LIFE OF FIRE 命の炎〔文章リメイク中〕   作:ゆっくん

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誰かの真似をするのは悪いことだ。


その人間を越えられないから。


誰かの真似をするのは良いことだ。


その中で、本当の自分らしさが見つかるから。





第十五話 HERO 巣立ち

 

 

 

 

先程の晴天が嘘だったかのような悪天候。豪雨が土を濡らし、泥が跳ね散らかる中、帝恐哉は、悪夢を見ていた。

 

 

「クソッ!!」

 

 

空振る。

 

 

「クソッ!!クソクソクソッ!!」

 

 

全く、当たらず。動きが鈍っているはずのクーガに、全く攻撃が当たらない。それどころか。

 

 

「セアッ!!」

 

 

クーガの回し蹴り。

 

 

「ハアッ!!」

 

 

正拳突き。

 

 

全ての打撃を、帝恐哉は受け続けていた。

 

 

いずれも、自身が攻撃を仕掛けたところをカウンターで。

 

 

まるで、自分はクーガ・リーの〝攻撃を受ける為に〟攻撃を仕掛けにいっているようだった。

 

 

 

 

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『空手道』

 

 

拳を磨き、脚を研ぎ澄まし、心を洗練し、全身を〝聖なる凶器〟へと変える術。

 

 

小町小吉は、六段。空手の修行にうち込み、かつ独自の工夫や研究も加え、心・技・体ともに高い水準に達した者に与えられる称号。対して、クーガ・リーは四段。基本的な技術、応用は全て高いレベルでこなせるだけの実力を持つ。

 

 

〝たったそれだけ〟と思うかもしれない。しかし、それだけで充分。目の前のちんけな悪党をぶちのめす分には、十二分。小町小吉から教わったこの技術が、紛い物に遅れを取る道理などない。

 

 

 

 

 

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帝恐哉の体に接触する度に、動きは『電流』で鈍くなる。だが、クーガ・リーは止まらない。

 

 

空手の独自の足運びは、血が頭に昇った素人には見切ることが出来ない。時に攻撃を避ける為の盾となり、時に攻撃を仕掛ける為の矛となり、顕著に帝恐哉の驚異となる。

 

 

「タアッ!!」

 

 

飛び込んで殴りかかってきたところを、顔面に向かって後ろ回し蹴り。

 

 

「セッ!!」

 

 

起き上がってきたところを、更に三日月蹴りで追い討ちをかける。これらの動きはいずれも洗練されており、帝恐哉の取り巻きはついつい魅了されてしまう。それを見た帝恐哉は、舌打ちする。

 

 

「テメェら!!何やってやがんだ!! さっさとやりやがれ!!」

 

 

主人の怒号に取り巻き達は意識を取り戻すと、注射型の『薬』を首筋に挿す。全員が変異した姿は、いずれも共通した姿だった。

 

 

バグズ手術〝大雀蜂〟

 

 

小町小吉の姿を連想させてクーガ・リーを動揺させるだけでなく、対人戦において非常に高い効果を発揮する『特性』。強力な群れとなり、クーガ・リーに悪夢を見せることは必然かに思われた。

 

 

取り巻きのうちの八人が一斉にクーガを囲んだ後、襲いかかった。しかし。

 

 

「ギャアアアアアアア!!」

 

 

次の瞬間に鳴り響いたのは、取り巻き達の阿鼻叫喚。クーガは襲ってきた一人の攻撃を『回し受け』により受け流し、他の取り巻きとの毒針同士による同士討ちを発生させる。残り6人。その後クーガは一人の腕を掴み、他の『毒針』からの猛攻の盾とした。

 

 

「やめ゛ろぉ!!」

 

 

哀れかな、その男は仲間の『毒針』によって〝蜂の巣〟にされ残り5人。その男の死骸を捨てて構え直した後、一歩滑るように下がって相手の攻撃を誘う。

 

 

「テメェ!!」

 

 

そのうちの2人が『毒針』拳を放ってきたところを、クーガは毒針を鷲掴みする。そして自らの後方へと引っ張ってやると、男二人はバランスを崩した。クーガは倒れる二人の行方を目でそっと追う。

 

 

「ンワ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」

 

 

二人の顔面に、先程〝蜂の巣〟にされた男の両腕の『毒針』が突き刺さる。これで残り3人。

 

 

クーガは、足元に落ちていた『とあるもの』を拾い上げる。通常、空手は徒手空拳での戦闘が基本である。しかし、護身術として発達してきた空手だ。相手がもしナイフを持ち出してきた時、生身で受ければ当然怪我をする。

 

 

故に〝こちらも武器を使用する〟。空手には、『武器には武器で』という名言すら存在する。『戦争』に武器を持たないでいく愚か者はおらず、『戦闘』もまた、武器を持って闘うのが正しい姿であることをクーガは理解していた。

 

 

手に持ち上げたのは、折られた『オオエンマハンミョウの大顎』。計四本ある内の二本を、まるで映画でよく見る大袈裟な〝演舞〟のように振り回してみせた後、剣のように構えた。

 

 

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」

 

 

怯えて殴りかかってきた二人の呼吸に、動作に合わせて首元に剣を添え、両首を切り落とした。

 

 

二本の剣をその場に落とし、残り一人となった取り巻きに向かって少しずつ歩み寄る。その取り巻きは、ヤケになった様子でこちらに拳を放ってきた。しかし、間合いをいつの間にか詰めたクーガの手によって肘の根本を押さえつけられ、拳を繰り出せずにいた。

 

 

「『小町小吉(あの人)』の拳は…こんなに軽くねぇぞ」

 

 

クーガはその一言と共に、毒針を引っこ抜いた後に顔面に正拳突きを放つ。男の顔面は半分潰れ、バタリと倒れたきり動かなくなった。

 

 

「「 覚えとけ。『カッコいい』のもスズメバチの特性だ 」」

 

 

朧気にだが確かに見える小町小吉の幻影も口を揃えて唱えた後、帝恐哉の方に向き直る。まだ、彼方には20人ほどの取り巻きがいる。多人数を空手で相手するのも骨が折れる。そんな時、クーガは帝恐哉の腰に装備されたとある物を発見する。それはクーガには見慣れたものであった。

 

 

 

 

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帝恐哉は瞬く間に取り巻き達を捩じ伏せたクーガ・リーに恐怖した。近寄るのは危険だ。脳がそんなシグナルを全身に送っている為に、迂闊に近寄れない。彼はおもむろに腰のベルトに装備してあるある物を抜いた。

 

 

避雷針付きクナイ、『レイン・ハード』。ドイツのアドルフ・ラインハルトが実際に使用しているもの。

 

 

『奪われない為の戦いをする』火星に持ち込みを許可されたぐらいなので、当然貴重価値は全くもってない。従って、量産することなど容易である。それを投擲しようとした瞬間のことだった。

 

 

「いーいのかよぉ?」

 

 

弱ってる筈のクーガは、おちょくるような声色で帝恐哉に尋ねる。

 

 

「お前の放電はアドルフ兄ちゃんみたく上手くはねぇ」

 

 

確かに、帝恐哉の放電は雑であった。ただ力任せに放電しているだけ。元々『オリエントスズメバチ』は放電するような生物ではない。用いたとしても、体内のエネルギーに変換するだけなのだ。それを狩りに用いることなどしない。それを指向性を持って、ましてや『デンキウナギ』のように放電することなど不可能。

 

 

「しかもこの悪天候だ。雨だぜ?雨。お前が雑に放電すりゃ部下も感電する羽目になんじゃねぇのか?濡れると危ないぜ?」

 

 

クーガは挑発的に笑う。今度は、クーガが帝恐哉の心を弄んでいた。

 

 

「舐め腐ってんじゃねぇぞこのクソガキがアアァアアア!!」

 

 

帝恐哉は、怒り任せに六本の『避雷針付きクナイ』を投擲する。クーガは独特の足さばきで回避するも、

 

 

「おーら…よっとおおおおおお!!」

 

 

帝恐哉が全力で放電した瞬間、クーガの足元付近に突き刺さった『避雷針付きクナイ』へと電流が吸い寄せられていく。そして電流は6つのクナイに拡散する。雨が降り注ぐ今この場では、通常よりも広範囲に。

 

 

「………ッ!!」

 

 

クーガ・リーはそれに巻き込まれ、感電する。意識が飛びかける。しかし、反撃の為にその帯電した『レイン・ハード』に手を伸ばした。

 

 

「ッアアアアアア!!」

 

 

1本掴み取るだけで、激痛が走る。6本のクナイを掴み終わった時、クーガの体はボロボロだった。それでも、クーガは再現する。今度は、アドルフ・ラインハルトから教わった術を。

 

 

 

 

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『投剣術』

 

 

人類程、『投擲』に秀でた生物はいない。その中でも、この技術は〝命を刈り取る〟ことに特化していた。暗殺術として認識されてきたこの技術は、歴史の中で表立って隆盛したことはなかった。

 

 

アドルフ・ラインハルトは、それに優れていた。彼はこの〝冷たい〟技術を、その優しき心で穿つ大切なモノを守る為に、放つ。そしてこの『技術(ちから)』は、クーガにも確実に引き継がれていた。

 

 

 

 

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「面白ぇじゃねぇか!!そいつでオレとダーツ大会しようってか!? 」

 

 

自らが投げた『レイン・ハード』6本を拾ったクーガを見て、帝恐哉は笑う。ならば、自分はそれを越える本数で迎え撃つまで。

 

 

帝恐哉は十二本の『レイン・ハード』を取り出すと、一斉にそれを投擲する。しかし、クーガの投げたクナイは、帝恐哉とは見当違いの方向に空を裂く。そして一方、帝恐哉の投げたクナイは全てクーガに命中する。

 

 

『オオエンマハンミョウの甲皮』は堅すぎて先端部分が少し食い込む程度。だが、それで充分。後はそこに電流を流せば内側にダメージを与えられる。

 

 

「ギャッハッハッハッ!!外れたなぁオイ!!残念賞のタワシぐらいならやってもいいぜぇ!!あの世に着払いでなぁ!!」

 

 

帝恐哉は、電流を最大まで解き放つ。

 

 

「オ…オイ………」

 

 

しかし、ここで取り巻きの一人が震え声で指を刺す。クーガが先程投擲した6本の『レイン・ハード』。外したと思っていたクナイは、取り巻き達を囲うようにグルリと六ヶ所に刺さっていた。

 

 

「なっ………!!」

 

 

帝恐哉は目を見開く。しかし、もう遅い。放電した電流は、より近い帯電する場所を求めて空中を泳ぐ。そしてクーガ・リーに刺さった12本のクナイよりも、間近の6ヶ所のクナイに向かっていった。

 

 

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

間近で、尚且つ最大出力で。そして、雨で濡れた状態。そんな悪条件で放電した結果、二十人近くいた取り巻きは全て丸焦げになった。いずれも絶命している。

 

 

帝恐哉は、クーガを睨んだ。彼は身体に突き刺さったクナイを全て抜き終わった様子で、こちらが睨んだ途端にニヤリと口元を緩めてこちらを指差してきた。今度は朧気なアドルフ・ラインハルトと虚像と一緒に口を揃えてこう言った。

 

 

「「 言っただろ。濡れると危ないって 」」

 

 

帝恐哉はプルプルと体を震わせてクーガへの怒りを露にし、更に腰の『レイン・ハード』を取り出そうとした。しかし、その手は止まる。『薬』切れにより自らの身体の『変異』が徐々に収まっていったからだ。帝恐哉の身体は『オリエントスズメバチ』から『人間』へと戻ろうとしている。

 

 

そして、それはクーガも同じ。あちらはすっかり人間へと戻っている。しかし、互いに先程の激闘で予備の『薬』は全て破損してしまった。故に『特性』の力はもう使えない。

 

 

 

 

 

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小吉さん。アドルフお兄ちゃん。

 

 

(オレ)には、二人が知ってる通り両親がいません。

 

 

背中を追うべき父親も。

 

 

背中を押してくれる母親もいません。

 

 

けど。

 

 

『クーガ。飯食いに……って何?実験調整用に用意された固形食?あーそんなもん放っておけ!育ち盛りなんだから美味いもん食うのが一番!な!』

 

 

『……クーガ。その、なんだ。……プ……プレゼントだ。誕生日だよな、今日………』

 

 

2人との想い出なら、両腕に抱えきれないぐらいあります。

 

 

二人がいつも両手を握っていてくれたから、寂しくなんてありませんでした。

 

 

いつも握ってくれていた両手。

 

 

小吉さんのゴツゴツした手。

 

 

アドルフ兄ちゃんの、傷だらけの手。

 

 

地獄から救い出してくれた、二人の両手。

 

 

暖かくて、優しくて、大好きな両手。

 

 

だけど、世界は残酷です。

 

 

(オレ)が手を握る度に、二人の手に傷が増えていきました。

 

 

2人に両手を握って貰っていた(オレ)にはわかります。

 

 

だから、心に決めてました。

 

 

小吉さんのように、かっこよく。

 

 

アドルフ兄ちゃんのように、優しく。

 

 

そんなヒーローになって、今度は(オレ)が二人の大切なものを、守ろうって。

 

 

『アキ!!』

 

 

小吉さんが、二度と拳を振るわなくてもいいように。

 

 

『なぁ……どうしてだよ。そんな動物みたいなこと……するなよ……』

 

 

アドルフ兄ちゃんが、もう二度と傷つかなくてもいいように。

 

 

あの日の二人みたいに、拳を握って。

 

 

あの日の二人みたいに、強くなって。

 

 

あの日の二人みたいに、目を開いて。

 

 

2人の大切なものが傷つけられたら、(オレ)が守ろうって。

 

 

それを心に決めていました。

 

 

だから、地球に帰ってきたらもう戦わなくていいんだよ。

 

 

(オレ)の手を包んでくれていた二人の両手。

 

 

今度はその手で、幸せを掴んで下さい。

 

 

(オレ)は、次の誰かと手を繋ぎます。

 

 

寂しいけれど、(オレ)はもう大丈夫だから。

 

 

転んでも、一人で立てるから。

 

 

悲しいことがあっても、一人でちゃんと泣き止めるから。

 

 

仲間達が、(オレ)を支えてくれてるから。

 

 

2人が挫けそうな時は、今度は(オレ)が支えます。

 

 

だから、安心してここに戻ってきて下さい。

 

 

後、最後に一つだけ。

 

 

今、(オレ)は。あの時の2人みたいに立てていますか?

 

 

 

 

 

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クーガ・リーと帝恐哉の試合は、第二ラウンドに突入していた。人間同士の、生身での戦闘へと。

 

 

「ハッハッー!!どうしたどうした!!」

 

 

帝恐哉は、弱りきったクーガ・リーを叩いていた。

 

 

殴打。殴打。殴打。

 

 

血が流れても、すぐに雨のシャワーが洗い落とす。

 

 

そして暴力の嵐を受けても尚、クーガの瞳から闘志は消えなかった。

 

 

「ウオオオオオオ!!」

 

 

最後の力を振り絞ったタックルによって、帝恐哉を木の一本に向かって跳ね飛ばす。

 

 

「アアアアアア!!」

 

 

そして、すぐさま右腕を構えた。

 

 

「なっ…!!テッ…テメェ!!」

 

 

その右腕を見て、帝恐哉は絶句する。

 

 

先程の『蜘蛛糸蚕蛾の糸』によって、クーガの生身の右腕に〝とある物〟がいつの間にか縛りつけられていた。

 

 

『大雀蜂の毒針』

 

 

先程、取り巻きの腕から引き抜いた一本。隠し持っておいた、虎の子。懐刀。帝恐哉にとって、まさに〝泣きっ面に蜂〟

 

 

「ハア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」

 

 

血を撒き散らしながら、クーガはその右腕の『毒針』で帝恐哉の右肩を貫いた。

 

 

「グアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

帝恐哉は絶叫する。毒針によって、木に打ち付けられたのだ。皮肉なものである。『裏切り者(ユダ)』と呼ばれた男が、キリストのように打ち付けられたのだから。

 

 

「畜生!!離しやがれ!!」

 

 

帝恐哉は、クーガをガンガンと蹴りつける。しかし、クーガはその場を山の如く動かない。

 

 

「バーカ……テメェはここでくたばるんだよ!」

 

 

クーガはニヤリとほくそ笑むと、左腕で空を指差す。

 

 

「雷の日に立っちゃいけない場所……どこかわかるか」

 

 

「まさか……」

 

 

帝恐哉の顔から血の気が引いていく。ゴロゴロと、空が轟いている。恐らくクーガ・リーがこれから行おうとしていることと、自らの最悪の予想が恐らく一致してしまうからだ。

 

 

「テメェ……まさか!!」

 

 

「ああ。そのまさかだよ」

 

 

クーガは、腕を縛りつけていた『蜘蛛糸蚕蛾の糸』で今度は帝恐哉の左腕を縛り付ける。 そして、フラフラとそこから離れていった。

 

 

「チックショオ!!拘束解きやがれ!!」

 

 

バタバタと暴れるが、木々が揺れるだけで一切拘束が解ける様子はない。『毒針』がますます刺さり、『糸』はますます食い込むだけ。

 

 

「お前は人としてやっちゃいけねぇことをした」

 

 

クーガはおぼつかない足取りでそこから離れながら、口を開く。

 

 

「他人の想いを(よご)し。(けが)した。誰にもそんな権利ないだろ」

 

 

そして思い出したかのように立ち止まる。

 

 

「あー。『メスゴリラ』からお前に伝言だ。旦那の『オスゴリラ』を馬鹿にしたお詫びにうんこみてぇにくたばれとさ」

 

 

奈々緒はそんなことなど言ってないのだが、個人的に腹が立ったのでクーガは話に尾ひれをつける。

 

 

「テメェ…何言ってやがる」

 

 

「あー気にしなくていい。こっちの話だ」

 

 

スッ、と曇天の空を指差す。その瞬間、眩い閃光が辺りを包む。クーガは帝恐哉を指差した。

 

 

「You は Shock。お前はもう死んでいる…ってか?一回言ってみたかったんだよな」

 

 

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

直後、帝恐哉の体を襲ったのは『側雷撃』と呼ばれる現象。雷撃の種類の一つで、落雷が落ちた付近や真下のモノに二次感電を引き起こす。特に高い樹木の下にいると、それに遭遇する確率は高くなる。

 

 

体中に安全装置を埋め込んだ帝恐哉とはいえ、これには耐えられない。自然の猛威の前では、文明の利器など無に等しいのだ。丸焦げになった帝恐哉を見て、ようやくクーガは倒れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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右手を、誰かに握られている。

 

 

強く。誰かに。

 

 

目をそっと開ければ、強い日差しを第一に感じた。

 

 

そして、目の前に広がったのは大切な人の泣き顔。

 

 

「……唯香さん?」

 

 

そう返事した瞬間に、唯香は何も言わずにクーガに抱き付く。

 

 

「ふご!!ふごごごご!!」

 

 

「ふえっ!?ごっ…ごめんね!!」

 

 

危うく巨乳に埋もれて窒息するところだった。

 

 

イスラエル出身のクーガ・リーさん(20)はおっぱいの雪崩(Hカップ)によって死亡という記事を明日の一面に危うく飾るところであった。

 

 

「わ、私のせいで…クーガ君がっ…ヒック」

 

 

涙で濡れている唯香の顔を、横になったままそっと拭う。

 

 

「ごめん。もう勝手なことはしない」

 

 

「本当だろうな」

 

 

七星の鬼のような形相が視界に入った途端、クーガは全身から冷や汗を噴出する。

 

 

「し、しちしぇーさん…」

 

 

ガタガタと、七星に怯えるクーガ。

 

 

先程まで帝恐哉に勇敢に立ち向かっていた男とは思えない。

 

 

「全く…桜博士にもう一度謝罪しておけ。後…あいつらにもな」

 

 

「あいつら?」

 

 

クーガが横に顔を向けると、ユーリ、アズサ、レナの三人が何か作業している様子だった。

 

 

よく見ると、雨で大分流されたとはいえ、まだ汚れのたまっている墓石を掃除していた。

 

 

「破片は後から修復できるように回収しますわよ。新品同様に修復できる業者を知っていますわ」

 

 

「りょーかいです」

 

 

「………よ、よぅ」

 

 

クーガが七星に肩を貸して貰いつつ、後ろめたいのか小声で挨拶する。

 

 

「あら。独断先行して唯香様を泣かせたエース様ではないですの」

 

 

「ろくでなしえーす」

 

 

「レナ、ろくでなしブルースみたいに言うのやめろ。アズサ、ユーリ、レナ。本当にすまねぇ」

 

 

クーガが頭を下げると、三人とも全く同じタイミングで溜め息を吐く。

 

 

「まぁ…ジャパニーズ料理を奢ってくれるなら考えてやってもいい」

 

 

「は?」

 

 

ユーリからの提案に、クーガはポカンとする。

 

 

「私は天ぷらでいい」

 

 

「あたくしは釜飯でいいですわ!」

 

 

「わたしは〝やきとり〟をしょもーする」

 

 

やはりそうだ。

 

 

一度ハトに餌をやると味を占め、次からは団体様で襲来するの法則だ。

 

 

次々についばみに来る群れを、最早防ぎようがない。

 

 

相当な資産家であるアズサに奢るのは何か違和感を覚えるが。

 

 

とはいえ三人に迷惑をかけたのは事実だし、ここは奢るのが筋だろう。

 

 

「………わかった。奢るよ。それに墓石汚かったのに掃除もしてくれたしな」

 

 

「汚い?あれぐらいで怯むようなあたくしではありませんことよ?」

 

 

「おじょーさまは〝しょみんは〟だからだいじょーぶい」

 

 

そういえばそうだ。

 

 

アズサは目立ちたがりだが、金持ちであることを理由に偉そうな態度を見せたことはない。

 

 

一度父親に会ったことがあるが、良い人だった。

 

 

全く嫌味っぽいところもなかったし、物腰柔らかな紳士だった。

 

 

あんな父親に育てられたのだから、アズサの性格も真っ直ぐで当然だろう。

 

 

レナもそんなアズサだから、慕っている。

 

 

そういえば、その父親は重い病にかかってるという噂を聞いたことがあるが。

 

 

 

 

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アズサとレナの『サポーター』である花琳は、遠くから不適な笑みを浮かべる。

 

 

(ミカド)が潰されるなんて予想外ね…」

 

 

溜め息をつき、搬送されていく帝恐哉の死体を見て、溜め息をつく。

 

 

「まぁいいわ…〝私達〟には〝あの子達〟がいるもの」

 

 

花琳は、アズサとレナを見る。

 

 

いざとなれば、二人を使えばいい。

 

 

「あの二人が本物か…テストさせて貰いましょうか」

 

 

 

ミカド

 

 

アズサ

 

 

レナ

 

 

ナゾナゾしましょ、クーガ・リー。

 

 

 

 

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二日後、U-NASA本部にて。

 

 

クーガ・リーへの報酬とアネックスへの報告を兼ねて、大きなモニターにアネックス艦内への中継が繋がってる。テレビ電話のようなものだ。

 

 

映っているのは、小吉とアドルフ。

 

 

ミッシェルは気を遣って辞退した。

 

 

二人に、真っ正面からクーガの想いを聞かせてやりたかったから。

 

 

「今日は二人に言いたいことがあるんだ」

 

二人は、ただ静かにそれを聞いている。

 

 

「オレは、〝二人みたいになろうとする〟のをやめる」

 

 

二人は、静かにクーガを見つめる。

 

 

「今回の敵は二人から教えて貰った『(スキル)』でなんとかなった」

 

 

今回の敵は、クーガにとって最悪の相性だった。

 

 

それは本部からの報告で聞いていた。

 

 

それを自分達が教えた『技』で撃破したと聞いた時は、嬉しかった。

 

自分達を慕ってくれていることを知って、本当に嬉しかった。

 

 

ただ、同時に危うさも感じた。

 

 

自分達がクーガの冷静さを奪い、苦戦に追い込んだことも聞いたからである。

 

 

「でもいつか、『本当の強さ』が必要な時が来る」

 

 

クーガが今回行ったのは、小吉とアドルフの模倣。

 

 

想いを伴っていても、言い方は悪いが所詮は劣化品でしかない。

 

 

「だから。オレは〝アンタ達みたいになろうとはしない〟」

 

 

自分達への憧れを捨てる。

 

 

小吉とアドルフは、少し寂しくなったものの、安心した。

 

 

それなら、少なくとも自分達のせいでクーガが死ぬことはなくなるから。

 

 

そうクーガの言葉を受け取った瞬間、違う答えが返ってきた。

 

 

 

 

「アンタ達を越えるヒーローになってみせる」

 

 

クーガが出したのは、もっと大きな目標。

 

 

自分達の横に立とうとしていた小さな少年が今、自分達を越そうと大志を抱く大きな青年となった。

 

 

「そんでアンタ達が二度と戦わなくていいようにする」

 

 

言葉を更に続ける。

 

 

「オレはな、アンタ達がいい年こいて大好きだよ」

 

 

感謝や憧れは、忘れない。

 

 

「けど、もう両手を握って貰わなくても大丈夫だ」

 

 

だからこそ、〝旅立つ〟

 

 

「今度はアンタ達の背中をオレが押す」

 

 

これは、別れではない。

 

 

「『自分の弱さ(ゴッド・リー)』の事とも向き合って、『本当の強さ』を手に入れてみせる」

 

 

新たな自分の、始まりである。

 

 

『『 約束出来るか? 』』

 

 

画面越しに、二人は同時に尋ねる。

 

 

「ああ。約束だ」

 

 

クーガはニッ、と幼い頃のように笑って二人に応えた。

 

 

 

 

 

 

 

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「いやー最終的に酒飲む約束までしちまったなぁアド君!!」

 

 

「最悪ですよ…その約束だけは守れる自信がありません」

 

 

あの後、クーガとの話に久々に花が咲いてそんな約束までしてしまった。

 

 

アルコールが苦手なアドルフにとっては、溜め息ものでしかない。

 

 

しかし、大きく成長したクーガの言葉を聞けただけでも儲けものだった。

 

 

彼はこの先も成長していくだろう。

 

 

自分達が居なくなっても。

 

 

「アドルフ。お前『自分達が死んでも大丈夫』とか考えてるだろ?」

 

 

「な、何でそんなにピンポイントでわかるんですか」

 

 

アドルフはギョッとする。

 

 

顔に出ていただろうか。

 

 

「クーガと三人でツルむこと多かったからな。多少はわかるさ。ってか勝手に俺もくくるな!!俺まだ死にたくない!!」

 

 

「す…すみません…」

 

 

ついつい、マイナス思考になってしまう。

 

 

自分の悪い癖だ。

 

 

そんな自分に、小吉は強く手を置く。

 

 

「生き残るぞ。アドルフ。クーガの為じゃない。誰の為でもない。『お前自身』の為に生き残るんだ」

 

 

自分の為。

 

 

利用され続けてきた自分には、似合わない言葉。

 

 

ただ、今の自分には大切なものが出来てしまった。

 

 

ドイツ班の連中に、小吉やクーガ。

 

 

血は繋がっていなくとも、家族だから。大切な。

 

 

だから、もしかしたら。

 

 

たまには、自分の為に生きていいのかもしれない。

 

 

その前に少し、向き合うべきことがある。

 

 

クーガが弱さと向き合うのなら、自分もまた然りだ。

 

 

「おっ…おい。アドルフ。どこ行くんだ?」

 

 

去ろうとするアドルフに、小吉は声をかける。

 

 

「ちょっと、〝酒でもかっくらいながら考えたいことがあるので〟」

 

 

「ん…そうか…っておおおおい!?」

 

 

世界で一番お前に似合わない台詞だろ、と小吉がツッコミを入れる前にアドルフは去ってしまう。

 

 

「ま…いいか」

 

 

小吉は、アドルフが去ったところで懐から『バグズ二号』のメンバーの写真を取り出す。

 

 

「リー。お前の息子だけどよ、俺といたせいかどっちかって言うと『奈々緒(アキ)』に似たツッコミマシーンになっちまった」

 

 

すまん、と合掌して隅の方でカメラとは別の方向を見てる『ひねくれ者(ゴッド・リー)』に目をやる。

 

 

「お前の慰め方紛らわしいんだよ!あん時揉めかけたの俺のせいじゃないからな!!」

 

 

口は悪かったが、何だかんだで自分を慰めたり、仲間の出身地を把握していたりと、仲間想いだったことが伺える。感情表現はヘタクソだったみたいだが。

 

 

「お前の息子さ、本当に強くなったよ。俺もアイツに負けないぐらい強くなる」

 

 

いつか、クーガも父親の『特性』と向き合う日が来る。

 

 

もし、最強の『オオエンマハンミョウ』と最弱の『ミイデラゴミムシ』の『特性』が掛け合わされたら。

 

 

もし、クーガが父親のことを受け入れることが出来たら。

 

 

クーガは、どれ程までに強くなってしまうのだろうか。

 

 

そう考えると、ワクワクする。

 

 

自分も負けていられない。

 

 

まだ当分は、クーガの追い越すべき目標でありたいから。

 

 

小吉も、今以上に強くなることを決意する。

 

 

その為に、自分も向き合うべきことがあった。

 

 

自分の取り越し苦労かもしれないが。

 

 

小吉は、『とある人物』と腹を割って話す為に、『とある国の居住区』に向かった。

 

 

 

 

───────────────────

 

 

───────────

 

 

 

 

「じょじょーう!!」

 

 

突如飛んだ『蜘蛛糸蚕蛾』に、ゴキちゃんは思わず跳び上がる。

 

 

〝飛ぶ筈のない〟蚕蛾が、翔んだからそりゃたまげる。

 

 

「あはは…クーガ君…私、六年前に約束したよね!?自然界には離さないって約束したよね!?」

 

 

いつも笑顔な唯香だが、この時ばかりは『激おこぷんぷん丸状態』になっていた。

 

 

頬がこれでもかと言わんばかりに膨らむ。

 

 

そんな唯香の言葉はクーガの耳には入っていなかった。

 

 

クーガは、ただただ唯香を見つめる。

 

 

「……………今度は、唯香さんと手を繋ぐのかな」

 

 

キョトンとしていた唯香の手を、無意識にそっと握る。

 

 

「ふえっ!?」

 

 

「ん?え?あ!!ああああ!?」

 

 

いつの間にか手を取ってしまったことに気付き、クーガは慌てて手を離そうとする。

 

 

しかし、クーガの命を救った『ある物』がいつの間にか絡まったようで、ほどけない。

 

 

しかも、なんともこっ恥ずかしい、昔のベタなラブコメも真っ青な絡まり方をしている。

 

 

「いいいいいやこここここここれは!!」

 

 

「は、はしゃみ!!はしゃみで切ろう!!いいい嫌でもそれだと不吉だし!!いやそういう意味じゃないの!!そういう意味じゃ!!」

 

 

あたふたあたふたと、二人は顔を真っ赤にしながらパニックになっている。

 

 

「じぎぎぎ!!」

 

 

それを、ハゲゴキさんは愉快そうに笑う。

 

 

『蜘蛛糸蚕蛾の糸』が、いつの間にか二人の小指を結んでいた。

 

 

それを愉快そうに見届けると、パタパタと『蜘蛛糸蚕蛾』は室内から飛び去ろうとする。

 

 

しかし、ハゲゴキさんがすかさずキャッチしてモグモグ。

 

 

「じぎぎぎ!!」

 

 

【今の流行りはキャッチアンドリリースではない。キャッチ&モグモグなのだ!!】

 

 

ハゲゴキさんの大好きなテレビではその頃、動物園のゴリラが脱走するニュースが流れていた。

 

 

この出来事の十分後、突如侵入してきたゴリラに、ハゲゴキさんが反撃も許されずにボッコボコにされてトラウマになるのはまた別の話である。

 

 

〝ゴリラ〟は、怒らせると恐いのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 







今回はコメント欄にあったアイディアを採用してみました。


ちゃっぴーさんの北斗の拳ネタと、シルクさんのカイコガネタです。


この先はストーリーの大筋が決まってしまっているので無理だと思いますが(^^;)ゞ


クーガ・リーが大きく前に踏み出した回でした。


オリジナルキャラの生き方を変えてしまえるあたり、流石原作キャラですね。


後、本編のキャラについてです。


クーガという大きいようで、小さい存在をテラフォーマーズという作品に投入したらどうなるか。ちょっと気になりませんか?


原作キャラの生死、ちょっと変わってくるかもしれません。


もしかしたらですけどね。

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