかり自爆したクーガを、食堂中の人物が一丸になって冷やかした。この時ばかりは、世界中が1つになっていた。
「わ……私も、一番美味しそうに食べてくれるからクーガ君に食べて貰いた……ヒアッ!」
立て続けに唯香までもが誘爆し燈、小吉の2名の本事件の首謀者はガッシリと握手を結んだ。
「……艦長、いい加減にしないとクーガがグレますよ」
「マルコス、アレックス!アンタ達も加わろうとしないの!」
アドルフ、シーラといったしっかりした『まとめ役』が動き出したのは、最早クーガと唯香のハートがオーバーキルされた後であった。
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「ご、ごめん」
「……」
「艦長、誠意が足りないそうです」
「 クーガ何も言ってないね!アド君お前の本音だね!」
最早いじられ倒されて真っ白になったクーガを、最上階の幹部室に連れてきて謝罪する小吉。そしてアドルフ。奇しくも、10年前にクーガを地獄から助け出した時と同じ面子が揃っていた。クーガがガラス越しに空を見上げれば、あの日のように火星が色褪せることなく翠色の光を放っていた。
「小吉さん、アドルフ兄ちゃん」
「ん?な、なんだ!?」
「オレ、本当に出発の時までここにいていいのかな?」
ぽつり、と出た一言。アネックスクルーと食堂で騒いでいた時にふと涌き出た疑問だった。クーガの口から出たそんな風にポツリと出た疑問に、アドルフは尋ねた。
「……どうしてそんなこと思った?」
「オレ……『地球組』だろ?下手をすれば何事も起こらずに日常を過ごすことになるかもしれない。みんなは命を掛けることになるってわかってるのによ」
クーガは、小吉やアドルフ達『アネックス1号』搭乗員の助けになりたいという意思の元『地球組』に志願した。しかし、腹の底では『安全』かもしれない任務に妬んでいる人間も少なからずいるかもしれない。それならば、彼らに不信感を抱かせない為にも自らは早々にここを離れた方がいいのではないか。
そんな風に杞憂していた時、
「……っヨイショォ!!」
「ドワッ!?」
突如、思い詰めたクーガの表情を見た小吉が彼を担ぎ上げて肩車をした。幼い頃によくして貰っていた覚えがあったが、今と昔じゃクーガの体のサイズは当然異なる。負担も大きいだろう。
「小吉さん!?」
「大丈夫だって!!軽い軽い!!ミッシェルちゃんのインナーマッスルに比べりゃ……」
小吉はバッ、とミッシェルが聞いていないか入り口におそるおそる視線を移した。
「ビビるぐらいなら言うな」
「す、すまん」
小吉はゴホンと咳払って仕切り直すも、クーガの75kgの体重を支え続けながら切り出した。
「大丈夫だ。お前のことそんな風に思う奴はいねーよ」
「……そうかな」
「アシモフと闘った時、お前の強さがみんなよくわかった」
敗北したものの、あの軍神アシモフ相手にあんな
「確かにお前の言った通り少し疑問を感じることもあるだろうな。これだけ強いのに、なんで火星に一緒に来てくれないんだろう、って。ただな、それ以上にお前のことを頼もしく思ったと思うぜ」
「それは……」
「サンドラ・ホフマン」
アドルフが、突然知らぬ誰かの名前を漏らした。
「うちの班の『志願兵』だ。息子が『AEウイルス』に感染してワクチンを採取する為に自ら『志願』した。ランキングは下位の猫科の能力。だが、後悔などしていないしお前に妬みなんて一欠片も持ってないだろうよ」
何故だと思う?とアドルフは尋ねる。
「それは……」
「『志願』したからだ」
身も蓋もないが、アドルフは解答する。
「……クーガ、アドルフの言った通りさ、あいつらは別に行きたくないのに行く訳じゃないんだ。何かを救う為。成し遂げる為に行くんだ」
小吉は空に浮かぶ緑色の星、火星を指さして話を続けた。
「ただ、彼処に行くには『地球』に大切な者を残していかなきゃならない。そしてそれに何かあった時に守るのが……」
「……オレの、仕事だ」
クーガは改めて自分の任務を強く実感させられた。自身に課せられた任務は決して気が楽なものなどではない。アネックスと同じく、大きな指命を課せられているということを。
「そうだな。後さっきの食堂騒ぎ、恥ずかしかったか?」
その件について思い出した瞬間、クーガの顔は鉄板の如く火照った。確かに恥ずかしくもあったが、久々に人間らしい感情が一気に噴き出した感覚を覚えたのは確かだった。
「あれ見て、安心したと思うぜ?オレ達の地球を守るのは、冷たい『昆虫』なんかじゃなくて、熱い血の流れた、自分達と同じように大切な者がいる『人間』なんだって」
ミッシェルにも、似たようなことを言われた。そして、それがようやくわかった気がする。
自分は『人間』でなければならないのだ。最強の昆虫『オオエンマハンミョウ』ではなく、冷たく任務を遂行するロボットでもない。熱い血をたぎらせて、誰かと手を繋いで、『人間』として他の『人間』を守らなければいけないんだということを。
「クーガ。後もう1つ忘れるなよ」
小吉は、クーガをゆっくりと降ろして語りかけるようにゆっくりと口を開いた。
「お前も、自分の大切なもんを守っていいんだぜ」
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クーガは、エレベーターを降りてゲスト専用宿泊室へと向かった。すると、反対側のエレベーターの扉が開き、誰かが降りてきた。誰かと思えば、唯香だった。食堂での一件の気恥ずかしさ故にお互い顔を合わせることすらままならないのに、出会うには最悪のタイミングだった。
「あっあにょ!ゆっゆっゆ、ゆいきゃひゃん」
「ふえっ!?にゃにゃにゃんでひょうか」
お互い緊張しすぎて、かみっかみである。正直大御所芸人に唐突にネタ振りされた若手芸人でも、こんなに噛まないだろう。
「しゃ、しゃっきのしょくろぉでのあれ、ふきゃいいみはないんでふ」
翻訳『さっ、さっきの食堂でのあれ、深い意味はないんです』
「あ、あたすも!おんにゃにじゃよ!!」
翻訳『あ、あたしもおんなじだよ!!』
最早何故本人達が会話出来るのかわからないほどに、数分カミカミ訛り語でスピークした後、漸く一息ついて唯香が切り出した。
「クーガ君、お友達出来たみたいだね」
「……燈のことか?」
「うん!2人の会話若手芸人の漫才みたいで面白かったよ!」
「吉本じゃねぇよ」
でも、なんというか楽しかった。同世代かつ同性の人間とあれだけ話したのは初めてかもしれない。そして、あれだけ盛り上がれる男友達は後にも先にも現れないかもしれない。しかし、
「……あいつ、後6日で火星に行っちまうんだよな」
そんな現実がクーガの脳裏をよぎった。そして、燈が無事に帰ってこれる保証はどこにもない。そして、クーガ自身が無事に帰りを待っていられる保証も。
例えば普通の大学生みたいに、毎日顔を会わせて、馬鹿みたいな話に花を咲かせることなんてもう出来ないかもしれないのだ。そんな風に不安がクーガの心を支配しかけた時、ギュッ、と突然唯香の小さな手が彼の掌を包んだ。
「非ユークリッド幾何学って知ってる?」
「……オレのIQに合わせて言うと?」
「えっとね、わかりやすく言うと、2本の平行線って絶対に交わらないって言うでしょ?でも『地球』とか『火星』とか、球体の上では南極点や北極点ではいつか絶対に交わるんだって」
「平行線って交わる時あんのか。生物学以外でも物知りなんだな、唯香さんは」
「ふふふ。凄いでしょ!えっへん!」
唯香の3種の神器『ふえっ!?』『えっへん!』『ヒアアアアアア!!』のうちのえっへんがこのタイミングで出る。しかしこのタイミングで胸を張られると厄介なことになる。距離のせいで2つの
「ゆ、唯香さん。む、胸!!」
「ふえっ!?」
腕に残った感触の余韻に浸るクーガとは反対に、唯香は先程の話を続きをしようと火照る顔を取り繕って話を再開した。
「えええええと要するにね!絶対にいつか2つの道は交わるってこと!!だから大丈夫だよ!!」
「いいこと言ったのにグダクダになっちまったな」
「うぅ……」
「ありがとう」
頬を赤く染めて必死にメッセージを送ろうとしてくれた唯香の小さな掌を、今度はクーガがそっと包んだ。
「いつかまた燈と会えるってことだよな。だから、それまで寂しくならねぇように明日からたくさんあいつと話してくる。唯香さん、ありがとう」
「……うん!頑張ってね!」
唯香はニコリと、クーガに笑いかけた。そしてお互いにオヤスミと一言告げた後、それぞれの部屋に入って就寝した。しかし、互いに今日1日でやらかしたことを反芻して眠りにつくのにかなりの時間を要した。
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次の日からクーガは、様々な出会いを果たした。
「加奈子の能力は一度ハマれば強力だけど……最初の隙がでかないな。テラフォーマーに捕まっちまうぞ」
「じゃあどうすればいいワケ?」
「……マルコス。お前加奈子と同じ班だっけ?」
「ん?おうそうだけど?」
「加奈子の隙をマルコスが補ってやればいいんじゃねーかな。速いしフォローも余裕だろ」
「ってことはオレが加奈子の生命線って訳か?」
「まぁそうなるな」
「グフフ……加奈子君」
「な、何よ?」
「そんな生命線となりえるオレにどうすればいいか……わかるよな?体で何かするのがジャパニーズ仁義じゃないか?ん?」
「クーガこいつ抑えておいて」
「よしきた」
「スミマセンデシタ カナコサマ」
時に仲間と共に戦闘訓練に参加した。
「ねぇねぇクーガ!」
「ん?どうした八恵子?」
「うちからちょっ~とお得な話があるんだけど?」
「どうせろくなもんじゃってなんだこりゃ」
「風呂上がりで牛乳を一気のみしてる最中の唯香さん!胸元見え見えバージョン!!」
「言い値で良い。言ってみろ。後他のバリエーションもあるなら全部出せ!!」
「30種類で、5万!かな?」
「よし買おう。だが盗撮はけしからん。アレックス刑事」
「はっ!何でしょうかクーガデカ長!!」
「残りのブツも押収しろ」
「ウッス!報酬はいかほどに!!」
「2万出す。写真全部回収してオレに寄越せ!」
「いいですとも!!」
「やーん離してよアレックスー!!」
「5万円儲けただけでもいいだろうよ」
「でももっといけるのにー!」
時に友人と馬鹿なこともした。
「まさか風邪ぶり返すとはな……燈がこんな風になっちまうってことは馬鹿は風邪引かないってのはウソってのが証明されたな」
「なんだとテメェ!」
「やんのかコラ!」
「あ、リンゴ剥けたみてーだな。食べさせてくれ」
「切り替え早いなお前。ほれアーン」
「……仲良いなお前ら
「あ、ミッシェル姉ちゃん。燈のこと毎日看病しにきてんのは姉ちゃんも同じだろ」
「家畜に餌やんのは当然だろうが」
「なるほど」
「……俺の扱い酷くなってません?」
当然、燈との時間も大切にした。そんなこんなで、クーガはこの1週間で何人かの仲間と、膝丸燈という1人の友人に恵まれた。
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アネックス1号出発前夜
光陰矢の如しの言うものだ。気付けば、この日だった。膝丸燈やその他の仲間達と過ごす楽しい時間が終わってしまう日の前日。
そんな日でも時計の針は休むことなく、さぼることなく勤勉に、そして無情に進んでいく。カチコチと無機質に進む音が今日に限って耳障りに聞こえて戸手もじゃないが眠れなかった。
時刻は深夜1時。気分転換に外出でもしようと支給された『地球組』の制服に着替えた後、お供に飲み物でも買ってから行こうと自動販売機の前にも立ち寄った。そんな時だった、
「「 ん? 」」
初めて2人が出会った時のやうに小銭を入れようとした手が衝突する。顔を上げると案の定、友の顔があった。
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「いいのかよ夜更かしして?」
「バーカ。こっちの台詞だ。お前は明日出発だろ」
膝丸燈とクーガ・リーは、缶コーヒーを傾けながら夜空を見上げた。この広大な夜空を見上げると、嫌なことなんて忘れられる……と言いたいところだが、そんな訳がなかった。元凶である火星が今日も変わらず不気味に輝いていたからだ。クーガはそんな火星にウンザリしたかのように目を逸らし、燈の身を包む衣装へと目を移した。
「燈。それがアネックスの制服か?」
白を基調とし青い模様やラインが入った外観で、機能面はというと通気性がよく運動性も損なわない、高機能な『アネックス1号』搭乗員共通の制服である。
「まぁな。で、そっちが『地球組』の制服か?」
対してクーガの身を包む制服は、黒を基調として赤い模様やラインが入っていた。アネックスの制服の色違いだ。
「色違いってのは安直すぎる気がするけどな」
「格闘ゲームの1Pキャラと2Pキャラみたくなってるもんな」
「ははっ。本当にそうだな」
力無く笑い、クーガは空で輝く現実と再びにらめっこした。『火星』。明日、燈があそこに旅立ってしまう。ならば旅立つ前に、胸に秘めた彼に対する想いを全てぶつけておかなければ。
「……燈、オレさ」
クーガは、自分の過去、唯香のことが本当に好きだということ、その唯香に事故とはいえ想いを伝えるきっかけを作ってくれた燈に感謝しているということ、人間として『
「クーガ、お前変わったよな」
「変わった?」
「ああ。最初会った印象はよ、無理矢理自分を押し込んで強がってるって感じがしてた」
「……まぁな。弱さを見せないようにしてたし」
「でも弱さを見せて、なんていうか人間らしくなった。本当に変わったよ」
もしそうだとしたら燈、それはお前のお蔭なんだ。そんな台詞をクーガが告げようとした時、燈もまた胸に秘めた想いを漏らす為に静かに口を開いた。
「オレの弱さも、よかったら聞いてくれねぇか」
突如友の口から漏れ始めた弱音に、クーガは一瞬戸惑いを見せながらも、コクリと頷いて燈の話に耳を傾けた。
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燈は、自分の過去を話し始めた。
いじめられていたこと。そんな施設の中で、たった1人だけ自分に声をかけてくれた女の子がいたこと。
その女の子に、恋をしたこと。
その女の子が『AEウイルス』に感染したこと。
その女の子を、救えなかったこと。
その女の子に、想いを伝えられなかったこと。
「さっきよ、クーガは誰かの大切なものを守る、って言ってたよな」
────────
「他の奴等と違って俺にはその大切なものすらなくなっちまった」
───────あたしが痩せていく様がそんなに面白いかっ!毎日毎日……呼んでもないのに見舞いなんか来やがって……!!
「1番大切に掌の中に握ってた筈なのに」
────────あんた私の何のつもりよッ!!バケモノの分際で!!!
「その1番大切なもんだけ落っことしてた」
────────あ……あの……燈くん……あたし……先週は……すごく酷いこと
「いつまでも握ってられると思ってた」
────────……何で?……燈くんは……何でそんなに優しいの……?
「でも、掌の中に残ったのはあいつがくれた優しさだけだった」
────────なに……?もしかして変なこと考えてんの?燈くん
「……なのに」
────────いいよ、考えても
「なのにその優しさをアイツの為に使ってやれなかった」
ポタポタと、燈の瞳からビーダマのような大粒の涙がこぼれだし、次々に地面に吸い込まれていった。
「大好きだって言えなかった!!」
燈の握り拳に、力が入った。
───────────たぶん……これで最後だと思うから……もう
「最後だって思いたくなかった!!」
ゴン、と壁にパンチをメリこませる。燈は生まれつきの『特性』を発揮し、少しずつ体は変異していった。
「アイツの心臓に負担がかかるから!そんな理由でアイツの想いにも応えてやれなかった!オレ……間違ってたのかな?あいつのこと本当に想ってたなら……抱いてやるべきだったのかな……」
燈の中に溜まっていた、想いが水風船のように破裂し、涙を撒き散らした。そして、破裂し終えた後、変異した自分の体を見て、乾いた笑みを浮かべた。
「ハハ……やっぱりそうだったんだ。アイツがくれた優しさをアイツの為に使ってやれなかった。俺は人間なんかじゃない。体の冷たいバケモノだ」
燈がそう言い終えて変異した体の全身を力を抜いた直後、クーガは彼を抱擁した。
「バーカ。ちゃんと熱いじゃねぇか」
燈は力無い様子で、自分を力強く抱き締めた友の言葉にに首を傾げた。
「……何がだ?」
「決まってる。お前の『涙』だよ」
「なみ……だ?」
「まだ…オレにはよくわかんねぇけど、『愛』とか『友情』ってやつはお互いの弱さを見せ合うことだと思う。信頼し合ってるって証拠だろ?」
クーガの言葉に燈は弱々しくコクリと頷いた。それを見たクーガは、言葉を紡いだ。
「『涙』ってのはその弱さの代表格だ。お前さ、その娘の前で泣いたことあんだろ?」
「……ああ」
「だったらきっと伝わってる。こんなに熱い涙流してる奴見たことねぇよ。目玉焼きも焼けちまうんじゃねぇか?」
クーガは微笑みなが燈の頬を伝う涙を制服の袖で拭い去ると、燈が悔やんでいた過去に触れた。
「それによ。お前が最後にその娘を抱かなかったっていうのが……何でお前が優しくない、バケモノって理由になんだよ。
むしろ逆だろ?相手のことを想ったから抱かなかった。獣なら逆に遠慮無く抱くだろ。それこそ相手のことなんか一切考えないでな」
そう言い終えて数秒した後、燈の身体の変異は治まり人間へと徐々に戻っていった。そんな燈を、クーガは再び硬く強く抱擁した。
「お前は人間で……オレの友達だ」
──────────友達になってくれて、ありがとう
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小町小吉は、『自分の隠れ家』とは少し離れた場所で缶コーヒーを傾けていた。最初は自分の隠れ休憩スポットでカップルがにゃんにゃんしてるのかと思ったが、よく目をこらすと自分の顔見知りの若者2人だった。熱く抱擁したその姿を見て、過去の自分と『親友』を2人に投影してしまっていた。
それを見届けた後、誰がいる訳でもない夜空に向かって語りかけた。
「……俺達2人はよ、結局俺だけ生き残っちまったけど、アイツらに、そんな想いさせないでやってくれよな、ティン」
彼は今は亡き友に祈った。願わくば、新しい世代の友人同士を引き裂かないでやってくれと。例え、火星と地球ほどに離れていても。
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「んじゃこれからアネックス1号に搭乗する訳だけど……その前に『地球組』代表クーガ・リーならびに桜唯香へ敬意を込めて総員敬礼!!」
小町艦長の合図と共に、搭乗員100名全員がクーガと唯香に敬礼した。「オレ達の地球を頼んだぞ」、と。その気持ちに応えるように、クーガと唯香も敬礼を返した。敬礼を終えた後、各国の『幹部』が前に出てクーガと握手をかわした。
親交の浅いロシアや中国、ローマの『幹部』との挨拶はアシモフに特別お礼を言ったり、唯香に色目を使いそうになっていたジョセフを威嚇する以外はビジネスライクな形に終わった。
しかし、小吉やミッシェル、アドルフとの別れは流石にツラいものがあった。彼等にポンポンと頭を叩かれた時は、危うく涙をこぼしかけた。
そんな風にして『幹部』の挨拶は終えると、『アネックス1号』の搭乗員は次々に艦内へと乗り込んでいった。
「……いいの?クーガ君?」
「ああ。今アイツの顔見たら多分滅茶苦茶泣くし顔合わせない方が楽だよ」
唯香の問い掛けに、クーガは即答した。別れの際、シーラ達全員に挨拶をかわした。しかし、燈だけはその場にいなかった。どうやらクーガと同じ気持ちらしく、病棟で知り合ったこどもとやらの見舞いをしてそのままこの場に直行したようだ。
うっかり顔を合わせて互いの気持ちを無駄にしない為にも、その場から去ろうとした時だった。
「クーガ!!」
燈の声が響いた。振り返ると、燈が搭乗口の所で叫んでいた。後ろから押し寄せる他のクルーの列を崩し、必死に人波に抗ってクーガの名を呼んでいた。
「今度会ったら一緒にラーメン食いに行こう!スノボも行こう!酒も飲もう!みんなを誘って
燈の口から次々に飛び出してきた約束事は、いずれも彼が恋していた1人の少女と生前約束していたことだった。それをついクーガにぶつけてしまった。昨晩の出来事で膝丸燈の心にクーガ・リーという友の名が刻まれたが故に、飛び出した言葉だった。
「……バーカ!さっさと行けよ!!」
クーガは必死に友の出発を急かした。自分同様に涙が溢れそうになっている彼の姿を見て、彼の言葉を聞いてこれ以上涙をこらえる余裕がなかったからだ。
「そう言うなって!最後に俺から1つ伝えたいことがある!」
「奇遇だな!オレもだ!」
涙をこぼしながら2人の戦士は互いに、涙を吹き飛ばさんばかりの勢いの言葉を放った。それは、惑星間でも聞こえてしまいそうなぐらい大きく、強く辺りに響いた。
「地球を!!」
「火星を!!」
「「頼んだぞ!!」」
2人がそう言い終えて膝をつき泣き崩れた後、燈をミッシェルが、クーガを唯香が抱き締めた。それを見た小町艦長とアレックス、マルコスがオンオンと貰い泣きした数分後、『アネックス1号』は希望と使命、各々の決意、そして友との誓いと共に地球をたった。
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「行っちゃったね」
「……ああ。そうだな」
唯香が運転する軽自動車の中で、アネックス1号が発射時に残した煙が天に向かって伸びている光景にしがみつきながら、クーガは口を開いた。
「唯香さん」
「ふえ?」
「オレ、絶対に地球を守る。燈達が帰って来るこの場所を何があっても守ってみせるよ」
そんなクーガを見て唯香は嬉しそうに微笑んだ。今回の出会いは、彼にとっても間違いなく成長のきっかけになったのだから。
「じゃあ早く研究所に帰ってたっぷり休んでまた特訓しよう!『ゴキちゃん』と『ハゲゴキさん』にお土産も買ったし!」
「……ああ。そうだな。帰ろう」
──────燈。見ててくれよな.
今回はテラフォーマーズの番外編ネタ(二年前の編)も取り入れてみました。燈が百合子ちゃんを抱かなかったのは正しい判断だったんだ、という作者の勝手な考えをクーガ・リーに代弁して貰いました。
感想お待ちしてます\(^o^)/
次回からは地球編がスタートです。
次回は少しクーガと唯香の活動拠点の説明回になると思いまする。
ではでは。