LIFE OF FIRE 命の炎〔文章リメイク中〕   作:ゆっくん

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膝丸燈。コードネーム『セカンド』

                 
『ファースト』ミッシェル・K・デイヴス及び、『サード』クーガ・リーと同じく、生まれながれにして『MO』を持って生まれた存在。


彼との出会いが、クーガの心に変化をもたらす。





第三話 FRIEND 友

 

 

 

ひたすらに、莫大な情報を掻き分ける。一歩間違えば、訪れるのは絶望。しかし、人間というのは非常に厄介なものだ。動物と何ら変わりない好奇心。それが、彼等の足を止めることを許さない。前へ、前へ。それしか、今の彼らに出来ることはなかった。

 

 

「こんなもん……あってたまるか」

 

 

「クーガ。オレにあってお前に足りてないもの……何かわかるか?」

 

 

膝丸燈は、クーガ・リーに向かって勝ち誇った表情を浮かべる。そして、自らの頭を人差し指で指差して一言こう告げた。

 

 

 

 

────────圧倒的な場数の差、だ。

 

 

 

 

「ホー、近頃はエロサイトの無料サンプル動画を見た回数も場数って言うのか」

 

 

膝丸燈とクーガ・リーの両名は、魔王ような一声に振り返った。するとそこには、汚物を見るような眼でこちらを見下すミッシェル・K・デイヴスの姿があった。

 

2人が必死にかぶりついていたパソコンの画面を見れば、『東京マントル』というアダルトサイトのホームページ。そして、購入画面。クーガ・リー名義での購入画面だった。画面を更によく見ると、そこには身長以外が唯香に似ている女優がパッケージを飾っている、18禁物の危ない映像作品が買い物カゴアイコンの中に入っていた。

 

 

「……言いたいことはあるか?」

 

 

「ヤバイと思ったが性欲を抑えきれなかった」

 

 

クーガ・リーはミッシェルに土下座した。恥も外聞もなく土下座した。お願いしますミッシェルお姉ちゃん、唯香さんには黙ってて下さい、と。

 

 

「その噂の唯香だがジョセフに粉かけられてたぞ」

 

 

「はぁっ!?」

 

 

ジョセフ・G・ニュートン。ローマ班の班長にして、ハイスペックイケメンチャラ男。なんとなく嫌な事が起こる予感はしていた。

 

 

燈と出会ってそれとなく雑談していたら、何故かアダルトサイトの話に転じた。清楚系かつロリ巨乳のクーガ好みの女優がいるかいないか、一種の賭けというか、勝負をしたのである。

 

 

結果、クーガ・リーは『東京マントル』にて敗北し、欲望の海にダイブしてしまった。その勝負の僅か30分間の間にナンパされてしまうとは想定外だった。

 

 

止めなくては、と思ったが踏み留まった。よくよく考えてみると自分にはそんなことをする権利はない。ジョセフならチャラいが人は良さそうだ。唯香も幸せになれるのではないか。

 

 

そんなネガティブな思いがクーガの中でグルグルと渦を巻いていると、見かねたミッシェルが溜め息をついて肩に手を置いて口を開いた。

 

 

「クーガ、お前本当にわかりやすいな」

 

 

「へ?」

 

 

「お前が唯香に惚れてるのは周知の事実だぞ」

 

 

ミッシェルが何を言ってるのかわからなかったというかバレていることを認めたくなかったというか、とにかくその言葉の意味をクーガが理解するにはそれなりに時間がかかったが、理解した時には顔が真っ赤な茹で蛸のように赤く染まっていた。

 

 

「な、何言ってんだよミッシェル姉ちゃん!!」

 

 

唯香への気持ちは押し殺していたはずだ。ポーカーフェイスもこころがけていたしバレるはずがない。

 

 

「バレバレだ。唯香の近くいる時のお前……頬がわかりやすいぐらい紅くなるからピカチュウ現象なんて名付けて小町艦長面白がってたぞ」

 

 

「ププッ……随分とでけぇピカチュウだな(ライチュウ5匹分ぐらいあんだろ)

 

 

思わず燈が噴き出すと、クーガは燈をギロリと睨んだ。そんな2人に構わず、クーガの真意をミッシェルは追求した。

 

 

「お前のことだ。私達に弱味を見せたくねぇとか余計な気遣ってたんだろ?」

 

 

ものの見事に図星である。

 

 

ミッシェルとは何回か実験で会うことがあったのだが、その時から生まれつき『特性』を持つ者同士として、よく話すようになっていた。

 

 

そんな幼い頃からの付き合いで、尚且つわかりやすい性格のクーガのことだ。ミッシェルからしてみれば、手に取るようにわかるのだろう。

 

 

「図星みたいだな。いいかよく聞け」

 

 

ズイッと、クーガの襟を掴んで軽々と持ち上げて強制的に話を聞く姿勢にさせられた。相変わらずの怪力だ。

 

 

「……ひゃい」

 

 

「まず一つ。勘違いしてるようだがお前は『人間』だ。『化け物』じゃない」

 

 

ミッシェルが言及したのは、クーガを追い詰めている要素の1つである『自分を化け物だと思っていること』であった。それをいきなり突かれた。

 

 

「けど……」

 

 

「けどじゃねえ。じゃあ質問する。お前から見て私達(・ ・)は化け物か?」

 

 

「いや……そうは思わない」

 

 

ミッシェルも自分と同じく生まれつき『MO』を持った人間である。自分と同じ境遇の彼女だが、化け物とは思えない。

 

 

普通に息を吸って、吐いて、寝て、食べて、笑って、怒って。そんな『普通の人間』らしい生活を送っている彼女を化け物とは言わないだろう。

 

 

「いや……ミッシェル姉ちゃんは『人間』だ」

 

 

「じゃあ何でお前は人間じゃないんだ」

 

 

「それは……」

 

 

「お前は人間だな?」

 

 

先程の会話の後では頷かざるを得なかった。クーガがコクリと頷くと、ミッシェルは言葉を続ける。

 

 

「人間ってのは不完全なもんだ」

 

 

クーガを降ろして、そっと座らせる。そして、両肩にそっと手を置いた。少年だった頃、泣き虫だったクーガを励ましてくれた、あの時のミッシェルと同じだ。彼女はクーガに、ゆっくりと語りかけた。

 

 

 

「人間は動物みてぇに強い牙も厚い毛皮もねぇし、独りでは生きていけねぇ。だからこそ、人間手を繋ぎ、信じ合うことを覚えた。だから弱くたっていいんだよ。少なくとも私には冷たい『戦闘マシーン』を信頼できないし、『地球』を任せられねぇな」

 

 

ミッシェルの言葉を聞き終えた後、クーガは自分の考えの脆さに気付いた。確かにミッシェルが言ったことはその通りだがしかし、同時に疑問も涌いて出てきた。

 

 

「……何かに依存すると人間は弱くなっちまうんじゃねぇか?特に、何かを愛するとさ」

 

唯香のことをふと思い出した途端、その言葉が飛び出してきた。だから、自分は唯香と一線を引いてきたのである。愛は、人を弱くしてしまいそうな気がしてならなかった。

 

 

「確かにな」

 

 

ミッシェルはあっさりと、クーガの言葉を肯定した。

 

 

「人は、誰かを愛すると弱くなる」

 

 

「……だったら」

 

 

「けどな。それは本当の弱さじゃない」

 

 

クーガは、ミッシェルの言葉に首を傾げた。弱さではない、本当の強さとは果たしていったいどういうことなのだろうか。

 

 

「それは人間の強さだ」

 

 

「……弱さが、人間の強さ?」

 

 

「ま……後は自分で考えるんだな。今のお前には悩みも共有できる奴もできたみたいだし」

 

 

クーガの肩を優しくポン、と叩いたかと思えば、ミッシェルは立ち上がり燈の耳を乱暴に引き寄せた。

 

 

「燈テメェ『地球組』の戦闘は見に来れなくて『東京マントル』は特等席で見やがって……どういう了見だ?ア?」

 

 

「イデデデデデ!!ちょっミッシェルさん!!さっきまでのお姉ちゃんモードどうしたんですか!!つうかクーガも共犯でしょ!!」

 

 

「そのクーガをそそのかしたのはどこの誰だ?……ったく風邪だって聞いてたのにとんだ回復力と性欲だな」

 

 

「いやそれ程でも…へへっ」

 

 

「誉めてねーよブタ野郎」

 

 

燈の肉体も精神もオーバキルされた後、ミッシェルはガサゴソと懐から包みを渡した。

 

 

「……これは?」

 

 

「見舞いだ。取っとけ」

 

 

「ミッシェルさんツンデレですね」

 

 

燈が正直な感想を漏らした途端にミッシェルの鉄拳が食い込み、彼の意識がブラックアウトするまでそう時間はかからなかった。

 

 

 

 

────────────────

 

 

─────────

 

 

 

「……これだからミッシェルさんは最高だぜ」

 

 

「マゾヒストの申し子かお前は?」

 

 

ミッシェルにノックダウンされた燈に肩を貸し、のろのろよたよたとしたスピードで二人は食堂へと向かっていた。

 

 

端から見れば熱い友情に結ばれた二人だが、蓋を開ければ全く情けない事情が込められている。

 

 

「わかってねーなクーガ。あれはきっとアメリカ式のツンデレアピールだっての」

 

 

「どうポジティブに解釈したらそんな風に受け取れんだよ!純然たる暴力の一撃だったろ!!」

 

 

「おいおいクーガ。ミッシェルさんに貰ったこいつが目に入らねぇか?」

 

 

燈はドヤ顔で、ミッシェルから貰った茶封筒をクーガに突き出した。しかし、それをビリビリと開けて中身を見てみれば、中から出てきたのは『東京マントル1000ポイント分カード』だった。

 

 

「フフッ……」

 

 

クーガは笑いを堪えきれず、つい噴き出してしまった。ミッシェルらしい皮肉が効いたプレゼントである。チラッと燈の表情を伺ってみると、彼はこの世の終わりを迎えたかのような顔をしていた。

 

 

「……何でだよ」

 

 

「オレに聞くな!性事情がオンラインになってる奴なんて初めて見たからわかんねぇよ!!」

 

 

「こうなったらクーガ。お前も道連れだ」

 

 

「肩貸して貰ってる相手に言う台詞じゃねぇよな?」

 

 

「スミマセンデシタ」

 

 

なんだかな、とクーガは思った。こんなに同世代の人間と話をしたことはなかったから、よくわからない。

 

 

しかし、友人っていうのはこういう感覚なんだろうか。こそばゆく、くすぐったい。燈と話をしていると、そんな感覚がクーガを包んでいた。

 

 

「…………そういや」

 

 

クーガが何かを思い出したように人差し指を立てる。ミッシェルは、先程「『私達』が化け物に見えるか」と言っていた。『私達』とは、ミッシェルとクーガだけでなく、その場にい後1人も含まれていたはずだ。

 

 

「……燈。お前もオレと『同じ』なのか?」

 

 

「質問の意図はわかんねぇけど……考えてることは多分一緒だな。ああ、そうだぜ?」

 

 

燈はあっさりと答えた。そういえば聞いたことがある。

 

造られた子(セカンド)』と呼ばれる、自分やミッシェルと同じく、生まれながらにして『MO』を持つ人間がもう一人いると。目の前にいる人間がそうだとはまさか夢にも思わなかった。

 

 

「似てる、せいかな」

 

 

燈が突然呟く。

 

 

「俺、お前と話してると楽しいわ」

 

 

「そ、そうか?」

 

 

「マルコスとかアレックスっていう奴等も友達なんだけど……完全にタメの奴とこうやってじっくり話すの初めてかもしれねーな」

 

 

「オレは今日が初めてだよ。友達なんてできたことないし……作る機会なんてなかったし」

 

 

 

そっか、と燈は相槌を打つ。

 

 

「んじゃ俺が初めての友達ってことでいいか?」

 

 

「……友達?」

 

 

「ああ。友達だ」

 

 

燈はクーガの拳に自らの拳をコツンと当てると、ニカッと笑ってそう言ってくれた。

 

 

「友達って訳で一緒に共倒れしてくれるよな?」

 

 

「……は?」

 

 

嬉しいという感情の『う』の文字が出たところで、クーガは豆鉄砲を食らった鳩のような表情を見せた。『共倒れ』とは一体どのような意味だろうか。

 

 

燈の言葉を反芻している最中、いつの間にかミッシェルの鉄拳制裁のダメージが回復したらしく、燈は全力疾走を始めた。

 

 

このタイミングでダッシュして自分から離れる意味と、『共倒れ』という言葉の意味も考えた結果、クーガの頭の中である仮説が浮かんだ。

 

 

〝燈は性癖がバレたことでヤケクソになり、自分の性癖もバラそうとしているのではないか?〟

 

 

だとすれば不味い。 この先の食堂にはかなりの人数の各国の人間が集まっているはずだ。今日、アシモフとの試合を見て自分のことを尊敬の眼差しで見ていてくれた人物達の評価も、一転してしまうかもしれない。英雄から一気に変態に不名誉な転落(ジョブチェンジ)をしてしまう訳だ。

 

 

だとすれば、逃す訳には行かない。

 

 

「燈ィ!!」

 

 

「うおおおおお速ええええええええ!!」

 

 

しかしタッチの差で食堂への扉を開かれてしまった。そして、開口一番。

 

 

「みんな聞いてくれ!!オレが金髪巨乳を好き好んでることは知ってるよな!?」

 

 

それを女子のある者は「うん知ってる」と頷き。

 

 

それを女子のある者は「こいつは突然何を言ってるんだ」と言いたいかのように蔑んだ眼で見て。

 

 

男の大半は「うおおおおお!!おっぱい!!おっぱい!!」「カワイイは正義!!」と訳の分からない盛り上がりを見せた。

 

 

目の前に異常な光景に思わず

 

 

「なんだよこの新手の宗教!!」

 

 

と、クーガはツッコんでしまう。

 

 

「そしてたった今ツッコんだこちらの男前!!今日素晴らしい戦いを見せてくれた『地球組』のエース、クーガ・リー!!オレは見なかったけど!!オレ達とは一週間ぐらいしかいられないけど仲良くしてやってくれ!!」

 

 

一斉に拍手が起こる。こういうのは生まれてから一度もなかったから慣れてない。ひたすらこそばゆかった。

 

 

「さてさて!ではそのクーガさんに早速性癖を暴露してもらいましょうか!!」

 

 

「えー皆さん!オレはロリ巨乳が大好きです!って何言わせんだ!!セオリーはまず名前とかだろうが!」

 

 

とはいえ言ってしまったものは仕方ない。

 

 

先程、昼間の戦闘で負けたものの、鮮やかにかっこよく決めたクーガにアプローチしようとしていた数名の女性陣も、『ロリ巨乳』というワードを聞いた後には、

 

 

「え、ロリ?危ない人…?」

 

 

「多少イケメンでも無理!!」

 

 

等、完全にクーガが対象外物件になったであろう声が聞こえてきた。しかし、その様子を見たクーガは慌てて更にとちくるう。

 

 

「誤解だ!オレはロリ巨乳が好きなんじゃねぇ!」

 

 

息を大きく吸い込んで、

 

 

「オレは唯香さんが好きなの!わかる!?」

 

 

ロリ巨乳好き、という当たらずとも遠からずな誤解を解く為にソウルの叫びをシャウトしてしまった訳だが、自分は今何を言ってしまったのか。何をやらかしてしまったのかわかった時にはもう遅かった。

 

 

隅の方を見れば、小町艦長とアドルフと、昼間に唯香と共に試合を見ていた若者5人と、顔を真っ赤に染めた唯香が、フライドポテトの山を囲みながらこちらを呆然と見てた。

 

 

クーガは、今日再び燈を睨み付けた。自爆したのは彼自身だが、導火線を引いたのは燈である。怨んでも仕方ないだろう。クーガがウルウルと泣きそうな瞳でこちらを睨み付けているのを見て燈は一言、申し訳なさそうに告げた。

 

「い、今のオフレコでお願いしまーす」

 

 

「もう手遅れだクソッタレがあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

────────アネックス1号出発まで後6日

 

 

 

 

 

 

 

 







クーガと燈が友達になった回でもありましたが、いかがでしたか。少しでも楽しんでいただけたなら凄く嬉しいです。


感想お待ちしています\(^-^)/



次回、アネックス1号が地球を旅立ちます。






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