LIFE OF FIRE 命の炎〔文章リメイク中〕   作:ゆっくん

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トランペッター(世 界 の 終 わ り を 告 げ る 者)【聖書】


trumpeter,Trumpeter


七つの魔笛を吹きならし、七つの災いを呼び覚まして世界を終わらせる天使達とその事象を指す。タロットカード20:審判〝Judgement〟のモチーフとなっている。








第二十六話 FALLEN_ANGEL 失楽園

 

 

 

 

エンジェルトランペット

 

 

学名『Brugmansia』

 

 

人間に何かを与えるとろくな結果にならない。

 

 

禁断(エデン)の林檎〟や〝原始(プロメテウス)の炎〟がいい例だ。

 

 

この花も例外ではなく、()()の手に渡ったことにより数々の悲劇を引き起こしてきた。

 

 

この花の毒物(アルカロイド)『スコポラミン』から生み出された薬剤は皮肉なことに、花の名前とは正反対の『悪魔の吐息』という呼び名で呼称され犯罪者の間で広く流通する。

 

 

『スコポラミン』は相手の自由意思を奪い去るだけでなく、記憶を消去しあらゆる行為に対して罪悪感を覚えさせずに行使させてしまう。

 

 

犯罪者にとっては夢のような毒物(プレゼント)

 

 

被害者にとっては悪夢の毒物(トリガー)

 

 

エンジェルトランペット。

 

 

聖書で語り継がれてきた七つの災いと七つの魔笛、世界の終焉が名前の由来となった魔の花。

 

 

彼の本性を知った人々が『偽り・愛嬌・変装』といった花言葉を名付けるのも当然と言える。

 

 

生憎と、天使という言葉から連想される慈愛の心をこの花は持ち合わせていないのだから。

 

 

 

 

 

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アメリカ軍艦『ブラックホーク』艦上

 

 

夜の闇を冷たい潮風が切り裂き、船上の戦場を吹き抜ける。同時にエドの袖口から白い花弁が漏れる。それは風に吹かれて紙吹雪の如く空を舞い、無骨な夜を彩った。しかし、それに見惚れる意思すら敵には与えられない。皆同様に目を虚ろにさせ、口端から涎を垂らしている。

 

 

そんな部下達を見て『マイケル・コクロ』は必死に考えを巡らせた。必死に、必死に生きる為の算段を弾き出そうと頭を回転させる。

 

 

船内にいる50人程の部下はエドの発する毒にまだやられていない。しかし、外にいる千人の軍勢を奪われてしまったのだからこちらに勝機は一切ないだろう。それどころか下手をすれば、残りの手駒まで奪われてしまう。

 

 

また、この船にはエドの毒を防ぐことが出来る防護服やガスマスクは備え付けられていない。まさに八方塞がりである。

 

 

「ど……どうすればいいんでしゅか?ねぇ!?」

 

 

先程までの威勢が嘘だったかのように、『マイケル・コクロ』はゴミ扱いしていた『バグズトルーパー』の部下の1人にすがりつく。囚人服の袖口を何度も引っ張り、知恵を乞う。

 

 

その情けない姿を見た『バグズトルーパー』達は即座に判断した。この『頭脳(あ た ま)』は、もう機能していないと。故にもう従う必要はなく、むしろ不要な部分であると。

 

 

「もうアンタにゃ従わねぇ!!オレ達はオレ達でトンズラこかせて貰う!!」

 

 

「あっ!待って下しゃ」

 

 

「触るんじゃねぇクソデブが!!」

 

 

『マイケル・コクロ』は袖を引っ張っていた部下に突き飛ばされ、クサフグの『特性(ベース)』を発揮した丸みを帯びた体は壁へと叩きつけられた。

 

 

「アハハハハハハハハ!!」

 

 

自らの元から去っていく部下達の背中を見て、彼は壊れたゼンマイ人形の如く肩を激しく揺らして笑い始めた。

 

 

ここから逃げることが出来ると思っている部下達の姿があまりにも滑稽だったからである。

 

 

「無理でしゅよ!不可能でしゅよぉ!!」

 

 

だって。何故なら。

 

 

「あっ、貴方はそっちで貴方はこっちです。『薬』を使う準備も一応しておいて下さいね?」

 

 

甲板の上で天使のような笑顔で淡々と大虐殺の為の準備を進めているエドの姿は、悪魔かそれよりも邪悪な何か(・ ・)にしか見えなかったから。

 

 

 

 

 

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太平洋沖、アメリカ軍艦『ブラックホーク』から2km離れた地点のモーターボートの船上にて。

 

 

ユーリは神妙な顔付きでレナ伝で聞いたルークからの伝言を反芻する。エドが敵を欺く為にプロフィールを自力で改竄し、自分達をも欺いていたということを。

 

 

「敵を欺くならまず味方からとはよく言ったものだな。どうやら私達も彼にしてやられたようだ」

 

 

ユーリは溜め息をついてエドの言動や態度を思い出した。確かに彼の言動及び行動から読み取れるズレをユーリは感じていた。彼の不自然なまでに肝の座った行動も、これで説明がつく。

 

 

「随分な役者のようだな彼は」

 

 

 

──────そうですね。でもこんなに可愛い人が隣にいるんですよ?隣にいる間ぐらい危険から守らないと嘘ですよ。ね、ユーリさん

 

 

 

「あの〝せりふ〟も〝うそんこ〟だったのか?」

 

 

レナはレナで「可愛い」と言って貰えたことが嘘だったかもしれないというショックで、口を尖らせている。しかし、今はそんな場合ではない。救援に行くか否か。どちらを選ぶにせよ、迅速な判断が求められるのだから。

 

 

「私が助けに行こう」

 

 

ユーリは即座に言い切った。それを見たレナは、こてんと首を傾げてユーリに尋ねる。

 

 

「ゆーり は 〝うそんこ〟が きらいだって くーがはいってたぞ?」

 

 

ユーリは過去に酷く裏切られた経験がある故に疑心暗鬼に陥り、嘘や裏切りを酷く嫌っていると聞いていた。そのユーリが何故、助けに行くことを即座に決断したのだろうか。

 

 

「……ああ、確かに嘘もペテン師も私は大嫌いだ。しかしな、私を信じて『あの男(エ ド)』を任せてくれた『(クーガ)』を裏切りたくないのだよ」

 

 

〝嘘や偽り〟を恐れて〝疑心〟という貝殻に閉じこもっていた自分に、人を信じることを少しでも思い出させてくれたクーガの信頼に応えたい。ユーリの原動力はそれだった。

 

 

それに。

 

 

 

──────助けたいんです、『友達』を

 

 

 

初めて会った時のエドのあの言葉が、嘘だとは思えなかったから。

 

 

「おっ、まてぃ。わたしもいくぞ」

 

 

「ああ、君はボートで待機を」

 

 

「わたしだってくーがの〝しんよー〟にこたえたいぞ。それに〝しんじん〟は いいやつだ」

 

 

レナもまた同様に、一度裏切ってしまった自分とアズサを仲間として迎えてくれたクーガの信頼に応えたかった。

 

 

それに、レナはエド自身から直接言われたのだ。「最後まで信じて欲しい」と。そこまで言ってくれた彼を、助けずに行かない訳にはいかなかった。

 

 

「……だが救出した人質がここまで逃げてくる可能性も含めると、君はここで待機しておいた方が良さそうではあるが」

 

 

「〝ひとじち〟ってあの おじいちゃんか?」

 

 

レナが指差した30m程先には、ゴムボートに揺られてぐったりした軍服姿の老人がいた。

 

 

「ふむ……彼は自分の責務を果たした訳だ」

 

 

「そうだぞ」

 

 

「なら私達も責務を果たさなければいけないようだな」

 

 

「まずはあそこにいる おじいちゃん の〝たいちょう〟をみてからだな」

 

 

 

 

 

 

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アメリカ軍艦『ブラックホーク』艦上

 

 

この船ごと千人の『バグズトルーパー』を葬る準備が出来たエドは、大虐殺を自ら始める直前とは思えない程に穏やかな顔で深呼吸を繰り返す。

 

 

自分の『特性(ベース)』となった植物、エンジェルトランペットは聖書で語り継がれてきた七つの災い及び七つの魔笛を体現することが出来る恐ろしい程の力を有している。

 

 

それを自分は使いこなせるか。

 

 

勿論答えは〝Y()E()S()〟だ。

 

 

過去に自分はどれ程この植物や他の毒物の恩恵を預り、どれ程多くの人々を傷つけたか。故に心得ていた。毒の扱い方も、人の殺め方も。言い訳はしない。自らの穢れた力で、火星へと向かっているたった1人の友の助けになってみせる。

 

 

「準備が整いました」

 

 

虚ろな瞳の『バグズトルーパー』が涎を垂らして話しかけてきた。どうやら、自分が頼んだ全ての作業を終えたらしい。それもそうだろう。1000人もの人間を今、自分は手足として動かせるのだから。

 

 

「皆さん。長らくお待たせしました」

 

 

エドは艦全域に通じるトランシーバーを手に取ると、スピーカー越しに一斉放送を開始した。

 

 

「僕に操られてる皆さん、逃げようと虎視眈々とチャンスを伺ってる皆さん、策師を気取って『地球組』の皆さんを裏切ったフグさん。……裏切ったっていう点じゃ僕も同じくくりに入ってしまいますかね?」

 

 

自分が言えたことじゃないか、とエドは自分がかけていた眼鏡を踏み砕きつつ苦笑した。もし今から地獄の惨状となるこの場から自分も生還出来たのであれば、『地球組』の彼らに謝らなくてはならない。もし生きて帰れれば、だが。

 

 

「……ともかく、誰1人(・ ・ ・)としてこの場所から生きては帰れないことを理解しておいて下さいね」

 

木立朝鮮朝顔(エンジェルトランペット)』は世界の終焉(オ ワ リ)を彩る花である。

 

 

この花がもし、ヨハネの黙示録にて唱われてきた七つの魔笛の力を有するのであれば、この花が開く時世界は終わりを迎えることに疑いはない。

 

 

「全砲門を開放、全銃火器を掃射して下さい」

 

 

 

 

『第一の御使がラッパを吹き鳴らした』

 

 

 

 

艦に備えられた砲門及び兵器群が、一斉に火を噴いた。ただし全ての砲門は真上を向き、一部の兵器群に関しては艦上に向かって直接発射された。

 

 

「はぎっッ!!」

 

 

「ぐるぉぅぉえええええええぁぁっ!!」

 

 

出鱈目にガトリング砲を始めとした銃火器が『バグズトルーパー』達に向かって掃射され、彼らの頭は次々とスイカのようにあっさりと弾け飛び、体中は穴だらけとなった。

 

 

「アヅイ!!アヅイヨ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!」

 

 

更には武器庫にも着火し、そこに収納された手榴弾やTNT爆薬等にも着火し次々と誘爆していった。炎が『バグズトルーパー』の体に燃え移り、古い焼き魚のような匂いが充満していく。

 

 

ガトリング砲の弾丸が切れた頃には四百人分の穴だらけの焼死体、何リットル分かもわからない血の海、そして火の海が軍艦『ブラックホーク』の甲板の上に広がった。

 

 

 

エドは呑気に死体の上に座り込むと、自らが行った惨状を見渡して呟いた。

 

 

「『第一の災い』ってとこですね」

 

 

 

 

『すると、血のまじった雹と火とがあらわれて、地上に降ってきた。そして、地の三分の一が焼け、木の三分の一が焼け、また、すべての青草も焼けてしまった』

 

 

 

 

「ん……?」

 

 

ふと死体の椅子の上で寛いでいると、艦内に潜んでいたであろう『バグズトルーパー』がコソコソと海の中に飛び込んでいくのが見えた。

 

 

恐らく水中でも活動出来る『オケラ』や『ゲンゴロウ』の『特性』を持つ連中であろう。

 

 

「あはは。水中に飛び込まれると僕の毒も届かないかもしれませんね。でも〝あれ〟から逃げ切れるかは僕も保証出来ませんよ?」

 

 

 

 

『第二の御使いがラッパを吹き鳴らした』

 

 

 

 

その光景を一言で現すとしたら、不謹慎ながらも『絶景』という言葉以外に思い浮かぶ筈がない。

 

 

何せ、先程砲門から真上に発射した砲弾が無数の〝巨大な火の玉〟となって、『軍艦』に降り注いできたのだから。

 

 

映画の中でしか見られないような光景が、艦上の『バグズトルーパー』の視界を支配していた。

 

 

「わぁ……綺麗……」

 

 

「たっまやー」

 

 

「アハハハホホホホホホォオホォ」

 

 

「アハハハアハハハアハハハアハハハアハハハアハハハアハハハアハハハアハハハアハハハアハハハアハハハアハハハアハハハアハハハ」

 

 

この綺麗な光景が数秒後の自分達に死をもたらす。逃げている場合じゃない。

 

 

そう解っていても、『バグズトルーパー』達は動けなかった。『エンジェルトランペット』の毒、『スコポラミン』が彼らの自由意思を奪っているからである。

 

 

故にエドの指示には絶対服従。そんなエドに彼らが抗える筈もなく、逃げることすらも許されなかった。

 

 

次の瞬間、無数の〝巨大な火の玉〟は甲板上に落ちて軍艦を次々に大破させただけではなく、『バグズトルーパー』達の身体を潰していった。

 

 

そして、海上にもそれは複数個降り注ぐ。

 

 

「みぎょ」

 

 

「もが」

 

 

海中深くに潜った『ゲンゴロウ』の『特性』を持つ者達はそれを辛くも逃れたが、あまり泳ぎを得意としてないない『オケラ』の『特性』を持つ者達は全て着弾し、死に絶えてしまった。

 

 

艦上だけでなく海そのものにも血が広がり、段々と赤に染まっていく。深紅のグラデーションだ。

 

 

「今のでまた四百人ぐらい死んじゃいましたね。これは『第二の災い』ってとこですか」

 

 

 

 

『すると、火の燃えさかっている大きな山のようなものが、海に投げ込まれた。そして、海の三分の一は血となり、 海の中の造られた生き物の三分の一は死に舟の三分の一がこわされてしまった』

 

 

 

 

「深くに潜った(かた)も逃げられませんよ?」

 

 

エドは大破した軍艦から海へと漏れだす化学燃料を見てほくそ笑んだ。

 

 

環境汚染で問題となるかもしれないが、そんなもの『バグズ手術』の技術が世間に漏れてしまうよりは遥かにマシな筈だから。

 

 

 

 

『第三の御使がラッパを吹き鳴らした』

 

 

   

 

『ゲンゴロウ』は綺麗な水質でしか生きられない淡水生物だ。ただでさえ海水で呼吸しづらいにも関わらず、そこに急激な水質汚染が加わればどうなるか。答えはわかりきっている筈だ。

 

 

「ガボッ…!ゴバァ!!」

 

 

海中で呼吸することも出来ずに、ただ沈むだけ。海の藻屑に変わるだけである。

 

 

 

「『第三の災い』です」

 

 

 

 

『すると、たいまつのように燃えている大きな星が、空から落ちてきた。そしてそれは、川の三分の一とその水源との上に落ちた。 この星の名は「苦よもぎ」と言い、水の三分の一が「苦よもぎ」のように苦くなった。水が苦くなったので、そのために多くの人が死んだ』

 

 

 

 

死屍累々の光景をエドが得意気に見渡していると、急にバタバタと何かが空気を斬る音が聞こえてきた。音源の方へ首を傾けてみると、エドの目にショッキングな光景が飛び込んできた。

 

 

「……あ」

 

 

奇跡的に無事だったヘリポートから、艦内に潜んでいた『バグズトルーパー』四人組がヘリへと乗り込み飛び立っていく光景だった。

 

 

「ギャッハッハッ!バーカ!!」

 

 

「自分で船に積んである兵器全てを潰しやがって!!」

 

 

「おかげでオレらも撃墜の心配なくヘリを使えんだよ!」

 

 

「やっぱりオレらは王道を征く……空からの脱出だよな」

 

 

四人共ヘリならばエドの毒が届かないと判断し、余裕の表情でヘリの上からファックサインで挑発している。

 

 

それを見たエドは溜め息をついて、トランシーバー越しにサーチライトを担当させた者に指示を出した。

 

 

「彼らをド派手に照らしてあげて下さい」

 

 

 

 

『第四の御使がラッパを吹き鳴らした』

 

 

 

 

「うおっ!?眩しっ!!」

 

 

ヘリの操縦を務めていた人物が、急激なライトアップに思わず目を閉じた。しかし、数秒もすれば『明順応』が働き目も慣れてくる。

 

 

手元を狂わせてヘリが墜落するという漫画のようなご都合展開が起こる筈もなく、ヘリはそのまま大平洋の彼方に向かって飛び立とうと体制を立て直した。

 

 

「『第四の災い』。災いと呼ぶには生易しいですけど、これから起こることの下準備だと思えば、ね」

 

 

 

 

『すると、太陽の三分の一と、月の三分の一と、星の三分の一とが打たれて、これらのものの三分の一は暗くなり、昼の三分の一は明るくなくなり、夜も同じようになった』

 

 

 

 

「ライトごときで沈むかよ!!」

 

 

「しかし船の上すげーことになってんな……くわばらくわばら」

 

 

「巻き込まれなくてよかったわ、ホント」

 

 

ヘリで今まさに逃亡を図ろうとしていた『バグズトルーパー』達4人は、船の惨状を見てほぼ皆同様に顔を歪めていた。

 

 

そんな中、1人だけが何かを思い出そうと眉をしかめていることに他の3人は気付く。

 

 

「ん?お前どうしたんだよ?」

 

 

「……いや、オレ昔教会に通うことを強いられてたから覚えてるんだけどよぉ……あいつが今やってる殺しの手順って聖書の何かに似てるんだよなぁ。なんだったかなぁ。何か嫌な予感がする」

 

 

「大丈夫だって安心しろよぉ!兵器(・ ・)壊れてるからヘーキ(・ ・ ・)ヘーキ(・ ・ ・)!!」

 

 

一人の『バグズトルーパー』が不意に口にした寒い駄洒落を皮切りに、ヘリの中は静まりかえる。

 

 

ただ、先程の聖書の記述とエドのやり口を照らし合わせていた者の顔は浮かばなかった。昔教会のシスターから教わった聖書の記述が、彼の頭に暗い影を落としていたからだ。

 

 

 

 

『また、わたしが見ていると、一羽のわしが中空を飛び、大きな声でこう言うのを聞いた

 

ああ、わざわいだ、わざわいだ

 

地に住む人々は、わざわいだ。

 

なお

三人の御使がラッパを吹き鳴らそうとしている』

 

 

 

 

「さて…本当に困りましたね。確かに兵器無しじゃヘリは落とせない。弱ったなぁ」

 

 

エドはニヤニヤと去ろうとするヘリを見てほくそ笑んだ。あの程度の速度であれば対処出来る手駒達(・ ・ ・)が、手元にあるからだ。

 

 

 

 

『第五の御使がラッパを吹き鳴らした』

 

 

 

 

無数の桁ましい羽音が、辺り一面の空気を引き裂いた。当然ヘリに乗っている彼らにもその異常は伝波し、周囲を警戒させる。

 

 

「何だこのミニ扇風機レベル100みてぇな音?」

 

 

「ヘリのジャイロ音じゃねぇし……」

 

 

周囲を見渡しても、何も原因らしきものは見当たらない。そんな時であった。

 

 

「……おい!!」

 

 

突如、先程聖書と照らし合わせていた男が外を見て眼球をこれでもかと見開き叫んだ。

 

 

「あん?どうしたんだ?」

 

 

「あれだよ!あれ!!」

 

 

男が指差した先には軍艦から立ちこめた黒煙が、天まで届かんばかりにもくもくと伸びていた。

 

 

 

 

『するとわたしは、一つの星が天から地に落ちて来るのを見た。この星に、底知れぬ所の穴を開くかぎが与えられた。そして、この底知れぬ所の穴が開かれた。すると、その穴から煙が大きな炉の煙のように立ちのぼり、その穴の煙で、太陽も空気も暗くなった』

 

 

 

 

「ただの煙じゃねぇか?」

 

 

「何ビビってんだMr.クリスチャン?」

 

 

「ちげぇよ!オレが指差してんのはあの中にいる連中だ!」

 

 

「は?」

 

 

次の瞬間、立ち込める黒煙の中から20人程の黒色の表皮に身を包んだ『バグズトルーパー』が姿を現した。『サクトビバッタ』の『特性』を持つ者達が、『薬』の過剰接種によって〝群生相〟の姿へと変貌したのである。

 

 

翅を得た『砂漠飛蝗(サクトビバッタ)』の群れは、エドの指示通り容赦なくヘリに襲いかかった。

 

 

「う、うわあああとおおお!!」

 

 

「やめろよぉ!目ェ覚ましてくれよぉ!!」

 

 

「うわ゛あ゛あ゛あ゛!!」

 

 

彼等はその脚力を活かしてヘリに深い傷を負わせて炎上させただけでなく、自らヘリのプロペラに飛び込んで機体の制御を阻害した。

 

 

最も、飛び込んだ者は身体の一部を残してほとんどスクランブルエッグのようにぐちゃぐちゃに引き裂かれてしまったが。

 

 

 

数秒後、上空で爆発したヘリを見てエドは大きく背伸びした。

 

 

「さてさて……『第五の災い』も再現しちゃいましたね」

 

 

 

『その煙の中から、いなごが地上に出てきたが、地のさそりが持っているような力が、彼らに与えられた。 彼らは、地の草やすべての青草、またすべての木をそこなってはならないが、額に神の印がない人たちには害を加えてもよいと、言い渡された』 

 

 

 

 

「疲れちゃったけどもう一頑張りしないといけませんね。全員殺すだけだったら手っ取り早く終わらせられるんですが、『バグズ手術』の証拠も出来る範囲で綺麗に抹消しないと……」

 

 

エドは溜め息をついた後、死体の上から重い腰を上げた。

 

 

 

 

『第五のわざわいは、過ぎ去った。見よ、この後、なお二つのわざわいが来る』

 

 

 

 

「あ、1つだけ思い付いちゃいました」

 

 

 

 

『第六の御使がラッパを吹きなら鳴らした』

 

 

 

 

「えっと……生き残ってる方で『マイマイカブリ』の『特性』を持ってる方はお返事して下さい!」

 

 

エドが生き残った200人ばかりの『バグズトルーパー』達に呼び掛けると、彼らの中から4人の男女が前に出てきた。それを見てエドはポリポリと頭を掻く。

 

 

「……足りるかな?」

 

 

仮にこの人員では予定していた『計画(プラン)』を実行する力がなくとも、エドにはこの方法以外に思い付かなかった。

 

 

「それじゃあ、お『(くすり)』を接種した後に死体と生き残った皆さんをグルリと取り囲むように四方で待機して下さい。改めて指示をだしますので」

 

 

 

 

『すると、一つの声が、神のみまえにある金の祭壇の四つの角から出て、 ラッパを持っている第六の御使にこう呼びかけるのを、わたしは聞いた。「大ユウフラテ川のほとりにつながれている四人の御使を、解いてやれ」。 すると、その時、その日、その月、その年に備えておかれた四人の御使が人間の三分の一を殺すために解き放たれた』

 

 

 

 

「それじゃあ、『メタアクリル酸』を全力で噴出して下さい」

 

 

エドが離れた場所からトランシーバーで指示を出すと『マイマイカブリ』の『特性』を持った4人の足元から、強烈な臭いを放つ霧状の物質が散布された。

 

 

『メタアクリル酸』

 

 

マイマイカブリが放つ物質の一つで、人体に対しては非常に刺激が強く炎症等を引き起こす。が、これだけでは簡単に死には至らない。

 

 

マイマイカブリはもう一つ、強烈な武器である『消化液』が備わっているが、それで200人全員を処分するとなれば気の遠い話になってしまう。

 

 

ここは手っ取り早く、古典的に葬るのが一番だ。

 

 

「『メタアクリル酸』は発火性(・ ・ ・)を伴う液体です。僕は生物に詳しくないけれど、悪い使い方(・ ・ ・ ・ ・)なら慣れてますしね」

 

 

次の瞬間、四方に広がった『メタアクリル酸』と炎が接触し、火の海はより勢いを増して艦上を蹂躙した。

 

 

「アヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂ」

 

 

炎が猛狂い、その中で『バグズトルーパー』が苦しみ踊り狂う光景。地獄を具象化したようなパノラマがここに生まれた。

 

 

「『第六の災い』。『バグズ2号』の『特性』について勉強してきて正解でしたよ、本当に」

 

 

 

 

『 騎兵隊の数は二億であった。わたしはその数を聞いた。 そして、まぼろしの中で、それらの馬と確認それに乗っている者たちとを見ると、乗っている者たちは、火の色と青玉色と硫黄の色の胸当をつけていた。そして、それらの馬の頭はししの頭のようであって、その口から火と煙と硫黄とが、出ていた。 この三つの災害、すなわち、彼らの口から出て来る火と煙と硫黄とによって、人間の三分の一は殺されてしまった』

 

 

 

 

 

 

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艦内で生き残っていた『バグズトルーパー』達は怯えていた。あの『優男』の采配次第で、自分達の生死は簡単に決まってしまうからだ。こうなれば、手段は一つだ。

 

 

「お、親分!!」

 

 

『バグズトルーパー』達は先程ゴミのように切り捨てた『マイケル・コクロ』にすがりついた。

 

 

銃火器と兵器を奪われた今、最早エドを仕留められる飛び道具を持ち得るのは彼だけだからだ。

 

 

「……今更僕に何の用でしゅか」

 

 

「さ、さっきはすまなかった!頼む親分!!」

 

 

「あいつを倒してくれ!!」

 

 

それを聞いた『マイケル・コクロ』は、溜め息をついて『バグズトルーパー』の頭の足りなさをしみじみと実感した。無理だ。外にいた千人の部下を容易く殺し、果てには軍艦を大破させてしまえるような男に自分が勝てる見込みはない。

 

 

無理に決まっている。

 

 

「諦めんじゃねぇ!!」

 

 

1人の『バグズトルーパー』が、突然『マイケル・コクロ』の頬を全力で殴りつけた。

 

 

『マイケル・コクロ』は何が起こったかもわからないまま、殴られた勢いで壁に叩きつけられた。

 

 

「1度『群れ(チーム)』を率いたからにゃ最後までケツ持ちやがれ!!そんで『頭領(ヘッド)』の務めを果たして最後まで戦え!逃げたり諦めたりすんのはそれからでも遅かねぇだろうが!!」

 

 

その男はヤンキー漫画をかいつまんだような語録を並べ、必死に『マイケル・コクロ』を奮い立たせようとしている。普段であればそこそこ心に響いたかもしれないが、先程の裏切りがあった後では『何言ってんだコイツ』というレベルだ。

 

 

しかし。

 

 

「うっ…うおおおお!!」

 

 

「そうだぜ親分ンンンンン!!」

 

 

頭が悪く短絡的思考の『バグズトルーパー』の心に訴えかけるには、今のスピーチは充分すぎたようだ。

 

 

他の者達が感極まって泣いている姿を見て、意味不明な名言もどきを放った本人すらもいいことを言った自分に酔って泣いている。非常に気持ち悪い世界である。

 

 

ただ、人間とは追い詰められた時、心の拠り所を求めて他人と考えを合わせて一つになろうとする心理が働いてしまうことがある。それが今回、『マイケル・コクロ』の身に起こってしまった。

 

 

「ひっひぎゅっ!ご、ごめんでしゅ!!僕が間違ってたでしゅ!最後まで戦いましゅ!!」

 

 

「よく言ったぜ親分!」

 

 

「それでこそ男だ!!」

 

 

すっかり『バグズトルーパー』達に感化された『マイケル・コクロ』は、涙を拭うとエドを倒す為の話し合いを催した。

 

 

 

 

 

 

 

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「……おや?」

 

 

親玉である『マイケル・コクロ』と残った残党を始末する為に足を踏み入れたエドの視界の中に、一瞬目を疑ってしまうような光景が飛び込んできた。

 

 

『マイケル・コクロ』が、まるでこれから決闘を始めるかのように堂々と仁王立ちをしていたのである。

 

 

「どうしたんですか?改まって」

 

 

「これ以上お前の好きにさせないでしゅ」

 

 

「へえ………具体的にどうするんですか?」

 

 

エドは悪戯気味に含み笑いを見せると、掌を翳して『マイケル・コクロ』に向かって濃縮した『スコポラミン』を放出しようとした。

 

 

その時だった。

 

 

「うおおおおおお!!」

 

 

『メダカハネカクシ』の『特性』を持った『バグズトルーパー』2人が、ワイヤーのような物を手にしてエドの両脇を通過した。

 

 

そしてワイヤーのようなものの正体は、『クモイトカイコガ』の『特性』を持つ者が紡ぎだした鋼鉄の糸。

 

 

「なっ……!?」

 

 

『マイケル・コクロ』に気を取られていたエドがそれに対応出来る筈もなく、『クモイトカイコガ』の糸はエドの首筋を切断した。血が壁一面に飛び散り、首を無くした胴体はバタリとその場に倒れた。

 

 

「……確かにお前は強かったでしゅ。少なくとも僕よりは。でも覚えておきなちゃい」

 

 

自らの足元た転がってきたエドの生首を踏みつけながら、『マイケル・コクロ』は言い捨てた。

 

 

 

 

 

 

 

───────群れっていうのは

 

 

  こうやって動かすものでしゅ

 

 

 

マイケル・コクロは共に悪魔を討ち果たした3人の部下と、力の限り抱擁した。単なる『手駒』とそれを動かす『使い手(プレイヤー)』だった彼らの間に、初めて絆が芽生えたのである。

 

 

「僕はずっと、友達も出来なくて1人ぼっちでしゅた。でもこれで独りじゃないでしゅ!3人がいるでしゅううう!」

 

 

「勿論だぜ親分!」

 

 

「うおおおおおお!やった!やったぜ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………いい幻覚(ユ メ)、見れました?」

 

 

エドの言葉が、ナメクジが這うようにねっとりと『マイケル・コクロ』の体を撫でた。

 

 

「え゛へ゛へ゛へ゛へ゛」

 

 

最も、その言葉も心には届いていないようだが。

 

 

『エンジェルトランペット』が持つ『(アルカロイド)』は何も一つではない。

 

 

勿論エドが多用するのはこの『特性(ベース)』の代名詞ともなっている『スコポラミン』だ。

 

 

相手にまともな思考回路を与えたまま行動を制限する魔の産物。

 

 

しかし、この花の近縁種の代名詞ともなっている『(アルカロイド)』をこの花もまた同様に秘めていた。

 

 

『ヒヨスチアミン』

 

 

多量服用した者に幻覚(・ ・)を見せる天からの贈り物。こちらは『スコポラミン』と異なり対象を制御出来なくなる可能性がある為にエドはあまり好んで使用しなかった。

 

 

こちらに関しては『夢を盗む天使(チョウセンアサガオ)』の『特性』を持つ『マーズ・ランキング十位』の〝イワン・ペレペルキナ〟の方が扱いに長けているのではないだろうか。

 

 

「さて……それじゃあ、遠慮なく」

 

 

エドは『バグズトルーパー』三人の屍を蹴り飛ばすと、意識が朦朧としている『マイケル・コクロ』の前に立ち、袖口からゴソゴソと何かを取り出した。

 

 

それを『マイケル・コクロ』は虚ろな目で見た途端に、心底嬉しそうに表情を緩めた。

 

 

「天使様!一体何をくれるんでしゅか?」

 

 

 

 

『わたしは、もうひとりの強い御使が、雲に包まれて、天から降りて来るのを見た。その頭に、にじをいただき、その顔は太陽のようで、その足は火の柱のようであった』

 

 

 

 

これは重症のようだ。彼が幻覚を見ていることに最早疑いはないだろう。先程まで〝悪魔〟を見るような目で自分を見ていた癖に、今度は掌を返して〝天使〟呼わばりしてきたのだから。

 

 

「……ええ。とってもいいものをあげます。だからこちらに来て下さい」

 

 

エドが呼び掛けると、『マイケル・コクロ』 はまるで赤ん坊返りをしたかのようにハイハイ歩きでこちらに歩み寄ってきた。

 

 

 

 

『第七の御使が吹き鳴らすラッパの音がする時には、神がその僕、預言者たちにお告げになったとおり、神の奥義は成就される。 すると、前に天から聞えてきた声が、またわたしに語って言った、「さあ行って、海と地との上に立っている御使の手に開かれている巻物を、受け取りなさい」』

 

 

 

 

「さぁ、これをどうぞ。とっても甘い飴です」

 

 

エドは満面の笑みを浮かべ、『エンジェルトランペット』の種子を袖口から『マイケル・コクロ』へと差し出した。

 

 

 

 

 

『 そこでわたしはその御使のもとに行って「その小さな巻物を下さい」と言った。すると、彼は言った「取って、それを食べてしまいなさい。あなたの腹には苦いが、口には蜜のように甘い」』

 

 

 

 

「美味しそうでしゅ!いただきましゅ!!」

 

 

『マイケル・コクロ』は涎を垂らしながら、口内に放り込んだそれを心底美味そうにガリガリと食んだ。

 

 

それを見届けたエドは、届く筈もない言葉を目の前の彼に向かってゆっくりと語りかけた。

 

 

「貴方の敗因はただ1つです。〝偽善者〟を侮ったこと。確かに〝偽善者〟は善人としては中途半端な欠陥品かもしれません。でもね」

 

 

エドは『マイケル・コクロ』の首をグイグイと絞め付けながら、言葉を続ける。

 

 

「〝偽善者〟は悪人としては完成している。だから仲間や助けを求めてる人、たった1人の大切な友達を助ける為なら僕はどんな汚れ役だって買ってみせます」

 

 

「ウゲェエエエエ!!」

 

 

エドが言い終えた頃、『マイケル・コクロ』は猛烈な吐き気に襲われ吐瀉物を吐き散らした。

 

 

息を苦しそうにしているのはエドが首を絞めていることも要因ではあるが、大きな原因はそれではない。『エンジェルトランペット』の〝種子〟である。

 

 

〝種子〟の毒性は各部分の中でも群を抜いて強く、この部分から『スコポラミン』を抽出する場合が多いという。数秒後、『マイケル・コクロ』は息絶えた。

 

 

「…………『第七の災い』、ですね」

 

 

エドはそう呟いた後、窓から顔を覗かせる深緑の星、『火星』を見上げてそっと囁いた。

 

 

「……僕も自分なりに務めを果たした。今度は君の番だね、ジョー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『わたしは御使の手からその小さな巻物を受け取って食べてしまった。すると、わたしの口には蜜のように甘かったが、それを食べたら、腹が苦くなった』

 

 

 

─────────────『ヨハネの黙示録』より抜粋

 

 

 

 

 







聖書無双難しい(本音)


おまけ

クーガ
(´・ω・)つ〇


唯香さん
(/>ω<)/   〇シュゴオォオオオ


アズサ
(≧―≦)つ〇


レナ
(・ω・)/ 〇ポイッ


花琳
( ▼ω▼)つ〇




本日は2月14日バレンタインなので

〇←は皆さんへのチョコです(適当)


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