LIFE OF FIRE 命の炎〔文章リメイク中〕   作:ゆっくん

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第二話 PREDATOR 捕食者

 

 

 

 

オオエンマハンミョウ

 

学名『TigerBeetle 』『PredatorBeetle』

 

 

ハンミョウと聞けば、多くの人間はきらびやかで、綺麗な模様や斑点を持つあの昆虫を思い浮かべるのではないだろうか。

 

 

自然界に存在するとは思えない鮮やかな色彩は、外敵に毒性生物を思わせるシグナルを発信し、手を出すことを躊躇わせる。実際に、ハンミョウの中には毒を持った種も存在する。

 

 

また、太陽光を反射し体温の過度の上昇を防ぐ役割も担っている。人間が迫った時といった危険が迫った際にその行動を行うことから、『道教え』とも呼ばれている。

 

 

が、クーガ・リーのベースとなったこの生物には、それらの防衛・逃走の為の機能を全く備えていない。全ては、相手を殺して補食する為に存在する。

 

 

他のハンミョウに比べて分厚くカブトムシやクワガタを思わせる黒い甲皮を持ちながら、動きは俊敏そのものであり、あれらを遥かに上回る。

 

 

また、顎の力は極めて強い。

 

 

見る者によっては嫌悪感を感じる恐れのある、昆虫同士を戦わせてNo.1を決めるという昆虫からしてみればいい迷惑であろうドキュメンタリーにも度々姿を見せることがある。

 

 

暴力的なその力を持っていることから、力技での試合決着が予想された。しかし、予想とは裏腹にこの昆虫は相手の弱点及び、脅威を的確に判断し、そこを責めた。

 

 

結果、甲皮の分厚いカブトムシの首を切断し、猛毒を持つサソリの尻尾を再起不能の状態にまで追い込んだ。

 

 

異常に素早い脚、暴力的な顎、頑強な甲皮、そしてハンミョウ類に共通した動く物に素早く反応出来る動体視力を持ち合わせている。

 

 

これらを用い、捕食対象を追い詰めるその姿から、虎のようだという意味を込めて、『TigerBeetle』。

 

 

あらゆる獲物の弱点を見極め、追い詰めるその姿から、捕食者という意味を込めて、『PredatorBeetle』と呼ばれる。

 

また、生物学上ハンミョウよりも、『ゴミムシ』にその生態は近いと言われている。

 

 

 

 

 

 

 

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シルヴェスターアシモフは、静かに構えながら目の前の脅威を見据える。

 

 

 

男から言わせれば『面白く、興味深い』が大多数、女からすれば『趣味の悪い、昆虫同士を戦わせるドキュメンタリー』でこの生物を見たことがある。

 

 

愛する妻と、妊娠している自分の娘の目の前で見ていたら、胎教に悪いという理由で厳しく叱られてしまったが。

 

 

この昆虫を見た時、率直に思ったのは『馬鹿』。この一言に尽きた。昆虫同士の戦いに限定するならば、この昆虫は確かにほぼ敵無しである。

 

 

だが、自然界では昆虫よりも遥かに大きな外敵が存在する。そんな外敵相手では、そのスペックは意味をなさない。本来であれば逃走を、生存を真っ先に考えるべきである。

 

 

にも関わらず、『オオエンマハンミョウ』は戦うことを時にやめない。やはり無謀を通り越して馬鹿と呼ぶのが正解だ。しかし現在、目の前にいるのはオオエンマハンミョウの能力を持った人間。

 

 

大きさという土俵を取り払って、全ての生物は平等なリングに立たされる。その時、この昆虫はどんな動きをするのだろうか。

 

 

シルヴェスターアシモフは、この昆虫の適合者がいると聞いた時、アメコミに思いを馳せる少年のように胸を踊らせた。いつか()ってみたいと。その適合者が、目の前にいる。

 

 

この昆虫は『ゴミムシ』の近縁種だ。父親は『ミイデラゴミムシ』の適合者である。それが運良くマッチングしたのかもしれない。

 

 

そう悠長にクーガ・リーを考察していた最中、シルヴェスターアシモフの頑強な甲殻で守られているはずの腕から血が噴き出した。

 

 

見てみると、比較的柔らかい節目の部分を中心に、周囲の肉が抉り取られていた。甲殻と比べるとまだ柔らかい、弱点の部分を狙ってきたのだろう。

 

 

「フンッ!!」

 

 

アシモフが力を入れた途端、一瞬で抉り取られた部分が復活した。強靭なパワーと、恐らく右に出る者はいないほどに硬い甲殻に、驚異的な再生力を見せつける。

 

 

これが、シルヴェスター・アシモフ。これが、マーズランキング第3位。

 

 

 

 

 

 

 

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「どこのナメック星人だよ……」

 

 

みるみるうちに再生したアシモフの『特性(ちから)』を見て、クーガ・リーは理不尽だと言わんばかりに呟いた。しかし、同時に気分が高揚していくのも否定できなかった。

 

 

自分が強さを発揮すればするほど、地球で事件が起こらないか杞憂している『アネックス』クルー達を安心させられる。 逆にアシモフが強さを発揮すれば、火星での任務を不安に思っているであろう搭乗員達を安心させられるだろうし、士気も高まる。

 

 

こんなにも『有意義な戦闘』はない。

 

 

幼い頃経験した、ただ命を奪い合うだけの『無意味な戦争』とは全く異なる。大嫌いな父親の遺伝なのか、この手の戦闘は本当に大好きだ。

 

 

「戦闘大好きって……あっちがナメックならオレはサイヤ人かっての……」

 

 

自嘲気味に呟いた後、クーガ・リーは再びシルヴェスター・アシモフに向かって駆け出す。自らのベースとなったオオエンマハンミョウには、特に特別な能力は備わっていない。

 

 

小吉の『オオスズメバチ』のように無限の体力、猛毒、多彩な技を備えていない。アドルフの『デンキウナギ』のように発電もできなければ、ミッシェルの『爆弾アリ』のように相手に7つの傷を持つ男顔負けの炸裂拳を放つことも出来ない。

 

 

自分の『オオエンマハンミョウ』は硬く、速く、強いだけだ。しかし、逆に言えばそれがある。強者と呼ぶにふさわしい要素が全て備わっている。

 

 

もし大きさという概念をなくし

 

 

 

「……来やがれ」

 

 

 

全てを平等に出来たのであれば、この生物は全ての生物の中で間違いなく最強である。

 

 

「これでも不満かよ!じいさん」

 

 

アシモフの眼前でクーガは大きく跳躍し、腕を抱え込み体を丸める。その状態で回転しつつ、アシモフの頭上を飛び越す。

 

 

そして、回転し乱れる世界の中でアシモフの両肘、両膝の関節に狙いを定めた。両手に備えられ、研ぎ澄まされたオオエンマハンミョウの二対の大顎が、それらを一瞬で引き裂いた。暴力的かつ寸分の狂いもなく正確に。

 

       

筋を断裂された『赤き腕を持つ帝王(タスマニアンキングクラブ)』は、四つん這いになることも許されずに地面に倒れる。クーガは着地し、両腕の顎についた体液を振り払った。

 

 

 

 

 

 

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決着した瞬間、強化ガラスで仕切られた仕切られた客席から歓声が湧いた。小町小吉はこちらに親指を立ててサムズアップしている。アドルフ・ラインハルトは拍手を送っている。

 

ミッシェル・K・デイヴスも表情が綻んでいるし、その隣にいる5人の若者は、尊敬すら感じられる眼差しでこちらを見ていた。桜唯香も嬉しそうにクーガに向かって笑いかけている。

 

 

しかし、クーガの表情は浮かばなかった。仕留め(・ ・ ・)損ねた(・ ・ ・)から。

 

 

「……その拍手はよ、後ろのじいさんに取っておいてやってくれねぇか?」

 

 

クーガのその言葉を聞いた瞬間、観客の大半が首を傾げる。しかし、その言葉の意味を理解するのにそう時間はかからなかった。

 

 

絶対的捕食者(オオエンマハンミョウ)』の首に『赤き腕を持つ帝王(タスマニアンキングクラブ)』の腕がかかり、呆気なく勝負はついてしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

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クーガ・リーが瞳を開ければ、目の前は見知らぬ天井が広がっていた。真っ白な天井。恐らくここは、UーNASAと併設されている病院だろう。

 

 

「おう。目ェ覚めたか?」

 

 

突然かけられた声の方向に首を傾ければ、先程自分の意識をブラックアウトさせたシルヴェスター・アシモフがいた。

 

 

「……じいさん。ナイスファイトだったぜ?」

 

 

「当たり前だ。ロシア人の恐さってのが嫌ってぐらい身に染みただろう?」

 

 

「お陰様でな。あんな物理的な手段じゃなくてもいいと思うが」

 

 

皮肉やジョークを飛ばしあった後、両者は握手をかわした。

 

 

「まさかスレスレのところで筋への攻撃を反らしてくるとは思わなかったぜ。何でわかった?」

 

 

自分が一撃を入れた時、アシモフは何らかの手段で筋への攻撃を反らした。自分で言うのもなんだが、反応できる速さではなかったはずである。事前に予想していないと避けることなどできない。

 

 

「なぁに。簡単なことだ。〝お前が強いからだ〟」

 

 

「いや少年漫画にありがちな意味深な言葉はいいからさっさと教えてくれ」

 

 

アシモフはクーガのややきつめの言葉に怯んだ後、ゴホンと咳払いして仕切り直す。

 

 

「簡単に言うとだ。お前は弱点を狙ってるのが見え見えな訳だ」

 

 

アシモフは言葉の間を取るように葉巻を口に含み、煙を吐き出した。

 

 

「……ナチュラルに威厳出してーのはわかるけどさ、病院で煙草吸うのはどうかと思うぜ?」

 

 

「……すまん」

 

 

2回目のダメ出しとあって、流石にショゲた様子を見せるアシモフ。体は頑強だが精神面はやや脆いのかもしれない。

 

 

「続けるぞ。いくら弱点を突き、それを実行する力を持っていたとしてもそれに頼りすぎれば相手に読まれる。自分よりも実力で上回っている相手にはまずオススメしねぇ」

 

 

クーガはアシモフの言葉に頷いた。少なくとも今までは読まれたことはなかったが、先程のような離れ業を見せられたのでは頷かざるを得ない。

 

 

「つまり、最強ってのは弱点にもなるって訳だ。フェイントとかができりゃまだ話は変わってくるが……お前はフェイントが出来ない。違うか?」

 

 

クーガは、驚いたような眼でアシモフを見た。事実だったからだ。

 

 

「……何でわかるんだ? 」

 

 

「俺が何人の軍人を指導してきたと思ってる。お前は良くも悪くも自分のベース生物に良く似た性格をしている。殺気がマルワカリってこった」

 

 

クーガも、ベースとなった『オオエンマハンミョウ』も、本気で殺しにかかってくる時とそうでない時のオンオフスイッチが非常にわかりやすい。

 

 

普段は基本的に大人しく、温厚。しかし、いざ獲物が迫ったとなれば殺気剥き出しで攻撃してくる。普段とのギャップが激しければ激しいほど、それはわかりやすい。

 

 

「お前よりも地力で上回っているのは『幹部』ぐらいなもんな上に、そうホイホイと現れるもんでもない。だがな。もし万が一現れたらどうする?」

 

 

クーガは口をつぐむ。『地球組』の暫定的な強さを現す、いわば地球版『マーズランキング』がもうすぐ発表されるようだ。ベタな名前だが、『アースランキング』と呼ばれることになる。

 

 

暫定的だが、自分が一位でほぼ確定しているらしい。逆にもし自分が破れれば、自分を破ったその敵に対抗できる者はいないということだ。そのことが、クーガを焦燥感に駈り立てていた。

 

 

「じゃあ…オレは…どうすりゃ」

 

 

「強みは……弱みにもなりえる。今日のあの一瞬で痛いほどわかった筈だ。だが……また逆も然りだ」

 

 

〝最弱は最強になりえる〟

 

 

その一言でアシモフが言いたいことがわかった。

 

 

『ミイデラゴミムシ』

 

 

父から遺伝した、秘められたもう一つの『特性』。テラフォーマーには効果を得られなかった、『バグズ2号』最弱と囁かれたこともある『特性』。それを有効に使えと、アシモフは言っているのだ。

 

 

しかし。

 

 

「無理だ。オレはもう二度とあの『特性』を使いたくないねぇよ」

 

 

その能力のせいで自分は戦場へと駆り出され、多くの命を『無意味な戦争』で奪い続けてきた。あの日々のことを、出来れば二度と思い出したくもない。

 

 

「……そうか。そう言うなら俺からは何も言わん」

 

 

憶測だが、なんとなくの事情は分かる。これ以上このことについて触れればクーガの過去を悪戯に引っ掻き回すことになる。折角男同士の対決で久々に熱い闘いを繰り広げ、気持ち良く終わることができたのだから、わざわざ後味悪く終わる必要もないだろう。そんな思いでシルヴェスター・アシモフは颯爽とその場を去ろうとしたが、しかし。

 

 

「なにルークに教えを説いたヨーダ気取りでこの場を去ろうとしてんだクソジジイ。始末書きっちり書いて貰うからな」

 

 

「うお!?うおお!?」

 

 

いつの間にか背後に鬼のような形相で立っていたミッシェル・K・デイヴスにより、それはあっさりと阻止されてしまった。

 

 

 

 

 

 

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アシモフがミッシェルに強制連行されていき暫くした後、再び病室のドアが開いた。

 

 

「クーガ君大丈夫!?」

 

 

「……唯香さん」

 

 

駆け込んできたのは、自分の『サポーター』である唯香であった。『地球組』のメンバーには1人、もしくは2人に1人ずつ『サポーター』と呼ばれる主にマネジメントを務める人物が付き添うことになる。

 

 

テラフォーマー並びにMO手術の知識に長けた人物に限られ、主に担当の『地球組』のメンバーのサポート、カウンセリング、UーNASAへの定期報告を務めることになる。当然、担当するメンバーの過去も把握済みだ。

 

 

「元気ないけど……多分負けちゃったこと気にしてる訳じゃないんだよね?」

 

 

「……当たらずとも、遠からずってやつかな 」

 

 

クーガは、唯香にありのままを話した。アシモフから言われたことを。父親の、『ゴッド・リー』の能力の使用を推奨されたことを。

 

 

「……確かに、お父さんの能力が使えればクーガ君の戦略はもっと広がると思う。けどあんまり無理しちゃ駄目だよ?私はクーガ君の『サポーター』なんだから!」

 

 

「……唯香さん」

 

 

唯香の穏やかな笑みと、底無しの優しさを伺わせる言葉にクーガは安堵を覚えると同時に、彼女のことが心底愛しく感じた。手っ取り早く言えば、クーガは唯香に惚れていた。しかし、その思いの丈を彼女にも打ち明けたことはなく、誰にも相談したことはなかった。

 

 

『地球組』が色恋沙汰に夢中では火星に行く『アネックス1号』のクルー達が不安を覚えてしまうだろうし、自分は化け物(・ ・ ・)だ。半分人間じゃない。こんな化け物で好かれては唯香もいい迷惑だろう。そんな劣等感が、クーガの人間として当たり前に抱く感情である『愛』という感情に蓋をしてしまっていた。クーガは心底怨んだ。自分をこんな身体にした父親、ゴッド・リーを。

 

 

「どうしたの?クーガ君」

 

 

何かを言いかけたクーガの顔を、唯香は不思議そうに覗きこんだ。そんな唯香をクーガは愛しげに、そして寂しげに覗きこんだ後、伝えかけた本心を押し殺して口を開いた。

 

「……いや、なんでもない。唯香さんは先に食堂に行っててくれ。ここの山盛りポテト名物らしいからよ」

 

 

 

 

 

 

 

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「……駄目だなぁ、私 」

 

 

クーガの病室から少し歩いたところで唯香はボソッと呟いた。彼が何に悩んでるかぐらい、長い付き合いである唯香は察していた。しかし、彼女が彼の思いに応えてしまえば、彼の命を危険に晒してしまう恐れがあるのだ。

 

 

『地球組』として戦っていく中でクーガの側に立ち共に戦っていく以上、唯香も危険な目に遭うだろう。下手すれば唯香自身が人質に取られるなんていうことも起こり得る。

 

 

その時、唯香はクーガに冷たくも正しい判断をして欲しかった。任務を優先し、何より彼自身の命を大切にして欲しかった。しかし、唯香自身がクーガの思いに応えてしまえばそれは叶わなくなる。愛は深ければ深い程、判断力を鈍らせるのだ。クーガを愛しく思えばこその、彼女が出した結論だった。

 

 

 

 

 

 

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クーガ・リーは、UーNASAの食堂とは反対方向を歩いていた。今の自分を見れば、誰がどう見ても何かに悩んでいるのがバレてしまうから。『地球組』のエースとして、地球を自分達に託して旅立つ『アネックス1号』のクルー達に弱味を見せる訳にはいかない。

 

 

ただ、時々思うことがある。何でも悩みごとを共有できる友達が欲しいと。生まれてこのかた出来たことはないし、これからも出来ることはないだろう。そんなことを思いながら、自販機に百円玉を入れようとした時だった。

 

 

「「 ん 」」

 

 

目の前を見れば、自分と同じく百円玉を入れようとしてる青年がいた。年齢は自分と同じぐらいだろうか。目が合ってパチクリと瞬きしつつ見つめ合った後に、気まずそうに互いに口を開いた。

 

 

「「……ど、どうも」」

 

 

これが、クーガ・リーと膝丸燈の出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 






呆気なすぎる気もしますが、原作キャラ大好きなのでオリキャラのクーガが簡単に勝ってはいかんと思いこのような一瞬の決着になりました。


次回の更に次の回、原作組は火星に旅立ちます。






オオエンマハンミョウ
「ヤバイと思ったが食欲を抑えきれなかった」


感想下さった方、並びに読んで下さった方、誠にありがとうございました。



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