LIFE OF FIRE 命の炎〔文章リメイク中〕 作:ゆっくん
体が火照り、意識が微睡む夢か現実か解らないような感覚。酒を飲んで酔う、というのは思っていた程嫌いじゃないかもしれない。
このままろくに働かない頭で、弱さと向き合っていたい。まともに働く頭で向き合ったら、自分が壊れてしまいそうで恐いから。そんな意思とは裏腹に、泡沫の如くアルコールを摂取したことで見えていた優しい世界は消えていった。
瞼を開ければ、懐の冷たい感触がオレを苦しめる。
首からかかった〝誓いの指輪〟
それを繋ぐ鎖が、今のオレには毒蛇にしか思えない。その先に繋がれた指輪は、最早『呪い』でしかない。多くの祝福を受けて結ばれた筈だ。なのに、何故こんなに哀しい結末を辿った?
あいつと結ばれて、オレは幸せになった筈だ。ならば何故この毒蛇はオレの胸を締め付ける。何故オレはこんなにも自らを苦しめる
答えは『失うことを恐れている』からだ。
両親を亡くした日、オレの世界は色褪せた。あの感覚を2度と味わいたくない。幸福や祝福が去る、あの感覚を。例え仮初めの感覚だろうと、掌の中にある幸せを逃がしたくない。
……幸せ?
今向き合っている
いや、断じて違う。そうハッキリ否定できるのは、オレ自身が確かな幸せの感覚を覚えていたからだ。
オレは、その感覚を知っている。幸福は左手の中に残っている。クーガの手を握っていた時、確かにそれを感じていた。
そして、今まさにオレを今この時も包んでいた。酒に頼ったオレのしがない告白を聞き、オレの為に怒り、吠え、そして泣き疲れて眠ってしまった部下達の涙がその幸せをより確かなものにした。
本当にこの指輪がないとオレの幸福は消え失せるのか?それがわからないから、恐かった。
……わからないから、恐い?
何処かで聞いたことがある。どんなに恐くてもそれを知り、死ぬ間際でなく事前に自覚し、対処し作戦を立てられることが人間の強みだと。
オレの頭を今まさに、膝に乗せてくれている少女に誰かさんが言った台詞だ。誰だったか。その人間は、酷く臆病だった気がする。その人物は、自分がいかに幸せか気付いてなかった気がする。
こんなにも自分を想ってくれている部下達がいるのに。そいつは、今よっぽど幸せなのだろう。今まさに、涙が頬を撫でているから。
「………
そう小さく呟き、オレは右手に握った『呪いの指輪』を愛しく握り締めた。こんなにも辛い想いをしているのに、オレはそれなら簡単に手を離すことができなかった。これが人間の弱さなのだろうか。
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気付けば、左手は暖かい感触に包まれていた。だがかつて、手を繋いでいたあの少年の手ではない。彼はもう大丈夫だと言ってオレの手を離し、その手で背中を押してくれた。
じゃあ今自分の左手を包んでいるのは誰だろうか。疑問を解決する為に瞳を開けると、部下のエヴァ・フロストが強く自分の手を握っていた。そして彼女は言葉を紡いだ。
「アドルフさん。私たち、血よりも固い絆で結ばれた家族です」
彼女が発した言葉には、幸せを確かなものにしてくれる何かが詰まっていた。
もう、嘘をつかないで生きよう。
右手の『呪い』と、左手の『祝福』を握り締めて。
オレは再び、微睡みの中に身を落とした。
もう、歩き出すのが恐くない。
クーガがしたことはアドルフさんの背中を押して、時計の針を早めただけです。アドルフさんは原作でもきちんと、死ぬ間際でしたが答えに辿り着いてました。
それを早めたらどうなるかなと、気になった所存であります。他の作者の方々のように、直接的ではなく、間接的な原作改編になってしまうと思います。